入学前の子どもを持つ家族は、期待とともに不安もいっぱい。そこで、入学前に身につけておきたいことについて、2回にわたってお送りします。
2回目は「生活面」について。授業でじっと座っていられるかな? 決められた時間で給食を食べられる? 友だちとうまくやっていけるかな? 小学校での生活について、専門家と一緒に考えます。
大豆生田啓友(玉川大学 教授/乳幼児教育学)
宮里暁美(お茶の水女子大学 教授/保育学)
今回のテーマについて
授業中、座っていられるか心配…
小学校にあがったとき、子どもが授業中ずっと座っていられるか心配です。家でも長時間座るような経験をしたことがありません。静かに座っていられるのは、せいぜい10分程度です。ママ友から「授業に見立てて30分くらい座ったよ」と聞いて、焦りを感じます。
でも、好きなことをしているときは、とことん集中します。例えば、辞書を開いて1ページごとにページ番号を書き込むことにはまっていて、1日に50ページほど書き進めます。今では1170ページになっています。先生の話も同じように集中してくれるといいのですが、家庭で何か準備したほうがいいのでしょうか。
(5歳 男の子のママ)
小学校は園と同じような活動からスタートする
回答:大豆生田啓友さん
多くの親が「小学校では、長い時間じっと座って先生の話を聞かないといけない」と思って、心配しています。でも、そもそもその認識が間違っているのです。
小学校の学習指導要領が改訂され、2020年度から「スタートカリキュラム」という取り組みが始まっています。小学校の教育も、幼児教育で大切にされてきた「遊び中心の生活」からスタートさせようというものです。園と同じような活動からスタートすることで、子どもが安心して自分を表現できるように工夫されています。そこから、少しずつ座って聞くような時間を作っていくわけです。
このように、親世代が経験した授業とは違うことを知っておきましょう。
じっと話を聞けるようになるために、家庭でできることはありますか?
親子で、座ってやりとりする時間を
回答:大豆生田啓友さん
お子さんは、1000ページ以上も数字を書くなど、好きなことに関しては集中していましたね。この時期は、子ども自身がやりたいこと・興味があることを大事にしてください。熱中できることからスタートすることが大事です。
例えば、家のリビングなどで、親子で10分ほど座って本を読んだり、絵を描いたりしてみましょう。勉強でなくても、ふだんからやっていることでいいんです。そのような時間を作って楽しみながら取り組めるといいですね。家での生活で、座ってすることをやってみることもひとつの方法だと思います。
身のまわりのこと。どのように準備してあげたらいい?
春から1年生の息子は、ひとりでウンチができるように練習しています。ウンチを我慢して泣きながら帰ってきたこともあったので、小学校ではひとりで行けるようにと思っています。でも、練習でできていても、トイレに行きたいときに先生に伝えられるか不安はつきません。
着替えも心配です。前後ろ反対に着たり、「ママ着替えさせて」とだだをこねることもあります。小学校ではひとりで体操着に着替えることもあるし、誰も見てくれないので、今から練習しています。
(5歳 男の子のママ)
着替えの手順やコツは教えてあげる
回答:宮里暁美さん
例えば、子どもが自分から服を着たときに前後ろ反対だったり、靴が左右逆だったりする場合、着心地や歩きやすさを考えて直してあげてもよいでしょう。そのとき、「すごく頑張ったけど、こっちとこっちで履いたほうが歩きやすいね」のように、子どものやりたい気持ち・自分でやったという気持ちを損なわないようにしましょう。そのように着替えの手順やコツを教えてあげることは大事です。
生活リズムを作るのは大人の役割
回答:宮里暁美さん
学校は、始まる時間・終わる時間が決まっています。その時間をいい状態で臨むためには、早く寝て、早く起きて、朝ごはんを食べるといった生活リズムが大事になります。この生活のリズムを作るのは、大人の親の役割です。
娘は2歳半ですが、今から小学校の給食のことが心配です。好き嫌いが多いので、小学校までに克服できるかどうか。給食はみんなで食べるので、少しでも残すと目立ちます。私自身がそのことで嫌な思いをしてきたので、娘に同じ経験をしてほしくはありません。少しでも人と違うと「あの子、ちょっと変わっているから」と言われたりしそうで、敏感になっているかもしれません。
(2歳6か月 女の子のママ)
「時間内に残さず食べなさい」は過去の話
回答:大豆生田啓友さん
親の中には「給食を全部食べるまで居残りをさせられた」といった苦い経験を持つ方もいます。でも、今は基本的にそのようなことはありません。食に関して言えばアレルギーを持つ子もいますし、いろいろな子どもがいます。その子に合った量や種類、食べるペースなどを認めながら、食事の時間をとっているので、心配するようなことはありません。もちろん、食べたいという気持ちや、嫌いなものにもチャレンジしてみようという気持ちは大事です。
家では食に親しむ経験を
回答:宮里暁美さん
例えば、親子で一緒にお好み焼きを作ってみたり、おにぎりをにぎってみたり。自分が作ったものだとパクっと食べられることもあります。食べることができたという経験で、「これだけ食べられるから、給食もきっとおいしい」と思えることもあります。そのように、家では食に親しむ経験を積んでおくといいかもしれません。
小学校にあがった後、ひとりで通学させるのが不安です。何か準備できることはありますか?
親子で学校までの道のりを確認する
回答:大豆生田啓友さん
安全に関わることなので、入学前に学校までの道を歩いて確認しておきましょう。練習というよりは、お散歩でよいと思います。親子で学校までの道を散歩して、「こんなすてきな場所があるね」「ここを曲がったほうが安心だね」といったことを、ひとつひとつ確認できます。何度か楽しみながら歩いてみると、子どもも親も安心ですね。
忘れ物など、持ち物についてサポートできることはありますか?
遊び感覚で前日に準備を
回答:大豆生田啓友さん
前日に準備するほうが安心かもしれませんね。子どもと一緒に、「鉛筆は入ったかな。連絡帳はどうかな。これも入れてみよう」のように、遊び感覚でよいと思います。遊びながら準備をして、「明日も楽しみだね」と思いながら寝ることができるといいですね。
子どものワクワク感を大事に
回答:宮里暁美さん
子どもは、ワクワクが元気のもとですよね。子どものいるところで「心配だ」と言い過ぎると、親の心配が子どもにうつることがあります。だから、子どものワクワク感をなくさないようにしてほしいと思います。
小学校で友だちができるか心配…
双子の娘たちはもうすぐ小学校。保育園では同じクラスで、ずっと一緒に過ごしていますが、小学校では別のクラスになりそうです。保育園は1歳からだったので、“友だちづくり”が初めての経験になるし、引っ込み思案なので心配です。
娘に「友だちはつくれそう?」と聞くと、「お友だちになってくれる?って話しかけてみる」と言います。小学校3年生のお兄ちゃんも「声をかけてうまくいくこともある。一番の方法は気が合う友だちを見つけること。誕生日の月が同じだったり、好きな色が同じだったり。そんな子を見つけると友だちになれるよ」とアドバイスをしてくれます。
とはいっても、新しい環境はやっぱり緊張すると思うので心配はつきません。
(5歳 双子の女の子・小3 男の子のパパママ)
次第にいろいろな共通項が見つかる
回答:大豆生田啓友さん
小学生のお兄ちゃんが、自分の経験をちゃんと伝えてくれていましたね。気が合うというのは、共通項を持つことでもあります。同じ保育園でなくても、同じ通学路だったり、家が近所だったり、いろいろな共通項が見つかっていきます。心配するほどのことではないかもしれません。
また、お子さんも「自分から話しかけてみる」と言っているので、とても立派だと思いますよ。それが言えるのであれば全く問題はないでしょう。
家では子どもが安らげるように
回答:宮里暁美さん
子どもたちは、楽しみな気持ちがある一方で、新しい環境や人間関係にストレスを感じるものです。特に1年生は、知らない人ばかりの場所で過ごして、ヘトヘトに疲れていると思います。だから、学校から帰ってきてゴロンゴロンしていても「友だちと遊ばないの?」といったことは言わないでほしいのです。家で本来の自分に戻ってゴロンゴロンする。そういう時間があるから、また安心して学校に行くことができると思います。
安心して小学校に入学してもらうために
小学校では、入学する子どもたちに、できるだけ不安を感じさせないように工夫をしているそうです。
こちらの小学校では、新年度に入学する子どものために、小学生と園児が交流する機会を頻繁に設けてきました。しかし、2020年度は新型コロナの影響で直接会うような交流はできません。それでも、できることをしようと今度入学する園児たちにメッセージを送ることにしました。
1年生の子どもたちが、自分が通っていた保育園に向けて、「元気ですか?」「学校は楽しいよ」「図書室があるから中休みに行ってみてね」といったことを書きました。去年、入学前に小学生からメッセージを受け取っていたので、今度は自分たちの番だと思ったようです。
校長先生は「どの学年の子どもも、人とのつながりを途絶えさせてはいけない。コロナ禍だからこそ心をつなげよう。笑顔を届けよう」と考えていました。
この日、小学生の気持ちを校長先生が代わって届けに行きました。幼稚園の子どもたちは喜んでくれるのでしょうか。
まずは子どもたちへのプレゼントを渡しました。チューリップの球根です。幼稚園と小学校で一斉に咲けば、園児が小学生になったときに共通の話題になると考えたんです。
続いて小学生からのメッセージです。「1年生が書いたのよ」と聞いて、子どもたちもびっくり。園で一緒に過ごしていた子の名前を見つけて、「覚えてる!」と言っていました。
幼稚園の先生も、園児と卒園生との関わりを大事にしています。小学生になったお友だちが頑張っている姿や、字が上手になっていることなどを知ることができる、いい機会だといいます。
このように、校長先生は校区内の園をまわり、小学生の気持ちを園児に伝えていきます。安心して入学してほしい —— それが園と小学校、双方の願いなんです。
※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです