子どもがいすに座らず食事が進まない。なかなか食べてくれない。栄養不足が心配。そんな食事にまつわる悩みについて、専門家と一緒に考えます。

専門家:
神田智子(東京都港区みなと保健所/管理栄養士)
永田智(東京女子医科大学 教授/小児科医)

子どもの食べる量が少ない… どうしたらいい?

娘は、離乳食をはじめたころはよく食べていましたが、今はなかなか食べてくれません。食事中は、いすに立ち上がるなど、じっと座っていられません。朝・昼は全く食べず、夜はお茶わん一杯で、食べないときもあります。お菓子やジュースには興味がなく、バナナなどの果物も嫌がります。小さなおにぎりにするなど、食べやすくなるような工夫をしていますが、うまくいきません。
一般的な量の1/3~1/4ぐらいしか食べないので、栄養面が心配です。成長曲線は、体重はぎりぎり範囲内ですが、身長は入らず下のほうです。そのため、せめて母乳をと思って1日4~5回あげています。
(お子さん1歳3か月のパパ・ママ)

1歳すぎたら母乳のみでは栄養が足りなくなる

回答:永田智さん

1歳3か月という年齢を考えると、母乳のみでは栄養が足りません。子どもに母乳が欲しいと言われると、あげたくなる気持ちはわかりますが、それでは不足するということを知っておきましょう。

母乳は食事のあとにする

回答:永田智さん

まず体重(の伸び)が落ちてきて、それに合わせて身長(の伸び)も下がることがよくあります。お子さんの成長曲線は、その両方が少し見られるので、栄養が十分でないかもしれません。
例えば、母乳は食事のあとで、ご褒美のように与えてはいかがでしょう。先に母乳をあげると、子どもは母乳でおなかを満たそうとするので、食事のための余力がなくなります。順番を反対にしたほうがいいかもしれません。今は1日に4~5回とのことですが、次第に3回、2回になっていくでしょう。母乳を減らすのが目的ではありませんが、自然に減っていくと思います。

食事と遊びを切り替えて、生活リズムを身につける

回答:神田智子さん

食事の場と遊びの場を、切り替えてみましょう。おもちゃを片づけて、手を洗って、いすに座って、エプロンをつける。そういった決まった流れで「これから食事の時間です」という生活のリズムを身につけていけば、気持ちが切り替わり、ごはんが食べられるようになると思います。

家族で一緒に食事をする

回答:神田智子さん

食事のときは、パパやママと一緒に食卓を囲めるといいですね。大変だと思いますが、「おいしいね」と声をかけたりしながら、親がおいしく・楽しく食べている様子を見せてあげてください。

遊び心を利用して食事を楽しい時間に

回答:永田智さん

例えば、ピクニックで使う大きなシートを部屋で広げて、色とりどりの食べ物を乗せた小皿を並べると、子どもはピクニック気分になって「どんな味がするんだろう?」という気持ちになると思います。気がつけば、全部食べているかもしれません。子どもの遊び心を利用して、食事を楽しい時間にしてみるのもいいですね。

―― 2~3歳以上のお子さんを持つパパ・ママからも「ごはんを食べてくれない」という悩みが届いています。もっと食べてもらうには、どうしたらよいでしょうか?

子どもが自分のために自主的に食事をとる

回答:永田智さん

子どもに食事を与えるのは親の義務という考え方があると思います。一方で、食べることを強制されると、食事が苦しくなり、楽しくなくなってしまうこともあります。一度、そういった制限のような考え方はとりはらってみましょう。
食卓にいろんな食べ物を並べて、子どもが選んで食べるような空間をつくるのもいいですね。自主的に食事をとることが大事なのです。子ども自身が、食事は強制されるものではなく自分のためのものだと感じることができるといいですね。


子どもの好き嫌い。バランスよく食べるには?

娘の偏食に悩んでいます。白いお米と魚は大好きですが、肉は「いらない」と言います。ピーマンやなす、アスパラガスやとうもろこしも難しいです。
そこで、好き嫌いをなくすための工夫をはじめました。例えば、食材に興味を持てるように、家で野菜を育てています。その結果、トマトは食べるようになりましたが、まだピーマンやなすは難しいようです。私自身には好き嫌いがなく、娘が食べてくれない理由がわかりません。どうしたらバランスよく食べてくれるようになるのでしょうか。
(お子さん2歳11か月のパパ・ママ)

好き嫌いは一時的なもの。だんだん食べられるようになっていく

回答:神田智子さん

好き嫌いは一時的なものです。味がきちんとわかるようになると、おいしいものなど、いろいろなものが判断できるようになります。個人差はありますが、10歳ぐらいを目安に、だんだん食べられるようになっていきます。

乳幼児に多い好き嫌いは、本能的な要素も大きいといわれています。人は「酸味があるものは、腐っている」「苦味があるものは毒がある」のように、食べ物の危険を察知します。そのため、酸味のあるトマトや苦味のあるピーマンが苦手な子どもが多いのです。

食べづらさが好き嫌いの原因になることも

回答:神田智子さん

3歳ぐらいになると奥歯が生えてきますが、それまではきちんとかめません。咀嚼(そしゃく)がしにくいと、「食べたくない」「嫌いだ」と判断してしまうことがあります。
ほかにも、生野菜が上あごに張り付いてしまうことがありますよね。子どもは舌が未発達で、舌を器用に動かして野菜を取ることができず、食べることが難しくて「嫌だ」と判断してしまうこともあります。食べづらい食材は、食べやすくなるように調理してみましょう。

野菜は、加熱するとやわらかくなるので、口に入れやすくなります。肉は繊維に対して直角に切ったり、とろみをつけたりすることで飲み込みやすくなります。

嫌いなものも食卓に並べる

回答:永田智さん

好き嫌いは、食わず嫌いであることが結構あります。食わず嫌いかもしれないと思ったら、嫌いなものを食卓から排除せず、一緒に並べておきましょう。そして、親がおいしく食べる様子を見せたり、「食べるとおいしいかもよ」と声かけしたり、おいしさを伝え続けていると、やがて、子どもは「食べてみようかな」という気持ちになると思います。子どもが自主的に取捨選択できる食卓を準備しておくのは大事なのです。


どうすればスプーンやフォークを使ってくれる?

長男(2歳)は、よく手づかみ食べをします。汚れた手でテーブルを触ったり、自分の頭をかいたりします。1歳ごろからスプーン・フォークを持たせはじめましたが、手づかみはなくなりません。「フォークを使ってほしいな」「手はやめなさい」と声をかけても、なかなか使ってくれません。使ったとしても、もう片方の手で、スプーンやフォークに食べ物を乗せたります。
通っている保育園では、スプーン・フォークを上手に使ってるようです。もしかすると、友だちと一緒だとできるのかもしれません。環境を含めて、どのような注意や働きかけをすればよいでしょうか。また、いつごろまでは手で食べてもいいのでしょうか。
(お子さん2歳10か月・11か月のママ)

1~3歳ぐらいは自食機能を獲得する時期

回答:神田智子さん

個人差はありますが、1~3歳ぐらいは自食機能を獲得する時期です。手づかみ食べから、だんだんスプーンやフォークなどの食具を使うようになります。手づかみ食べは、手の感触で、食べ物の固さ・やわらかさ、温度、口までの距離などを学びます。今は、手づかみ食べにとてもいい時期でもあるのです。そのうち、スプーンやフォークだけで食べられるようになっていきます。

空腹や食べづらさから手を使うことも

回答:神田智子さん

ほかにも、おなかが空いていたり、食べ物をすくいづらい・食べづらいなどの理由で、手が出てしまうことがあります。

手づかみで食べる経験が、食べ物の味の理解に

回答:永田智さん

手づかみ食べは、将来的に好き嫌いがなくなり、食べ物の味をよく理解する人になる、という研究結果もあります。手づかみで食べることは、必ずしも悪いことではありません。

大人の食べる様子を日頃から見せる

回答:永田智さん

親としては、スプーンやフォークを使う習慣を身につけてほしいのだと思います。例えば、親が子どもの目の前でスプーンやフォークを使って食べて見せるのもいいでしょう。日頃からその姿を見ていれば、子どもは親のまねをして、自然に使うことが身についていくように思います。

スプーンやフォークをうまく使えるようにするには、どのように働きかけたらよいでしょうか。ふだんの食事は、1枚のプレートにぜんぶ盛りつけています。保育園では、「ごはんはお茶わん」のように、食べ物ごとに食器を分けているそうです。

まずはスプーンから使えるようにして、その後フォークも併用する

回答:神田智子さん

フォークは刺すのは簡単ですが、すくうことが難しいので、まずはスプーンから使える・すくえるようにしていきましょう。お子さんの場合も、今はスプーンから、その後フォークを併用していくのがよいと思います。

保育園と同じような食器を使ってみる

回答:神田智子さん

お子さんは、保育園ではスプーン・フォークを使っているようですね。家でも保育園と同じタイプの食器を使い、食べ物ごとに分けて盛りつけてみましょう。お子さんの手づかみ食べの回数が減ると思います。
また、お茶わんなど、大人と同じような食器を使って一緒に食べると、いつも親が見本になるので、まねをしながら身につけていくことができると思います。

深さと重みがあり、ふちが直角に立ち上がっている食器がすくいやすい

回答:神田智子さん

ワン・プレートなどの平たい食器は深さがなく、食べ物をすくいづらくなります。そのため、手べ物に手を添えてスプーンでとるようなことになります。

深さと重みがあり、ふちが直角に立っている食器だと、スプーンですくいやすいでしょう。平たい食器は、スプーンがきちんと使えるようになれば大丈夫です。

家族での食事も楽しい時間を共有できるように

回答:永田智さん

「食事の時間は楽しい時間にしよう」と考えて、あまり細かい注意はしなくてもいいかもしれません。お子さんは、保育園では、友だちがスプーン・フォークを使って食べるのを見て、まねしているのではないかと思います。とても社会性が備わっていると感じました。きっと、楽しい時間をみんなと共有しているのでしょう。家でも、例えば食器などを工夫することで、家族と楽しい時間を共有できると思います。


食物アレルギーが改善しても食事が進まない…

息子は以前、卵アレルギーがありました。その影響なのか、食事自体にマイナスのイメージを持っているようです。今は食べられるようになっていますが、なかなか食事が進みません。食事の時間になると、あからさまに元気がなくなることもあります。大人なら10分ですむぐらいの量も、小一時間かかります。無理にでも食べさせたほうがいいのか悩みます。
(お子さん5歳のパパ・ママ)

食べたいときに、食べられるだけでいい

回答:永田智さん

食物アレルギーは、食事でアレルギーを起こしてしまいます。アレルギーのある成分の制限が、すべて決められていて、その通りに食べなければいけません。そうやって徐々に改善して、制限が軽くなっていきます。そこで、子どもに「もう食べていいんだよ」と言っても、それまで「食べるのは危険」と教えられて、食べることに懐疑的になっているので、「いまさら食べられない」と感じてしまうのです。
私は「食べたいときに、食べられるだけでいい」と考えています。無理をして食べさせなくても、「少しでも食べてくれたら。食べない日があってもいい」ぐらいの心持ちでよいと思います。

食事を拒否し続ける場合は小児科医に相談を

回答:永田智さん

食べることを拒否し続ける場合は、ほかに何かの症状や疾患が潜んでいることがあります。少しでも思い当たるようなことがあれば、専門の小児科医に相談したほうがいいでしょう。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです