今回のテーマは「食事の悩み」。野菜が苦手、食べなくても栄養バランスは大丈夫? どうすれば苦手なものを食べてくれる? 食事に集中してくれない…。なかなか食べてくれない子どもにどう向き合うのか、専門家がアドバイスします。

専門家:
太田百合子(東洋大学 非常勤講師/管理栄養士)
宮里暁美(お茶の水女子大学 特任教授/保育学)

野菜を食べてくれない! このままで大丈夫?

最初のお悩みは、多くの子どもが苦手な「野菜」について。番組アンケートに多くの声が寄せられました。

息子は、ほうれんそうが苦手です。「ほうれんそうとソーセージの炒めもの」など、メニューを工夫してみますが、大好きなソーセージだけを食べて、あげくの果てに、ほうれんそうで遊びだしてしまいます。
(お子さん1歳9か月のママ)

うちの子は、ブロッコリーが苦手です。パパ・ママがどんなにすすめても、絶対に食べてくれません。投げてしまったり、パパに全部食べさせたりしています。
(お子さん1歳9か月のママ)

ほとんどの野菜が苦手です。大好きな水餃子入りの野菜スープを作っても、餃子だけを食べます。便秘に悩まされていますが、野菜を食べないから栄養素や食物繊維などが不足しているのではないかと心配です。
(お子さん3歳8か月のママ)

アンケートでは、73%の人たちが「うちの子は野菜が苦手」と答えています。どうして、子どもたちは野菜が苦手なのでしょうか。

子どもは「酸味」や「苦味」が苦手

回答:太田百合子さん

食材には、いろいろな味がありますが、「甘味(あまみ)」「うまみ」「塩味(えんみ)」には大切な栄養素が含まれています。お米や芋類の「甘味」は、炭水化物で、エネルギーの元です。肉や魚の「うまみ」は、アミノ酸で、体を作ります。「塩味」はナトリウムで、私たちに必要なミネラルをとることができます。
一方で、「酸味」には腐敗のイメージがあり、「苦味」は毒のようなサインが感じられます。そのため、少し怖いと思ってしまい、野菜が苦手になりがちなのです。

歯が生えそろわないと繊維質が食べにくい

回答:太田百合子さん

子どもは、3歳ぐらいでようやく全ての歯が生えそろいます。それまでは、繊維質のものや、ほうれんそうの葉のように薄いものを、歯ですりつぶすことができません。それも、野菜が苦手になる理由のひとつだと思います。

野菜を食べてくれないけど、病気などは大丈夫でしょうか?

偏った食事でなければ大丈夫、野菜以外からも栄養はとれる

回答:太田百合子さん

幼児期でも、お米しか食べない、ジュースしか飲まないなど、極端に偏った食事が長く続くと、栄養が足りず、欠乏症などになるおそれはあります。でも、そのようなケースは、ほとんどみられません。
野菜に含まれる栄養は、ほかの食材からもとることができます。果物や芋類など、ほかのものが食べられていれば大丈夫です。幼児期は、少しずつ食べられるものを増やすことを考えてください。

野菜を食べないことと便秘に関係はありますか?

ウンチに必要な食物繊維は、いろいろなものからとれる

回答:太田百合子さん

いいウンチを作るには、食物繊維と水が必要です。野菜の食物繊維だけではなく、水分も大事です。また、果物や芋類など、他の食材からもとることができます。例えば、食物繊維は、納豆からもとれます。やわらかいので、小さな子どもにも食べやすいですね。なめこなどの、きのこ類にも含まれます。苦手な食材であれば、こまかくしてスープにするのもいいでしょう。いろいろなものを組み合わせて食物繊維をとってください。

こまめな水分補給も大切

回答:太田百合子さん

ウンチがたまっていると、大腸で水分が吸収されてウンチが硬くなってしまいます。特に子どもは代謝が盛んなので、大人よりも水分が大事になります。こまめな水分補給が大切なのです。子どもが遊びに集中していると、水分をとることも忘れてしまいます。保護者の方が「ちょっと水を飲まない?」と声かけするなどで、きちんととれるようにしてあげましょう。


どうしたら苦手な野菜を食べてもらえるの?

娘は、ほとんどの野菜が苦手です。離乳食のときはなんでも食べていましたが、1歳半ぐらいから食べられる種類がどんどん少なくなりました。もともと食べていたこともあり、調理法などを工夫しながら、いろいろと試しています。
特に、にんじんが苦手で、さつまいもと一緒にハチミツで煮てみたり、照り焼きみたいな味にしたり、りんごとにんじんを裏ごしして寒天ゼリーにしてみたり、20~30以上のメニューを作りました。でも、なかなかうまくいきません。「こうしたら食べてくれるかも」と、期待して作っては裏切られ、その繰り返しで少しずつ心にダメージがたまっている気がします。どうしたら、苦手な野菜を食べてもらえるでしょうか。
(お子さん3歳3か月のママ)

頑張り過ぎずに少し手を抜くことも大切

回答:宮里暁美さん

とにかく、ご相談のママを抱きしめてあげたいですね。頭が下がる思いです。
もしかしたら、大人が頑張り過ぎると、子どものプレッシャーになるかもしれません。子どもが、自分は期待に応えられない子だと思ったり、失敗感が強くなったり、親のがっかりした様子を感じ取ったり。
頑張ることは大事ですが、少し手を抜くことも大切です。「今回は空振りだったなぁ」と思ったら、次は手を抜いてみましょう。蓄積された、離乳食を食べていた体もあります。きっと食べられるようになるのかな、と思います。

幼児期は食感の練習期。食材は隠さなくていい

回答:太田百合子さん

赤ちゃんの時期は、やわらくして、まぜて、とろみをつければ食べられます。でも、幼児期は、いろいろな食感の食べものを、どのように食べるのかを経験していく練習期です。そのため、食感がわからないように隠さないほうがいいと思います。

苦手な食材でも見せるべき

回答:太田百合子さん

苦手な食材をわからないようにして、「栄養があるからね」と言って食べさせても、子どもは「だまされた」と感じることもあります。すると、「今度は何を入れたの?」と、疑心暗鬼になってしまいます。苦手な食材でも、例えば、にんじんは「にんじんだよ」と見せてあげることも大事だと思います。

子どもの発達に合わせて調理する

回答:太田百合子さん

頑張り過ぎるのはあまりよくありませんが、工夫することは大切です。例えば、味や形状はごまかさずに、大きさや硬さは、子どもの発達に合わせて調理してみてください。
また、3歳ぐらいまでは、十分にとろみを効かせるのも大事です。大人は、奥歯でかみ砕いて、唾液と混ぜることができますが、幼児はうまくできません。うまく飲み込めず、えずいたりすると、嫌な経験になってしまいます。とろみが大切なことも覚えておきましょう。

生活リズムを整えて、ごはんを楽しい時間に

回答:宮里暁美さん

コロナ禍で十分に気をつける必要はありますが、近所でもいいので、できるだけ外に出かけて、走ったり遊んだりする。そのあとに、「おなかがすいたね」と言ってごはんを食べる。夜は寝て、朝に起きて、朝ごはんを食べる。生活リズムを整えて、暮らしの中に食事のシーンがあると、ごはんの時間が楽しいという気分になるのかな、と思います。

お手伝いしてもらう。食べる以外でもほめる

回答:宮里暁美さん

お手伝いをすると、ごはんの時間が楽しみになることがあります。料理のお手伝いだけではありません。お皿を並べてもらうようなお手伝いもあります。子どもは何かを運ぶのが好きですよね。心と体と人員に余裕があるときに、たまにでもいいんです。
例えば、子どもが独特のレイアウトでお皿を並べたときには、「かっこいいね」「すてきだね」とほめてあげましょう。ごはんの時間には、食べること以外にもほめるチャンスがあります。気分がよくなって、苦手なものでもうっかり食べてしまうかもしれませんね。

食べられなくても励まして認めてあげる

回答:宮里暁美さん

いつもは手をつけない苦手な野菜でも、チャレンジしてみようと手を伸ばすことがあります。そのとき、食べることができなかったとしても、「自分のお皿まで持っていけたね」のように励まして、子どもの行動を認めてあげましょう。ごはんの時間に、食べる以外のところをどれぐらい言葉にできるかで、食卓の雰囲気が変わってくるのではないかと思います。

どうしても、食べたか・食べてないかで見てしまいますね。では、逆に言わないほうがいい言葉はありますか?

怖がらせるようなことは言わない

回答:宮里暁美さん

「これを食べないと、大きくなれないよ。病気になるよ」のように、子どもを怖がらせるような言葉がけはやめましょう。かえって、子どもが不安になってしまいます。

いくら工夫してもうまくいかないときは、どうしたらいいでしょうか?

今は諦めることも大切。苦手なものも食卓にのせ続ける

回答:太田百合子さん

「今」は諦めることも、ときには大切です。その食材を食べないと病気になってしまうわけではありません。「今はいいか」と考えてもいいのではないでしょうか。
ただ、苦手な食べものを、食卓にのせ続けることは重要です。まわりの人が、おいしそうに食べる様子を見せておくのです。いずれ、「親が『おいしい』と言っていたな」と思い出されて、食べるようになることだってあるのです。


どうしたら食べることに集中してくれるの?

遊びが大好きな娘は、夢中になり過ぎると、ごはんの時間になっても食卓に来てくれません。なんとか席に座らせても、すぐに逃げてしまいます。逃げるのが楽しいのかもしれません。おなかは空いているはずなのに、なかなか食べようとしないんです。気分が乗らず、まったくごはんを食べないことが、週に1度はあります。どうしたら食べることに集中してくれるでしょうか。
(お子さん3歳9か月のママ・パパ)

食卓で会話をすれば楽しく感じることも

回答:太田百合子さん

子どもが3歳ぐらいになると、多くの保護者が「食事に時間がかかる」と悩んでいます。ちょうど、おしゃべりが盛んになる時期であることも関係しています。そのため、食卓でみんなとにぎやかに会話したほうが、食事の時間が楽しく感じるように思います。会話の中で「これを食べたらどんな音かな? どんな味かな?」と聞いて言葉で表現してもらおうとすれば、じっくり考えて集中して食べてくれるかもしれません。

できるだけ家族みんなで楽しい食卓を囲む

回答:太田百合子さん

子どもにとって、食事が楽しい時間であることが大切です。お母さん・お父さんと一緒に食べるのがうれしいと思えるように、できるだけ家族みんなで、楽しい食卓を囲む環境を作っていきましょう。


4年前に同じ悩みを持っていた親子の今

4年前の「すくすく子育て」で、同じような悩みを持っていた方がいました。「どうしたら、子どもが集中して食べられるようになるのか」という相談で、当時3歳9か月の長男が、食事中にイスから抜け出したり、おもちゃで遊んだり、そのまま寝てしまったりしていたんです。専門家からは「家族みんなで楽しく食事をしてみて!」とアドバイスを受けました。

番組では、それから3か月後の様子も取材しています。親子で楽しく食卓を囲むようにしていましたが、うまくいかないこともある様子でした。


あれから4年、親子の食卓はどうなったのでしょうか。
久しぶりに訪ねると、長男は7歳(小学2年生)になっていました。食事の時間は、もちろんママも一緒です。専門家にアドバイスされた「楽しい食卓」をコツコツ続けたところ、小学生になるころから、落ち着いて食事ができるようになったそうです。

—— 4年前に悩んでいたママより
以前と比べると、今は天国のようです。食事中に、遊ぶこともイスに立ち上がることもなく、30分以内で食べ終わるようになりました。当時を振り返ると、とても大変で、つらくて、食事が楽しいとは思えませんでした。でも、思えばすごく短い期間で、今はとっても楽になりました。ふっと楽になる時期がいつかくると思います。


コメント:宮里暁美さん

お母さんがアドバイスを受けて、3か月後はまだ改善の途中でしたが、よく持ちこたえてくれたなと思います。時間をかけて乗り越えた人が言ってくれると、本当によかった、そのひと言につきます。

コメント:太田百合子さん

驚きと感動をおぼえますね。長い時間をかけて、本当に変わっていくんだと改めて思いました。


専門家からのメッセージ

幼児期の「好き嫌い」は自己主張。たっぷり出させてあげて

太田百合子さん

幼児期は、自己主張の時期です。食べ物の「好き嫌い」を含めて、たっぷり出させてあげるのが大事です。自己主張を受け止める大人は大変かもしれません。でも、受け止めてもらえた愛情や関わり方が土台となって、我慢を覚えていきます。そして、繰り返しになりますが「食事は楽しく」を大事にしてください。

子どもの「おいしい」と「もっと」は意欲のあらわれ。一緒に探すことが大切

宮里暁美さん

食べることは、人間が生きる土台だと考えています。子どもの「おいしい」と「もっと」は、その意欲を象徴しているような気がするのです。その子の「おいしい」はどれなのか、「もっと」はどれなのか。子どもと一緒に探すような子育てがあったらいいな、それを大事にしたいなと思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです