“遊ぶことは学ぶこと”とはいうけれど、
「わが子の遊びは⋯⋯、これでも学び?」
「そろそろ小学校のことも気になるし、遊んでばかりで本当に大丈夫?」
成長とともに、新たな疑問や不安が出てきます。
今回は、3・4・5歳 編。小学校入学前の幼児期に、遊びを通して子どもがどんなことを身につけているのか、親は何ができるのかを考えます。
汐見稔幸(東京大学 名誉教授/教育学)
河邉貴子(聖心女子大学 教授/幼児教育学)
わが子の遊び、これでいいの? ひたすらヒーローごっこをしています。
長男が今一番好きな遊びはヒーローごっこです。保育園から帰ってくるとすぐにカバンを置き、「戦うから見てて!」と言って、私は息子が戦っている様子をずっと見せられています。誰かとやりとりするわけでもなく、見えない敵と一人でひたすら戦っているのです。下の子の妊娠中はつわりがひどく、産後もなかなか体力が回復しなかったので、長男と遊ぶ時間がほとんど持てませんでした。だから今でもしかたなく一人で遊んでいるのかなと不安になります。本人はとても楽しそうではあるのですが、こんな遊びで大丈夫でしょうか。
(4歳、7か月 男の子のママ)
ごっこ遊びは、とても知的な活動です。大事にしてあげたいですね。
回答:河邉貴子さん
お子さんが通園していることからすると、おそらく保育園でも、お友達と同じようなことをして遊んでいるのだと想像できますね。家に帰るとお友達がいないので、一人で上手に想像しながら遊んでいるのでしょう。ごっこ遊びはとても知的な活動です。見えないものを想像したり、別の用途のものを何かに見立てたり、自分ではない何者かのふりをしなければできません。これは、動物の中でも人間だけにしかできない精神活動です。
一人で上手に戦うふりをして見えない敵と戦う中で、いろいろなことを学んでいるのだと思います。まず、「ふり」をするために、想像する力、生み出す力が必要です。また、「ヤア!」「トオーッ!」などと声を出して表現する力もありますね。これをお友達と一緒にしていれば、言語の力、社会性なども身についていきます。お子さんの様子を見ていると、ワザを繰り出しても、決して実際にたたいたりしていないですよね。きっと、お友達と遊ぶときにも、寸前で止めていると思います。そこで規範意識も生まれているわけです。ごっこ遊び、大事にしてあげたいですね。
ヒーローになりたがるのは、理想を描く力が育ってきているから。
回答:汐見稔幸さん
4歳の息子さんということですが、これくらいの年齢のころはヒーローごっこをよくします。こういった遊びを好んでする子どもは、自分から進んで悪役になることはありません。たいていはヒーローになろうとします。要するに、世の中にはどうもやっていいことと悪いことがあるとだんだんわかってくるのです。その中で、「自分はいいことをやる人間になりたい」ということを表現しているわけですね。自分の理想を描く力、理想の人になろうとする力、そういう力を鍛えているような気がします。
おままごとなど、わが子の遊びにもっとしっかりつき合うべき?
現在育休中です。二人の娘がいます。3歳の長女はおままごとが大好きで、私が下の子をおんぶしながら食事の支度をしているときなどに、おままごとでご飯を作って「できたよ」と言ってくるのですが、こちらも手が離せないので「はい、いただきます」と言いつつ適当な相手しかしてあげられません。ずっとつき合ってあげる時間はなかなか取れないので、お買い物ごっこもおざなりになっています。
おままごとだと、家事の手を止めてその場で一緒にやらなければいけないし、子どもの中で設定が自由なので、それに合わせて乗っていくのが難しいと感じています。
本当はもっとしっかり関わってあげるべきなのでしょうか。
(3歳、1歳 女の子のママ)
忙しければできることをすればいい。時間が取れるときにゆっくり遊んであげて。
回答:河邉貴子さん
お母さんからすると、食事の支度をしながらの「ながら応答」だと思ってしまうかもしれませんが、お子さんは意外とその応答で満足しているのだと思います。満足しているから、すっと自分のやりたいことに戻って集中できる。そしてまたお母さんのところに、新しく作ったご飯を持ってくる。子ども自身が自分で考えて遊んでいるわけです。
特に日常の忙しいときには、限られている時間の中ですから、できることをすればいいと思います。週末などに少し時間がとれるようなら、ゆったりと時間をとって家族みんなで遊ぶ機会が持てるといいですね。できる範囲で、要所要所をおさえる、という考え方で良いと思いますよ。
ごっこ遊びを支えてあげる関わりを。
回答:汐見稔幸さん
あまり丁寧に応答してあげていると、主人公がいつの間にかお子さんではなく親になってしまうことがあります。これはあまりよいことではありません。ですから、お子さん自身が主人公になっているごっこ遊びを支えてあげる程度の関わりで十分だと思います。
子どもがやりたいことを自由にできる場所「冒険遊び場」
子どもを外で思い切り遊ばせたいけれど、そんな場所があまりないという声も聞こえます。
でも今、子どもがやりたいことを自由にできる遊び場が少しずつ増えています。
それが、「冒険遊び場」です。
今回は、東京都品川区にある「しながわこども冒険ひろば」を取材しました。
子どもたちを見てみると、泥んこ遊びの最中。
楽しそうですが、こんなに汚してしまうと、後が大変そう⋯⋯。
親たちは口出しをせずに遊びを見守っています。
それができるのは、冒険遊び場にいる「プレイワーカー」という遊びの専門家たちの思いに共感しているから。
プレイワーカーの宮里和則さんにお話をうかがいました。
プレイワーカーは、子どもたちの”遊気(ゆうき)”を引き出すための環境づくりをしています。
安全に気を配りますが口出しはせず、子どものやりたい気持ちを応援していると言います。
冒険遊び場では、金づちを使って工作に没頭したり、火を起こし、焚き火にチャレンジしている子もいます。
子どもが自由に遊べる冒険遊び場は、全国におよそ300か所あり(2019年8月時点)、土日を中心に活動しています。
遊びに必要な「三間」、異年齢の子との関わりなど、貴重な環境を確保してくれる。
子ども同士の遊び、大人はどう関わる?
子どもだけではなかなかうまく遊べない、遊びが広がらないときには、大人はどう関わればいいのでしょうか。具体的な場面を見てみましょう。
今回、初対面の5人の子どもたち(3~5歳)の砂遊びの場面を観察してみました。
5人が遊んでいるところに、汐見稔幸さんが入っていきます。
「おじさんも入っていい? 一緒に遊びたいんだ」と言うと、「いいよ」と入れてくれました。
しかし、汐見さんはすぐに一緒に遊ぶのではなく、まずは子どもたちの様子を見守ります。
子どもたちはそれぞれ、「ケーキを作りたい」「電車を作ろう」など、いろいろとアイデアを出し合っているのですが、意見はバラバラで一つの遊びに結びつきません。
15分ほどそのような状態が続き、ようやく一人の男の子のアイデアで遊びの流れが変わりました。
「あ、なんかタイヤがある!」
みんなが協力してタイヤを集めはじめます。そして、タイヤを積み重ねると⋯⋯。
「ねえ、おっきいケーキ作ろうよ!」
子どもたちがイメージを共有しはじめたようです。
子どもたちがイメージを共有できたところで、「じゃあちょっと、おじさんも手伝おうかな」と言って、ようやく汐見さんも手伝いはじめました。
順調にケーキ作りが進むなか、ここでトラブルが起こりました。
バケツの取り合いになってしまい、一人の子が砂場を離れて遊び始めました。
しかし汐見さんはけんかの仲裁もせず、一人ぼっちになった子どもをそっと見守っています。
最後には大きなケーキが完成! 子どもたちは「ケーキ富士山」と呼んでいました。
子どもの遊びは目的が決まっていない。プロセスを楽しむことが大事です。
周りの子は習い事をしているようです。遊びばかりでいいのでしょうか?
比較してはいけないと思いながらも、周りのお子さんがたくさん習い事をしているという話を聞くと焦ります。子どもたちがこれから成長していく中で、遊びばかりでいいのかなという心配があります。
(4歳 女の子、1歳5か月 男の子のママ)
子ども自身の主体的な意欲を大事に。どれだけ豊かに遊べるかを考えましょう。
回答:汐見稔幸さん
昔から日本では、習い事をさせることに対しては関心が高かったと言われています。「数え年で6歳の6月6日から」とよく言われていました。三味線だとか、寺子屋だとか、ずいぶん昔から習い事はあったのです。
ただ、例えば、子どもを英語塾に行かせて英語をペラペラと話せるようにさせたいと乳幼児期から通わせても、子ども自身に「英語を話せるようになりたい」という気持ちが生まれなければ、つまり、本人の主体的な意欲がなければ、ほとんど効果はないといわれています。
習い事を一つさせるくらいは問題はないと思いますが、「遊び」を無駄だと考えず、「どれだけ豊かに遊べるか」を考えながら、これからの小学校生活も送らせてあげてほしいと思います。
専門家から
これだけは言っておきたいメッセージ
「遊んでばかり」は「学んでばかり」。生きていく土台になっていきます。
河邉貴子さん
「遊んでばかり」と心配する方はいますが、「学んでばかり」と心配する親はいません。しかし、遊びの中で子どもは、心も頭もフル回転しています。そういう視点で子どもの遊びを見ると、きっとうれしくなりますね。遊びを通して学んだことは、一生生きていく土台となっていくと思います。
子どもたちは、人と関わる面白さを遊びから知り、育てています。
汐見稔幸さん
人と関わることは大事ですが、これほど難しいこともまたありません。いろいろな感情を持ち、いろいろな性格の人と上手にやっていく。小さいときからいろいろなことを体験することが必要です。特に、共感するという体験をたくさん積み重ねていくことで、人はやっぱり面白い、人と関わるのが面白いという気持ちを育てていくことができます。
※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです