今回のテーマは、シングルの子育て。愛情をかけられる時間が少ない、もう一人の親のことの伝え方など、ひとり親家庭の子育ての悩みに答えます。

専門家・ゲスト:
赤石千衣子(しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長/シングルのママ)
スザンヌ(タレント/小学3年男の子 シングルのママ)

ひとり親で関わる時間が少ない… どう愛情を注げばいい?

2年前に離婚して、看護師をしながらひとりで子育てをしています。子どもと関わる時間が十分にとれないことが悩みです。特に平日は家事に追われ、寝る前に「きょう何があった?」と聞くことができるかどうかです。夜勤の日は、シッターさんにお願いしていますが、「泣きながら寝ました」と連絡があることも。やはりさみしい思いをさせているようです。父親は、離れた土地で働いているため、常に関わることができるのは私だけです。同じような状況にある人は、たくさんいると思います。時間が少なくても、しっかりとした愛情の注ぎ方を知りたいです。
(お子さん6歳・2歳6か月のママ)

まずは働いて家族を支えることを考えた

コメント:スザンヌさん

私自身、最初のころは仕事と子育てのバランスをうまくとれませんでした。今大事なのは、仕事を頑張ることか、小さな子どもと過ごす時間か、その間でとても悩みました。でも、私が働かないことにはどうすることもできません。仕事に出かけるとき子どもに泣かれても、「ママ頑張ってくるね」と声をかけていました。大黒柱として家族を支えよう、そう思って頑張っていました。

短い時間でも、しっかり愛情を伝える・ちゃんと子どもの話を聞く

回答:赤石千衣子さん

夜勤がある仕事をしながら、とてもよくやっていると思います。愛情は、短い時間でも「大好きだ」と子どもに伝えて、「きょう何があった?」と声かけしていたように、少しでも話を聞くことを心がければ、信頼感や安心感がでてきます。いちばん苦労する時期はひとときです。明けない夜はないと思って頑張ってほしいと思います。


子どもとの接し方、私が心がけていること

ひとり親家庭では、子どもと関わる時間が少ない中、どんな工夫をしているのでしょうか。2人のママに話を聞きました。

調理師として働きながら4人の子を育てています。いつも心がけているのは、子どもたちの話を聞くことです。こちらから聞いてあげる時間はなかなかとれませんが、子どもから話しかけてきたときは受け止めてあげようと思っています。子どもは聞いてもらえることがうれしいようです。とはいえ、家事の手は止められないので、洗濯物をたたみながら、食事の準備をしながらといった「ながらコミュニケーション」をしています。あまりにも忙しくて相手をできないときは「やりたいことリスト」を書いてもらいます。

そのときやりたかった、我慢したことをメモしてもらい、余裕ができたら一緒に実現するんです。リストによく書いてあるのが「とびばこ」。わが家では小さいころからお気に入りの遊びで、私が四つん這いの姿勢で跳び箱台になって、子どもたちが飛んでいきます。リストを実現していくと、「ちゃんと聞いてくれてる、受け止めてくれてる」と感じるのではないかと思います。
(お子さん中学1年・小学5年・小学4年・小学2年のママ)

フルタイムで働きながら6歳の女の子を育てています。子育てのモットーは「親の背中を見せる」です。娘が物心ついたときから、働く意味を説明し、理解してもらうことを心がけてきました。
例えば、週末楽しく遊んだあと、「月曜の保育園に行きたくない」と言ってきたときは、「月曜から金曜、ママは一生懸命お仕事して、お金を稼いでくるから、保育園で月曜から金曜まではがんばってね」のように話します。平日は一生懸命に仕事をして、休日はしっかり遊ぶといったメリハリを教えるんです。娘もなんとなく理解してくれているようです。
(お子さん6歳のママ)

コメント:鈴木あきえさん(MC)

親と子の関係が、一緒に生活をよりよくしていくパートナーのようですね。そのチームワークが印象的でした。

コメント:スザンヌさん

私も「親の背中を見せる」のタイプです。「ママは仕事を頑張るから、あなたも学校を頑張ろう。一緒に頑張ろうね」と言っています。仕事をする意味など、いろいろなことを話しているうちにお互いに話すくせがついて、まだ小学生ですが親友のように何でも話せる存在になっています。本当に支え合えるような関係になってきたと思います。

コメント:赤石千衣子さん

「ながらコミュニケーション」と言っていたママは、映像を見ると、きちんと子どもと目線を合わせていてよかったですね。あの気遣いが、子どもが「ママは私のことを見てくれている」と感じる瞬間を作るのだと思いました。「メリハリを教える」ということについて、やっぱり子どもにとっても、「今は頑張らなきゃというとき」と「ママに甘えていいとき」がわかってくると、親子のチームワークが育つのだと思います。


もうひとりの親のこと、どう伝えればいい?

半年ほど前に離婚して、9か月の女の子を育てています。今後、もうひとりの親のことを聞かれたら、そのつど説明しようと思っていますが、避けたほうがいい表現はありますか? 子どもが自分の存在を否定することがないように伝えることができればと思っています。
(お子さん9カ月のママ)

いろいろな家族があると正直に話す

コメント:スザンヌさん

子どもが小学校に入ったころ、「どうしてパパと一緒に住んでないの」と聞かれ、「このときが来た」と思いました。聞かれたらきちんと説明するつもりだったので、「離婚して一緒には住んでいないけど、パパもママもあなたのこと大好きだから、一緒に住んでいても、住んでいなくても変わらないから安心してね」と伝えたんです。子どもは「ああ、そうなんだ」という反応でした。
子どもは自分の家のことしか知らなかったので、「他の家は毎日パパがいるんだ」と感じるようです。うちはうちで、いろいろな家族があると正直に話すようにしています。

子どもの年齢に合わせ、わかる範囲で「事実」を伝える

乳幼児期の心の発達を研究している遠藤利彦さん(東京大学大学院 教授)にも話を聞きました。

回答:遠藤利彦さん

離婚や死別など、もうひとりの親のことを伝えるときは、子どもの年齢に合わせ、わかる範囲で事実を伝えることが大切です。子どもを悲しませないように作り話をすると、かえって「お父さんは自分のことを嫌って家から出て行ってしまった」といったゆがんだ思い込みを招き、心の傷になってしまう可能性もあります。

離婚の場合は、子どもが小さいうちは“離れて暮らすことになった事実”を、少し年齢が上がり、わかるようになってきたら、“夫婦ではなくなった離婚の事実”を、子どもがわかる範囲で丁寧に伝えます。場合によっては「会うこともできるから、会いたくなったら言ってね」など、子どもの気持ちを尊重することも大切です。

死別の場合は、“亡くなってもう会えない存在になったこと”を丁寧に説明します。「天国に行った」という表現は、大人でも一般的なので、表現自体に問題はありません。また、子どもが、人が亡くなることがどういうことなのかを理解するためには、一連の儀式に子どもを参加させることが重要だといわれています。

伝える上で大切なことは、事実を聞いて悲しんだり驚いたりする子どもをきちんとケアすることです。例えば「男の子だから泣かないよ」などと言って我慢を強制すると、結果的に心の傷につながることがあります。泣きたいときはたくさん泣いていい。「悲しいね」と共感しながら、「悲しいけどね、お母さんいるから大丈夫だよ」と言って、崩れた感情を回復させることを心がけるとよいでしょう。

相手を悪く伝えない、相手の否を強調しない

回答:赤石千衣子さん

事実であっても伝えにくいこともあります。例えば、借金の問題や、債務整理といったことまで伝えなくてもよいでしょう。また、子どもにとってはもう一方の自分の親なので、相手を悪く伝えたり、相手の否を強調したりしないことがルールだと思います。


子どもには、母親(父親)が必要?

2年前に離婚して、ひとりで6歳の女の子を育てています。娘は言葉にはしませんが、母親が必要なのかなと思うときがたびたびあります。例えば外出先で、どこかの母親が子どもを抱いているところをじっと見つめているときがあります。ひとり親になったのが4歳で、まだまだ母親が恋しいときに離れてしまったのかもしれません。子どもは母親にだっこしてもらうほうが安らぐようにも思えます。母親の優しさと父親の優しさは違うのかもしれません。子どもに母親は必要なのでしょうか。
(お子さん6歳のパパ)

叱ったあとは、必ずその日のうちに仲直り

コメント:スザンヌさん

映像を見ていると、お子さんは笑顔でパパにぎゅっと抱きついたり、しっかり甘えているので大丈夫だと思えました。
私も親子2人の生活なので、例えば子どもを叱ったとき、パートナーがいれば子どもの逃げ場になるのかなと思う瞬間があります。でも、それはしかたがないので、寝る前に「さっきはごめんね」と伝えて、その日のうちに仲直りするようにしています。子どもは自分が悪いわけではないのに「僕もごめんね」と言ってくれるんです。

母親、または父親が必要ではないかと気になる方は多い

回答:赤石千衣子さん

ひとり親だと、どうしても何かが足りないのではないかと不安になることがあります。お子さんがほかの家族を見ていたときも、ただぼんやり眺めていただけかもしれません。とはいえ、母親、または父親が必要ではないかと気になる方は多いようです。ただ、子どものためにパートナーを探さなければと思うより大切なことは、今、目の前の子どもとしっかり向き合うことです。お子さんの様子を見ていると、今のパパとの暮らしを楽しんでいると思います。

気にかけてくれる大人との関係が大切

子どもの心の発達に影響があるのか、遠藤利彦さん(東京大学大学院 教授)にも話を聞きました。

回答:遠藤利彦さん

子どもにとっては、父親・母親が必要というより、その代わりになる人が近くに複数いてくれることが大切です。例えば、園の先生、友だちのお父さん・お母さん、習いごとの先生、かかりつけ医などです。気にかけてくれる大人との関係は、家庭と同じく子どもの心を育むといいます。親との関係以外に、多様な関係を経験できる機会をつくっていくことができれば、子どもの発達は健康な形で進んでいくと考えてください。


ひとり親の交流会

家庭を閉じるのではなく、オープンにして外との関係を意識してつくることが大切です。こんな関係づくりの場もあります。

こちらは、神奈川県横須賀市の委託で活動している、ひとり親の当事者団体です。月に一度、交流会を開き、地域の情報交換や勉強会を行っています。この日は大学生を招き、思春期の子どもの気持ちや、性教育について勉強会が開かれました。

親同士が話し合っている間、子どもたちはとなりの部屋で年上のお兄さん・お姉さんと遊びながら過ごしていました。

<利用者の声>

ここでは、子どもが年の離れた人と交流できます。子どもが楽しんでいることが一番かもしれませんね。私が父親で、子どもが女の子なので、女の子の育て方についていろいろ教えてもらえたらと思っています。
(お子さん小学3年のパパ)

よこすかひとり親サポーターズ・ひまわり
https://www.yokosuka-himawari.com/


―― 家庭をオープンにすることが大事とのことですが、いかがでしょうか。

預けるときは、危険なこと以外はその家庭のルールにまかせる

コメント:スザンヌさん

私を知っている方が多いこともあり、わが家はオープンにしています。そこで心がけているのは相手を信頼することです。例えば、仕事でママ友や親戚に子どもを預けるとき、危険なこと以外は全てその家庭のルールに任せています。そのほうが、愛情をかけて関わっていただけるので、子どもも世界が広がり、委ねてよかったと思います。

―― 番組のアンケートには、こんな声も届いています。

私がひとり親だと言うと、「あ、ごめんね」といった反応があり、返し方に困ります。周囲に、どのようにひとり親であることを打ち明けていますか?

「シングルになったから失敗」「余ってる」と周りで言う人もいて、どのように対応すればいいのか考えてしまいます。

心ないことばは受け止めないで受け流す

コメント:スザンヌさん

私にも同じような経験があります。わが家は、ひとり親でひとりっ子ですが、「ひとり親でかわいそう、ひとりっ子もかわいそう、離婚してかわいそう、全部かわいそう」と言う人もいます。「離婚は悪い」というイメージがあるのです。言われたときは、「そうですよね」と言って、受け止めず、受け流します。言いたい人には、言わせておけばいいと思います。否定も肯定もしないで、くぐり抜けてきました。

―― 周りの人と、どのようにつきあっていけばいいでしょうか?

安心できる関係性から少しずつ打ち明ける

回答:赤石千衣子さん

先ほどの交流会のような場で、初めて同じ立場の人と出会えると、とても安心感があります。周りの人に打ち明けるときは、安心できるところから少しずつにすると、負担が少ないと思います。保育園や学校に行くようになったら、親しくなった方から「実は、お父さんは遠くにいるんだ」と話してみてはどうでしょう。私自身は、打ち明けるとき明るく話すようにして、「うちは楽しく母子家庭をやっているんです」と印象づけるようにしていました。そうすれば、「かわいそう」といったことが返ってきにくいと感じます。

―― 周りの人ができることはありますか?

普通に接してくれるとうれしい

回答:赤石千衣子さん

ふだん通りに接してくれることがいちばんです。お子さんの行き来も普通にしてください。もし何かに気がついて「いいな」と思うところがあったら、「よくやってるね」「そんな子育てすてきだね」と言っていただけると、とてもうれしいですね。


シングルだからこそ、セルフケアのすすめ

ひとり親のセルフケアについて、6歳の子どもを育てているママに話を聞きました。

ひとり親の子育てで大事にしていることは、忙しい中にも自分の時間を持つことです。ずっと親子2人で向き合っていかなければいけないので、お互いが張り詰めているとすぐにわかります。直接子どもに感情をぶつけてしまうことを避けるためにも、ワンクッションが非常に大事だと感じます。

そこで出会ったのが、シングルママのためのセルフケア講座です。週に1回、30分のレッスンで体を動かし他のメンバーとの交流を通して、心と体を解放しています。
(お子さん6歳のママ)

このセルフケア講座を主催する吉岡マコさん(シングルマザーズシスターフッド代表)もシングルのママだといいます。講座について話を聞きました。

ひとり親の多くは自分の時間を取ることに罪悪感を持っています。子どもに尽くさないといけないと思って、自分のことを後回しにする傾向があるのです。でも、本当は自分をケアすることが、子どもに尽くすことにもなります。
(吉岡マコさん)

この講座は、ひとり親支援の助成金により参加費は無料です。参加できるのはシングルママだけとあって、同じ仲間同士、気兼ねなく話すことができるようです。

<参加者の声>
  • ストレッチだけではなく、話をする機会もあるのでとても癒やされます。
  • 自分一人だと、ふだんの仕事や家事、育児に追われてしまい、こんな時間が持てないので、「やりますよ」と言っていただいて時間をとるのが、自分には必要だと感じています。
  • ちょっとひと呼吸置けるので、子どもとの向き合い方がやさしくなったように思います。

シングルマザーズシスターフッド
https://www.singlemomssisterhood.org/


コメント:スザンヌさん

体を動かすのもいいですね。とても気持ちよさそうでした。
私の自分の時間といえば、大学での勉強です。経済やビジネス、心理学などを学んでいます。子どもが小学校に上がって、一緒に勉強したい気持ちがわいたことがきっかけでした。子どもの卒業と私の卒業が同じタイミングになるので、そこを目指しています。
勉強であっても、自分の時間をつくることで、子どもにやさしくなったと感じます。勉強の大変さも思い出して、子どもが「宿題、大変」と言うのもわかるから、「きついよね、宿題」と言って共感できるようになりました。

―― 経済的な余裕がないなど、自分の時間を持つのが難しい方もいますが、いかがでしょうか。

“自分の時間”を過ごすためのリストを持つ

回答:赤石千衣子さん

セルフケアは、ちょっとした5分の散歩でも、プチデザートを買ってくるなどでも、なんでもいいのです。自分のための時間を持つと、子どもにもやさしくなれます。まずは、“自分の時間の過ごし方”をリストにして持っておきましょう。

ひとりで頑張らず他の人に「助けて」と言っていい

回答:赤石千衣子さん

ひとり親は、どうしても「ひとりで頑張らないといけない」と思っている方が多い。でもそんなことはありません。他の人に「助けて」と言っていいのです。そのことを覚えておくと、とても楽になります。

「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」では、電話やメールでのご相談も受け付けています
https://www.single-mama.com/


こちらはシングルパパママのための情報サイト「イーヨ」です。ひとり親家庭の体験談や支援制度などの情報が掲載されています。
https://s-iiyo.com/

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです