ふだん、どんなふうに語りかけたら、子どものことばは豊かに育って行くのでしょうか? 同年代の子どものことばと比べて焦ってしまうことも。そんなことばの悩みについて、専門家と一緒に考えます。

専門家:
田中春野(言語聴覚士/公認心理師)
柴田愛子(保育施設代表)

「言語聴覚士」について

田中春野さん

言語聴覚士は、ことばによるコミュニケーションが難しい人に対して、自分らしい生活を営むために、リハビリテーションなどの専門的な支援をします。私自身は、大学病院でことばに困っているたくさんの子どもを中心に接してきました。


ことばを豊かに育むためには?

息子は、つい最近「パパ」と言えるようになりました。初めてのことばです。ことばが豊かな子に育ってもらいたいと思って、例えばカップを見せながら、「カップ」「青い・カップ」「青い・大きい・カップ」のように、段階的に単語を足して語りかけています。ただ、この方法でいいのか、どの程度の情報量で語りかければいいのか悩んでいます。
パパは「パパ」を覚えてもらえて喜んでいますが、ママは周りの子のことばと比べて、少し焦りがあるかもしれません。
(お子さん1歳3か月のママ・パパ)

息子はまだ、意味のあることばを話しません。バナナを見せて「これはなに?」と聞くと、「バワワワワワ〜」と答える感じです。ことばを増やしたいと思って、パパは図鑑を使ってたくさん声をかけています。ことばが豊かになれば、友だちや、私たち家族とのコミュニケーションも円滑になるのではないかと思っています。どうしたらことばを豊かに使って話してくれるようになるのか、ボキャブラリーを増やして定着させるポイントを知りたいです。
(お子さん1歳4か月のママ・パパ)

理解しやすいことばの長さは、今話している単語+1語

回答:田中春野さん

「カップ」「青い・カップ」のように、徐々に単語を増やしてことばを長くしていくのは、とてもよい方法だと思います。子どもが理解しやすいことばの長さは、話している単語のプラス1語ぐらいです。長すぎるとわからなくなってしまいます。
お子さんが「パパ」のように1語を話しているのであれば、2語文ぐらいの長さがわかりやすいでしょう。

親子で図鑑を一緒に見ながら、会話のやりとりを

回答:田中春野さん

図鑑は、知らなかったことばに出会うことができる、とてもよいツールです。いろいろな興味の引き出しを増やしてくれると思います。
使うときは、一方的にものの名前を言って終わるのではなく、親子で一緒に見ながら、「これは、おうちにあるね」「おそとで見たね」のように、会話のやりとりをすることが大事です。図鑑は、会話のきっかけにもなると思います。

ことばを豊かに育むためのアプローチ

ここで、田中春野さんに「乳幼児期の子どもに対することばを豊かに育むためのアプローチ」を紹介してもらいました。田中さん自身、お子さん(9か月)と一緒に、家で実践しているそうです。
※まだことばを発していない、1~2歳ぐらいの子どもにもあてはまる関わり方です

解説:田中春野さん

まずは、「子どもの発声をまねる」です。例えば、子どもが「ア~!!」と言ったら、そのまま「ア~」と、子どもの発声をまねるように語りかけます。

続いて、「子どもの動きをまねる」です。例えば、子どもがおもちゃをたたいたら、同じ動きをまねします。こういったやりとりによって、「やりとりが楽しい」と経験することがポイントです。

「そろそろ、おむつ替える時間かな?」と話しかけるなど、「大人自身の行動や気持ちを言語化」することも大事です。よく「子どもにどう声かけしてよいのか困っている」という方もいますが、そんなときは、自分自身が感じていることや思っていることを素直にことばに出しましょう。子どもは、ちゃんと聞いています。

また、「子どもの行動や気持ちを言語化」することも大切です。「寒いと感じてるかな、遊びに行きたいのかな」と想像しながら、「今日は寒いね」「おそとに遊びに行きたいね」と語りかけます。「寒い」「遊ぶ」という言葉を知るきっかけにもなります。

―― ことばを豊かにするために必要なのは、どんなことだと感じますか?

ことばの前に、コミュニケーションが大事

回答:柴田愛子さん

子どもの初めてのことばは、とてもうれしいですよね。「パパ」と言われて、親ばかになって喜ぶことでしょう。子どもは、そんな親のあたたかさに包まれている状態だと思います。パパがとても喜ぶものだから、なんでも「パパ」と言っているのかもしれませんね。

ことばを話せなくても、コミュニケーションはできます。田中さんが実践していた発声をまねることも、コミュニケーションになります。大切なのは、「あなたの気持ちを感じてあげるよ」という関わり方です。「悲しかったよね」「嫌だったね」と感じたことを語りかければ、子どもの中で、気持ちとことばが結びついていくと思います。

たしかに、ものの名前がわかることも大事ですが、より大事なのは「ことばにならないコミュニケーション」です。その上で、ことばを交わして、お互いがわかり合う心地よさを感じると思います。

親の豊かな感情が子どもの心とことばを豊かに

回答:柴田愛子さん

例えば、ものの名前を教えたいとき、「これはトマト、ト・マ・ト。言ってごらん」とやりがちです。このとき、「トマト」が言えることより、「トマト大好きだね。おいしいね。ママも大好き」という気持ちを大切にしましょう。お互いに気持ちに共感し合えます。ことばを通して、感じていることを膨らませて表現していくのです。親の豊かな感情が、子どもの心とことばを豊かにしていくと思います。


ことばを話すのが遅いかも。どうしたらいい?

息子が発するのは「なん語」ばかりで、「ダダダー」「ゴゴゴゴ」などをずっとしゃべっています。コップを渡すときに「はい、どうぞ」と言うと受け取り、「ちょうだい」と言うと渡してくれますが、ことばはありません。周りからは、「ママがいろいろ声かけないと」など言われてしまうこともありますが、ふだんから、目に入るものをことばにするなど、ことばにつながりそうな絵本や歌もたくさん試してきました。散歩のときは、車が通れば「くるま」と言ったり、家を指して「家、白い家」と言ったり、目に映るものは全部言ったように思えます。
そんな中で、ごはんを食べさせているときに、「イヤ!」と言われることがよくありました。おなかいっぱいで“もういらないよ”という意味だと思います。これまで、意思が伝わることばを話したのは「イヤ」だけです。どうしたらいいでしょうか。
(お子さん1歳6か月のママ)

対人的なコミュニケーションは育っている

回答:田中春野さん

ほんとうにママは頑張って語りかけていましたね。「なん語ばかり」と言っていましたが、拒否を示す「イヤ」も、立派な意味を持つ単語です。また、「ちょうだい」「どうぞ」と言いながら、ものの受け渡しができていましたね。ことばはなかったかもしれませんが、対人的なコミュニケーションは育っていると思いますよ。

子どもの反応をみてから次のことばをかける

回答:田中春野さん

よく「言葉のシャワーを浴びせましょう」と言われることがありますが、浴びせ過ぎはよくありません。ことばをかけたとき、子どもが反応する時間を少し待ってあげることが大事です。矢継ぎ早にことばをかけると、子ども自身が感じたり、考えたりする時間を持てず、逆に反応できなくなってしまいます。子どもの反応をみてから、次のことばをかけるとよいでしょう。

―― 同じような悩みを持つ親も多いと思います。どの年齢でどんなことばがあれば安心、といった目安はありますか?

ことばの出る目安

回答:田中春野さん

あくまで目安ですが、1歳半健診のころには、意味のある単語が1語以上出ているか確認しています。また、3歳児健診では「お茶 とって」など、2語をつなげて話せるか、ことばの数が増えているか。4歳になると3語以上をつなげて話せるか、自分の名前が言えるか、専門の施設では確認します。

ことばの発達に個人差がある。子ども自身の成長をみる

回答:田中春野さん

SNSなどには、子どもに関する情報があふれています。見れば見るほど他の子と比較してしまい、焦ってしまう気持ちはよくわかります。でも、特に1~3歳の時期は発達の幅が非常に広く、ことばの発達に関しても大きな個人差があります。他の子との比較ではなく、子ども自身の少し前と比べて、どれだけ成長したかをみてください。

―― それでも心配になったとき、親がチェックできることはありますか?

耳の聞こえを確認する

回答:田中春野さん

まず、耳の聞こえを確認しましょう。耳がよく聞こえていない場合、ことばの発達に影響が出ることがあります。小さいうちは、耳の横で指をこすって、その音に反応するかを確認してみましょう。お子さんのうしろから名前を呼んで、振り向くかどうかでも確認できます。

もう少し大きくなったら、それぞれスマートフォンを持ち、大人のささやき声が聞こえているか確認する方法もあります。
聞こえを確認するときのポイントは、見た目で話していることがわからないようにすることです。子どもの視野に入らない場所に移動して、大人の口元は見せないようにしましょう。

―― ことばを促すような声かけのポイントはありますか?

発語を促す声かけのポイント

回答:田中春野さん

まず、「ゆっくり・はっきり・短めに」に話しかけます。
そして「繰り返し」も効果的です。ことばは、繰り返し伝えることで理解しやすくなります。
また「モグモグ」「ブーブー」といった擬音語・擬態語は、子どもにとって聞き取りやすく、しゃべりやすい音がたくさん使われているので、取り入れてみてください。
「身体を動かしながら」の声かけもよいとされています。「よーいドン!」「3・2・1!」など、体を動かすタイミングで声かけすると、子ども自身の感情が動いて声が出やすくなるといいます。

―― 柴田さんは、ふだんから園でたくさんの子どもたちをみていると思いますが、ことばの出るのが遅いかもしれないと感じる子はいますか?

その子どもにとって必要なものからことばを獲得している

回答:柴田愛子さん

ことばが遅いという子はたくさんいます。「4歳になってもしゃべらない」と言って連れてみえた方も数えきれません。
私は、子どもが成長しているとき、そこに必然性が関係していると感じています。お悩みをご相談いただいた1歳6か月のお子さんの「イヤ」ということばも、言わないとやめてくれないから「イヤ」を発したと思います。
「4歳でまだしゃべらない」と言っていた子の第一声は、友だちに言った「それ貸して」でした。最初は、何も言わずに子どもの群れの中にいましたが、子どもたちは親のように自分の気持ちを察してくれません。自分から発しないといけない。それで、粘土で遊んでいる子のところに行って「それ貸して」と言ったわけです。「ことばを使うと伝わりやすい、自分の思うようにいく」と体感したようで、その後、とてもおしゃべりな子になりました。ことばは、その子にとって必要なものから獲得して使っていくのだと思います。

気持ちが動いて伝えたい欲求がことばになる

回答:柴田愛子さん

子どもの気持ちが動いて膨らんでくると、「伝えたい」「わかってほしい」という欲求が出てきます。そこに、ことばが登場する。例えば、「これは、きれいだね」「おいしそうだね」と言って子どもの気持ちに共感していると、子どもは「うん、これ好きなんだ」と言いたくなるのです。

コミュニケーションが楽しいという経験をたくさんさせてあげる

回答:田中春野さん

ことばだけではなく、視線や身ぶり・手ぶり、表情も立派なコミュニケーションの手段です。子どもをよく観察してみると、興味があるものに近づいたり、指をさしてみたり、いろんな反応をしています。大人が、その反応をひとつひとつ拾いながら、「人と関わりを持つことが楽しい」という気持ちを育ててあげましょう。「コミュニケーションすることが楽しい」という経験を、たくさんさせてあげることを大切にしてみましょう。

ことばが遅いかもという場合の相談先

それでも、「ことばが遅いかも」と気になる場合は、「かかりつけの小児科」や「地域の保健センター・児童発達支援センター」などに相談してみてください。言語聴覚士に相談したい場合は、日本言語聴覚士協会のホームページで確認できます。


正しい発音に直すべき?

上の子(3歳4か月)の発音が気になっています。「さしすせそ」を含むと発音しづらいようで、「せんせい」が「てんてい」になります。聞き流してもいいのですが、そのたびに正しい発音を言ってあげたほうがいいのか悩んでいます。例えば保育園で、おしゃべりしていても通じにくいのではないかと感じます。矯正したほうがいいのでしょうか。
(お子さん2人のママ)

しゃべりたい気持ちを大事に

回答:柴田愛子さん

そのつどチェックされると、しゃべりたくなくなってしまうかもしれません。私は直さなくてもいいと思います。
子どもの群れというものは、その中にいろいろな子がいます。発音が違っていても、子どもたちは「この子の『てんてい』は『せんせい』のことだね」と受け入れてくれます。しゃべりたい気持ちがあって、聞きとろうとする仲間や家族がいる。その心地よさがなによりも大事です。

発音が難しい音がある

回答:田中春野さん

例えば「さかな」が「たかな」になるなど、「さ行」が「た行」になるようなケースはよくあります。「さしすせそ」「ざじずぜぞ」「らりるれろ」や「たちつてと」の「つ」などは、発音が難しい音なのです。発音は、舌や唇の動き、見ためからのまねしやすさなどに違いがあり、発達する順番があります。まだ「さ行」が上手に発音できなくても、心配する必要はありません。矯正しなくてもいいでしょう。

言えない音に注目するより、話す内容に注目する

回答:田中春野さん

言えない音に注目するよりも、話してる内容に注目して聞いてあげることが大事です。子ども自身が話したい気持ち・意欲を、大人がそいでしまってはいけません。会話は楽しいという経験をたくさんできるといいですね。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです