ほかの子は歩けるのに、うちの子はまだつかまり立ちもできない… 子どものペースを見守りたいのに、どうしても焦ってしまう… など、子どもの成長のはやい・おそいの悩みについて、専門家と一緒に考えます。

専門家:
岩立京子(東京家政大学 教授/子ども学)
汐見稔幸(東京大学 名誉教授/幼児・児童教育学)

あまりことばが出てこない。このままで大丈夫?

長女(3歳)はおしゃべりが大好きですが、次女は2歳を過ぎてもなかなか言葉が出てこなくて心配です。絵本を読み聞かせているときに出ることはありますが、覚えるのは苦手です。本人も、うまく話せない・伝えられないのがもどかしいようで、かんしゃくを起こすことが増えてきました。このままで大丈夫でしょうか?
(お子さん3歳・2歳・0歳のママ・パパ)

ことばの発達の目安は、あくまで平均値

回答:岩立京子さん

一般的に、赤ちゃんは生まれてしばらくすると「アー」「ウー」などの喃語(なんご)といわれる言葉にならない声を出します。5か月ごろになると、喃語が少しずつ変化し、声を高くしたり、低くしたり、唇を使ってさまざまな発音ができるようになります。話しかけるような声も出すようもなります。そして、1歳をすぎると「パパ」「ママ」「ワンワン」といった意味のある言葉が出てきて、2歳頃になると「マンマ、たべた」「パパ、あっち」など、主語と述語の二語文が出てくるといわれています。
でも、このようなことばの発達の目安は、あくまで平均値です。心配になるかもしれませんが、1~2歳は話し言葉の発達に個人差があります。また、思い通りに話せず、かんしゃくを起こすことも、よくあることなんです。

話すきっかけがなく遅れることも

回答:汐見稔幸さん

言葉を発する、つくる、そして特定の人に届けるには、いくつものハードルがあります。例えば、人見知りの強いタイプの子どもは、声をかけることに少し勇気が必要です。言葉を交わさなくても生活ができる環境であれば、話すきっかけがなく、ことばが遅れることもあります。でも、何かをきっかけに、突然しゃべり始めることがよくあります。
私の孫も、3歳ぐらいまでほとんど話さなかったので、心配でいろいろな人に相談しました。でも、4歳になってアメリカから日本に移住すると、突然しゃべるようになったのです。

発達に問題があるのか、子どもの様子から判断できますか?

ことばが話せるようになる土台を総合的に見る

回答:岩立京子さん

生活の中で、話し言葉が出てくるための土台を総合的に見てあげましょう。

まずは、「聴く力の発達」です。聴力に問題があると、言葉を覚えにくい場合があります。片方の耳の聞こえが悪くても、両耳で補い合うため、なかなか気づきにくいこともあります。
次に、「知的な発達」です。言葉が出ていなくても、言葉を聞いてわかるかどうかです。例えば、「パパは? 」と聞くと、パパの方向を見るなどです。
さらに、「運動能力の発達」があります。運動は脳の発達を促し、言葉の発達にも重要な役割を担っているといわれています。
また、親とのやりとりで生まれる「情緒の発達」も重要な要素です。
話すための「口の動きの発達」も欠かせません。唇や舌、上あごなど、それぞれの器官が発達して、うまく機能することで、声を出すことができます。

土台が育っていれば、様子を見てもいい

回答:岩立京子さん

例えば、子どもに「ママのところに来て」と呼びかけて、こちらに来てくれるには、「ママ」という言葉が、聞こえていて、わかっていて、実際に来ることができる、いくつかの土台が関わっています。土台について理解して、子どもをよく見ていきましょう。土台がしっかり育っているのであれば、もう少し様子を見てもよいと思います。

気軽に専門家に相談してもいい

回答:汐見稔幸さん

生活の中での育ちに心配なければ、あまり気にすることはないでしょう。少し心配かなと思うときは、気軽に、言語聴覚士や小児科医などの専門家に相談してもよいのです。
例えば、声を出す息の力が弱い子が、ろうそくの火を吹き消す練習をすることで、しゃべるようになっていったというケースもあります。このようなことは、専門家に診ていただいたほうがいいでしょう。
ただ、専門家の話を聞いて、かえって心配になった場合は、違う専門家にも診てもらいましょう。2~3か所で診てもらって、合う先生がいたら、とても子どもが喜んだということがよくあります。遠慮なく、いろいろなところに相談してみてください。

いろいろな目で子どもを理解することが大事

回答:岩立京子さん

親が不安な状態だと、どうしても子どもに質問ばかりしてしまいがちです。すると、子どもが嫌になって答えなくなることもあります。お子さんが自分の思いを表現できなくて、かんしゃくを起こし続けるのは、あまりよい関わり方ではありません。大事になるのは、いろいろな目で子どもを見て、理解して、いちばんお子さんに合った関わりを考えてください。もし心配になるときは、ぜひ専門家に相談してください。


ハイハイをしないけど、成長が遅れている?

息子(1歳)はハイハイをあまりせず、腕だけではっているような「ずりばい」が続きました。母子手帳や育児書には、8~9か月ぐらいで「つかまり立ち」をすると書いてありますが、1歳になってもまだでした。コロナ禍の影響で児童館などへのお出かけが減ったことも原因のひとつかもしれません。子どものペースを見守りたいのに、どうしても焦ってしまいます。
その後、つかまり立ちをしたことで少し安心しましたが、それでも成長が遅れているのではないかと心配です。
(お子さん1歳のママ)

育児書は目安として使う

回答:汐見稔幸さん

私も育児書を書いているので、「本と違うと感じて悩んだ」と聞くと、責任を感じます。
ある育児書では、はじめに「この本に書いてあることを信じてはいけません」と書いてあります。「平均値を書いていますよ」という意味なんです。平均値といっても、0~100まであっての平均50と、45~55の平均50では全く意味が違いますよね。育児のほとんどは、0~100と言えるぐらい子ども一人ひとりのペースが違います。
子どもが「本に書いてあるのとちょっと違うな」と思ったら、「この本はうちの子のことを書いていないね」と考えてください。育児書は、何かを考えるための目安として使いましょう。

ハイハイをしないで成長する子もいる

回答:汐見稔幸さん

よく「“ハイハイ”が大事」「“ずりばい”がある程度できたら、次は“高ばい”」といったことが言われますが、これらはあくまで赤ちゃんの動きに名称をつけただけで、順番通りにできるようになるわけではありません。

ほとんどハイハイをしないで成長した人はたくさんいます。ハイハイは、医学的に必ずしなくてはいけないプロセスではないのです。

子どもは動きたいという意欲で体を動かす

回答:汐見稔幸さん

子どもは、自身の動きたいという意欲で体を動かします。正しい動かし方、ハイハイのしかたなどはありません。VTRでお子さんの様子を見ると、自分のやり方で、とても速いスピードで動いていましたよね。健康に育っていると思います。「ハイハイ」をしないことを気にしなくても大丈夫ですよ。

ずりばいだけでも心配ない

回答:岩立京子さん

VTRから、お子さんの力強さを感じました。腕の力が強く、体幹の動かし方のバランスがいいので、このような動き方ができるのでしょう。全く問題ないと思いました。私の子も、ずっと片足を上げたままのずりばいでしたよ。
コロナ禍で孤独な育児になりがちで、心配になる気持ちはとてもよくわかります。


SNSで他の子の成長が気になってしまう…

SNSで、娘(1歳)よりも小さい子の「〇〇できた!」という投稿を見ると、どうしても気になってしまいます。娘は、まだ話ができず、あと追いをして私から離れません。おとなしい子で、機嫌がいいときくらいにしか「あー」「うー」などと言いません。今は、お友だちと会う機会も少なく、親子2人で家にいると、ストレスを感じてしまいます。SNSでほかの子の成長を目の当たりにすると、個人差があるといっても、ついわが子と比べて不安になってしまいます。
(お子さん1歳のママ)

公園など、ほかの人と交流できる場を得る

回答:岩立京子さん

コロナ禍のために、ほかの子どもたちや親たちと出会う機会が少なく、情報源はSNSだけとなると、とても苦しいのではないかと思います。公園に行くなど、いろいろな子どもと出会う場を少し増やしてみてください。そこで少し愚痴を言うだけでも、気分が和らぐこともあります。

コメント:鈴木あきえさん(MC)

SNSは、キラキラしたところが集まっていますよね。私は、例えば「手抜き」などのキーワードで検索して、キラキラとは逆の育児の投稿を見て励まされています。

「うちの子は自分のペースで大きくなる」と信頼する

回答:汐見稔幸さん

親が心配していると、子どもに「頑張って」「これをしてみない?」「これならできる?」のように声をかけることが増えてしまうと思います。子どもに共感するのではなく、子どもがやりたいと思っていないことを言ってしまう。親がもっと不安になると、その心理が子どもに伝わってしまいます。子どもが大きくなってくると、「ママに心配をかけているんじゃないか」と考えてしまうこともあり、あまり子どものメンタルにはよくない場合もあります。親は、うまく居直って、「成長のペースはそれぞれ。うちの子はうちの子のペースで大きくなっていく」と、子どもを深く信頼してみてください。

子どもの「できないところ」ではなく「いいところ」を見る

回答:岩立京子さん

子どもに早く成長してほしいと思っていると、どうしても「できないところ」が目についてしまいます。例えば、言葉が出てこないと「これは何? あれは何?」のように、トレーニングするような会話に陥りがちです。そうではなく、遊びや生活の中で、その子らしい「いいところ・できるところ」を見て、伸ばしていくことを考えてください。

子どもの興味関心からワンテンポ遅れて声をかける

回答:汐見稔幸さん

0~2歳ぐらいまでの子どもは、あまり親が指示したことに従って育つことはなく、子どもが自分で見つけていきます。例えば、ハイハイするとき、何を目指しているのか見ていると、ピンクのものに飛んでいく子もいれば、音がしそうなものに向かう子もいます。人がいると行く子もいます。子どもの興味や関心の世界の違いが出てくるわけです。
そこで、子どもが何かをした後にワンテンポ遅れて、「それはおもしろいね」「何か音がしたね」と声をかけてみましょう。子どもは、自分が中心になって、いつもママやパパが応援してくれると感じて、メンタルが健全に育つことがわかっています。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです