「絵本はたくさん読み聞かせているし、意識して語りかけもしている。でも、うちの子はことばが遅いかも…。」なんて、周りの子と比べて心配になっていませんか? 今回はことばの発達に関する疑問にお答えします。

専門家:
中川信子(言語聴覚士)
針生悦子(東京大学 大学院教育学研究科 教授)

うちの子、ことばが遅い?

ふだんから、絵本の読み聞かせや語りかけを積極的に行っているのですが、2歳になったばかりの息子は、話せることばが少ないので心配です。
息子よりも月齢の低い子たちが、いろいろなことばをしゃべっているのを見ると、うちの子はことばの発達が遅いのではないかと思うこともあります。
(2歳の男の子をもつママより)

ことばの発達は個人差が大きい

回答:中川信子さん

ことばの発達に、基準はあまりありません。早い子は早いし、遅い子は遅いものです。
基準はありませんが、下のようなデータはあります。
パパ・ママなどの「最初の一語」を話し始める月齢は、9か月ごろから話し始めるのは25%のお子さん、1歳ごろからは50%、1歳半を過ぎると、90%のお子さんが話し始めます。

このように、ことばの発達は個人差が大きいため、発達が遅いかもしれないと心配しなくても大丈夫です。
私がお会いしたお子さんの中でも、2歳ごろで最初の1語がまだの子はたくさんいましたが、その後、しっかりと、ことばの発達が追いついていきましたよ。

ことばの発達が心配なときに注意するポイントはある

回答:中川信子さん

ことばの発達は個人差が大きいとはいえ、心配になることもあるかと思います。
心配な時は、以下のポイントを確認してみてください。確認して問題なければ、いずれことばは出てくるでしょう。

ことばの発達を確認するポイント

  • 耳は聞こえているか
    ことばは耳で聞いて覚えます。まずは耳が聞こえているかどうかを確認しましょう。
  • 言われていることに注意が向くか
    大人が言っていることが伝わっているかどうかを確認してください。
    ことばは理解が先にあって、その後、ことばを発することができるようになります。
    大人が言ったことに対して、注意しているようであれば大きな問題はないと考えられます。
  • 指さしをして同じものに注意が向くか
    子ども自身が指さしをして、お母さんといっしょに指さししたものを見ることができていれば大丈夫です。

話せることばが少ないせいか、自分の意志がうまく伝えられないときに、ものに当たってしまうことがあるので、もう少しことば数を増やしてあげたいとも思っています。
ことばを育てるために何かできることはあるのでしょうか?

語りかけるときは先読みして言いすぎないようにする

回答:針生悦子さん

ことばを育てるために、子どもに話しかけてあげることはとても大切です。
でも、子どもの気持ちや言いたいことを先読みして、大人がフォローしすぎてしまうと、子どもは喋る必要がなくなってしまいます。
ことばの発達としては、お子さんが自分で、自分のやりたいことや言いたいことを考えて、話せるようになるのがいいと思います。
そのためには、お子さんが伝えようとしていることを待ってあげることも大切です。

ことばよりも先に気持ちを育てること

回答:中川信子さん

わが子のことばが遅いのではないかと心配される方は、「もっとことばをかけてあげなきゃ」と思いがちです。
子どもは、体を動かして遊ぶことで、心が動き、声が出やすくなります。
「お母さん、お父さんと遊ぶのは楽しいな」というように、まずは、子どもの気持ちを育ててあげてください。そうすると、「この楽しい気持ちをお母さん、お父さんに伝えたいな」という気持ちに繋がり、ことばが出てくる早道になるかと思います。


赤ちゃんことばは多用した方がいい?

息子に「おもちゃ片づけようね」と言うと、おもちゃを片づけてくれるので、ことばは理解できているようなのですが、なかなか発語にはいたりません。
ことばを発することができるように、日常生活の中でできることをやってあげたいと思っています。「赤ちゃんことばを使うのはどうなんだろう?」と思っているのですが、子どもに語りかけるとき、赤ちゃんことばは多用した方がいいのでしょうか?
(1歳6か月の男の子をもつママより)

心のままに話しかければ大丈夫

回答:中川信子さん

赤ちゃんことばには、「ぱぴぷぺぽ」「ばびぶべぼ」「まみむめも」という赤ちゃんが発音しやすい音が使われています。なぜなら、赤ちゃんが言いやすいようにと、ぱ行、ば行、ま行を使って、大人の言葉を変えていったものだからです。そうすることで、赤ちゃんは、お母さんのことばを聞き取りやすく、マネしやすくなるのです。
しかし、ことばは、家庭の文化です。ふだん使う言葉を無理に変えてまで、赤ちゃんことばを使う必要はありません。また同じように、無理に使わない必要もありません。
子どもが成長するにつれて、自然に子どもに対して使うことばも変わります。小学生に対して、赤ちゃんことばは使わないですよね。
心のままに話しかけてあげれば大丈夫です。

回答:針生悦子さん

赤ちゃんことばを無理に使う、使わないよりは、お子さんと楽しくやりとりしてください。
語りかけにおいて大事なことは、赤ちゃんがお母さんの言っていることを理解してくれているかということです。
子どもは3歳になるまでに、およそ600~1000ぐらいのことばを話せるようになります。そのうち、大人が赤ちゃんことばに変換できるのは、20~30個程度です。
赤ちゃんことばにできないことばは、大人と同じことばを使っているはずです。
「赤ちゃんことばを多用するほうがいいのか…」と、そこまで気にしなくてもいいと思います。


絵本の読み聞かせは同じ本を繰り返すより、いろんな本を読み聞かせる方がいい?

娘は最近になって、ことばが出始めました。もっとことばを育ててあげたいと思い、今、絵本の読み聞かせに力を入れています。お気に入りの本なども出てきました。
絵本の読み聞かせは、同じ本を繰り返し読むのと、いろんな本を何冊も読むのと、どちらの方がいいのでしょうか?
お気に入りの絵本を繰り返し読んであげると娘が喜んでくれる…でも、新しいことばを覚えるには、興味をしめさなくても新しい絵本を読んであげた方がいいのかなと悩んでいます。
(1歳9か月の女の子をもつママより)

子どもが興味のある絵本を読むのが鉄則。たまに、違う絵本を提案する。

回答:中川信子さん

絵本の読み聞かせは、“読み聞かせ”ということば通り、読んで聞かせないといけないと思われがちですが、読んで聞かせることではなく、気持ちの共有が大事です。
絵本は、気持ちの共有ができるおもちゃの一種と考えてください。
おもちゃで遊ぶときは、子どもが好きなおもちゃで遊びますよね。絵本も同じです。
子どもが気に入る絵本というのは、自分のレベルに合っていて、繰り返しがあって楽しい、次の展開が予測できるから安心して読めるものです。
読み聞かせのときは、子どもが興味のある絵本を読むのが鉄則です。興味のないものは子どもの学びに繋がりません。
でも、そうすると同じ絵本ばかりになってしまいますので、たまには「こんなのもあるけどどう?」と違う絵本をお子さんに提案してみてください。楽しそうに見せてあげると、興味を持ってくれるかもしれません。
親側から、あの本を読みましょう、この本を読みましょうと無理に読むのではなく、子どもの世界を広げてあげるように絵本を紹介してあげるといいと思います。

好きな絵本は繰り返し読みたいもの

回答:針生悦子さん

子どもが同じ絵本を繰り返し読みたがるのを不思議に思われるかもしれませんが、大人が流行の歌を何度も聞きたくなるのと同じです。
何回でも聞きたいと思うということは、まだ満足していない、わかりきっていないということです。逆に言えば、飽きたと感じるということは、満足した、十分だと思っているということです。


絵本の読み聞かせは早い時期から始めなくてもいい?

うちでは、生後半年ぐらいから絵本の読み聞かせを始めていたのですが、始める時期としてはいつごろが良かったのでしょうか?
(1歳9か月の女の子をもつママより)

絵本はことばを育てるためではなく、親子の気持ちをつなぐ道具

回答:中川信子さん

「絵本」が現物として身近にあると、お母さんは絵本を読んであげようと、ひざの上に子どもを乗せたりして、子どもとの距離が近くなりますよね。
そうすると、子どもは、お母さんと近い距離で、お母さんと同じものを見て、お母さんの声を聞くことができます。近くにいることで肌が触れ合うこともできます。この体験をすることで、子どもは、お母さんが頼りにできる存在だとわかるようになり、心の安定にもつながります。

そのため、早い時期から、親子のコミュニケーションツールとして絵本がそばにあるのは、とてもいいことだと思います。でも、“読み聞かせる”ということにとらわれてしまうと、つらいかと思います。
絵本は、ことばを育てるためではなく、親子の気持ちをつなぐ道具と考えてください。

「ブックスタート」と言って、乳児検診などの機会に絵本を配る自治体がありますよ。

ブックスタートとは?

1992年にイギリスで始まった、「絵本」と「赤ちゃんと絵本を楽しむ体験」をプレゼントする活動。日本でも乳児検診などの機会に絵本を配る自治体がある。


テレビのつけっぱなしは、ことばの発達に影響する?

ふだんから、テレビをつけっぱなしにしているのですが、子どものことばの発達に影響するのでしょうか?
(6か月の女の子をもつママより)

多少の影響はあるが、程度の問題

回答:針生悦子さん

「子どもは音を聞き取る」ということを考えると、子どもとのやりとりに多少なりとも、影響があるかもしれません。
例えば、テレビをつけっぱなしの状況で子どもと遊ぶ場合、テレビからおもしろい音楽が聞こえてくると、子どもの注意が遊びからテレビの方にそれてしまい、遊びに集中できなくなってしまいます。それでは、せっかくの子どもとのコミュニケーションの質が落ちてしまうかと思います。
また、お母さん自身も、テレビから聞きなじみのある単語が聞こえてくると、ふとテレビ画面を見てしまって、そのままテレビの内容に集中してしまうなど…。
このように多少の影響はあるかと思います。でも、だからといって、毎日子どもと2人きりでシーンとして静かな環境だと、煮詰まってつらくなることもありますよね。そのため、テレビをつけることは決して悪いことではなく、テレビの音があっていい場合もあると思いますので、程度の問題かと思います。

親子でテレビを楽しむのはOK

回答:中川信子さん

子ども1人にテレビを見せるのではなく、できればお母さんも一緒に見てあげる方が良いです。
そして、子どもがテレビの内容に注意を向けている場合は、その興味を後押ししてあげましょう。
例えば、画面のお魚をじーっと見ている子には、「あ、お魚だね」「かわいいね」と声をかけてあげるなど。
子どもが興味を向けてないのに、「ほら、さかなだよ」というように、「子どもに教えよう!」という教えようモード全開になるのは、良くないと思います。
テレビをつけっぱなしにしているからといって、子どものことばの発達が遅れるということはありません。でも、テレビの音のしないところで、ママの声を集中して聞くということも、時々はさせてあげましょう。


すくすくポイント
子どもの言葉を育てる親子のコミュニケーション 4つのポイント

子どものことばを育てるには、子どもの気持ちに寄り添ってコミュニケーションをすることが大事。
そのコミュニケーションの取り方を紹介します!

専門家:
中川信子さん(言語聴覚士)

ことばを育てるコミュニケーションの取り方

(1)子どもをよく見る、子どもの出す声に耳をかたむける
子どもの目を見て、子どもが何か声を発したときには「あーあーなの」「そうなの」と答えてあげましょう。

(2)子どもの気持ちを代わりに表現する
例えば、子どもが何かおもちゃをかじっているときに、「どんな味かな?」「アムアム」「おいしいねぇ」などと、子どもの代わりに言葉で表現してあげましょう。

(3)子どものことばをマネする
少しことばが出てきた子どもには、子どもが言ったことばを繰り返してあげましょう。

(4)子どもの行動をマネする
例えば、子どもが足をバタバタさせたら、大人も真似して足をバタバタさせたり、手を使って、トントントントンと足の動きを真似して床を叩いたりしてあげましょう。

子どもは見られていると安心するため、「発信していこう」という気持ちをさらに強めます。
ゆったりした気持ちで、お子さんを見てあげてください。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです