今回のテーマは「子どものイヤイヤ」。あの手この手でなだめても、さらにヒートアップすることも。どう向き合えばよいのか、専門家と一緒に考えます。
坂上裕子(青山学院大学 教授/臨床発達心理学)
髙祖常子(子育てアドバイザー)
イヤイヤ期、どう対処したらいい?
2歳ごろから気持ちを激しくぶつけてくるようになりました。気に入らないことがあると、モノを投げたり、泣いたり。無理に押さえつけると余計に激しくなるので、落ち着くまで見守るしかありません。先日、祖母とビデオ通話をしていたら、画面に映り込んだおもちゃを見て「遊びたい」とイヤイヤが始まったこともありました。イヤイヤ期は、どう対処したらいいのでしょうか。
(お子さん2歳5か月のママ・パパ)
番組には、そのほか「何が『イヤ』なのかわからない」「気が済むまで泣かせておくしかない」といった声が届いています。
子ども自身がどうしたらいいのかわからない
回答:坂上裕子さん
きっとふだんから苦労されて、つらいだろうなと思います。この時期の子どもは、物理的に通話画面の向こうのおもちゃで遊べるかどうか、わかっているようでわかっていないものです。自分の気持ちをことばで伝えることも、まだうまくできません。自分のどうしようもない状態を、どうしたらいいのかわからないのです。そのため、お子さんの場合は、おそらくモノを投げずにはいられない状況ではないかと思います。
投げたくなるモノは置かないなどの対処を
回答:坂上裕子さん
モノを投げると、まわりの人や子ども自身にあたって危ない場合があります。投げたくなるモノは置かない、または、だっこして別の場所に連れて行くのもひとつの方法です。
この時期、親はどう向き合っていけばいいでしょうか?
気持ちをことばにしてあげる
回答:髙祖常子さん
まずは、「何でイヤだったの?」と聞いてみましょう。まだ自分で説明することが難しいかもしれません。そのときは、「〇〇でイヤだったのかな」「もっとこのおもちゃで遊びたかったんだね」のように、子どもの気持ちをことばにしてあげます。気持ちをたくさんキャッチしてもらえることが、自己肯定感など、自分の気持ちのベースになっていくと思います。
子どもに選ばせてあげる
回答:髙祖常子さん
子どもに選ばせてあげるのもいいですね。例えば、出かけるときに「イヤ!」という場合は、「どっちの靴がいいかな?」のように選択肢を与えると、子どもが「こっち!」と選んでくれることもあります。子どもは、自分の意志を尊重してもらえたと感じて、納得しやすいのです。
気持ちの切り替えを手伝ってあげる
回答:髙祖常子さん
子どもの気持ちの切り替えを手伝うこともひとつの方法です。「ボール投げして遊ぼうか」のように、視点をずらしてあげる声かけなどです。
何をやってもダメなときは、「自分の気持ちと戦っているんだ」と考えて、見守ってあげましょう。興奮しているときには、なかなかことばも入りません。落ち着くまで、「そうなのね」と背中をさすったりトントンしたりしてあげると、その手の感覚やリズムで安心してくると思います。
イヤイヤ期は、気持ちの折り合いのつけかたを親子で練習していく時期
回答:坂上裕子さん
どの子どもにも合う方法はありません。親子でいろいろと試しながら、どうやったら気持ちの折り合いをつけることができるのか、一緒に練習していく時期だと思います。
葛藤する経験を通して、折り合いをつけられるようになる
回答:坂上裕子さん
私の息子の場合、1歳5か月のころは何を言っても「イヤ」の一点張りで、親の言うことが耳に入らない状態でした。自分の「これをやりたい」しか見えていないわけです。それが、1歳10か月ごろになると、少しまわりの様子が見えてきて、「イヤ」と言いつつも、親の言葉に耳を傾ける余裕が出てきました。例えば、私が「今日はおしまいにしようね」と言うと、「イヤ、絵本を読みたい」のようにことばで主張できるようになりました。このように、2歳に入るころ、自分の思いと相手の思いの違いで葛藤するようになります。
とはいえ、まだ自分のやりたい思いが勝る場合が多いのですが、いろいろな経験を通して、3歳ぐらいになると折り合いをつけられるようになっていきます。
気持ちに寄り添いすぎると、わがままにならない?
子どもの気持ちに、できるだけ寄り添いたいと考えています。子どもが自分の気持ちを受け入れてもらえることを経験して、自己肯定感などにつながればと思っています。ただ、受け入れることで、わがままに育たないか少し心配です。
例えば、ブランコ遊びを「やめたくない」と言うとき、遊びたい気持ちを尊重して「あと5回ね」のように言います。それでもやめないときは、よくないと思いながも「お菓子あげるから、やめようね」とモノを使ってしまいます。一旦「ダメ」と言ったことを、「いいよ」と許してしまうこともあります。
子どもを尊重したいけど、どこまで言うことを聞いていいのか線引きが難しいと感じています。
(お子さん4歳・2歳4か月のママ・パパ)
気持ちを「受け入れる」と「受け止める」には違いがある
回答:坂上裕子さん
子どもの気持ちを「受け入れる」という表現を使っていますが、「受け入れる」と「受け止める」には違いがあります。「気持ちを受け入れる」が、行動(要求)を実現することだとすれば、「気持ちを受け止める」は、まずは「わかった」と、気持ちに共感することです。つまり、要求は「わかった」けど、実現してあげられないこともある。実現の是非の判断は、親の仕事なのです。
できないときの気持ちにも共感する
回答:坂上裕子さん
子どもの要求に応えられないときは、「これができなくて悲しいよね」といった声をかけて、要求がかなわなかったときの気持ちにも共感することが大事です。親が気持ちを受け止めることで、子どもは自分の気持ちに向き合うことができ、目の前の状況に折り合いをつけられるようになっていきます。
気持ちに寄り添おうとして、どうしても甘やかしになりがちです。どうしたらいいでしょう?
場当たり的に対応しない、モノで釣らない、はっきりと伝える
回答:髙祖常子さん
気持ちに寄り添うことと、甘やかすことは、全く別のことです。「甘やかす」とは、すべて子どもの言いなりになってしまうこと。そうならないように線引きするには、2つのポイントがあります。
ひとつめは「場当たり的に対応しない」ことです。イヤイヤが続くと、親は根負けして「いいよ」と許しがちです。子どもは「昨日はダメだったのに、今日はいいんだ」「ぐずれば通るんだ」と思ってしまいます。甘やかさないために、「ダメ」なことは「ダメ」と、ぶれずにはっきり伝えることが大事です。
次に、モノで釣らないこと。「ぐずるともらえる」「ぐずるとこれができるようになる」のように、子どもの判断基準がいろいろになってしまいます。
大騒ぎ・大泣きをするかもしれませんが、きっぱりと言っていくことが大事です。例えば、お気に入りの絵本やおもちゃなど、気分転換を手伝うためのモノがあるといいかもしれません。
イヤイヤでイライラ… どうしたらいい?
番組には、「イヤイヤ期に直面して、毎日イライラして、感情が爆発してしまった」という声も届いています。
イヤイヤで泣き叫んで、だっこしても暴れて、本当に手がつけられないときに、どなってしまったり、突き飛ばしてしまったことがあります。衝動的で、自分を抑えることができませんでした。気持ちが落ち着いたあと、「さっきはごめんね」とハグして謝りますが、その構図がテレビで見るDV夫と同じだと思ってゾッとしたことがあります。
(お子さん2歳8か月のママ)
とにかくごはんをだらだらと食べることが憂うつです。イライラが募って「離れて暮らそう。ママもたまには会いに行く」と言ったことがあります。娘を家から離れた場所まで連れて行って立ち去るふりをしたら、「ごめんなさい」と言ってきたのでほっとしました。やり過ぎていると思いながら、引き返せませんでした。アンガーマネジメントで「6秒待つ」と言いますが、なかなかできません。
(お子さん2歳11か月のママ)
子どもへの要求水準が、子どもとマッチしているか見直す
回答:坂上裕子さん
子どもに多くを求め過ぎたり、求めるレベルが高すぎると、その通りにはならないのでイライラしてしまいます。
ごはんを「食べてほしい」という一心でつくったのに、だらだらと食べてくれないと、気持ちを踏みにじられたような、やるせなさからくるイライラもあると思います。でも、子どもにはわからないことなのです。2歳ぐらいは食べむらも多く、偏食が出てくる時期でもあります。例えば、何か1品でもいいので「食べたらOK」と考えてみましょう。
あるいは、子どもと一緒に食べられる量を相談して決めるのもいいでしょう。そこから食べることへの関心につながり、「もう少し食べてみよう」という気持ちになっていくこともあります。
年齢とともに、要求水準が上がっていきますが、その基準が子どもとマッチしているのか見直してみると、イライラが減るのではないかと思います。
感じる脳と考える脳を意識してみる
回答:髙祖常子さん
誰もが、イライラすることがありますね。まず、「感じる脳」が瞬時に動くといいます。「なんで言うことを聞かないの!」のように思うわけです。その後、5~6秒ぐらいで「考える脳」が動き始めて、「もう少し遊びたかったのかな」のように思えるのです。イライラで感情に流されそうになったとき、子どもが安全な場所にいるならば、ひとまず少し離れてみるのもいいのではないでしょうか。
自分のクールダウンの方法を持つ
回答:髙祖常子さん
クールダウンの方法はいろいろとあります。ちょっとだけ離れてみる、深呼吸する、トイレに行くなどです。方法は、何でもいいと思います。「イライラしてきたときは、これでクールダウンしよう」という方法を、ひとつだけでもいいので持っておきましょう。毎回は難しいかもしれませんが、心がけてみてください。
※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです