イライラしてつい厳しい口調になったり、着替えやごはんが予定通りに進まないと急かしたり。番組アンケートによると、子どもに厳しくしすぎて自己嫌悪に陥っているという方が多くいました。そんな悩みについて、専門家と一緒に考えます。

専門家:
大日向雅美(恵泉女学園大学 学長/発達心理学)

今回のテーマについて

大日向雅美さん

客観的に厳しすぎるかどうかによらず、親自身が「自分は厳しすぎる」と思い込んでいる場合が多いようです。一方で、もっと厳しくしなければいけないのかも、と悩む方もいます。今の子育ての大変さのキーワードは「厳しさ」なのです。子どもに厳しくすると自己嫌悪にもなりやすいので、つらい思いをしているのではないでしょうか。


どうして子どもには厳しく怒ってしまうのか?

長男は、もうすぐ小学生になるので、着替えや歯磨きなど、自分のことを自分でできるようになってほしいと思っています。そのため、なかなかしないときには強い口調で怒ってしまいます。どうして子どもに厳しく怒ってしまうのでしょうか。厳しさの加減もわかりません。
(6歳・4歳 男の子のママ)

小学生になるときに、できないことがあってもいい

回答:大日向雅美さん

小学生になることは、子どもにとって新しい世界が開かれる喜びだと思います。1年生になるまでに、「このレベルまではクリアしないといけない」と思い込んでいるかもしれませんが、できないことがいろいろあってもいいのです。できないからこそ、学校や先生や友だちがいると思ってください。でも、そのように思えない方もいる。それは、世の中が「子どものことは全部、親のしつけの成果」といったプレッシャーを、有形無形で与えているからだと思います。

「自分の子だから」という期待を、少し緩める

回答:大日向雅美さん

例えば、お友だちの子どもにできないことがあっても許せるのに、わが子ができないとそうは思えないことがあります。自分の子どもには、やっぱり期待してしまうものです。この期待と、「小学校にあがる」というプレッシャーの2つを、少し上手に緩めることができれば、厳しさを加減できるのではないでしょうか。
私自身を含めて、年配の人は多くの失敗をしてきていると思います。そんな方から「それでも、子どもは多少のことがあっても育つのよ」といった意見を聞いてみてはどうでしょう。そして、「まあ、いいか」と思えれば、救われると思います。「まあ、いいか」と思えるようになるために、子どもに「半分は、あなたの責任」「あなたもやると言ったのだから頑張ろうね」と、少し責任を託してあげてもよいと思います。

疲れてイライラが頂点に達すると、人格を否定するようなことや、言ってはいけないような言葉で怒ってしまうことがあります。どうしたらよいでしょうか?

前後を含めて振り返る

回答:大日向雅美さん

子どもの人格を否定するような言葉は、言っていいわけではありません。しかし、そういう言葉を言わざるをえなかった前段階があるはずです。また、言ってしまった後に、ごめんねという表情や気持ちを伝えているはずです。このように、前後を含めた文脈で振り返ってみてください。子どもはそれを全部見ています。
厳しい言葉の部分だけを切り取ってしまう傾向があるかもしれませんが、前後を含めて考えて「ごめんね」と言えば、子どももわかってくれます。子ども自身も「自分がいけないことをした」とわかっているかもしれません。ママがあんなに疲れて早くしなさいと言ったのに、僕はしなかった。それで怒られたけど、ママは悲しそうな顔で「ごめんね」と言ってくれた。それで埋め合わせはできていると思います。

エスカレートしないためにできることはありますか?

2度と繰り返さないための目印を作る

回答:大日向雅美さん

人それぞれ、いろいろなケースがあると思いますが、言ってしまった後悔をしっかりと覚えて、2度と繰り返さないための目印を作っておくとよいと思います。
例えば、スウェーデンでこのような話がありました —— ある親が、しつけのため、子ども自身にムチを探させたそうです。でも、子どもは見つけることができず、泣きながら「ムチの代わりにこの石でたたいてください」と言いました。その言葉を聞いて、親はハッと気づくわけです。「私はこの子をたたいたり、ひどいことを言ってきた」「しつけだと思っていたけど、この子の気持ちになってみたら、何てむごいことをしたんだ」と。それから、その石をキッチンの棚に置き、イライラする度にキッチンに逃げ込んでは石を見て、子どもの悲しそうな顔を思い出していたそうです。それがスウェーデンの体罰禁止法につながったといいます。
だれでもエスカレートしてしまうことがあると思います。それを忘れないために、その人なりの戒めとなる目印を、どこかに置いておくことも大事なのではないでしょうか。

厳しすぎると子どもにどんな影響がある?

心の発達に影響することも

回答:大日向雅美さん

子どもにとって、いちばん甘えて、信頼して、全部を受け止めてもらいたいと思う身近な大人が、親です。親が子どもに厳しすぎると、子どもは自分を出さなくなり、人を信じて自分を解放することができにくくなり、信頼関係や人間を信じる心の発達が少し遅れてしまったり、苦しくなることがある、といわれています。

叱るときは行動だけ、ほめるときは人格を含めて

回答:大日向雅美さん

子どもを叱るときは、子どもの人格を否定するのではなく、その行動だけを叱ってください。私たちは「何て悪い子」のような叱り方をしがちですが、それでは人格を否定してしまうことになります。「あなたはよい子。だけど、あなたがした〇〇はよくないと思うよ」のように、部分的に叱るのがポイントです。
逆に、ほめるときは「お手伝いしてくれて偉いね」など、部分的になりがちです。「お手伝いありがとう。いい子ね」「あなたと一緒にいることが楽しいよ」のように、人格を含めてほめてあげるといいですね。


子どもに優しくできず、厳しすぎてしまうことがつらい… どうしたらいい?

育児休業中で、3人の子どもを育てています。夜8時半に寝かせることを目標に、保育園から帰ってくる4時半から、夕食や勉強などの日課を慌ただしくこなしています。そのため、予定通りに進まないと、つい厳しくなってしまいます。夫は夜8時ごろには仕事を切り上げて、寝かしつけをしてくれます。育休をとっている以上、それまでに全てを終わらせて夫にバトンタッチしたいのですが、子どもたちには厳しいスケジュールのようです。
夫に子どもたちを託した後、子どもに優しくしてあげられなかったことや、怒るのが増えて無意識のうちに抱きしめたりすることができなくなっていることに気づきます。自己嫌悪して、つらくなります。
(5歳・2歳の男の子、0歳 女の子のママ)

育児休業は「子どもと一緒に過ごす」大事な仕事

回答:大日向雅美さん

育児休業は立派な仕事です。パパの仕事と同じか、それ以上のことをしていると思います。引け目を感じて、完璧な状態でパパに渡さなくてもいいのです。子どもと一緒に過ごし、ごはんを食べ、遊び、笑い、ときには泣いたり、怒ったりする。これが育児休業の仕事だと考えてください。

以前、次男が転んで頭を切ってしまい、救急を呼んだことがあります。ちょうど下の子をお風呂に入れているときだったので、救急の方から「どうぶつけたのですか?」と聞かれても答えられず、「お母さん見ていなかったんですか?」と言われてしまいました。このことで、さらにちゃんと子育てをしなければ、と感じました。

親を追い詰めないでほしい

回答:大日向雅美さん

救急隊員の方も、何気なくおっしゃったんだと思います。でも、そこに原因を求められているようで、やはり「子どもについての全責任を負わなくちゃ」と思わせてしまいます。このようなことは、世の中全体で、心して禁句にしてほしいですね。こんなに頑張っているママを、追い詰めないでほしいと思います。

子どもに親の弱い部分を見せてもいい

回答:大日向雅美さん

弱みを見せず、いつも正しくあろうとすることは立派だと思います。でも、上のお子さんが5歳ならば、ときには「もうママ、疲れちゃったのよ」と言ってもよいと思います。
子どもは、親の役に立ちたい、慰めたいといった気持ちをたくさん持っています。いつも「ああしなさい、こうしなさい」と言うよりも、ときには「今日は疲れちゃった。ごめんね」と言ったほうが、子どもが頑張ることもあります。そのように弱みを見せられる人が、ほかにも周りにいるとよいですね。でも、いちばん見せていい相手は、もしかしたら子どもかもしれません。5歳ぐらいだったら、十分、受け皿になってくれると思います。


厳しくしつけていくことで、親子関係に悪影響はない?

長男へのしつけで悩みがあります。例えば、子どもたち3人でお菓子を分けるように言ったら長男が拒否したので強く責めたことがあります。ひとり占めはいけないというルールを分かってほしかったのです。そこまで叱らなくてもいいかも、と思うこともありますが、その時々で叱り方が変わらないほうがよいと思い、厳しくなりがちかもしれません。そのようなことが続くうちに、長男はわがままを言わなくなり、言葉に詰まって泣くこともありました。長男に無理をさせているのではないか、困ったときに親に助けてと言えない関係になるのではないかと不安です。厳しくすることで親子関係に悪影響がないか心配です。
(3歳の男の子、1歳の男の子と女の子のママ)

子どもの気持ちを考えられていれば大丈夫

回答:大日向雅美さん

一般的に、子どもの無理や我慢に気がつかず「偉いね」と思っていることが多い中、子どもの気持ちに気づいて、涙を流していらっしゃる。このまま子どものことを考えて、自然の流れで対応していけば問題ないと思います。お兄ちゃんも大丈夫ではないかなと思います。

上の子には期待し過ぎてしまうもの

回答:大日向雅美さん

あくまで一般論ですが、どの家庭でも上の子に厳しくなりがちです。上の子に対する期待もありますが、下の子が生まれると、上の子の年齢が3〜4歳ほど上に見えるようになることがあるのです。期待し過ぎているのかもしれない、無理なことを言っているのかもしれない、と思っておくとよいかもしれません。
また、上の子への言葉がけは「お兄ちゃんだから、我慢しなさい」ではなく、「さすが、お兄ちゃんね」と、ほめてあげることも大事です。

子どもが主体的に考えて、相手を尊重する心を育むことが大事

回答:大日向雅美さん

ルールや道徳判断の発達を研究していた発達心理学者のピアジェによると、「大人は善悪を教えようとするが、本当に子どもが身につけるべき善悪の判断とは、自分で主体的に考えること、相手と自分の関係をしっかり踏まえて相手を尊重する心を育むこと」だといいます。
2〜3歳の場合は、「それはだめよ」と教えなければいけないこともあります。でも、4〜5歳になれば、失敗もたくさんさせて、いいか悪いかを言う前に、「どうしてなのかな」「友だちはどう思うかな」と一緒に考えてみましょう。そんなやりとりを続けることで、小学校の5〜6年になったときに、相手の立場で考えて自分自身を律することができるようになります。これが、ルールを守る本当の目的になるのです。自分で善悪を考えないと、偉い人や年長者の言う通りに動く、権威主義的な人間になってしまいます。私たちは、そんな人を育てたいわけではないですよね。何よりも相手のことを尊重することができる心を育んであげたいと思うなら、「これはだめ」と言う前に、ときには「どうしてかな? 」「どう思う? 」のように、ボールを返してあげることも大切ですね。


専門家からのメッセージ

大日向雅美さん

実は、みなさんの話を聞きながら、私自身もやってきたことだと思い、つらかったですね。専門家とはいうけれど、してはいけないことをしたり、言ってはいけないことを言ったり、いろいろな間違いをしてきました。それでも、子どもは元気に明るく育ってくれました。まず、子どもは大丈夫なもの、そして、子育てのつらさを支えてくれる方を周りに持てれば大丈夫だと伝えたい。文脈で子どもと向き合って、点ではなく面で子育てできたらいいですね。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです