今回は子どものしつけについて。
「お片づけをしない」「食事のとき、行儀が悪い」「注意すると反発する」
そんなとき、つい叱ってしまうけど、このしつけのしかたでいいの?
何歳からしつけるべき? しつけってどうすればいいのでしょうか?

専門家:
汐見稔幸(東京大学 名誉教授/教育学)
福丸由佳(白梅学園大学 教授/臨床心理学)

上の子と下の子のしつけの基準にぐらつきがあります。

長女は来年小学校に入学です。今は保育園に通っていて、先生から「園ではすごくきれいに食べていますよ」と言われるのですが、家では、食事中にひじをついたり、きちんと座らずに食べたり、食べこぼしが多かったり、途中から遊び始めたりと目につくことが多いのが悩みです。将来のことを思うとつい口うるさく注意してしまいます。家ではゆったりさせてあげたい気持ちもあるのですが⋯⋯。一方で、1歳の妹には甘くなり、上の子と下の子の基準にぐらつきがあります。親は、何についてどこまでしつければいいのでしょうか?
(5歳、1歳3か月 女の子のママ)

上手にできるようになったとき、認めてあげることが大事です。

回答:福丸由佳さん

保育園では上手に食べているということですから、できないのではなく、できるけどやらないということだと思います。また、上の子には少し厳しめになると皆さんよくおっしゃいますので、そういうことを少し意識しておくといいですね。
「お姉ちゃんだからできるだろう」というスタンスではなく、上手に1人で食べていたときに、できていることを認めてあげることが大事です。
例えば、「お姉ちゃんも1歳くらいのころにはまだ一人では食べられなかったけど、今は、一人で食べられるようになったね、お姉ちゃんになったね」などとひと言かけてあげると、やはりうれしいのではないかと思います。

ある程度本人が納得して理解するのは4歳を超えてから。

回答:汐見稔幸さん

何についてどこまでしつければいいのかというご質問がありましたが、それぞれの家には違うしつけの基準があっていいと思いますよ。その中で、公共の場で丁寧にふるまえること、正しくふるまえることは共通の目標だと思います。ただ、「順番を守る」などについては、守ったほうがよいとはいえ、やはりまだ2歳くらいだと「順番」という言葉の意味が分からないでしょうね。
0~2歳くらいのころは、ほんとに基本的なことについては、「うちではダメだよ」ということはしつけるとしても、ある程度本人が「そうだな」と納得して理解するのは4歳を超えてからです。4~5歳になると、自我が発達して人が自分のことをどう見ているかが気になり始め、しつけは子どもに入っていきやすくなります。


しつけのしかたがわからない! どんなしかたでしつければいいの?

下の子が生まれてから、2歳の長男に、つい「あれダメ」「これダメ」と、否定形や怒り口調で注意してしまいます。「椅子に立たないで!」「ジャンプしないで!」「そこ走らないで!」、余裕がないときには「なんでそんなことしてるの!」と強く言ってしまいます。最近は、長男が「ごめんなさい」ばかり言うようになり、さすがに怒り過ぎたのではないかと思い始めています。穏やかに言うにはどうすればいいのでしょうか。どんなしかたでしつければいいのでしょうか。
(2歳7か月、10か月 男の子のママ)

しつけの前に大事なことは、「親子の温かい関係づくり」です。

回答:福丸由佳さん

ママは本当に大変な時期ですよね。すごくよくがんばっていると思います。本当は怒りたくないし、穏やかに言えたらとも思っている。でも、なかなかそうはいかないのですね。
しつけをする前に大事なのは、まず「親子の温かな関係づくり」を意識することです。親としては、良くないところに気がついて注意してしまうのですが、それよりも、気付いて伝えてあげたいことは、子どもが「何気なくできていること」や、「ちょっと頑張っていること」です。ただそれも、1日中は無理ですので、まずは1日5分だけ意識してみてください。

1日5分 意識的に子どもと向き合う

解説:福丸由佳さん

その5分の「意識する時間」は、子どもと遊ぶ時間につくるようにします。
このとき、大事なのは「親が子どものリードについていく姿勢」であること。
さらに、声をかけるときに意識するポイントが3つあります。

1.具体的にほめる。

子どもをほめるときには、どの行動かを具体的に伝えます。

2.会話を繰り返す

子どもの言葉を繰り返したり、言い換えたりしながら、きちんと受け止めて返します。

3.行動を言葉にする

子どもがした悪い行動ではなく、あえて普通にできていることを言葉で表現します。

子どもについていく姿勢で見ていると、「普通にできていること」や「何気なく言っている言葉」に気付くことができます。すると、子どもは気付いてもらえていることで安心し、関係がよくなっていきます。
いい関係ができると、それを土台にしながら子どもに指示を伝えやすくなります。


また、子どもに伝えるときにも、少し工夫すると、子どもは指示に従いやすくなります。

やるべきことを肯定文で伝える

例えば、「椅子の上に乗っちゃダメ」と言われるよりも、「椅子から降りなさい」と言われたほうがわかりやすい。
「乗っちゃダメ」だと、「じゃあ、こっちに移ればいいのかな」「降りてピョンピョンすればいいのかな」と、具体的に何をすればいいかわかりづらいので、してほしいことを肯定文で伝えます。

一度にひとつだけ伝える

してほしいことを伝えるときも、いくつものことを一度に伝えるのではなく、欲張らないことです。
「椅子から降りてね」と伝えて、椅子から降りることができたら、「あ、降りたね」とそこにも気付いて言葉にして伝えます。


いい関係づくりは、一朝一夕にはできません。コミュニケーションの大切さやその理由を考えたり、実践的なロールプレイをしたりしながら、時間をかけてじっくり習得する必要があります。

意識的に子どもに向き合う5分間は、子どもにとって大事な「遊び」の中で。

コメント:福丸由佳さん

意識的に子どもに向き合う5分間は、遊びの中で行うといいと思います。子どもにとって「遊び」は何より楽しく、大事なことですね。その大事なことの中で、親と子、大人と子どものいい関係を築くことがしつけの前提になっていきます。お互いの信頼関係があって初めて、しつけというものができるようになると思います。

10回のうちの1回できたら、「あらできた、すごいねえ」と言うこともしつけ。

コメント:汐見稔幸さん

0、1、2歳の子どもの保育では、否定語、禁止語、命令語は原則として使いません。例えば、子どもに10回お願いをして、そのうちの1回できたら、「あらできた、すごいねえ」と言うこともしつけなんですね。すると、子どもは認められているので、うれしくなります。


きつい口調や厳しすぎるしつけ、人格形成に影響しますか?

仕事終わりなど、イライラしてしまうと、きつい口調になってしまいます。娘が何かをするときに、私の顔色をうかがっているなとわかるときがあります。小学校、中学校、高校と大きくなっていったとき、いつかそれが爆発することもあるのではないかと思うと、今から心配です。
(2歳10か月 女の子のママ)

叱るときは、人格まで否定しない。

回答:福丸由佳さん

親は、こういうことはしてほしくないなど、行動をちょっと変えてほしい、行動を正したいという思いがありますよね。そのとき、子どもの人格まで否定してはいけません。人格を否定するような言葉をたくさん浴びせていると、長期的には影響があるという研究データも最近は出ています。
また、親はその子のモデルになります。怒るというコミュニケーションをずっと見ていると、子どもが「僕も怒れば何とかなるんだ」と学習してしまうこともあります。さらに、「怒るまでは大丈夫だな」とどこかで思ってしまい、悪循環に陥るケースもあります。

親子のいい関係ができていれば、子どもが相対化してくれる。

回答:汐見稔幸さん

人格全体を否定するような怒り方を続けていると、子どもは自信のない子になっていきます。
例えば、子どもがお皿を一生懸命運んであげようと、10枚持って行って、途中で重たくて滑らせてしまいガチャンと割ったとき、「何してんのよっ!」「ほんとあんたはドジなんだから」と連発されてしまうと、どんどん自信のない子になってしまいます。
失敗したときや叱るときは、「そんなにたくさん持てないでしょ」「今度から、3枚ぐらいにしてね。わかった?」など、具体的にどうすればいいかを伝えると子どもも納得します。
また、「いろいろあるけど、ママは僕のこと大事にしてくれている」「大事なときはほめてくれるんだ」というような、親子のいい関係ができていれば、子どもは大きくなっても「うちのママ、厳しいからさ(笑)」という程度で相対化してくれます。


言葉が通じない子どもへのしつけ、どうすればいいの?

うちの子はまだ0歳です。かみついてきたときに「かんだらダメだよ」と口頭では注意しているのですが、理解していないと思います。厳しくしたほうがいいのかなとも思うのですが、まだ言葉を理解していない場合、どのようなしつけや対応をしていけばいいのでしょうか。
(11か月 男の子のパパ)

かんだその子に共感すると、他者に対する共感も育ちます。

回答:汐見稔幸さん

0、1、2歳は、叱られてもその意味がまだよく分かりません。
例えば、保育園で1歳児がほかの子どもにかみついたとします。その子に「ダメだよ。◯◯ちゃん痛いんだよ」と叱っても、その後も何回もかみつくんです。言葉がまだ十分にできないから、かみつくという形でしか表現できない子がたくさんいますから、そういうときは、かみついた子にも共感してあげます。
「◯◯ちゃん、本当は、これ取られたくなかったんだよね。これ大好きだもんね。わかるよ」
「でも、△△ちゃん、大きな声で泣いちゃったから困ったよね」
このような対応をしてあげると、その子の脳に、共感された喜びの回路ができていきます。すると、その回路をほかの人に対して使い始めるようになります。
そういう形で続けていくと、少しずつ理屈が分かるようになり、他人のことを考える力が身についていくに従い、自分が共感された回路を他者に対する共感として使えるようになっていきます。やがて、お友だちをかもうとしても、「あ、かんだら痛いかな」ということを考えることができるようになって、だんだんかまなくなっていくのです。

子ども同士のケンカをすぐ止める家、見守る家。一緒に遊ぶときはどうすればいい?

価値観の多様化が進む今、お互いに確認しあうことが必要になってきています。

回答:汐見稔幸さん

そういうことが問題になってきたのは、この2、30年だと思います。そして、これからさらに問題になっていくと思います。
例えば、東京都のようにいろいろな国の方が住んでいる地域があります。そういうところでは、文化・習慣の違う人たちが入り混じって生活していますので、トラブルが大きくなるのを防いだり、調和して暮らしていくためには、いろいろなことについて説明しなければなりません。
「日本ではこうするのですが、このやり方でいいですか?」など、そういう言い方をしながらお互いの文化を確認し合うことが必要になります。そういうことが当たり前のように必要となる時代になりました。同じ国で生まれ育っていても、価値観が多様化していますから、同じようにお互いに確認し合うことが必要な時代になってきているのではないかと思います。

多様な価値観の中でも、家庭や親子の間では一貫性のある基準や軸が必要です。

回答:福丸由佳さん
そのような多様性もあり、さらにいろいろな基準がある中で、その親子の間ではある程度の基準が必要だとも思います。コロコロ変わってしまうと子どもは混乱しますので、家庭の中で、ある程度一貫性を持つことです。親自身の軸のようなものもありつつ、外の多様な価値観の中で子育てをしていく時代なんだと思います。子どもの行動をしつけたり、社会のルールを教えてあげるときには、親の気分や親の要求を満たすためではないということを忘れないようにしたいですね。


専門家から
これだけは言っておきたいメッセージ

「親子のいい関係づくり」が大事。きつく言い過ぎたと思ったらあとで謝る。

福丸由佳さん

子どもについきつく言ってしまったり、否定的なことを言ってしまうこともあると思います。そこで、「あ、いけなかったな」と思ったら、あとで謝ることもできます。
「さっき、きつく言い過ぎちゃってごめんね」などと伝えると、子どもも「うん、いいよ」と返してくれたり、謝ってもらうことで少し気が済んだりします。「謝りなさい」と教えるよりも、悪いと思ったらあとで謝るというモデルを大人が示すことにもつながります。

しつけがきつすぎると、自分で考えられない人間になってしまう。バランスが大事。

汐見稔幸さん

しつけは、着物を縫うときのしつけ糸と同じで、あくまでも仮縫いです。本縫いというのは「思春期」です。しつけ糸は、本縫いが始まったら抜くわけですから、あまり厳しくしつけていくと、しつけ糸が抜けなくなってしまいますよね。つまり、「自分で考えられない人間」になってしまう。その辺りのバランスが大事だと僕は思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです