すくすくナイト「子どもにどう伝える? 性とジェンダー」。
まずは、「プライベートゾーン」について考えていきます。
北山ひと美(和光小学校・和光幼稚園 校園長)
田中俊之(大正大学 准教授/男性学)
りゅうちぇる(タレント/1児のパパ)
性の困った行動。やめさせるには、どんな声かけがいい?
最近、長女が「ぶらぶらちんちん」といった言葉を、外でも家でも連呼するので困っています。私が弟ばかりにかまってしまうので、自分に注目が集まる言葉だと思っているのかもしれません。早く「自分が恥ずかしい」とわかってほしいです。
(お子さん3歳8か月・10か月のママ)
長女が保育園を転園したころから、外でも人の前でもパンツを出すようになりました。例えば散歩のとき。ふと振り返ると、スカートを上げて「おしり♪ おしり♪」と言いながら楽しそうにしています。注意しても、おもしろがってしまい、言うことを聞いてくれません。ズボンをはかせたら、ズボンと一緒にパンツまでおろしてしまうので、休みの日はワンピースを着せています。どのように声をかけたら、すんなりわかってくれるのか、納得のさせ方を聞きたいです。
(お子さん4歳・2歳2か月のママ)
―― 注意すればするほど、子どもが盛り上がって悪循環になってしまいますよね。どう思いますか?
家と外でのメリハリを大切に
りゅうちぇるさん
僕の子どもは3歳ですが、性教育をはじめています。お人形遊びが大好きで、服の着せ替えもします。ある日、人形が服を着ていない裸の状態で「公園に遊びに行く」と言い出したんですね。「服を着せないで行くの?」と聞いたら、「そのまま持って行きたい」と答えたから、「教えるチャンスだ!ラッキー」と思いました。
やっぱり、子どもは「おちんちん」のような言葉が大好きですよね。それを「やめろ」と言うのもおかしい。だったら、メリハリが大事だと思います。「家ではどんなにふざけてもいいし、パパとママも乗ってあげる。だけど、公園で裸のお友達はいるかな?」「不愉快な思いをする子もいるんだよ」「そこは、ちゃんと大切に守るべきところだよ。だから、お洋服をちゃんと着ようね」と話しました。言葉だけで直接言うよりも、お人形を通して間接的に伝えることでわかってくれたと思います。
―― 「性の困った行動」に、親はどう対応すればいいのでしょうか?
やめさせたいなら過度な反応はしない
田中俊之さん
私の子どもは2歳で、ちょうど「おっぱい」にはまっています。「おっぱい体操」など、いろんな言葉と組み合わせるんですね。意味のわからなさで、最初は「笑っちゃう」反応をしていたんです。
でも、コミュニケーションはキャッチボールなので、注意するのも笑うのも、子どもは親の反応があったと受け止めます。注意すればするほど、反応してくれるからもっとやる。そんな連鎖が止まらないわけです。やめさせるには、過度な反応をしないことが大切かもしれません。
「ママは聞きたくない」のように自分の気持ちを伝える
北山ひと美さん
人前で性器の名前などを言われると、どうしようかと困りますよね。そのときには、「ママは、そういうのを聞くの、今は嫌なんだな」のように、自分の気持ちを伝えましょう。「まわりの人に恥ずかしいよ」ではなく、自分を主語にしたアイ・メッセージで、「私は〇〇だよ」と言うのです。自分の気持ちを、きちんと向き合って話せば、子どもはわかると思います。
プライベートゾーン・プライベートパーツとは?
―― りゅうちぇるさんの話にあった「大切に守るべきところ」は、プライベートゾーンという考え方につながると思います。プライベートゾーンについて教えてください。
プライベートゾーンは、水着で隠れるところ+胸・口・おしり
北山ひと美さん
「プライベートゾーン」という言葉を見聞きするようになりましたね。最初は、子どもたちにわかりやすいように「水着で隠れるところ」と言っていましたが、海水パンツだけの場合は「胸はどうなの?」となるので、「水着で隠れるところだけではなくて、性器と胸と口とおしり」と伝えています。そこは、「自分だけが見たり触ったりしてもいいところだよ。他の人には触らせないよ」というメッセージとして、プライベートゾーンやプライベートパーツという言葉を使っていきたいと思っています。
―― 「他の人には触らせない」には、親も含まれますか?
親であっても自分以外には断りなく触らせない
北山ひと美さん
性虐待などを考えると、たとえ大好きなパパやママであっても、「プライベートゾーン・プライベートパーツは、自分以外の人に断りなく触らせるところではない」と伝えます。そんな感覚を、小さいうちから育みたいと考えています。
―― 物心がついたときから、授乳をしたり、おむつを替えてもらったりしているので、「親も触れない」は混乱するのではないでしょうか?
触れ合いは心地いいもの。その上でプライベートゾーンの大切さを伝え続ける
北山ひと美さん
「触らせない」だけを言うと難しいでしょう。まずは、触れ合いは心地よくて気持ちがいいもの、いちばんの基本だと伝えます。その上で、プライベートゾーンは大事に扱わないといけないと教え、大人も子どものプレイベートゾーンを大事にしてあげます。
例えば、子どもがトイレに行ったとき。はじめに「ひとりでできる?トイレだから1回ドアを閉めるね」といったメッセージを送ります。お風呂も、小さなうちは自分できれいに洗うことができませんが、まずは性器の部分・胸の部分を「これは自分で洗ってみてごらん」というメッセージを送る。そのように、プライベートゾーンの大切さを、大人が意識して伝え続けることが重要です。
ひと言インタビュー「性に関する困った行動」
性に関する困った行動について、他にもこんな声が寄せられています。
もうすぐ4歳の息子が、おちんちんを触るだけでなく、少し皮をムキムキしたりします。怒るのは違うし、「いいよ」と言うのもだめだと思い、対応に困っています。どう声をかければ正解なのかわかりません。
(お子さん3歳11か月・1歳1か月のママ)
子どもが、お風呂あがりに裸でウロウロします。来年は小学校になるので、やめてもらえたらと思っています。
(お子さん5歳8か月のパパ)
パパ/僕がお風呂あがりで着替えをしているときに、興味があるのか、子どもが股間を触りに来ます。やめてほしいなと思っています。
ママ/性についての伝え方は、どうやって、どこから始めたらいいのか難しいです。
(お子さん2歳10か月のパパ・ママ)
―― 子どもが自分の性器を触るとき、親はどう対応すればいいでしょうか?
「大事なところ」という言い方で統一
りゅうちぇるさん
そんなときは「大事なところ」という言い方で統一しています。「大事」や「大切」は、ふだんおもちゃで遊んでいるから伝わります。しっかりと伝え続けたら、「パパとママも大事にしているんだ」「自分だけではなく、お友達も大事にしているところなんだ」といった意識を持てるようになると思います。
―― 他人の性器を触ろうとしたときは、どうすればいいですか?
自分と他人の感じ方は違うことを理解させる
田中俊之さん
私の5歳の子どもと一緒にお風呂に入っているとき、私の体を触ろうとして、注意したことがあります。まず「嫌な気持ちがするよ」と伝えると、「僕は嫌じゃない」と言うんですね。これも「チャンス」だと思いました。そこで、「自分はそう感じても、他人は違うかもしれない」という話をして、自分の感覚だけがすべてではないことを理解してもらいました。
―― 自分の性器を触る「性器タッチ」は、やめさせたほうがいいですか?
時と場所は選ばなければいけないと伝える
北山ひと美さん
2~4歳ぐらいは、いちばん興味を持つころですね。自分の体のことを、どうなっているんだろうと思って、いろいろと見たり触ったりすることがあります。「自分の体を触ってみたら、なんだか気持ちいい」といった感覚を持つことは、「自分の体は自分のもの」という認識につながっていくので、全く悪いことではありません。
ただ、どこでもやっていいものではありません。見ている側が、いい気持ちがしない場合もあります。時と場所を選ばなければいけない、と伝えましょう。また、「触るなら、手をきれいにしないと、ばい菌が入るよ」という教え方をするといいですね。
どうして触っているかを観察して、ときには声をかける
北山ひと美さん
子どもの性器タッチは、単純に気持ちいいという理由だけではなく、少し手持ち無沙汰だったりする場合もあります。その場合は、ほかに遊ぶことがあれば、あまりしなくなります。どうして触っているのかを考えて、観察しながら、ときには声をかけることも必要です。
実践編 幼稚園での性教育
頭では理解したつもりでも、いざ子どもに面と向かうと、「どう言いえばいいのかな… 言われた子どもはどう反応するだろう」のように、戸惑う方も多いのではないでしょうか。
そこで、北山ひと美さんが園長を務める幼稚園で、実際に行われている性教育の様子を取材してきました。
この日、性教育の授業を受けるのは、年長クラスの子どもたちです。一体どんな話をするのでしょうか。
北山さんは、子どもたちに「握手ってわかる? 握手したことある?」と問いかけます。
それから実際に握手をして、「どんな感じがした?」と聞きます。すると、「恥ずかしかった」「ちょっとあったかかった」といった答えがありました。触れ合いを体験して、感じたことを言葉にするのです。
そして、触れ合いには「うれしいもの」と「嫌なもの」がある、触れ合いをするにはお互いの同意が必要であることを教えていきます。
次は、触られたり見られたりすると嫌なパーツがあることを、「着替え」をテーマに子どもたちと話していきます。
北山さん/みんなは、どこで着替えているの?
園児たち/ここだよ
北山さん/みんな一緒に着替えるの?
園児たち/女と男に分かれて
北山さん/どうして、女の子と男の子に分かれているの?
園児たち/裸んぼうのところ見られたらイヤだから
北山さん/裸んぼうを見られるとイヤなの?
園児たち/女同士ならいいんだけど、女と男がダメ。恥ずかしくなる
園児たち/男も恥ずかしくなる
北山さん/男の子も恥ずかしいのね。女の子同士だったら大丈夫?
園児たち/女同士でも恥ずかしい人はいると思う
北山さん/そうなんだね
ここでのポイントは、積極的に質問を投げかけること。子ども自身が「体のパーツ」について考えるきっかけを与えるのです。
最後は、絵本の読み聞かせです。絵本を見せながら、「口と胸と性器、それからおしり。ここはね、プライベートパーツと言うよ」のように教えていきます。
言葉だけではなく、イラストも一緒に見ることで、子どもは理解しやすいそうです。
みんな真剣な表情で聞いていました。ちょっと難しいところもあったけど、子どもたちに伝わったのでしょうか。聞いてみました。
園児たちのコメント
- プライベートパーツとか、プライベートゾーンとかってお話をしていた。性器とかおっぱいのこと。
- 楽しかった。性器とか聞けて。ママにいっぱい言おうと思ってる。
- 他人の性器を触っちゃダメだよとか、触ったら痛いから自分で考えようねって。
―― さきほどの授業は5歳の子どもたちでしたが、性教育は何歳から始めればいいのでしょうか?
タイミングが合えば何歳でも
北山ひと美さん
タイミングが合えば、何歳でもよいと思います。例えば、プールで着替えるとき、お尻を出して走り回っている子がいて、他の子が「もうやだ」と言うようなやり取りがあったときに、子どもたちに考えてもらったことがあります。
家庭では、「あ、今だ」と思ったときに話すことができるよさがあります。何歳までに何々を教えないといけないと考えるより、ふだんの生活の中で、さまざまなタイミングをみて、伝えたいことを伝えていく。そのときに、絵本の力を借りることも、ひとつの方法だと思います。
―― 授業では子ども同士の意見交換を大事にしているように思えました。どうしてでしょう?
それぞれ感覚が違うことを、ことばにして理解させる
北山ひと美さん
他の子の意見を聞くことで、「自分はこう思ったけど、違うように感じる子がいる」とわかります。みんな感覚が違う、自分は「いいな」と思ったけど、あの子は「ヤダ」と思っている。ふだんでもあることですが、それぞれが言葉にすることで理解しやすくなると思います。
性教育をしないと相手も自分も大切にできない
※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです