育児の情報交換や家族ぐるみで遊べる「ママ友・パパ友」ですが、ときに悩みにつながることがあります。新型コロナの影響で、友人がつくれずに悩む方もいます。今回は、ママ友・パパ友の悩みについて、専門家と一緒に考えます。

専門家:
大日向雅美(恵泉女学園大学 学長/発達心理学)
石田光規(早稲田大学 文学学術院 教授/社会学)

今回のテーマについて

※2020年 ROLLCAKE株式会社調べ

ある調査(2020年)では、1歳未満の子どもを持つママの6割が「ママ友がいない」と答えています。番組のアンケートでも、「ママ友・パパ友をつくりづらい」といった悩みが寄せられています。

ママ友・パパ友がつくりづらいという声に何を感じますか?

大日向雅美さん

ママ友・ パパ友には、良い面と悪い面があります。これまでは、その両面を乗り越えながら親になっていったと思います。ですが、コロナ禍でママ友・パパ友をつくりにくくなり、良い面も悪い面も経験する機会が少なくなっています。新しい難局だと感じます。

石田光規さん

子どもができると、子どもに合わせた新しい人間関係をつくることになります。子どもができる前とは、友達のつくり方が違うわけです。ママ友・パパ友という新しい人間関係をつくることは、コロナ禍に関係なく、つまずく方が非常に多いと感じています。


子どものためにママ友・パパ友は必要?

去年の春に引っ越して、まだ、この地域にママ友・パパ友がいません。娘は保育園に通っていますが、コロナ禍で懇談会のような交流の機会もあまりありません。引っ越す前は、児童館で出会った方たちと、家族ぐるみのつきあいをしていましたが、今では家族だけで過ごすことがほとんどです。子どもは友だちから学ぶことがたくさんあると思うので、子どもたちで遊ぶ場がもっと必要ではないかと心配しています。
(お子さん3歳3か月のママ・パパ)

子育て支援センターなどに遊びに行ったときに、親同士や子ども同士が仲よくしている中で、ぽつんと一人でいることがあります。子どもも、子どもたちの輪に入れないのか、一人で遊んでいます。自分がママ友をつくらないことで、子どもが友達と遊ぶのが下手になるのではないかと不安を感じています。
(お子さん1歳10か月・3か月のママ)

3歳までは、無理にママ友・パパ友をつくらなくてもいい

回答:大日向雅美さん

特に友達づくりが苦手な方は、「子どものために」と思い詰めて、悩んでしまいますよね。でも、つらかったら、子どものためと考えて無理をしなくても大丈夫です。
0~3歳ぐらいの子どもには、"友達"という意識はありません。赤ちゃん同士で楽しそうにじゃれることがありますが、友達とは違うのです。この時期は、ママやパパ、おじいちゃんやおばあちゃんなど、家族がじっくり子どもに関わってあげれば十分ですよ。

3歳からは、幼稚園や保育園で友達関係を育める

回答:大日向雅美さん

3~4歳ぐらいで、幼稚園・保育園に行くようになると、家族以外の関係ができていきます。保育士の指導の下で、子どもたちはけんかをしたり、仲よくしたりしていきます。その環境で、友達関係を育むことができます。「幼稚園・保育園だけで十分、ストレスを感じてまで子育て支援センターに行かなくてもいい」と思えば、肩の力が抜けて、かえって自然にうまくいくこともあります。

活動が決まっている場に子どもと参加してみる

回答:石田光規さん

私自身は、友達をつくる場所では「友達をつくるために何かをしないといけない」と身構えてしまいます。だから、「あらかじめ活動が決まっている場」に子どもと一緒に参加するようにしました。例えば、地域の緑の保全活動です。地元なので気軽にアクセスできて、定期的に活動しているので、いろいろと悩まずに参加できるわけです。参加者の中には、同年代の子どもを連れた家族もいて、子ども同士が遊ぶようになり、いつの間にか親同士も話すようになりました。

ふだんの生活の延長上に人間関係をつくる

回答:大日向雅美さん

子育ては、パパ・ママの生活の延長に、プラスアルファしていけばいいと思います。働いている方であれば、仕事の時間が延長したときに預かってくださる近所の方に声をかけて、そこから話し相手ができることもあります。まったく新しいところで人間関係をつくるのは大変ですよね。


ママ友・パパ友がいない孤独… どうすればいい?

子どもが生後半年のころに離婚して、ひとりでの育児に孤独感が強まっていきました。悩みや子どもの成長などを素直に相談できる友達がほしいと思っています。でも、心の状態がよくなくて、泣いてばかりでした。
それでも、誰かに気持ちをわかってほしくて、支援センターで勇気を出して声をかけたママと友人になれました。でも、「こんなことを言ったら嫌われるかも」と気になって、どこまで話していいのか考えてしまいます。本当に思っていることを話すこと、悩みを相談することは難しいと感じています。
(お子さん1歳4か月のママ)

ママと一緒に育休を取得し、生後1か月の娘を育てています。産後、ママが精神的に不安定なときに、どうしていいのかわからず、相談する人もなく、ひとりで抱え込むことが多くなりました。話ができるパパ友がいたら、支えになるのかなと思い、自治体の父親教室に参加しましたが、ほかのパパと連絡先を交換することはできませんでした。
行政サービスや支援はママ向けのものが多く、自分が受け入れられていない、肩身が狭いような気持ちになるときがあります。
(お子さん1か月のパパ)

パパの転勤のため、誰も知り合いがいない土地ではじめての子育てをすることになりました。産後すぐにコロナ禍になり、ママ友をつくる機会もありません。パパは仕事で忙しく、なかなか子育ての悩みを相談できず、ひとりでストレスを抱える毎日です。
発散する相手も場所もなく、子どもにイライラしたときに、「ダメだ」と思いながらもどなったり、当たってしまうことがあります。愚痴を言い合えるママ友ができれば心に余裕ができるのかな、と思っています。
(お子さん1歳6か月のママ)

新型コロナウイルスに対する"感度"の違いもある

回答:石田光規さん

新型コロナウイルスの影響は大きいですね。なかなか人に会えず、会ったとしても新型コロナに対する"感度"の違いがあります。マスクなどの感染対策の考え方には個人差があり、その違いが気になってしまう場合もあります。すると、ますます人と会いづらくなってしまいます。

ママ友以外の存在と話す場をつくる

回答:大日向雅美さん

ママ友のよさは「ツー」と言えば「カー」で、わかってもらえるところですよね。「夜泣き」と言わなくても、「きのう泣かれちゃったのよ」だけで心が伝わります。それが絶たれるのは、本当につらいと思います。おばあちゃんやSNSなど、ママ友以外の存在と話せるといいですね。
私自身、子育て広場を運営しているのですが、新型コロナの影響で自粛や制限となり、なかなか愚痴を言い合えるような場を提供できずにいました。電話相談のような受け皿を考えたいと思いました。

何かできる場所・定期的に行ける場所などを探す

回答:石田光規さん

話を聞いてくれるのは、必ずしも友達とは限りません。何かに参加するとき、「友達づくりの場」だと思うと、距離感で悩んでしまう方が多いと思います。まずは、子どもを預けながら、何かできる場所、定期的に行ける場所を探すところから考えれば、はじめやすいと思います。

性別や世代にこだわらないつながり

性別が違っても、同年代でなくても、つながることで孤独から救われる場合もあります。そんなママ・パパたちの体験談を紹介します。

<お子さん6か月のママの体験談>

産後は気持ちが落ち込み、積極的に人と関わる気になれませんでした。知らない場所に行って、知らない人と話すのはハードルが高いと感じていました。
そんなときに、自治体の保健師に、訪問型のボランティア「ホームスタート(※)」を紹介してもらえたんです。

ボランティアの方は、2人の子どもを育てた経験のある育児の先輩として頼れる存在です。赤ちゃんが飲むミルクの量の少なさを悩んでいたときには、「私の子どももなかなかミルクを飲まなかったけど、それでも元気に育ったよ。あまり気にしなくて大丈夫」と言ってもらえて、心が軽くなりました。そうやって一緒に時間を過ごすうちにだんだんと元気になり、外出するようにもなりました。自分の体のケアをする意欲も出てきました。
今では、積極的に支援センターを利用してみようと思えたり、骨盤ケアを自分で電話して毎週通えるようになりました。話すことが楽しくなったという感じがします。

※家庭訪問型子育て支援「ホームスタート」
およそ10年前にはじまった無料のボランディアで、活動は全国110か所の地域に広がっています(2021年8月現在)。ベビーシッターや家事代行はしませんが、一緒に話をしたり、散歩をしたり、ときには支援センターにも同行します。訪問ボランティアの条件は、子育て経験があること。のべ8日間(37時間)の養成講座を受講します。数は少ないですが、先輩パパのボランティアも少しずつ増えています。
<お子さん1歳10か月のパパの体験談>

娘が生後7か月のときにママが仕事復帰して、それから1年間は私が育休をとりました。ただ、2~3か月ほど、コロナ禍や育児など、環境の変化によるストレスなのか、おう吐を繰り返してなかなか食事がとれない時期が続きました。はじめての育児が不安で、でも働くママには心配をかけたくなくて。
子どもと外出することも気後れしていました。ママ友のグループにパパが入るのは嫌だろうなと思って、引け目を感じていました。それでも、子どものためを思って、毎日公園に行ったり、ベビースイミングにも通いました。
そんなある日、周りのママたちが声をかけてくれたんです。パパが子どもを連れていることは新鮮だったようですが、打ち解けていくと応援してくれるんです。パパ・ママという区別ではなく、「同じ育児をする人」として見てくれてたことがうれしかったです。
ママたちと悩みを共有し、育児の相談をするうちにストレスが減り、おう吐もなくなりました。世の中のパパ・ママが交流しながら、同じ育児をする人としてつながれたらいいなと思います。

家に来て話を聞いてもらうのはとてもいい

コメント:石田光規さん

子育ては完璧を求められているような感覚があります。そのため、「みんなはできているのに、私はできない」「友達づくりに行ったけど、できない」と感じると、「私はダメな親」のように自己否定して、家にこもりがちになる場合があります。その中で、家に来て話を聞いてもらえるのは、とてもいいですね。

原動力をつけてから、ゆっくり友達をつくる

コメント:石田光規さん

体験談のように、自分の話をできて、「みんなそうなんだよ」「大丈夫なんだよ」と言ってもらえると、それが原動力になります。「みんな同じことで悩んでいる」「私でも大丈夫」と思いながら、ゆっくりと友達をつくっていけばよいのではないでしょうか。

つらいときは、ママ友以外の関係もある

コメント:大日向雅美さん

ママ友は、いてもよし・いなくてもよし。ワンオブゼム(one of them)、数ある関係の中のひとつです。つらいときは、地域や職場などに、別の関係もあると思います。

親がひとりの人間としてどう生きるか、みんなで考える

コメント:大日向雅美さん

子育ては、親だけに託すのではなく、親がひとりの人間としてどう生きるかを大前提にして、みんなで考えることが必要です。「ママ・パパの人としての暮らしを奪わない」というメッセージからはじめたほうがいいのかもしれません。


孤独な子育てに悩んでいるママ・パパへのメッセージ

おおらかな気持ちを持ってほしい

石田光規さん

「友達をつくらなければいけない」と感じて疲れてしまい、子どもと向き合うことが大変になっては、本末転倒です。昔は意識して人間関係をつくらなくても、同じ子育て世代を含めて、多くの人に囲まれた生活がありました。ママ友がいなくても、同じ子育て世代がたくさんいたから大丈夫だったんです。今では、そういう環境がなかなかありません。それが理想ではなくても、愚痴を言ったりできるところを持って、おおらかに、緩やかに子育てできればいいなと思います。

人を求める気持ちはみんなにある

大日向雅美さん

子育てをはじめると孤独になります。さらにコロナ禍での孤独があります。でも、その中で、私たちにこんなにも人を求める気持ちがあったことに気づかされました。このピンチをチャンスに変えていきましょう。人を求める気持ちが、私にも、あなたにも、みんなにある。この思いを、点から線へ、面へと広げていきたいですよね。思いに応えようとする地域の人たちも、必ずいると信じていい時代に入っていると思います。手を差し伸べたいと思っているシニア世代もいるはずです。これからの地域を、新たに作っていきたいですね。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです