子どものころ、自然の中で遊んだ思い出はありますか? 今、子どもの外遊びの機会は減り続け、コロナ禍でさらに減少したという調査も。自然あそびには、楽しさも危険もありますが、ワクワクする体験を通じて、心も体も育つといいます。親子で楽しむ自然あそびの扉を一緒に開いてみませんか?

専門家:
大豆生田啓友(玉川大学 教授/乳幼児教育学)
多田多恵子(立教大学・国際基督教大学 兼任講師/植物生態学)

自然あそびで、子どもはどう育まれていくの?

今回、番組のアンケートには、各地の親子から「自然の中でこんなふうに遊んでいるよ」という声が届きました。

2年ほど前、自然にかこまれた、かつて祖父母が住んでいた空き家に移り住みました。畑のある庭は、子どもの遊び場です。

ここには、いろいろな発見があります。例えば、サトイモの葉が水を弾くことがわかって傘にして遊んだり、触れるとおじぎをしてくれるオジギソウで楽しんだり。子どもは植物が色や形を変えていくことに興味があるようです。パパは自然での遊び方をいろいろ覚えていたので、ママはそれを見て思い出して、親子で季節の変化を見つけて楽しむ毎日です。
(お子さん2歳7か月のご家族)

子どもたちは、野山を主なフィールドとする「森のようちえん」に通っています。毎日森の中で遊び、松ぼっくりを拾ったり、柿の花を見つけたり、大人は見過ごすような自然の中の不思議なことに気づきます。

例えば、朽ちた木を観察して、アリがいっぱいいることを発見するなど、いろんなことを学んでいるようです。

こちらの沢あそびには、秘密があります。1か所、粘土が採れる場所があるのです。このことは、子どもたちの間で代々受け継がれているそうです。
子どもたちは、観察や挑戦、コミュニケーションなど、自然あそびを通じてさまざまなことを経験しています。
(お子さん6歳・3歳11か月のご家族)

―― 自然の中の遊びで子どもはどう育まれていくのでしょうか?

「やってみよう」「なんでだろう」という興味が科学的好奇心につながる

回答:多田多恵子さん

サトイモの葉を傘にして遊んでいましたね。水を弾くのは「ロータス効果」といって、最先端の技術につながっていることなんですよ。何かがあったときに、実際に触れたり・水をかけてみたり、そういった「やってみよう」「なんでだろう」という興味が、科学的好奇心を呼び覚まします。
自然の中には、おもしろいことがたくさんあります。傍観しているだけではわからないことが、自分からいろいろ試してみることで発見できるのです。そういった経験が、将来的に自分の土台になっていくと思います。
※ロータス効果/ハス(英名:ロータス)やサトイモの葉に見られる微細な突起が水を弾く現象

自然あそびは頭も体も心も動く

回答:大豆生田啓友さん

まさに、自然あそびは頭も体も心も動きます。幼児期の自然体験は、その後の「自分って結構いいな」と思える自尊感情や、いろんなことに関わってみようとする社会性・積極性につながるという研究もあります。


自然あそびは、身近なところでできる?

今、郊外で暮らしていますが、野山で遊んで育ったママは、子どもにもその楽しさを知ってほしいと思っています。でも、身近なところに自然がありません。そのため、例えば車で2時間ほどかけて、子どもを渓谷まで連れて行きます。本当はもっと気軽に行けるところで楽しみたいです。
(お子さん3歳4か月のママ・パパ)

自然あそびは、身近なところでできるのでしょうか? 多田多恵子さんが、近所の公園を例に、どこでも楽しめる「自然発見のポイント」を教えてくれました。

どこでも楽しめる自然発見のポイント

解説:多田多恵子さん

最初のポイントは、「しゃがんでみる」です。地面にはいろいろな発見があります。例えば、木の実が落ちていたりします。

続いてのポイントは、「においをかいでみる」。例えば、ひろったクスノキの実をつぶして、においをかいでみましょう。「タンスのにおい」だと思うかもしれません。クスノキの「ショウノウ」という成分は、昔から防虫剤に使われているんです。

拾ったものを入れるバッグを持っていくのもおすすめです。

3つ目のポイントは、「植物で遊んでみよう!」です。今回は、植物を使ったお絵描きをしてみましょう。

まずは、絵を描く材料になる草花を見つけます。草むらも目を凝らせば、いろいろな花が咲いていることがわかります。
※植栽してある植物はとらないようにしましょう

場所を変えて、みんなでお絵描きです。花びらのいろんな色を楽しんでみましょう。

ツユクサを指でつぶして紙にすりつけると、こんな色になります。

ピンクのオシロイバナも、きれいな色が出ますよ。

子どもは、植物でさまざまな色が出せることを発見すると、自分で材料を探しに行くこともあります。ひとつの発見が、次の「やってみたい」につながっていくのです。

実物に触れることが新しい発見のカギ

回答:多田多恵子さん

ふだん遊んでいる公園も、少し見方を変えるだけで、たくさんの発見と驚きに満ちています。例えば、葉っぱをなでてみるだけでも楽しい。実物に触れることが新しい発見のカギになります。

試しに、ヘクソカズラをちぎってにおいをかいでみましょう。実際にかいでみると、とても強いにおいであることがわかります。ヘクソカズラは、このにおいで身を守っているのです。葉っぱをちぎってみると、いろいろと楽しいことがありますよ。
※植物によって皮膚がかぶれるものもあります。遊んだ後は手を洗いましょう。

スマートフォンは、自然観察にも役立つ

回答:多田多恵子さん

自然観察をよりおもしろくするために、スマートフォンが役立ちます。

小さな花や虫を見たいときは、カメラのズーム機能で拡大したり、写真に撮影したりできます。

拡大しても鮮明に見える、虫眼鏡の役割になるわけです。

さらに、名前を知りたいときは「画像検索機能」などで調べることもできます。最近では、撮影するだけで候補をあげてくれる無料のアプリもあります。出てきた名前で、あらためて調べたり、図鑑を見てみるのもいいですね。

名前がわかると身近に感じる

回答:多田多恵子さん

公園にあった草花も、名前がわかってくると、まるで「お友だち」のように感じられます。そうすると、植物のほうから語りかけてくれるような気がして、より楽しくなっていきます。

子どもの自然体験はそれを意識するかしないかがポイント

回答:大豆生田啓友さん

自然が豊かなところが、必ずしも自然との関わりが多いわけではありません。豊かであっても、子どもに使われていないこともあります。本来、子どもは自然が好きなので、自然を意識するかしないかが自然体験のポイントだと思います。

自然と関われる環境を大事にする園もある

回答:大豆生田啓友さん

幼稚園・保育園・こども園でも、積極的に子どもが自然に関われて、心がワクワクするような環境を大事にしようと考える園があります。

例えば、草花で自由に遊べる環境です。草花に触れたり、においをかいだり、口に入れてみたり、いろんなことを五感で経験できます。

花を使った色水あそびもあります。絵具がなくても、草花からとった色で絵が描けます。どうやったらきれいな色が出るかを試していると、本当におもしろいわけです。草花に親しみを感じていくことにもつながります。

こちらは、人工的に作られた山「築山(つきやま)」です。子どもたちは登ったり・降りたり、オニごっこの舞台にしたりして遊びます。自然は体を使う場としても大事なのです。

子どもたちは、水たまりや、泥・砂あそびも大好きですよね。人が育つ上では、こういったグジャグジャドロドロの経験から、だんだん秩序へと変わっていくことが大事なのです。神経質にならず、体全体でぶつかるような意欲にもつながります。

野菜を育てることもいいですね。自分で育てること、みんなで一緒に収穫することの喜びがあります。野菜が嫌いな子でも、みんなでつくった野菜は「おいしい」と言うのです。

野菜を育てるための畑がなくても、プランターひとつからでもはじめられます。そこに種や苗を植えるだけで、生態系が生まれるのです。


子どもの好奇心を大事にしたい。大人はどう関わればいいの?

4歳になる長男は、虫に夢中です。もともとは、幼稚園で飼育されているカメを好きになりました。そこから魚などの水の生き物にも興味を持ち、古代魚が好きになり、恐竜、その時代の虫へと興味がつながりました。そして、近所でタマムシを見つけたことで、虫への関心が大爆発したんです。
今では、家でアゲハ蝶の幼虫などを飼っていて、「臭角だしてるよ」など、私が知らないようなことを言います。自分が見たものと、図鑑や動画などの情報を照らし合わせることで、覚えたようです。
子どもの喜ぶ様子を見て「すごいね」と声をかけますが、実は夫婦2人とも虫が苦手です。子どもの好奇心を大事にするために、周りの大人はどう関わっていけばよいでしょうか。
(お子さん6歳・4歳・1歳5か月のママ・パパ)

知識と体験の積み重ねが大事

回答:多田多恵子さん

図鑑で知ったことは、実体のない絵や写真です。それを実際に生身で動いているのを見て、図鑑で見たものと実物が一致した瞬間に、「こういうものだったんだ」と頭の中で花火が上がるような快感・感動があります。だからこそ、科学という意味では、知識と体験の積み重ねがとても大事になります。

一緒に喜んだり驚いたりする人がそばにいることは大事

回答:大豆生田啓友さん

社会に対して、特に環境問題について発信していた、レイチェル・カーソン(1907~1964)いう海洋生物学者・作家がいました。その方の有名な言葉の中に「センス・オブ・ワンダー」があります。神秘さや不思議さに目を見張る感性を表す言葉です。
子どものころに、不思議なことや神秘的なことに触れ、「すごい」と心で感動する経験がどれほど大事なのか。そういった経験が、自然や命に関する科学的好奇心だけでなく、自分たちが生きている自然と命を慈しむことにつながっていくといわれています。そんなときに、一緒に喜んだり、驚いたりしてくれる人がそばにいるのは、とても大事なことです。


赤ちゃんの自然体験って、どうしたらいいの?

毎朝、近所の公園を子どもと散歩しています。子どもが自然に興味を持つように、散歩しながら「セミが鳴いてるね」と声をかけてみたり、きれいな葉っぱを見つけて触らせてみたりしています。

でも、子どもの反応はいまひとつで、意味があるのか気になっています。赤ちゃんの自然体験は、どうしたらいいのでしょうか。自然との触れ合いを通じて、生き物の命を大切にすることを学んでほしいと考えています。
(お子さん5か月のママ・パパ)

赤ちゃんは、自ら「知りたい」と思っている

回答:大豆生田啓友さん

大人は自然に触れさせようとしますが、もともと子どもは自然が好きなものです。ただ、それがわかりにくいだけなのです。例えば、木陰にベビーカーを置いていたら、葉っぱが揺れている様子を、ずっと楽しんで見ていたりします。赤ちゃんは、自ら「知りたい」と思っているといわれています。

草花などを目の前に出してみる

回答:大豆生田啓友さん

もし草花があったら、赤ちゃんの目の前に出してみましょう。興味を持てば、自分から手を出そうとします。はじめはかすかであっても、成長してくると顕著に自分から取ったり触れたりしようとするようになります。そういった関わり方がいいのではないでしょうか。

自分も一緒に楽しむ

回答:多田多恵子さん

親自身が自然あそびの体験が少なかった人でも、これから子どもと一緒に経験できます。子育てはそれができるチャンスなのです。このときを逃さずに、赤ちゃんに「させよう」というより、自分も一緒に楽しんでみてください。

番組には、ほかにも「命を大切にしてほしい」という声がたくさん届いています。例えば「子どもがアリを踏みつけます。どう声かけしたらいいの?」などです。自然あそびの中で、どのように伝えたらいいでしょうか?

生きている姿を自分で見ることが大事

回答:多田多恵子さん

やはり、虫たちが生きている姿を自分でみることが大事だと思います。ときには、うっかり自分で殺してしまうこともありますが、「虫は死んじゃうんだ」と学ぶこともできます。それは悪意ではありません。なんでも「やってはダメ」と言うより、積極的に関わる中で自ら学ぶのではないかと思います。

生き物に触れる経験が命をいとおしむことにつながる

回答:大豆生田啓友さん

自分が飼っている虫だったら、つぶすことはありません。いとおしくなって、大事にしようとします。ダンゴ虫が大好きになると、死なないようにしたいと思うようになります。
最初から「命を大事にしよう」ではなく、生き物を大好きになる経験が、生命をいとおしむ経験になり、それが広がっていくと思います。小さなころに、いろんな生き物に出会って、「すてきだ」「大好きだ」と思うことは、大人になったときに、どう環境と共生するかを考えることにつながっていくのではないかと思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです