今回のテーマは、病院に入院中の子ども、または、日常的に医療的ケアが必要な子どもの子育てについて。入院の付き添いのため、親が病院に長期間寝泊まりすることがあります。また、退院してからも、人工呼吸器や経管栄養などの医療的ケアが必要な「医療的ケア児」と呼ばれる子どもたちもいます。24時間家族でつきっきりのケアで疲弊しているという声もあります。悩みを共有し、一緒に考えます。

専門家:
小林京子(聖路加国際大学大学院 教授/小児看護学)
髙橋昭彦(小児科専門医/在宅医療)

今回のテーマについて

番組で「長期入院・在宅ケアの子育て」についてアンケートを行ったところ、たくさんの回答が寄せられました。すべての声を紹介することはできませんが、みなさんからのお便りや、お話を聞きながら、専門家と一緒に考えていきます。


長期入院の子どもについて

まずは、子どもの長期入院に付き添っている、ママからのお便りを紹介します。

入院の付き添いで、ずっと病院に寝泊まり

長女が小児がんで、入院から1年ほどになります。子どもの食事・トイレ・着替えなど、医療行為以外のすべては付き添い者が担うので、24時間ずっと病院に寝泊まりしています。
付き添いの私には食事が出ません。毎日、売店のお弁当です。寝る場所もなく、子どものベッドや狭い隙間に簡易ベッドを置いて寝るので、常に睡眠不足です。子どもには寄り添いたいけど、私の体調もギリギリだと感じます。
また、娘は入院したことで、幼稚園の退園を余儀なくされました。子どもの成長のためにも、院内保育園があったらと思います。
今はコロナ対策のため、付き添い者以外の入室も禁止になりました。パパが着替えなどを持ってきても、駐車場で会うだけです。家族バラバラの二重生活で、経済的にも精神的にも負担が大きくなっています。
(お子さん4歳のママより)

コメント:小林京子さん

今回、このような声を寄せていただけたことが、大事なことだと思います。実際の付き添いの状況を、広くみなさんに知ってほしいのです。
付き添い者の食事や寝泊まりについても、知らない方が多いのではないでしょうか。中には、付き添い者への食事の提供や、宅配のお弁当を導入している病院もあります。NPOがサポートしていることもあります。しかしながら、多くの場合は、食事の提供が高額であったり、食事を出せないのが現状です。

コロナ禍でわが子に会えない

一方、コロナの影響で、入院中の子どもと会えないという声も届いています。

産まれてから、ずっと入院している息子がいます。親のどちらかが、1日に1時間しか会えません。闘病中のわが子と一緒に過ごせず、だっこもできない、つらい時間が続いています。息子は、ベッドで寝ているだけの時間も長く、発達も心配です。感染予防のためと理解はしていますが、親子が一緒に過ごすことも大切ではないでしょうか。
(お子さん11か月のママ)

コメント:小林京子さん

今は、感染予防と親子関係のはざまで難しい状況にあります。医療機関では、外からウイルスを持ち込まない対策を、きわめて厳格に実施しているため、入院している子どもの付き添いがなかなかできない場合もあります。1日1時間だけでは、本当につらいですよね。
感染対策を十分に講じた上での面会や、もう少し大きくなったお子さんを対象に、病院と家をリモートでつないで面会できるなど、さまざまな取り組みをしている病院もあります。ぜひ、病院同士の情報交換を進めてほしいと思っています。

長期入院の親子をサポートする活動

東京都内を中心に活動している、NPO法人「キープ・ママ・スマイリング」は、子どもが長期入院中の親や家族を支援しています。その活動をみせていただきました。

この日は、病院で付き添う親に弁当を届けるため、都内の病院の小児病棟に向かいました。メニューは、天丼をのり巻きにしたもの。付き添いしながらでも、片手で食べられて、野菜も魚もとれて、冷めてもおいしい。活動に協力している天ぷら屋さんが工夫して作ってくれました。
以前は、病院内で調理して食事を届けていましたが、コロナ禍でできなくなったため、できる形で活動を続けているのです。

コロナ禍で、付き添い者の交代や外出が制限され、これまで以上に親の負担が増えています。そのため、付き添い中の親に、食品などを無償で送る活動「付き添い生活応援パック」をはじめました。全国どこからでも、この団体のホームページから申し込むことができます。
※「付き添い生活応援パック」は、2週間以上の子どもの長期入院に付き添う家族が対象です。毎週月曜10時に受付開始、週の上限数に達したら受付終了です(2021年5月15日現在)

これらの活動は、ほとんどが企業からの寄付で成り立っているそうです。

キープ・ママ・スマイリング理事長 光原ゆきさん

私自身、10年ほど前に、子どもの長期入院に付き添った経験があります。過酷な毎日で体を壊してしまいました。
付き添っている親は、もちろん子どもがいちばん大変だとわかっています。それだけに、自分の大変さに気づきにくく、気づいても誰にも言えません。そんな親たちに、「がんばっているよね、応援しているよ」と声をかける人たちがいてもいいのではないか。その思いで、この活動をはじめました。
病気の子ども達を支えるためにも、親が笑顔でいられるように、支援の輪を広げていきたいと思います。


医療的ケア児の子育て

「医療的ケア児」とは、退院した後も、日常的に医療的なケアを必要とする子どもたちで、全国に約2万人います(20歳未満・在宅)。人工呼吸器やたんの吸引、経管栄養(※1)、酸素療法(※2)などの医療的なケアを在宅で受けています。
※1 経管栄養:口から摂取するのが難しい場合に、胃や腸に直接栄養や水分を入れること。鼻から管で入れたり、胃ろうなどの方法があります。
※2 酸素療法: 空気よりも高濃度の酸素をチューブなどで投与すること。

医療的ケア児の子育てについて、ママ・パパの思いを聞きました。

社会との関わりについて

2歳の息子は心臓の病気があり、ほぼ24時間、酸素吸入のチューブをつけています。児童館や買い物に行くこともありますが、酸素吸入が必要なので、私が酸素ボンベを背負って行きます。公園に行ったときは、私がボンベを持って後ろからついていきながら遊びます。すべり台も一緒にすべります。ふつうに接してほしいのですが、まわりの人に、「何だろう」という視線を向けられて、少し距離を感じることもあります。
(お子さん5歳・2歳4か月のママ)

コメント:髙橋昭彦さん

私は、小児の在宅医療をしながら、医療的ケアが必要な子どもの日中のお預かりにも取り組んでいます。預かりの中で、近所の公園に行くこともありますが、まわりの子どもたちが興味を持って寄ってくるんですね。そして、「どうしてこの子は歩かないの?」「どうして話さないの?」「どうして管を付けているの?」と聞いてきます。そういった質問に、付き添いのスタッフが丁寧に答えていくと、距離が近づいて、友達になることもあります。
私は、子どもたちが外に出かけることで、社会が変わってくると感じています。医療的ケア児の外出は「社会参加」でもあるのです。今は、感染症対策に十分気をつける必要がありますが、外に出かけてふれあってほしいと思います。いろいろな状況の子ども達が、お互いに関わり合うのが当たり前の社会になるといいですね。

サポートやサービスについて

難治性のてんかんがある長女は医療的ケア児です。体を自由に動かせないので、マッサージをしたり、寝ていても痛くないようなヘア・アレンジをするのが日課です。食事は鼻からの経管栄養で、夜寝るときは人工呼吸器をつけています。体調が悪いときは、10分おきにたんの吸引が必要で、ほとんど寝ることができません。
実は、2年前に地方から首都圏に引っ越してきました。医療的ケア児が受けられる支援サービスが充実していると期待したからです。地域格差で家族の負担も違うと感じます。家族以外の人とのふれあいや、家族以外の人がみられるようになるのは、本人の発達にとってもプラスだと思います。
でも、障害児専門の保育園に申し込んだ時点で2年待ち。今、その2年がたちましたが、あと2年は入れない場合もあるそうです。医療的ケア児を預かる受け皿が少なくて、一極集中しているのかもしれません。
子育ては楽しいし、子どもの成長を見るのはうれしいのですが、家族でできることには限界があります。医療的ケア児が入れる保育園などが増えれば、ママも働けて、休息も取れます。
(お子さん5歳・3歳11か月・1歳6か月のママ・パパ)

双子の男の子を育てています。次男が医療的ケア児です。心臓手術後の感染症で、脳にダメージを受け、自由に体を動かせなくなりました。薬やミルクは、鼻から胃に入れた管でとる経管栄養ですが、最近は口からも食べる練習をはじめています。喜怒哀楽が出てきたようで、ベッドに寝かせると、だっこをせがんで怒った様子をみせます。
子どもたちは、それぞれのペースで成長しています。私の復職に当たり、長男は保育園に入園できましたが、次男を受け入れられる園はなく、在宅勤務で働くことを選びました。医療的ケア児の制度や法律が整わないと難しいと感じます。行政や病院から情報収集して、一時預かりやデイサービスなど、保育園以外で預かってくれるサービスも探しました。ネットなどからも自力で情報収集して、いろいろなところに見学に行って。今は6つのサービスを組み合わせています。
(双子のお子さん1歳9か月のママ)

コメント:髙橋昭彦さん

医療的ケア児の場合は、子どもの世話に加えて、いろいろな処置が必要になるので、なかなかみることができる人が少なく、家族に大きな負担がかかっています。親の代わりになれる人が地域にいないのが、いちばんの課題なのです。子どもを預けられる第三者を増やしていくことが必要だと感じています。

きょうだいについて

番組には、きょうだいに負担をかけているのではないかという悩みも多く届いています。

以前、医療的ケア児の長女につきっきりで、当時2歳だった長男となかなか過ごせない時期がありました。そのとき、2歳の長男が「ママ泣かない、僕も泣かない、だから頑張る」と言ってきたんです。2歳だけど、長女が大変だとわかっていて、我慢していて。長男に負担をかけているのではないかと心配になりました。
(お子さん5歳・3歳11か月・1歳6か月のママ)

コメント:髙橋昭彦さん

親が悪いわけではありません。きょうだいたちは、「自分が我慢しないといけない、いい子でいないといけない」と思ってしまうこともあるのです。2020年、「医療的ケア児者とその家族の生活実態に関する調査(厚生労働省)」に関わることがありましたが、多くのきょうだい(※)の切実な声も集まっています。「お母さんと一緒に遊びたい」「家に帰るといつもお母さんが疲れて寝ているのが嫌だ」「妹のためにいっぱい我慢している」などです。
※病気や障害などがある人の兄弟姉妹を「きょうだい・きょうだい児」といいます

きょうだいのケアのため、病気や障害があるお子さんを一時的に預けて、お兄ちゃんやお姉ちゃん、弟、妹に「あなたも大事」と伝える時間を作ることが大切だと思います。
また、「きょうだい会」という、病気や障害のある子どもの「きょうだい」を支える活動もあります。同じ境遇のお友達と話をして、やさしい大人と関わることができます。「ひとりじゃない」という気持ちを共有できることもあります。そのような環境にいることで、少しずつ変わっていくのではないかと思います。

園や学校での付き添い

5歳になる娘は、医療的ケア児です。気管切開をしていて、夜寝るときだけ人工呼吸器を使っています。胃ろうもありますが、今は水分をとるときだけに使っています。
娘の成長のため、同世代の子どもたちとふれあうなど、いろいろな経験をしてほしいと思い、幼稚園・保育園を探しました。区役所に相談にいくと、やはり「ずっと付き添いできますか?」と聞かれ、覚悟はしていたので「はい」と答えました。入ることになった園には、専門の看護師がいません。緊急時に備えて、私が毎回付き添い、別室で待機しています。
園に通いはじめてからの娘の成長は著しく、とてもうれしく思いました。でも、小学校や中学、就職のことを考えると、いつまで付き添いが必要なのか、将来への不安は尽きません。
(お子さん5歳のママ)

コメント:髙橋昭彦さん

付き添いする親の負担は大きいものです。ほとんどの場合は母親です。1日待機して、家に帰ると冷蔵庫は空っぽのままで、きょうだいも帰宅してきて、家のこともたくさんあるわけです。
今は対策が十分ではないのですが、少しずつ変わってきています。地域の学校に看護師が派遣され、親の付き添いなしでも学校に滞在できるような取り組みが、全国的に進みつつあります。

医療的ケア児を育てる親の「願い」

将来、子どもが自分の病気のことを笑い飛ばせるぐらい、明るくなってほしいと思います。まわりの人も、この子の病気を見るのではなく、ひとりの人間として見てくれるような世の中になってほしい。
(お子さん5歳・2歳4か月のご家族)

命が助かったときは、生きてさえいてくれればいいと思いました。今は、子どもが、いろいろな人と出会えたり、経験を積める場所やコミュニティが増えてくれたらいいな、と思っています。
(双子のお子さん1歳9か月のご家族)

親がいなくても子どもが生きていけるような社会になってほしいです。そばにいなくても。
(お子さん5歳・3歳11か月・1歳6か月のご家族)

最初は、娘のことを人に言えませんでした。でも、思い切ってSNSで友達に伝えたら、受け止めてくれました。娘の小さな成長を見つけていきたいです。
(お子さん1歳3か月のご家族)

シングルで子育て中です。保育園に入りたくても、「前例がない」と言われ、数年間入れませんでした。どこに住んでいても、安心して子育てができるようになってほしいです。
(お子さん5歳のご家族)

きょうだいのサポートを手探り中です。最近、私と次女で交換日記をはじめました。きょうだいなかよく、それぞれの人生を楽しんでほしいです。
(お子さん8歳・6歳・2歳のご家族)

娘は保育園に通っていますが、小学校にあがったら、付き添いのために、私は離職せざるを得なくなるかもしれません。本人や親の意思が尊重される制度が整いますように。
(お子さん5歳のご家族)


専門家からのメッセージ

小林京子さん

お子さんをみることは、普遍的に同じだという考えになり、「子育ては楽しいね」と言い合えるような世の中に変わってほしいと思っています。病気や障害のあるなしに関わらず、「当たり前の暮らし」ができる子育てのサポートが必要だと思います。

髙橋昭彦さん

こうした子どもたちのお母さんは、「世界一忙しいお母さん」と言われています。子ども達も、外出できず、バスに乗るとか、プールに行くといった、その年齢だったら普通はしているような経験もできていないことが多いのです。経験「0」を「1」にできるような工夫を、いろいろなところで増やせば、社会はもっと優しくなると思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです