数ある絵本の中から、わが子に合うものをどう選んであげたらいいのか、迷いますよね。
同じ本を何度も繰り返し読みたがったり、なぜか気に入らなかったり。
みなさん、どうやって選んでいますか?
絵本の選び方について考えます。

専門家:
大豆生田啓友(玉川大学 教授/乳幼児教育学)
宮里暁美(お茶の水女子大学 教授/保育学)

子どもと大人、楽しみ方が違う? 子ども心をくすぐる絵本選びのポイントは?

絵本を読んであげると、子どもは、はっきりした色のところをじっと見ていたり、「ぶるるるるるる」など意味がなさそうな擬音に反応してうれしそうにします。私がいいなと思うものと子どもが喜ぶものは違うような気がします。大人にはわからないけれど子どもにはひびくものなどあるのでしょうか。子ども心をくすぐる絵本選びを教えてください。
(5か月の女の子のママ)

言葉のリズムが面白く、繰り返されるフレーズや、シンプルなデザインのものを選んで。

回答:宮里暁美さん

聴覚と視覚という二つのことで考えてみるとよいでしょう。
絵本は、まだ言葉がわからなくても、お母さんの声が柔らかく響くだけで安心して楽しむことができます。注目すべきは、言葉のリズムやくり返されるフレーズです。歌のように耳に響く言葉が赤ちゃんには心地よいようです。
ご質問の中にあった「ぶるるるるるる」などは、大人にとっては謎の言葉でも、音自体として体に響いてくるので、反応したり、楽しそうにしたりするのだと思います。赤ちゃんをあやす時に、「アバババ」と言うと喜ぶのと同じです。
視覚については、体内にいた時は暗かったので、生まれてきてから発達していくのですが、あまり細かく描き込まれたものではどこに焦点を当てていいか分からないので、シンプルで分かりやすく、はっきりとしたデザインのものが向いていると思います。

親子でやりとりができる絵本を。

回答:大豆生田啓友さん

聴覚と視覚の他に、もう一つ、やりとりが面白い絵本というのが実はたくさんあります。絵本を見ながら、あるいは読んであげながらお母さんやお父さんと子どもが、つい絵本を通してやりとりしたくなるような絵本がすごく大事だと思います。

年齢別 おすすめ絵本

大豆生田さんと宮里さんに、年齢別でどのような絵本がおすすめなのか、例をあげて教えてもらいました。

0〜1歳 『ぽんぽんポコポコ』(長谷川義史 作・絵)

大豆生田啓友さん

この絵本には、「ぽんぽん」のような破裂音の言葉が多く、読み聞かせると赤ちゃんの耳に音が飛び込んでくるので、興味を引きます。「ぽんぽん」「ポコポコ」のような繰り返しの部分で、子どもとのやりとりも楽しめます。また、絵がシンプルなので、まだはっきりものが見えない赤ちゃんにも分かりやすいと思います。

1〜2歳 『かおかお どんなかお』(柳原良平 作)

宮里暁美さん

子どもは、「顔」にとても興味があります。この絵本には、いろいろな顔が出てきます。
楽しい顔、悲しい顔、笑った顔、泣いた顔いろんな顔が出てきます。表情に共感できるようになるのは少し大きくなってからですが、まねっこしながら、親子で楽しめると思いますよ。

2〜3歳 『どんどこ ももんちゃん』(とよた かずひこ 作・絵)

大豆生田啓友さん

簡単なストーリーがわかるようになったら、登場人物に自分を重ね合わせて読めるような絵本がおすすめです。この絵本は、2歳前後の子どもたちが大好きな絵本の一つです。
自信満々に、あれもしたいこれもしたいと動き出し、失敗して涙が出てしまったり、お母さんにだっこしてもらったり、そういう登場人物の気持ちを自分に重ねて楽しめるようになります。


どうしたら子どもが絵本に興味を持ってくれる?

娘のために絵本をたくさん用意したのですが、好きな絵本が一冊もありません。絵本を読み聞かせようとしてもすぐにどこかへ行ってしまったり、ページをどんどんめくってしまったりします。私は絵本は大事だと思うのでお気に入りの絵本を1冊でも見つけてほしいのですが・・・。どうしたら絵本に興味を持ってくれるのでしょうか?
(1歳9か月の女の子のママ)

子どもが見ているところに注目して、同じ気持ちになってみる。

回答:宮里暁美さん

お子さんが、絵本の何を見ているのか、何を楽しんでいるのかをよく観察してみましょう。
そのページに描かれている絵そのものに興味があるのかもしれません。じっと見ているときに次のページに進んでしまうと面白くなくなってしまうこともあるのでしょう。物語を楽しんだり、登場人物の気持ちになったりできるようになるのはもう少し先かもしれませんね。
そのお子さんが「見ていないところ」ではなく「見ているところ」、「していないこと」ではなく「していること」に注目すると、「へえ、それ面白いんだね」と、同じ気持ちでいることができ、その子と心が一つになるような感じがしてくるはずです。
お気に入りのページはじっと見るけれど、違うページになると閉じるというのは、立派なことです。「もうおしまいにする」という大事な意思表示だと思います。そうしたら、「ああ、おしまいね」と言って、あそこのページが好きだったんだなと思って終わりにしましょう。

絵本を読むことは、子どもにとってどんな意味があるの?

絵本を読むことの3つのポイント

回答:大豆生田啓友さん

1.親子のコミュニケーションツール
絵本は親子のコミュニケーションツールとしてとても重要だということが盛んに言われています。小さい頃にお父さんやお母さんに読んでもらって楽しかったなという記憶や、その人から愛されたという実感として残っていきます。

2.想像力をつちかう
人は現実の中でいろいろな嫌な思いもします。しかし、そのときに物語の世界を持っていることが、現実を力強く生き、何かを生み出す力になるのだと考えられています。

3.学ぶ意欲につながる
小さな頃に読み聞かせをしてもらうことで、その後の学ぶ力や学ぶ意欲につながっていくといわれています。
ここで注意しなければいけないのは、勉強させるために絵本を無理に読み聞かせることは逆効果だということです。絵本を読みたくなり、学ぶ意欲につながるのは、あくまでも楽しいから。無理に読み聞かせられると、「また絵本を読まされるのか。嫌だなあ」と思うようになってしまうかもしれません。「絵本で遊んじゃおう!」という気持ちで、親子で楽しんでくださいね。


年齢に合った絵本のほうが子どもは楽しいの?

絵本の後ろに、「読んであげるなら3歳から」などと書いてあるのですが、今2歳3か月の子に4歳児向けの文章量が多いものを読むと喜んで聞いてくれることがあります。全てを理解しているとは思わないのですが、年齢に合った理解しやすいものを読んであげるほうが、子どもは楽しいのでしょうか。
(2歳3か月の女の子のママ)

絵本の年齢表示はあくまでも目安です。

回答:大豆生田啓友さん 

年齢表示は、あくまでも目安と考えて良いと思います。つまり、初めて選ぶ時に、「これぐらいかな」と選ぶ目安です。
ご質問とは逆の場合もあり、3~4歳になって赤ちゃんの絵本を好むお子さんもいます。その場合、親としては「もう少し年齢に合ったものを読ませたい」と思うかもしれませんね。
しかし、同じ絵本を見ていても、私たちが思うよりも高度に楽しんでいる可能性があります。赤ちゃんの頃はただじっと見るだけだったものが、一枚の絵を見ながら、本当はどうなっているんだろうと空想しているかもしれません。
実際に本人が楽しんでいるかどうかを見てあげてください。


知っていますか? ブックスタート

ブックスタートは、赤ちゃんの健診などの機会を利用し、絵本をプレゼントする活動で、全国の自治体の事業として広がっています。
読書に力を入れているという埼玉県の三芳町(みよしまち)では、4か月児健診で保健センターを訪れた親子に「ブックスタート」に参加してもらっています。

図書館のスタッフが親子に2冊の絵本を読み聞かせ、気に入った1冊をプレゼントしています。
さらにこの町では、2歳半になった段階で「ブックスタートプラス」も実施。
“2歳からが絵本を楽しめる黄金期“とも言われているそうで、この時期の子どもたちにも絵本を読んでもらいたいと手渡ししています。

図書館の館長、代田知子(しろた・ともこ)さんにお話をうかがいました。

「ブックスタートプラス」を始めた目的は絵本に遠ざかってしまった親子にもう一度、面白さを伝えるためでした。そんな努力のかいがあってこの図書館には、親子連れがたくさん訪れるようになり、絵本の貸し出しが増えました。
はじめた頃は、「絵本どころじゃない」と言われそうで不安もありました。
親御さんは、健診にお子さんを連れてくるだけでも大変なんですよね。とくに4か月児健診は授乳とか忙しくてくたくたにくたびれているけど、私たちが読む絵本を一緒に見てもらうと、親御さんが楽しくなるんですよ。夢中で笑ったり、本当に幸せそうにしている。そうすると、実際には子どもに読んでいるんですけど、親御さんに読んでいる感じもするんですね。
最近では、絵本を借りに来るパパも多くなりましたし、「ブックスタート」でプレゼントした絵本を試しに読んだのがきっかけでいろいろな本に興味を持ったという親子も増えています。
(代田知子さん)

代田さんたちは、絵本をきっかけに家族のコミュニケーションが増えることを願っています。
皆さんも家族で図書館に足を運んで、絵本から始まる子育て、楽しんでみませんか。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです