親になれば誰でもお世話になる小児科。どんなときに病院に行けばいい? 何科を受診すればいいのか迷う… かかりつけ医を見つける基準は? など、みなさんの疑問・悩みに専門家が答えます。

専門家:
坂本昌彦(佐久医療センター/小児科医)
野村さちい(一般社団法人「つながる ひろがる 子どもの救急」代表/小児救急看護認定看護師)

子どもを病院に連れていく目安は?

息子はほとんど病気しないので、いったん熱が出ると、どうしても慌ててしまいます。熱が38度でも元気だったり、熱が昼に下がって夜にまた上がったりして、すぐに病院を受診したほうがいいのか、少し様子を見たほうがいいのか迷います。
以前、39度の熱が出て、救急で診てもらったことがあります。ですが、「くわしく診ることはできない。解熱剤を出すので、明日小児科を受診してください」と言われ、不安な気持ちのまま帰ったんです。39度の熱で救急外来は大げさだったのでしょうか。子どもを病院に連れていく目安があれば教えてください。
(お子さん2歳11か月のママ)

時間外の受診は、翌日まで待てない症状のとき

回答:坂本昌彦さん

受診の目安は、平日などの時間内と、夜間・休日などの時間外の2つに分けて考えましょう。平日の時間内であれば、例えば鼻水だけでも、少し心配なことがあれば受診して大丈夫です。一方で時間外の場合は、翌日まで待てない症状がみられるときに受診してください。

どんな症状のとき、待たずに救急に連れていくべきでしょうか?

食う・寝る・遊ぶ・出すがいつもと比べてできているかが重要

回答:野村さちいさん

子どもの年齢にもよりますが、お子さん(2歳11か月)の時期は、熱の数値・高さだけを見るのではなく、子どもの見た目も合わせて考えください。食う・寝る・遊ぶ・出すが、いつもと比べてできているのか、できていないのかが重要です。例えば、熱が出ていても、食事も遊びもトイレもいつも通りにできていれば、すぐに救急に行かなくても、翌日、子どもの様子をみながら受診を検討すればよいと思います。

ケガや、やけどのときの目安を教えてください。

対処の方法やタイミングは場合による。アプリを活用する方法も

回答:坂本昌彦さん

いろんな病気やケガがあり、それぞれ対処の方法やタイミングが違います。今は、便利なアプリやサービスがあるので、様子を見るべきか判断に迷うときに活用するのもひとつの方法です。


こちらは坂本昌彦さんも開発に携わったアプリ「教えて!ドクター」です。
急な病気やケガなどのときに「緊急です!」をタッチすると、症状の一覧が表示されます。例えば「やけど」を選択すると、救急車を呼ぶのは「全身のやけどと顔面のやけど」、自家用車やタクシーですぐに病院へ向かうのは「手や足、指のやけどなど」、そして「範囲が狭いやけどなどは診療時間内に受診」といった案内があり、病院に行くときの判断の目安となります。
※予防接種のスケジューラ機能や災害・防災情報もあります

ほかにも、日本小児科学会が運営するウェブサイト「こどもの救急」や、消防庁のアプリ「Q助(きゅーすけ)」でも、症状ごとの対処を教えてくれます。ぜひ、活用してみてください。

子ども医療電話相談「#8000」もある

回答:野村さちいさん

そのほかにも、厚生労働省が運営している「#8000」という、子ども医療電話相談があります。地域によって多少違いはありますが、「夜間や休日に受診の判断で迷う」「家でどんなことに気をつけたらいいのか」など、看護師や小児科医などが相談にのってくれます。具体的なアドバイスもいただけるので、もし困ることがあれば相談してみましょう。

コメント:古坂大魔王さん(MC)
私も「#8000」に電話したことがありますが、丁寧に落ち着いて対応してもらえました。慌てている親に慣れているのでしょうね。誰でも利用しやすいと思います。


受診で何科がいいのか、どう判断するの?

娘(2歳)はとても好奇心旺盛で、日に日に行動範囲も広くなり、やんちゃになるばかりです。でも、元気がよすぎて、転んだりドアで指を挟んだり、ケガをすることも多く、何科に連れていけばよいのか困ることがあります。
例えば、目の近くをケガしたときは、眼科がいいのか、いつもの小児科がいいのか。指を挟んだときは、骨のことだとしたら整形外科がいいのか悩みます。今では、いろんな病院の診察券がたくさんあります。何科がよいのか、どうやって判断すればいいでしょう?
(お子さん2歳のママ)

迷ったときは小児科に相談

回答:坂本昌彦さん

迷ったときには、まず小児科に相談するのもひとつの方法です。小児科から、「この場合は眼科ですね」「耳鼻科で診てもらいましょう」のように案内してもらえます。

電話で病院に問い合わせる方法も

回答:野村さちいさん

直接、電話で病院に問い合わせる方法もあります。コロナ禍では、医療機関によって受診や対応のしかたが違う場合もあるので、あらかじめ電話で聞いてから受診すると安心できると思います。


病院で受診するとき、どんなことを伝えたらいいの?

病院で受診するとき、どの程度の情報を話せばよいのでしょうか? 病院が混んでいるときは、時間がかかってしまうのも気が引けます。例えば、かぜのとき「湿ったせきですか、乾いたせきですか?」と聞かれることも、聞かれないこともあるので、後から「言ったほうがよかったのかな」ともやもやします。
(お子さん2歳のママ)

経過を伝える。グラフなどにまとめるとわかりやすい

回答:野村さちいさん

わかりやすく簡潔に伝えるのがいちばんですね。医師は、いつから・どれくらい・どのような症状なのか、その経過を知りたいと思います。例えば、熱の経過をグラフにまとめるとわかりやすいでしょう。

グラフにすると、急に上がっているのか、下がりつつあるのか、微熱が続いているのか、一目瞭然です。グラフと一緒に、「ここからせきが出てきた」「鼻水がドロドロしてきた」「解熱剤を使った」などをメモしておくのもいいですね。診察が終わったあと、医師が言ったことも追記しておくと、とてもわかりやすくなると思います。

熱の経過で、どんな病気なのかがわかりやすくなるのですか?

経過を知ることでアドバイスも変わる

回答:坂本昌彦さん

熱の高さだけで、どの感染症なのかなど、すぐに診断がつくとは限りません。しかし、いつから始まったのか、今がどの位置にいるのか、山を越えているのかなど、経過を知ることで医師のアドバイスも変わります。とても大事な情報です。

グラフにまとめるのが難しいとき、ほかに方法はありますか?

フリーハンドのグラフでもいい

回答:野村さちいさん

事前にまとめたグラフや表がないときは、フリーハンドで紙などに描いたものでもいいと思います。熱の上がり下がりなどの経過がわかることが大切です。

アプリを使ってメモする方法も

回答:坂本昌彦さん

例えば、メッセージをやりとりするアプリで、グループトークのようなものを作ります。ここに、熱が出たときに「38度、せきがひどくなってきた」などを書いておけば、日時も記録されるメモになります。

余裕があるときは症状をスマホで撮影

回答:坂本昌彦さん

余裕があるときは症状をスマホで撮影する方法もあります。例えば、けいれんかもしれないと思ったときです。様子を動画で記録しておけば、あとで医師が、けいれんなのか、寒くて震えているだけなのか判断する際に役立ちます。
そのほか、クループ症候群では特徴的な「ケンケン」というせきがありますが、受診のときにせきが出ていなくても、録音しておけば診断の参考になります。
便の写真もよいでしょう。以前は「こんな色の便が出ました」とおむつを持参するケースがありましたが、持ち歩くのは不衛生で、時間がたつと水分が吸収されて色も変わってしまいます。


子どものかかりつけ医はいたほうがいい? どんな基準で見つけるの?

娘はまだ5か月で、病気らしい病気になったことはありませんが、今後のことを考えると、頼れるかかりつけ医を見つけたいと思っています。予防接種のときに、近所にある、かかりつけ候補の小児科に行きましたが、流れ作業で、不安に感じていることを質問しても目を合わせてもらえなかったんです。ネットの評判には「対応がいい、話もよく聞いてくれる」と書いてありましたが、私たちの印象は違いました。かかりつけ医はどのような基準で選べばいいのでしょうか。
(お子さん5か月のママ・パパ)

ポイントは、通いやすい、対応・相性がいい、不安や相談に耳を傾けてくれる

回答:坂本昌彦さん

ポイントとしてあげたいのは3つです。1つ目は、通いやすいこと。困ったとき、すぐ頼れるかが大事です。2つ目は、子どもへの対応です。子どもとの相性も大事です。3つ目は、保護者の不安や相談に耳を傾けてくれるかどうかで、私自身は重視したいと考えています。

すぐに病院を変えるのではなく、何回か通院して判断する

回答:坂本昌彦さん

かかりつけ医を選ぶ際に、小児科医の立場から伝えたいことがあります。
子どもが熱を出したり、調子が悪いときに、小児科に行けばたちどころに診断がつくイメージを持っているかもしれませんが、実際には、必ずしもそうとは限りません。例えば、最初は熱が出ているだけで、原因がはっきりしない。でも、次の日にせきがひどくなったり、下痢やおう吐が出てきたりして原因がわかってくる。経過を追わないとわからない場合もあるのです。
そのため、最初に受診したときに「はっきりわからない」と言われたところで、すぐにだめだと考えずに、何度か通院してみてはいかがでしょう。医師も経過がわかるので、正確に病状を判断できます。

かかりつけ医がいるメリットは、どんなところにありますか?

医師が微妙な体調の変化に気づける

回答:坂本昌彦さん

かかりつけ医は、長く子どもを診ているので、だんだんと「この子はこういう子だな」とわかっていきます。そのため、以前受診したときとの様子の違いや、微妙な体調の変化も、はじめて診る医師に比べて気づきやすくなるのです。
また、かかりつけ医とコミュニケーションが深まることで、「こんなときは診てもらったほうがいい」など、保護者自身がレベルアップするきっかけにもなります。そうすることで、「次はこうしよう」といった行動や対応も変わっていくと思います。

ちなみに、医師もかかりつけの子どもがいるとうれしいものですか?

子どもを長くみることで、子どもの変化を家族と共有できる

回答:坂本昌彦さん

そうですね。小児科医のだいご味のひとつは、赤ちゃんからみていた子が、小学校に入って、中学校に入って、その成長を追うことができることです。例えば、「小さいときは、よくぜんそくの発作で病院に来ていたけど、最近は発作を起こさなくなったね」のように、成長に従って、その変化を家族のみなさんと一緒に喜べるのです。


専門家からのメッセージ

お父さん・お母さんは“うちの子”の専門家

坂本昌彦さん

私たち小児科医は、子どもの病気の専門家だと思っています。一方で、お父さん・お母さんをはじめ保護者のみなさんは、“うちの子”の専門家です。ふだんの子どもの様子をいちばんよく知っているのは、医師ではなく、みなさんです。そして、ふだんの様子は、医師にとってとても大事な情報です。そのことに自信を持っていただきたいと思います。そういった意味で、診察室では、専門家同士のコミュニケーションをとっていきたいと思っています。

子どもの病気を通して、子どもは強くなり親は賢くなる

野村さちいさん

子育ては、毎日いろいろな新しいことが起きるので、心配にもなりますよね。最初からうまく、適切に病院にかかるのも難しいので、ぜひかかりつけ医に思う存分頼って、だんだん子どもにとっていい受診ができるようになるといいのではないでしょうか。子どもがひとつ病気をすれば、ひとつ強くなり、親もひとつ賢くなります。そんなかかり方を、かかりつけ医を通して一緒にできればと思います。


すくすくミニ講座
いつもと違う動作でわかる病気の可能性

子どもの病気の早期発見には、いつも身近で見守っている保護者の「気づき」がいちばん大切です。「あれ?おかしいな?」と思ったら、こんな病気の可能性もあります。石垣景子さん(東京女子医科大学/小児科医)に、いくつかの例を教えてもらいました。

赤ちゃんが、突然おじぎをして、両方の腕を振り上げる動作を繰り返すようになってきたら、「てんかん」の可能性があります。

夕方、テレビなどを見ているときに、子どものまぶたが下がって、あごを上げて画面を見るようになっていたら、「重症筋無力症」という病気の可能性があります。

2歳半ばを過ぎてもよくつまずき、ひとりで階段をうまくのぼれなかったり、ジャンプを嫌がったら、「筋ジストロフィー」の可能性があります。

これらの病気は、医師が早く診断することで治療することができるものもあります。病気の早期発見には日頃の観察がいちばんです。子どもの「あれ、おかしいな?」という様子に気づいたら、近くの小児科医に相談してみましょう。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです