子育てには「ほめること」と「叱ること」がつきものですよね。ちょっとできただけでも、ほめすぎてしまったり、ほめてあげたいのについ注意してしまったり…。そんな「ほめる」と「叱る」のバランスについて考えます。

専門家:
岩立京子(東京学芸大学 教授/発達心理学 幼児教育学)
汐見稔幸(東京大学 名誉教授/教育学)

ほめるより注意をしてしまう。もっとほめてあげたほうがいい?

娘は、どちらかといえば自分のことは自分でできるので、ほめてあげたい気持ちがあるのですが、子どもができることや、やろうとしていることをほめるより、そのとき気になったことを叱ってしまいます。例えば、ひとりでパジャマに着替えることができているのに、パジャマのリンゴ柄を見て「リンゴいただきま~す」と言って遊びだしたり、自分で手を洗うことができているのに、水で遊びだしたりした時、つい叱ってしまいます。もっとほめてあげたほうがよいのでしょうか?
(2歳8か月の女の子をもつママより)

考えさせるような言葉がけを

回答:岩立京子さん

パジャマのリンゴ柄で遊ぶところは、とても想像力が豊かですね。そんなときは「パジャマを着てからのほうがゆっくり食べられるよ」と声をかけて、ママも遊びに参加して着替えを促すのもよいでしょう。
手洗いのときに遊んでしまうときは、ただ「早くしなさい!」と注意するより、「お水がもったいないから早く洗おうね」といった言葉がけをしてみましょう。すでに自分で手を洗う力は身についているので、子どもに考えさせるような言葉をかけることで学んでくれると思います。また、ほほ笑んだりうなずいたりしながら言葉をかけるとよりよいでしょう。

「最初に共感を伝える」をルールにする

回答:汐見稔幸さん

子どもに注意をするときは「最初に共感を伝える」ことをルールにしてはどうでしょう。例えば、バジャマで遊んで着替えないとき、まずは「おもしろいことを見つけたね」と声をかけて、子どもの気持ちへの共感を伝えます。その後に「でも早く着たほうがいいよ」と付け加えるのです。

子どもの遊びに共感して、一緒に遊んだりしても、なかなか遊びが終わらないときはどうしたらいいでしょう?

共感が伝わっていれば親の言葉を聞いてくれる

回答:汐見稔幸さん

子どもに共感が伝わっていれば、ママから「時間があまりないのよ」と言われたときに、子どものほうも考えてくれると思います。成長にしたがって、親の都合や気持ちも考えられるようになってきますので、大丈夫ですよ。

子どもの行動にイライラしてしまい、うまく気持ちを切り替えられず、共感を伝えることができない場合はどうしたらいいでしょう?

部屋に鏡を置いて自分の顔を見る

回答:汐見稔幸さん

イライラしたときは「大きく息を吸って」と言いますが、余裕がない場合もありますよね。そんなときは、部屋に鏡を置いてみてください。そして、何か言ってしまいそうなときに、鏡で自分の怒っている顔を見るのです。そうすると、どんな表情を子どもに見せているのか、客観的に気づくことができます。また、みなさんはまわりにたくさんの大人の目があると、そこまで怒ることがないと思います。鏡は、その大人の目の代わりにもなるのです。鏡を見ると、「これはいけない」と感じて、“共感の言葉から始めよう”と落ち着いて考えることができるかもしれません。


ほめ過ぎると自分からやらなくなる? ほめ続けていい?

私は、子どものほめるポイントを見つけて、できるだけほめてあげるようにしています。例えば、ご飯がなかなか進まないときは、少しでも食べたことをほめています。ですが、最近ほめ過ぎではないかと悩むようになりました。ほめ過ぎて、過剰に「自分はできる」と思ってしまうのではないかと心配です。ほめられることでやる気を出してくれていると思う一方で、ほめられないと自分からやろうとしないのではないかと思うこともあります。このままほめ続けていいのでしょうか。
(2歳8か月の女の子と4か月の男の子をもつママより)

ほめられることが自立につながる

回答:岩立京子さん

ママやパパが無理をしているのではなく、自然に子どものよい部分を探してほめることは、とてもよい関わり方だと思います。また、ご飯を食べないときに、子どもをほめて「食べよう」という気にさせてもよいと思います。多くの場合、子どもはほめられることで、徐々に何がよいのかの判断基準を身につけ、それが自立につながります。

親がちょっとしたことで子どもをほめていると、子どもが何でもよいと思うようになりませんか?

少し難しい課題へのチャレンジを促す

回答:岩立京子さん

そのような傾向を感じたら、子どもにチャレンジを促してみましょう。「もうちょっと〇〇をやってみる?」「ママと一緒にやってみよう」のように、子どもにとって少しだけ難しい課題を提案してみるのです。子どもの成長の機会だと前向きに考えて、親子で取り組んでみてください。

安易にほめると「ほめ待ち」になることも

回答:汐見稔幸さん

子どもをほめて、やる気にさせたり、「こうやればいいんだ」と目安を示してあげるのは、とてもよい方法だと思います。ただし、必要のないときに安易にほめてばかりだと、子どもがほめられるのを待つ「ほめ待ち」になる場合もあります。「ほめ待ち」になると、かえって子どもの行動を縛ってしまうことがあるので注意しましょう。

自分で納得して困難を乗り越えることが自己評価につながる

回答:汐見稔幸さん

ほめることは、子どものよいところや、できることを見つけてあげることでもあります。子ども自身が気付いていなくても、ほめることで伝えてあげる。そのように、子どもを観察してよく見てあげることが大事です。でも、ほめられたことが、そのまま「自分はできる」という自己評価になるわけではありません。自己評価は、自分で納得して困難を乗り越えることで感じることができるのです。

ほめ過ぎると、子どもは「親は何でもほめてくれる」と感じて、わがままになりませんか?

大事なときに叱ることができるのであればよい

回答:汐見稔幸さん

子どもが成長してくると、心がこもっていないただほめているだけというほめ方は見抜くようになるかもしれません。でも、それは大きな問題ではありません。大事なときに「叱る」ことができないほうが問題なのです。ときには「それは、やってはいけないんだよ」と、きちんと叱ってあげることが必要です。ほめるだけでは、育ちに偏りができてしまいます。

大人でも「ほめられて伸びる」という人もいます。人によって違うのでしょうか?

人によってタイプが異なる

回答:汐見稔幸さん

人は、ほめられるとうれしくなるので、ほめられて伸びる側面があると思います。ほめることは基本的に大事なことです。ただし、その人の性格によって、どう感じるかは異なります。それは子どもも同じです。「ほめられれば、どんどん伸びる」というタイプの子もいれば、「自分のペースでやりたい、介入してほしくない」という子もいます。叱ってあげるほうが伸びる子もいます。ですので、子どもがどんなタイプなのか見抜いていかなければなりません。


ほめるときに「えらいね」など決まった言葉ばかりになる

子どもがお手伝いできたときや、歯磨きが上手にできたときに、意識的にほめるようにしています。ですが、いつも「えらいね」「すごいね」といった、ワンパターンな言葉になってしまいます。どのように声をかければいいのか、ポイントなどがあれば知りたいです。
(1歳7か月の男の子をもつママより)

子どもが成長したら内容をほめてあげる

回答:岩立京子さん

「すごいね」「えらいね」といった言葉は、子ども全体を、存在そのものをほめる言葉です。子どもが小さいころは、それでもよいとされています。ですが、子どもが成長してできることが増えてきたら、「歯磨きが上手にできたね」「お手伝いありがとう」など、全体ではなく、子どもがやった内容をほめてあげましょう。その点を意識すれば、ワンパターンではなくなると思います。

叱るときも具体的な内容で

回答:汐見稔幸さん

子どもをほめるときに、子どもがしたことの内容でほめることは大事なことです。それは叱るときも同じです。「もっと注意して!」のような具体的な理由がない叱り方をすると、子どもは何を注意すればよいのかわかりません。叱るときも、子どもが何をすればよいのかわかるように、具体的な内容を伝えるようにしましょう。

ほめることは可能性を見つけてあげること

回答:汐見稔幸さん

ほめることは、子どもに隠れている「可能性」を見つけてあげることだと思います。「こんなことができるようになったね」のように、子どものよいところや、おもしろいところ、可能性があるところを見つけて、伝えて、うまく自信につなげてあげる。極端な例を上げれば、「昨日はあんなに叱られたのに、今日は元気でたくましいね!」といったことでもよいのです。


すくすくポイント
子どもの年齢によってほめ方の違いはあるの?

子どもの年齢によって、ほめ方に違いはあるのでしょうか。
幼稚園(東京学芸大学付属幼稚園)の先生たちに、3~5歳までの子どもたちをどのようにほめているのか聞いてみました。

3歳「できるだけほめる」

3歳までは、「(洋服などを脱いだときに)袖をひっくり返してるから、あとで着やすいね。すごいね」「○○ちゃんが泣いているよって教えてくれてありがとう」のように、できるだけほめてあげます。子どもたちが自主的にやったことなどをほめて、安心感を与えるようにしています。

4歳「子どもの発想をほめる」

4歳になると、子どもが作ったものや、遊びの中で、本人が工夫した部分や頑張ったと思える部分をみて、その発想をほめるようにしています。子どもの「ここを見てほしい」というポイントを考えています。

5歳は「人間関係を認め伝える」

5歳になると、友達関係ができてくるので、友達から認められることも、とてもうれしいことだと思います。そのため、子どもたちをほめてあげたいとき、そのことに友達が気付けるような声かけをしています。例えば、独りぼっちでいた子に声をかけてくれた子がいたら、「〇〇ちゃん、やさしいね」と声をかけた子ではなく、声をかけられた子にさりげなく伝えるのです。


3歳まではなるべくほめる、4歳はその子の発想をほめる、5歳は子どもたちの人間関係のよさや、その子が友達から認められていることを伝える。先生たちは、子どもの発達に応じて言葉がけを工夫しているんですね。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです