言葉が話せるようになり、自己主張が出てくると、子どもの言葉についムキになってしまうことってありませんか? 「子どもとケンカしてもいいの?」「口ごたえする子への対応は?」など、幼児との親子ゲンカについての疑問にお答えします。

専門家:
柴田愛子(保育施設「りんごの木 子どもクラブ」代表)
遠藤利彦(東京大学大学院教授 発達心理学)

子ども相手にムキになってもいいの?

娘はイヤイヤ期以降、自己主張が強くなりました。
本を読んでいる娘に「お風呂に入ろう」とお風呂に誘っても、無視して本を読み続けます。また、ごはんを食べる直前に「うわばき入れ早く作って」と言い出し、「ごはんを食べよう」と言っても、「ごはんじゃない!」と、なかなか言うことをきいてくれません。一度言い出したらきかない娘につい本気になって怒ってしまいます。これでいいのでしょうか?
(3歳3か月の女の子をもつパパ・ママより)

まずは子どもの気持ちを尊重する言葉がけを

回答: 柴田愛子さん

大人は先のことを考えて、段取りよくものごとを進めたい。でも、子どもにとっては“今”が大事なのです。
大人でも、自分が何かに集中しているときに頼まれごとをすると、「今、言わないで、後にして」と集中していることを邪魔されたくないときってありますよね。子どもも同じなのです。

そのような状態の子どもに、何かをしてほしいときは、まずは子どもの気持ちを尊重する言葉がけをしてあげましょう。例えば、本を読んでいるお子さんにお風呂に入ってほしいときは、「何の本を読んでいるの?おもしろそうだね、でもお風呂に入って、あとで続き読もうか」というように、まずはお子さんの気持ちをくみとってあげるといいですよ。
3歳は自己主張が強い時期の真っただ中です。この時期に“命令”するような言い方をしても動いてくれるわけがありません。
お子さんを尊重する言葉がけや空気感があれば、お互いがぎすぎすしないですむと思います。

自己主張があるということは健康に育っている証と捉える

回答:遠藤利彦さん

お子さんの中に「こういう風になるはず」「私はこうするつもり」という気持ちが現れてくるのが、2~3歳ころです。このような気持ちは自己主張として現れてきます。これはお子さんが先を見通せるようになったという発達の証です。自己主張が強くなってきたら、まずは、わが子は健康に育っているのだと捉えてください。

また、「それはダメ」というように禁止する言葉や命令するような口調は、どうしてもワンパターンになりがちです。そのような言葉はお子さんの心には響きません。言うことを聞いてくれないときは、「どうしてお風呂に入りたくないの?」「誰とだったら入りたいの?」というように、パターンを崩していくと、お子さんに気持ちが伝わっていくのではないかと思います。

子どもと言い合いをして、子どもが泣き叫んでしまい、こちらの言うことをまったく聞いてくれないときは、どのように対応すればいいのでしょうか?

泣くことで気持ちを収めている面もある

回答: 柴田愛子さん

地べたにはいつくばって泣き叫んでいるようなときは、感情が嵐のようになっているので、何を言ってもダメです。これは、時間が経つのを待つしかありません。気持ちが収まってきたときに、改めて話してもいいと思います。
ちなみに、泣くことを抗議だと思われるかもしれませんが、自分であきらめるために泣くこともあります。
ものを買ってほしい気持ち、でもそれが思うようにいかない気持ちを泣くことで吐き出して、収めることがあります。
泣くことはそんなに悪いことじゃないと思いますよ。


ものを「買う」「買わない」で言い合い・・・どのように言い聞かせればいい?

スーパーでキャラクターの絵が入ったスリッパを買うといって聞かないことがありました。親としては買わないと決めているため、子どもに買わない理由を説明するのですが、それでも「買う買う!」と、言うことをきいてくれませんでした。こちらもだんだんムキになって子どもと言い合いをしてしまいました。このようなときは、どのように言い聞かせるといいのでしょうか?
(3歳の女の子をもつママより)

ダメなものはダメと迫力をもって伝える

回答: 柴田愛子さん

ものを買うかどうかは、親に判断がまかされるものです。
生活に必要かどうか、子どもに必要かどうかと考えて、買わないと判断したのであれば、子どもにもキッパリ伝えなければいけません。
でも、欲しいものをなぜ買わないのか説明されて、「そうなんだ」と納得する子どもはいません。子どもは、なんとしてでも買ってもらおうとがんばります。
そのようなときは、「買わないよ」とだけ、迫力をもって伝えてみてください。ダメなものはダメだと、体得してもらう方がいいと思います。

子どもとの会話の中で、ムキになると怒鳴ってしまうのは大丈夫なのでしょうか?

感情を出すからこそ伝わる

回答: 柴田愛子さん

お母さんも生きている人間です。思うようにいかないときに怒鳴ってしまうことがあるのは当然です。子どもに言うことを聞いてもらうために、怒鳴ったり、おだてたり、あの手この手を使っていいと思います。
感情を消して子育てはできません。感情があるからこそ、子どもはわかってくれるようになりますよ。

感情で伝えることをおっくうに思わない

回答:遠藤利彦さん

大きい声を出したり、怖い顔をしたりと感情を表に出すことはとても大切なことです。おっくうに思わずに、感情を伝えていくと、それがお子さんに伝わり、そのうち外で暴れたりしなくなってくるのではないかと思います。最初が大切ですよ。


お風呂を嫌がって何日も入らないようなときはどうすればいい?

息子が2歳のころ、何日もお風呂に入ってくれず困っていました。
「お風呂入ったらアイスが食べられるよ」と声かけをしてみたり、おもちゃをお風呂に持ち込んでみたりいろいろ試しましたが、なかなかうまくいきませんでした。でも、なぜかおじいちゃんの言うことは聞いてくれたので、イヤイヤ期の1年間くらいはおじいちゃんに一緒にお風呂に入ってもらっていました。親としてはどのように対応すればよかったのでしょうか?
(4歳の男の子をもつママより)

子どもの気持ちを優先してあげてもいい

回答: 柴田愛子さん

この時期によくおこる問題ですね。お話を聞いていると、お母さんはお風呂を入らせることに必死。それとは反対に、おじいちゃんはゆったりしている。だから、おじいちゃんに対してはお子さんの気持ちが和らいだのだと思います。
私がこれまでに見てきた子どもたちの中に、2か月間は頭を洗わないと決めた子がいました。宣言通り、2か月間、頭を洗わなかったのですが、その後はしっかりとお風呂に入るようになりました。中学生になったら朝シャンプーするようにもなりましたよ。
周りの目も気になるかと思いますが、子どもなりのそうする理由が何かあるので、そのうちにまた戻るだろうと大きな気持ちでみてあげることがあってもいいと思います。


娘とケンカしないためにはどうすればいい?

7歳になる長女はなんでも言い返すようになってきたので、毎日ケンカを繰り返すようになりました。ケンカはよくないと思うのですが、どうすればいいのでしょうか?
(7歳の女の子をもつママより)

ケンカできるのはいい親子関係

回答: 柴田愛子さん

毎日ケンカできるということは、お母さんもお子さんもすごいパワーがあるということですよね。お互いに自分の本音を飾らずに感情的にぶつけあって、お互いに言い訳したり、言い返したり、スキルをみがいていく。これは、いい親子関係です。
言い訳することは悪いことではありません。従順になるより、むしろいいことかもしれません。というのも、困ったときに言い訳するためには、自分が持っている今までのデータを全部ひっぱりだして、どうすればお母さんを説得できるか考えなければいけません。これは、心と脳がものすごく動いていると思います。
毎日のケンカはスポーツみたいなもので、言いたいことをぶつけ合うのもいいと思いますよ。

子どもとケンカをするにあたって、気をつけた方がいい点はあるのでしょうか?

親子の絆を切るようなことは言わない

回答: 柴田愛子さん

「あなたなんて生まなければよかった」「こんな子うちにはいらない」というように、親子の絆を切るようなことを言ってしまうと、心に傷が残ると思います。気をつけてください。

ケンカ以外の時間を充実させる

回答:遠藤利彦さん

叱るときは、あなたのことは好きだけどこの行為がダメだと、部分否定で伝える方がいいです。
また、口ゲンカが多い方が、親子関係がある程度うまくいっているというデータがあります。ケンカが多いことを否定的に捉えすぎないようにしてください。
ケンカ自体をどう収めるかということも大切ですが、ケンカをしていないときのコミュニケーションを充実させることも大切だと思います。


機嫌が悪くなるとかむわが子。感情的に怒鳴ってしまうのはどうすればいい?

息子は機嫌が悪くなると私にだけかみついてきます。かまれても、最初は冷静に「何が違うの?」と聞いているのですが、まったく逆効果でした。別の方法として、わざと痛がってみたり、大げさな表現をしたりしても逆効果で・・・。何回もかんでくるので、ひどいときには、私の腕が真っ青になることもあり、最終的にはどうしていいかわからなくなって、感情的に怒鳴ってしまいます。どうすればいいのでしょうか?
(3歳9か月の男の子をもつママより)

かんできたら逃げずに抱きしめる

回答: 柴田愛子さん

お母さんは本当に大変ですね。お子さんはとても意思が強い子なんだと思います。いろいろな気持ちはあるけれど、まだ「かむ」ということでしか表現できていないのかもしれません。
かみ始めたら、逃げずに抱きしめて、「思うようにいかないんだね」と共感してあげるといくぶん気持ちがおさまることもありますよ。

お子さんが聞く耳を持っているときに話をする

回答:遠藤利彦さん

お母さんだけにかみつくというのは、安心感があるからですね。
お子さんが冷静なときに「あのとき、なんであんな風に怒っちゃったのかな?」と話題に出してみてください。それだけでも関係性は変わってくると思います。


すくすくポイント
4、5歳になると出てくるウソやごまかし・・・親はどのように対応するべき?

子どもが4、5歳になると出てくるのが、ウソやごまかし。こんなとき親もついカッとしてしまいますが、どのように言い聞かせるのがいいのでしょうか。

今回は、柴田愛子(保育施設「りんごの木 子どもクラブ」代表)さんに、実際の子どもとのエピソードとともに、そのポイントを教えていただきます。

エピソード例
幼稚園から5歳の息子が帰ってきました。息子のカバンの中には、見たことのないたくさんの怪獣カードが入っていました。
ママ:「ケンちゃん、これどうしたの?」
子ども:「お、お友達からもらったんだ!」

対応のポイント
子どもの話がウソだと確信できたときの対応法としては、2通りあると思います。
ひとつは「こんなにいっぱいくれるわけないじゃない!」とウソだと確信して一気に言う方法。この言い方だと、子どもは「ウソじゃないもん」と言い返してきます。ここでお母さんは負けてはいけません。「そんなことくらいお母さんにわからないと思ってるの!」と返していく。

もうひとつは、「そのカードは友達がくれたの?」「友達は今ごろ後悔してるかもしれないね・・・悲しんでいるかもよ?電話してみない?」と良心に訴えていく方法。
自分の気性に合うやり方でいいと思います。

4、5歳の子は物欲はあるのですが、お金のやり取りで物が手に入ることの意味までよくわかっていません。知識としては知っているけれど、体験をしていないことは、本当の意味ではわかっていないのです。
だから、ウソをつかないよりも、ついてみて、バレた経験をすることもいいんじゃないかと思います。

私の見てきた子どもたちの中に、小さい時にウソをついてお母さんにこっぴどく怒られた子がいました。その子が小学生になったときに、上級生に100円を持ってこいと言われたことがあったのですが、持っていかなかったみたいです。その理由をきくと、「前に怒られたときのお母さんの顔が浮かんだ」と答えてましたよ。


親の価値観に照らして、「許せない」と思うウソにはきぜんとした態度で接しましょう。
でも、小さな子どもがよく話すことのある空想や物語などには一緒にのってあげるといいそうですよ!

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです