言葉が遅い、かんしゃくがひどい、集団行動が苦手など、子どもの様子が気になり、「もしかしたら発達障害?」と不安になったことはありませんか?
最近、「発達障害」という言葉が広く知られるようになり、子どもの発達に敏感になってしまう方も多いようです。
そんなとき、親はどうすればいいのでしょうか。一緒に考えていきましょう。

専門家:
久保山茂樹(国立特別支援教育総合研究所 上席総括研究員/臨床発達心理士)
中井昭夫(武庫川女子大学 子ども発達科学研究センター教授/小児科医・公認心理師・臨床発達心理士)

同い年の子に比べてできないことが多く、子どもの発達が気になります。

子どもの発達が気になっています。今年幼稚園に入ったばかりですが、同い年の子に比べてできないことが多いと感じています。例えば、着替えのときにかたくなに拒否したり、お風呂を嫌がったりします。理由も分からず、困っています。トイレトレーニングのときに、できない理由をインターネットで調べると、「発達障害」という言葉が出てきました。インターネット上の発達障害のチェックリストを見ると、「手をつなぐのを嫌がる」「着替えができない」「生活習慣が身につかない」など、当てはまる項目がいくつかありました。検索を続けるとますます心配になり、その後も誰にも相談できませんでした。「いつかできるようになる」とよく言われますが、いつできるようになるのか、心配になるばかりです。
(3歳6か月 女の子のママ)

現代の子育て環境は、発達に幅があることを見落としがち。

回答:久保山茂樹さん

本当にいろいろな情報があふれていますので、そういうものに触れて不安になってしまうことも多いと思います。そうした不安は、今の子育ての環境も影響しています。子どもが小さいうちはどうしても孤立してしまい、お母さんと子どもだけの環境になってしまいがちです。本やインターネットを見ると「○歳ぐらいでこれができる」と書いてありますが、実際の発達には幅(個人差)があることを見落としてしまうのかもしれません。特に1人目の子どもの場合には、基準になるものがお父さんやお母さんの中にありませんから、とても心配になってしまうのでしょう。

「その子によって発達のしかたは違う」ということが大事な視点です。

回答:中井昭夫さん

子どもの発達を見るときには、「その子によって発達のしかたは違う」というのが大事な視点です。大人にとっては、この年齢ならこれくらいできるのではないか、もうできてほしいと思ってしまいますが、その当たり前が子どもにとっては当たり前ではないことがあります。子どもの視点に立ってみると、それぞれその子なりの理由が見つかることがあると思います。

子どもの発達が気になったら

解説:中井昭夫さん

まず、子どもの視点に立ってみましょう。
「子どもの視点に立つ」とは、子どもは「大人とは見え方や感じ方が違う」と理解することです。

大人にとっては「なんでもない」ことでも、子どもは「すごく高い」「すごく暗い」などと感じることもあり、「疲れた」「眠い」などいろいろな理由があってできないことがあります。

こういった理由を、言葉でうまく説明することが難しいため、親は、子どもとコミュニーションがとれないと感じてしまうのです。

<発達が気になるときの要因>

  • 感じ方の違い・性格・体調
  • 発達のスピード・苦手意識
  • 引っ越し、入園など環境の変化
  • 発達障害 など

このように「発達が気になるときの要因」には、感じ方の違い、発達のスピード、引っ越しのような環境の変化など、さまざまな理由があり、「発達障害」もそのうちの一つです。

気持ちを切り替えられるよう予告をして見通しを持たせて。

回答:久保山茂樹さん

子どもが行動するには、「納得」が大事です。大人は時間に追われていますから、しなければならないことを早くしてほしいと思うのですが、子どもは遊んでいるときに突然「お風呂に入ろう」「お着替えしよう」と言われても困ってしまいます。もし余裕があれば、ちょっと予告をしておくのはどうでしょう。「そろそろお風呂に入るよ」「あと3回やったらおしまいね」などの声かけをしてみましょう。

楽しくなるような目的をつくってあげるのも一つの方法。

回答:中井昭夫さん

例えば、お風呂の場合には、お風呂に入る前からぬれても大丈夫なおもちゃで遊んでおいて、「じゃあ、この子もお風呂に入れてあげようか」と持ちかけると、「お風呂に入れてあげる!」と、スムーズに移行できることもあります。自分が入るのではなく、「おもちゃのお世話をしてあげる」などの目的があると、お風呂に入るのが楽しくなるかもしれませんね。


大きな音が苦手で、人一倍怖がるので心配しています。

息子は大きな音を人一倍怖がります。そして、その怖がり方が、他の子と違うのではないかと不安です。息子を大好きな戦隊ヒーローのショーに連れていったのですが、始まる前は「すごく楽しみだね」と言っていたのに、大きな音にびっくりしたのか、始まった瞬間に大泣きで、10分もその場にいられませんでした。親としては、「せっかく連れてきてあげたのに、どうしたんだろう。どうして1人だけこんなに泣いているの?」と思ってしまい、すごく悩んでいます。
(3歳8か月 男の子のママ)

大きい音に慣らすよりも、意思を主張できることを尊重しましょう。

回答:久保山茂樹さん

大きな音が苦手な子は結構います。「音に対して敏感」というと、マイナスイメージで捉えられることもありますが、繊細でいい耳をしているということです。私が今まで関わってきた子どもを見ていると、大きな音が苦手な子には、音を聞き分ける力があったり、その力を生かして成長していったりします。無理強いして大きい音に慣らすより、嫌なものは嫌だと言えることが大事だと思います。

「苦手」と捉えるより、子どもが楽しめる工夫をしてみましょう。

回答:中井昭夫さん

子どもによって音への敏感さは違います。思いがけず大きな音が急に聞こえると、それだけで驚いてしまうのは、お子さんだけじゃないと思います。そういう場では、他にも泣いている子はたくさんいますよね。また、音に敏感なら、ちょっと遠いところから双眼鏡で見たり、防音のイヤーマフなどを使ったりして、どうすれば楽しめるかという工夫をしてみましょう。


周りの子に比べて体の動かし方がぎこちない。発達が遅れているの?

保育園のお友達に比べてスプーンやフォークを使うのが苦手です。つい、もういっぽうの手が出てしまいます。階段では、手すりを使い、ゆっくりのぼりおりします。周りの子に比べて体の動かし方がぎこちなく、発達が遅れているのではと心配です。
(3歳10か月 女の子のママ)

子どもの力でできるように環境を整えることが子育ての大事な基本です。

回答:中井昭夫さん

体の使い方は人それぞれで、手先が器用で細かいことをするのが上手な子、大きな運動が苦手な子などいろいろです。また、大人から見ると大したことのない階段でも、その子にとっては見上げるとすごく高く見えます。アスレチックの網のようなところだと、下が透けて見えて落ちそうになったり、怖いと思ったりすることもあります。体の使い方よりも、その状況が子どもにとってどう見えているかということが大事です。

食事のシーンでは、「その子にとって使いやすい道具か?」という視点が大切です。深くてすくいやすい器や、発達段階にあったフォークやスプーンを選びましょう。食材をとりやすいサイズに切るなどの工夫をします。なるべく子どもの力でできるように環境を整えることは、発達障害の有無に関わらず、子育ての大事な基本です。

「苦手」「できない」よりも、「好き」「できる」を育てる。

回答:久保山茂樹さん

お父さん、お母さんたちは、自分の子どものことを一生懸命考えているからこそ、できるはずのことができていないのではないかと気になって当然だと思います。発達障害があるとかないとかに関わらず、子どもの育ちをしっかり見守る姿勢が大切です。特に小さい頃は、「こんなことができた」「これが楽しかった」「もっとやりたいな」という気持ちをたくさん育てたいですね。
親はどうしても、子どもが座るようになれば早くハイハイしないかな、ハイハイすればたっちしないかなと思うわけですが、実際には順調にいかないこともあります。子どもの成長は右肩上がりでまっすぐではなく、階段のように段階的になっています。そして、その階段をいつも順調にのぼっていくわけではなく、平らな部分が長いときもあります。
子どもは、その平らな部分で、一度身につけた力を広げています。例えば、階段をおりられるようになったら、アスレチックの網のところもおりてみようなど、いろいろな形で試しながら力を蓄えています。力が蓄えられてくるとそこでようやく次の階段をのぼっていこうとするのです。あまり焦らず、「今はじっくり力を蓄えているんだな」と思って見守ってあげるといいですね。


発達障害とは?

久保山茂樹さんによると、子どもは階段をのぼるように成長します。

ですが、次のステップに進まず平らな部分があまりに長いと、「発達が遅れている?」「もしかしたら発達障害?」と、不安になるかもしれません。
では、そもそも発達障害とはなんでしょう?

監修:中井昭夫さん

脳科学の研究が進み、発達障害は脳の働き方に原因がある、ということがわかってきました。
発達障害のある人は、生まれつき脳の機能に周りの人と異なっている部分があります。

発達障害には次のようなものがあるとされています。

「気が散りやすい」「じっと座っていられない」など、多動・衝動性が強い「ADHD」。

読み書きや計算など、特定の課題の学習につまずく「学習障害」。

「他人の気持ちを想像したり共感したりするのが苦手」「興味や関心にひどく偏りがある」、「自閉スペクトラム症」が知られています。

こうした発達障害の特性は、重なることが少なくありません。

その他にも「発達性協調運動障害」といった、身体の使い方がぎこちない、姿勢を保つことが難しいという人や、光や音、接触などに敏感な人(感覚過敏)もいて、その特性の強さや組み合わせは人によって違います。

発達障害の診断は、脳波や血液検査だけでは確定できません。
生育歴の聞き取りや、複数の発達検査、発達障害に似た他の病気が隠れていないかの身体的検査などが慎重におこなわれます。
特に乳幼児期は、社会性や対人関係が発達途上のため、診断するのが難しい場合があるのです。


発達障害は乳幼児期には診断が難しいものです。

コメント:中井昭夫さん

乳幼児期は発達障害の診断が難しい場合があります。例えば2歳で「落ち着きなさい」と言われてもそれは無理ですし、他人の気持ちを想像することは難しいですよね。そうしたことができていないからといって、発達障害ではないかと判断するのは早いかもしれません。

どうしても気になるときは、一人で抱え込まず、相談に行ってみましょう。

コメント:久保山茂樹さん

育児がうまく行かないときや、子どもの成長が不安になったとき、ネットを検索すると発達障害のいろいろな診断名や特性などが出てきます。親としてはそうしたものに振り回されるのは当然かもしれません。ただ、チェックリストなどで1つや2つ当てはまることがあるからといって、発達障害だと決めつけることはできません。どうしても気になるときには、そのチェックリストをチェックするのではなく、次のようなところに相談に行ってみてほしいと思います。

まず、地域の保健センターを活用しましょう。乳幼児健診のときに限らず、相談の窓口があります。より専門的な相談には、児童発達支援センターを。子どものふだんの様子を知る保育園・幼稚園にも相談ができます。
健診は子育て支援の場です。お母さんやお父さんが困っていること、つらいことを言える場所です。今、子育てで困っていることを健診で相談してみてほしいと思います。こうした相談の場を使うことで、継続してお子さんの変化を見ていくということができるようになります。子どもの発達は長い目で見てもらうことがとても大事だと思います。

気軽に、かかりつけの小児科医に相談する。

コメント:中井昭夫さん

発達障害というと、どこか専門のところに行かなければいけないと思いがちですが、例えば予防接種や風邪をひいたときなどにいつも診てもらっている小児科医に、「少し発達が気になるのですが」と相談してみるといいと思います。ちょっとアドバイスをもらえることで解決というときもありますし、何回か診ていて、これはちょっと専門病院に行ったほうがいいという判断もしてくれます。かかりつけの小児科医を気軽に利用してもらえばいいと思います。
また、そういうときにはお母さんだけでなく、お父さんも病院や施設に一緒に来てもらい、我が子の様子を把握するために、専門家から直接意見を聞くことも大事です。


子どもの発達で悩む親を支援するための取り組み

困っている親を支えるため、ある取り組みが東京都小平市で行われています。

こちらは、発達が気になる親子を対象に開かれているプログラムです。市内の大学と連携して、遊びながら子どもとの関わり方のヒントを親に伝えています。発達を後押しするオモチャがそろっています。指先が上手に使えるようになった、集中力がついた、などと、喜ばれています。他にも、ワークショップや子育て講座が年間を通して10種類以上あります。

とりわけ特徴的なのが、悩んでいる親に寄り添うプログラムです。
そのうちのひとつ「発達が気になる親同士の交流の場」を立ち上げた、両角さんにお話をうかがいました。

「困ったと思ったときに、ちょっと行ってみようかなと気軽に足を踏み入れられる場所を目指しています。何か気負ったり、どうしようとためらってしまうのですが、最初の一歩で簡単に入ることができれば、そこから必要なところにつながっていくことができます」
(白梅学園大学小平市連携療育事業スタッフ 両角美映さん)

両角さんは、月に2回、公民館で交流会を開催し、障害の診断があってもなくても、子どもの発達に悩む市民であれば参加できる場をつくりました。

その会に通い始めて5年のお母さんは、子どもの発達の不安を抱えているときに、この会の存在を知りました。
「それまで共感してくれる人には出会ったことがなく、ちょっと言ったことで『わかるわかる』と言ってくれますし、同じ経験をしているお母さんたちがこんなに明るく話す場があるんだということに衝撃を受けました」

話題は、地域の子育て事情から医療機関の情報まで多岐にわたりますが、中でも話したいのは、子どもの育ちや不安。
昨年度(2018年度)の参加者は、のべ224名。悩みを抱える保護者の輪は広がりをみせています。
参加した方たちは……

「いろんな情報が聞けてよかったですし、皆さん明るく、発散している。ちょっと楽になりました」
「ここにくると安心します。1人で家にいると悩んじゃうけど、ここで話せば『それわかるよ』と言ってくれるので一番安心します」

同じ思いの親同士がつながることも大切です。

コメント:久保山茂樹さん

子どもが夢中になって遊べる場があるのは、子どもにとっても、お父さん、お母さんにとってもとてもいいと思います。親が1人で抱えてしまうのはつらいことです。専門家や、発達のことをよく知る人が関わってくれることだけでなく、同じ思いの親同士がつながることも大切です。小平市の取り組みは本当にいいですね。まず親がこのようにつながることが一番だと思います。

子育ての先輩の経験なども聞くことができるのはいいですね。

コメント:中井昭夫さん

発達障害の診断に関わらず、気軽に行けるのが一番の強みですね。あとは、私1人だけ、うちの子だけかと思っていたら、「意外とみんなも経験している」ということを子育ての先輩に聞くことができる。とてもいい空間ですね。


専門家から
子どもの発達に悩むパパ・ママへメッセージ

子どもの発達は一人一人違う。「小さな進歩」に目を向けて。

中井昭夫さん

どうしても他の子どもと比べてしまいがちですが、子どもの発達は、子ども一人一人が全部違います。その子が昨日できなかったことが今日できていたり、ちょっと上手になっていたり、そういう小さな進歩を楽しんでいただきたいと思います。
それから、インターネットなどにあるチェックリストでは、できないところをチェックするものになっていると思います。発達障害の特性というのは、その子のごく一部です。その子には、ほかにも、優しい性格とか、よく気が付くとか、いいところがたくさんあるのです。そういう「いいところ探し」をたくさんして、その子の育ちを支えていくことが大事だと思います。

いろいろな人の手を借りて。「子育て」はやり直しもできる。

久保田茂樹さん

親が頑張り過ぎてしまうと、どうしても子どもとの関係がつらくなると思います。子どもに何があったとしても、親だけの責任だと感じる必要はないと僕は思っています。子育ては、いろいろな人の力を借りてするものだし、うまく行かないことがあるのは当然です。うまく行かないときはそこからやり直せばいいんです。失敗したとか、だめな親だなんて思う必要は全くありません。いろいろな人の力を、どうかこれからも借りてほしいと思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです