「すくすく子育て」ホームページのお便りコーナーには、子育てに関するみなさんの疑問・質問がたくさん寄せられています。今回は、そんなお便りに専門家がどんどん答えます。

専門家:
遠藤利彦(東京大学大学院 教授/発達心理学)
宮里暁美(お茶の水女子大学 教授/保育学)

だっこをしすぎるのは甘やかしになる?

息子は、ママと出かけるときはちゃんと歩くのですが、パパのときはだっこをせがみます。どこに行くにも、何をするにもずっとだっこです。元気に歩いて運動してほしいと思いつつ、泣きながらせがまれると、「だっこできるのも小さいうちだけだ」と思い、結局だっこしています。甘やかしにならないか心配です。
(2歳6か月 男の子のパパ)

子どもが父親を求めるのはよい状況

回答:遠藤利彦さん

日本の父親は、子どもと遊ぶ回数や時間が少ないといわれています。その中で、子どもが父親に対して積極的にだっこを求めるのは、とても好ましい状況だと思います。

子どもは体を使っていないわけではない

回答:遠藤利彦さん

おそらく、パパはだっこだけでなく、肩車やおんぶをしてあげることもあるでしょう。肩車は、実はされるほうも体を使います。腹筋や背筋などに力を入れて、肩車の状態を保持するためです。その意味では、だっこされているとき、全く体を使っていないわけではありません。

視野を広げたい気持ちも

回答:遠藤利彦さん

子どもがどうしてだっこを求めるのか考えてみるのもよいでしょう。パパにだっこしてもらって、自分自身の視野を広げたい、違う視点から物を見たい。そんな気持ちがあるのかもしれません。


夫婦で意見が合わない。どうしたらいい?

子育てに関することで、夫婦で意見が合わないことがあります。「甘やかしすぎではないか」「もっと〇〇をさせたい」などです。考えが違うときは、どうすればいいでしょうか。
(2歳6か月 男の子のパパ・ママ)

違いがあるほうがいい

回答:宮里暁美さん

夫婦で意見が合わない部分があるほうがよいと思います。あまりにも一致してしまうと、行き詰る場合もあるのです。意見の違いで多少ぶつかりながらも認め合う。夫婦がそのような関係でいると、子どもは許容範囲の広い子に育ちます。お互いを認め合う視点を大事にしながら、いろいろなことに向き合っていくのは、とてもすてきだと思います。


子どもが「大嫌い!」と言ってしまう。どうしたらいい?

息子は、自分の思いどおりにならないと、すぐに「大嫌い!」と言ってしまいます。家だけならともかく、幼稚園でも言うようです。お友だちを遊びに誘って、「今は遊びたくない」と断られて、「大っ嫌い!」と。そのあと仲直りしたようですが、どうにか感情を抑えられるようになってほしいと思っています。直す方法はあるのでしょうか。
(4歳9か月 男の子のママ)

「大嫌い!」と言った後の行動が大事

回答:遠藤利彦さん

まず、自分の感情を外に向かって表現できるのは、子どもが健康に育っていることの、ひとつの証しです。その上で、言った後に「相手を傷つけた」と感じたり、相手の様子を見ながら関係を修復したりする力が重要になります。
お子さんは友だちに「大嫌い」と言った後に、きちんと仲直りができたそうですね。少し言い過ぎたかもしれない —— そんな思いで、その後の自分の行動を調整できているのであれば、しっかりと感情をコントロールする力が育ちつつあると考えてもいいのではないでしょうか。

園はいろんな感情を出す練習の場でもある

回答:宮里暁美さん

幼稚園でのことを心配されていますが、むしろ、そのために幼稚園・保育園・こども園があります。
学童期に、いろいろな気持ちを外に出して、その後どうするのかを経験していく。それは、本当に大事な学びです。お友だちとトラブルになっても、園の先生に相談しながら、「こんなときは、こうすればいい」のように勉強しているのです。
親としては、円満に問題なく過ごすほうが安心かもしれません。でも、今は伸びているところだと考えてください。お子さんができたときには、いっぱい褒めてあげてくださいね。


子どもがトイレを怖がる。安心させる方法はない?

娘は幼稚園のトイレが怖くて、行くことができません。以前は大丈夫でしたが、新しく自動洗浄タイプになり、流れる音が怖かったようです。園では、自動洗浄をやめて、先生もサポートしてくれます。でも、やはり怖いようで、おもらしをしてしまい、登園拒否になることもありました。デパートや公園などのトイレは大丈夫で、園だけがだめです。安心してトイレに行かせる方法はないでしょうか。
(5歳 女の子のママ)

安心感を繰り返し与え続ける

回答:遠藤利彦さん

トラウマは、出来事自体ではなく、出来事で生じた恐怖や不安によって引き起こされるといいます。誰からも恐怖や不安を癒してもらえないとき、長くトラウマという形で残るのです。逆にいえば、癒されることで抜け出せることもあります。
園の先生も協力してくださるのであれば、子どもが怖さや不安を感じたときに、周りの大人たちがきちんと安心感を与えてあげてください。そのような経験を繰り返し積み重ねることで、克服することができるでしょう。

時間を置いたり、見方を変える工夫を

回答:宮里暁美さん

子どもが何かで一歩を踏み出せなくなったときは、少し時間を置いたり、見方を変えたりするような工夫を考えてみましょう。
例えば「〇〇ちゃん救出大作戦!」と銘打って「トイレに行きたくなったら早引きする」「親を呼んで一緒に行く」といったプランを出してみる。多少大げさに話していると、子どもが「それはやりすぎ!」と言い出して、おもしろがってくれるかもしれません。そうやってつきあっているうちに、大丈夫になる場合もあります。
排せつ自体はできるので、心配し過ぎないようにしましょう。

実は、我慢をさせるのが心配で、私かパパが給食前に園まで行って、一緒にトイレに行っています。すると、安心するようで大丈夫なんです。でも、親がいないとできないままでは心配です。

いずれ克服できる

回答:宮里暁美さん

とてもいい作戦だと思います。できたときに「あなたは大丈夫よ」と伝えているうちに、いずれ克服できます。生涯ママやパパがいないとできない、ということにはなりませんよ。


子どもたちがパパを嫌がる… どうしたらいい?

パパは子どもたちとの時間を大切にしていて、育児にも積極的です。私の負担を減らそうとしてくれるパパには感謝していますし、子どもたちにはパパっ子になってほしいのですが、子どもたちは決まって「ママがいい」と言います。例えば、パパは毎日寝かしつけをしようとしますが、「パパは嫌。あっち行って。仕事してて!」と言われることもあります。お風呂や歯みがきでも同じです。
パパは「子どもに否定されるのが悲しい。家事・育児を分担したいのに役に立てず悔しい。仕事ができない会社員のような気持ちになる」と言います。どうやったら、子どもがパパっ子になるのでしょうか。
(3歳・1歳5か月 女の子のママ)

子どもはパパを一生否定するわけではない

回答:宮里暁美さん

パパの言葉に考えるヒントがたくさんありますね。子育てでは、自分が社会や学校で認められてきたこととは関係なく、それまでの評価基準も使えません。だから「自分はだめだ」と落ち込む必要はないのです。
ただ、今はパパを求めているわけではない。それだけです。パパを一生否定しているわけでもないのです。努力がいつか実ると思う程度の姿勢で、大人のゆとりや心の持ち方を学ぶタイミングだと考えましょう。パパは十分頑張っているので、むしろ頑張り過ぎないようにしてほしいと思います。

興味関心が変化して、パパとの関わりが増えることも

回答:遠藤利彦さん

一般的に、好きな人の中にも順番があります。そのこと自体を気にする必要はありません。
子どもは、これから成長する過程で、興味や関心がどんどん変わっていきます。その中にはパパが得意なこともあるでしょう。例えば体を使った遊びなどです。すると、子どものほうから積極的に「パパと話したい」と言ってくる場合もあります。将来パパっ子になる可能性もありえます。今だけを見るのではなく、少し長期の目線で考えるといいですね。


育児の悩みと、どうつきあえばいいの?

自分自身を追い込まないことが大事

回答:宮里暁美さん

とにかく自分を追い込まないことが大事です。悩むと結果がつきもので、子どもを追い込んでしまう場合もあります。子どもは少しずつ自分自身で育っていきます。少しの悩みと「ゆるゆる」とつきあうくらいで考えましょう。「大丈夫よ」「ああ、私もそうだったなぁ」と、おまじないのように言いながら過ごしましょう。
また、いろいろな人と話したり、相談したり、「同じ悩みがあるね」と共感し合ったり、人との繋がりも大切です。

ほどほどな子育てがうまくいく

回答:遠藤利彦さん

心理学では、「ほどほどな子育てがうまくいく」といわれています。完璧ではない子育てのほうが、かえって子どもが健やかにたくましく育つという考え方です。子どもは、適度なストレスやフラストレーションを経験する中で、自分の力で対処しようとして、いろいろなことを学んでいきます。親も、最初から全てができるわけがありません。子どもからも教えてもらうような気持ちで、楽に構えて向き合っていくのがいちばんだと思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです