すくすく子育てでは、これまでたくさんの子どもたちを撮影してきました。その映像をひもときながら、子どもの行動のヒミツや接し方のヒントを探ります。

専門家:
汐見稔幸(東京大学 名誉教授/教育学)
柴田愛子(保育施設代表)

子どもはなんで棒が好きなの?

子どもたちは、外で遊んでいると、いろいろな物を拾ってきます。木の実や落ち葉、セミの抜け殻など。中でも大好きなのが、枝などの棒きれです。振り回したり、何かを叩いて音を出したり、糸をくくりつけて魚釣りをしてみたり、とにかく棒状の物が大好きです。子どもはどうして、こんなに棒が好きなのでしょう?

棒は不可能を可能にする魅力がある

回答:柴田愛子さん

おそらく、何百年も何千年もの遠い昔から、子どもは棒を拾って遊んでいたのでしょうね。棒があれば、届かなかったところに届くようになり、自分の手が伸びたような、強くなったような気持ちになれるのかもしれません。不可能を可能にするもの。棒にはそんな感覚的な魅力があると思います。

穴・水・棒は、保育界の三種の神器

回答:汐見稔幸さん

1歳ごろから、少なくとも3〜4歳ごろまでの子どもたちは、共通して「穴・水・棒」が好きだといわれています。保育の世界では、三種の神器と呼んだりするんですよ。
私には、子どもが人間の進化の歴史を大急ぎでなぞっているようにも思えます。個体ではかよわい動物であるホモサピエンスが、どうしてこれだけの力をつけてきたのか。いくつかの要素がありますが、その中に協働できるようになったこと、道具をたくさん編み出したことがあげられます。棒によって、いろいろな物が手に入ることがわかって、棒を多様に加工して使ってきたわけです。素朴に見えますが、最初の知恵だともいえます。


棒は、子どもにとってはじめての道具ともいえます。危険がない限り、子どもが道具を使いこなせるようになっていくための練習だと思って、見守ってあげてくださいね。


なんで戦いごっこが好きなの?

子どもは、戦いごっこが大好きです。風呂敷をマントに見立ててヒーローごっこをしたり、おもちゃの銃で撃つまねをして戦ったり、すもうをとったり。どうして戦いごっこ遊びが好きなのでしょう?

ヒーローは子どもが憧れる人間像

回答:柴田愛子さん

子どもにとって、強いことはかっこいいこと。まずは強いことに憧れて、大きくなってくると、強くて正しいヒーローに憧れるようになる。5〜6歳の子どもにとって、ヒーローが価値観の根っこになっているのではないでしょうか。子どもが憧れる人間像として大事だと思います。

戦いごっこは、人間の攻撃性を満足させる意味も

回答:汐見稔幸さん

個々の人間は、同じ霊長類のゴリラと比べても、はるかに腕力で劣る動物です。そんな人間が、ある意味で地球上の王者のようになってしまっている。その理由のひとつが「協力」を学んだことです。他人が困っているときに助けるような、共感的な協力さえできる。他の動物にはできない、複雑な協力ができたからこそ、人間は生き残ってきたと思います。
一方で、いざというときには極めて強い攻撃性を発揮してきました。例えば、水場をめぐり人間同士で争うなど、同じ種でこれだけ殺し合ってきた動物は、人間しかいません。
人間には、他の動物にはない、たぐいまれな共感性と攻撃性が同居しています。私は、それが人間の特徴だと思っています。強い攻撃性をそのまま発揮することはよくないので、攻撃性の中に共感性を取り入れて、お互いに傷つけないようにしたものが、競争やゲームだったのではないかと思います。勝った者に名誉が与えられ、競争が終われば日常に戻る。そのような文化を作り出してきたわけです。
勝負にこだわる遊びには、心の中にある攻撃性を代理的に満足させる側面があると思います。子どもたちは、やがてそのような遊びを卒業して、共感性を大事にすることで社会が動いていくことを学んでいきます。

大人がルールを教えることが大事

回答:汐見稔幸さん

以前は、「棒で相手の顔は突いちゃいけない」などを、子ども同士で学び合えていましたが、今は少なくなったようです。だから、戦いごっこなどを子どもがしようとするときに、大人がルールを教えることが大事です。してはいけないことを、しっかり話して、丁寧に伝えていくことが大切です。その上で、ときにはケガをすることもしかたがないと思って、子どもを、上手に自由に遊ばせてほしいと思います。


気持ち悪い生き物が好きなのはなぜ?

いろんな虫を捕まえたり、たくさんのダンゴムシを箱に入れて大事にしたり、死んだ生き物を持ってきてじっくり観察したり。子どもは、なんで気持ち悪い生き物が好きなのでしょう?

子どもは不思議を知りたい

回答:柴田愛子さん

気持ちが悪いと感じているのは大人だけです。子どもは、生き物の不思議を知りたいと思っている。知りたいと思ったら、まずは五感から。触った感触やにおい、切れたときに汁が出るかどうかなど、いろんなことを知ろうとしている。興味を持つことは、とても大事なことです。気持ちが動くままに一生懸命遊ぶ子どもたちは、とてもすてきだなと思います。

子どもは興味・関心を耕していると思ってほしい

回答:汐見稔幸さん

子どもが生き物に興味を持つのは、人間の歴史の中で、長らく生き物がとても重要な食べ物だったことに由来しているかもしれません。人間が農業をはじめたのは1万年ほど前だといわれていますが、それまでは常に食べるものを探す生き方だったわけです。その生活では、気持ちが悪い以前に、生き物は食べられる物かどうかが基準だったはずです。
そんな遺伝子を受け継いでいる私たち人間の中に、小さな動物が面白いと感じる人がいるのは当然だと思います。生き物への興味は、生物学を研究するきっかけとなり、将来ファーブルのような学者になる可能性もあるわけです。
生き物が少し気持ち悪いと思う方もいると思いますが、子どもは興味・関心をたくさん耕しているんだと見守ってあげてほしいと思います。


生き物を通して、自然の仕組みや不思議を子どもは探っています。こうした経験が科学の芽になっていくので、子どもの好奇心をできるだけ見守ってあげてくださいね。


子どもにとって、友だちはどんな存在なの?

友だちとケンカしたり、うまく遊べなかったり。わが子の友だち関係が心配になることもありますよね。子どもたち同士の関係は、大人とは違うのでしょうか。そこで、幼稚園の子どもたちに「友だちのどんなところが好き?」と聞いてみました。

4歳の子どもたちは、「えがおが好き」「のぼるところが好き」のように、友だちの表情や行動など「目に見える特徴」を好きなところとしてあげていました。

5歳になると、「いっしょに遊ぶところが好き」となります。少しずつ、自分と気の合う友だちができて、一緒にいる時間が大事になってくるようです。

6歳になると、「おもしろい」「やさしい」など、友だちの内面に目が向くようになります。「その子の個性や性格が好きだから、一緒に遊びたい」という気持ちが強まるようです。

子どもたちにとって、友だちとはどんな存在なのでしょうか?

遊ぶことで友だちとの関係を作り、深めていく

回答:汐見稔幸さん

人間は、上手に人との関係を作ることによって生き延びてきました。その関係の作り方が、発達段階によって変わっていくことが見事にあらわれた調査ではないかと思います。私自身の体験でも、一緒に遊ぶことで相手の性格がわかってきて、それが大人になった今でも続くような関係づくりにつながっています。
もうひとつ、私がプラスしたいのは、一緒にちょっと悪いことや冒険をすることです。子どもが、大人の見えないところで、ちょっと危ない、ちょっとケガするかもしれない、そんなドキドキするような遊びをする。ハラハラするけど、既成の枠を破りたくてしょうがない。ひとりだと不安だけど、友だちと一緒なら、お互いに励まし合って、仲間関係が深まっていく。そのような関係は、大人になっても続くのではないかと思います。何かあったときに相談できるような、そんな友だちをつくることが大切です。
そのような意味での、友情を育むような体験をすることが、人間の一生にとってとても大事だと思います。

いろんな子を見ることで、子どもの内面の幅が広がる

回答:柴田愛子さん

私は、子どもの群れが必要だと思っています。必ずしも友だちでなくてもいい。子どもがたくさんいると、ひとりひとりの違いを感じることができます。あんなことをする子がいる、あんなすてきな子がいる。いろいろな子がいることが、体にしみこんでいくんです。その中で、憧れになる人、自分の気持ちをわかってくれる人を見つけていく。子ども同士で共感し合ったり、違いを補い合ったり、そのような関係の中で、子どもたちの内面の幅が広がっていくと思います。


子どもは友だちからいろんな刺激を受けて成長していきます。それぞれ、その子なりのペースとやり方で友だちをつくっていくので、親は焦らずに待ってあげてくださいね。


どうして人のおもちゃで遊びたがるの?

同じ保育園に通い、ママ同士も仲良しで、よく一緒に遊んでいる子どもたち。でも、たびたびもめ事が起きるそうです。例えば、ひとりが楽しそうに遊んでいたおもちゃで、もうひとりが遊ぼうとして取り合いに。ママは取り合いをやめさせようと声をかけますが、なかなかうまくいきません。子どもたちに、どう介入していいのか悩んでいるといいます。
でも、どうして子どもは人が遊んでいるおもちゃで遊びたがるのでしょうか?

友だちに共感して、自分も同じことをしたくなる

回答:汐見稔幸さん

人が楽しそうに遊んでいるところを見ると、その楽しさに共感して、自分も同じことをやりたい、同じものが欲しい、同じ体験がしたいという気持ちが瞬時にわいてしまいます。専門的には「同一化」といわれるもので、自然な感情なのです。人に共感する力の表れだと考えてみてください。

言葉ではない、子どもなりのコミュニケーション

回答:柴田愛子さん

子ども同士でトラブルが起きるのは当然です。それを大人が解決しようとするから、面倒なことになるんです。例えば、大人が「『おもちゃを貸して』って言うんだよ」と伝えても、「貸して」の意味をわかっていない場合もあります。すると、人から物を取るときは「貸して」と言えばいいと思って、「貸して!貸して!」と言いながらおもちゃを取ってしまうのです。

おもちゃの取り合いになって、どちらかが勝って、取られた子は泣いてしまう。でも、勝った子が喜んでいるかというと、そうでもない。大体は「泣かしてしまった」と思うものです。そのときに、子どもたちは、絶対に何かを感じている。それが、言葉ではない、子どもなりのコミュニケーションなんです。

子どものおもちゃの取り合いが始まったとき、親はどうすればいいのでしょうか?

子どもの気持ちを言葉にする

回答:柴田愛子さん

仲裁しようとするより、子どもの気持ちをわかろうとすることが大切です。子どもの気持ちを言葉にしてあげるのが一番だと思います。「大事なものだから貸したくないんだね」「嫌だったね」と声をかけると、子どもは気持ちをわかってもらえたと感じて、グチャグチャしていた気持ちが落ち着いていきます。


気持ちを言葉で表現できない子どもにとって、ケンカは一種のコミュニケーションです。親は子どもの気持ちを受け止め、言語化して整理してあげてくださいね。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです