赤ちゃんと2人きりで過ごすとき、どうしていますか? 毎日、同じことの繰り返しで大丈夫? まだ言葉もわからないのに、どう声をかければいい? そんな、どう子どもと過ごせばよいのかわからないママ・パパたちへ、親子で過ごすときのヒントを紹介します。

赤ちゃんと2人きり どう過ごす?※すくすく子育て「赤ちゃんと2人きり どう過ごす?」より

専門家:
汐見稔幸(東京大学 名誉教授/教育学)
岩佐寛子(日本助産師会/助産師)

子どもと2人の生活に変化がないけど、これでいいの?

長男が6か月になり動きが活発になってきましたが、毎日同じことの繰り返しで変化がありません。子どもの発達のために、このままでいいのか悩んでいます。子どもがものを握れるようになれば握るおもちゃで遊ばせたり、近所をお散歩して「オレンジ色の柿があるね」と声をかけたり、変化があるように心がけています。それでも、いつも私と2人だけの遊びで退屈ではないかと心配です。育児書には「赤ちゃんのころから刺激を与えた方がいい」と書かれているし、どんどん成長する大事な時期に、もっといろいろな遊びをした方が、子どものためになるのではないかと不安です。
(6か月の男の子をもつママより)

刺激を与えるより、子ども自身の興味を大切に

回答:汐見稔幸さん

子どもにいろいろな刺激を与えてあげようとしても、子ども自身が興味を持っていないこともあります。小さいころは、情報を処理できることも少ないのです。その中で、風の音を静かに聞いているなど、子どもが何かに興味を向けていることがあります。そのとき、親がいろいろなことを言ってしまうと、かえって子どもへの刺激が妨げられる場合もあります。
たくさんの刺激を与えないといけないと考える必要はありません。子どもを見守り、「今、何か気になっているのかな。いい顔しているな」と感じることができれば、それでいいと思います。

繰り返すことで、先を見通す力が身につく

回答:汐見稔幸さん

同じことを繰り返すことで、子どもは徐々に「これ」が終わったら「あれ」が始まるなど、先を見通す力が身についていきます。実は、同じことを同じリズムで繰り返してあげることも、子どもにとっては大切なのです。

スキンシップが子どもに安心感をもたらす

回答:岩佐寛子さん

子どもがうれしそうな表情でいるなら、それで十分だと思います。ママが「刺激を与えないといけない」と焦る気持ちもわかりますが、今は、親子の時間を大事にすることを考えてみてはいかがでしょう。
それでも迷ってしまうときは、スキンシップをするといいでしょう。だっこしてあげたり、くすぐってあげたり。歌いながら子どもの手足を動かしてあげることも、よいスキンシップとなります。スキンシップをすることで、子どもに安心感をもたらすのは、とても大事なことなのです。

赤ちゃんとの遊び3パターン

視聴者のみなさんから、「まだ小さい赤ちゃんと、どう遊んでいいのかわからない」という意見がたくさん寄せられました。例えば、「遊びも歌もマンネリで子どもが退屈していないか不安」「遊びの幅を広げてあげたいが、どうすればいいの?」などです。
汐見稔幸さんによると、この時期の遊び方には次の3つのパターンがあるといいます。

①声や体を使った遊び

ママ・パパの声や体を使った遊びです。赤ちゃんをくすぐったり、手遊び歌で遊んだりします。

②おもちゃを使った遊び

次に、おもちゃを使った遊びです。おもちゃといっても特別なものは必要ありません。簡単にできる手作りおもちゃでいいのです。

③自然を利用した遊び

最後に、自然を利用した遊びです。散歩のときに空を見たり、ひなたぼっこをするだけでも子どもにとっては十分な遊びになるのです。

保育園では、赤ちゃんとどう遊んでいる?

保育園でも、この3つのポイントをおさえた遊びをしているそうです。青戸福祉保育園(東京都)の0歳児クラスの様子を見せていただきました。

子どもたちが遊ぶおもちゃは、手作りのものや、手に入りやすいものを使っています。

例えば、「ゴムホース」を切ったものです。容器を叩いて音を出すなどして遊びます。ゴムホースは柔らかいので、安心して遊んでもらえます。

他にも、キッチンで使うボウルなど身近なものを使います。頭にかぶせて遊んだりします。

「わらべうた」に合わせてリズムをとる遊びも大好きです。歌に合わせて、輪っかを頭に乗せたり、落としたりして遊んでいました。この輪っかも、新聞紙をねじって輪にして粘着テープで巻いて作った、手作りおもちゃだそうです。
この保育園では、安全で、“遊び方が決まっていないおもちゃ”を使っているといいます。子どもたちが自由にイメージして、いろいろな遊びができるようにしているのです。

天気のよい日には砂遊びをします。自然を利用した遊びです。子どもたちは、砂の感触や、砂の形が変わる様子に興味津々になっていました。泥んこになると洗濯の心配はありますが、ときには五感を育む自然で遊ぶのもいいですね。


どう子どもに声をかければいいの?

私は子どもへの声かけが苦手です。マイペースな性格で、子どものテンションに合わせて「わ~すごいね!」と言ったりできません。どう声をかけたら子どもが楽しいのかわからず、気の利いた言葉があまり出てきません。そのため、娘と2人で過ごすときは、どうしても静かな時間が長くなってしまいます。子育て支援センターに出かけると、声かけが上手なママを見かけます。擬音を使ったり、褒めてあげたり。そんなママたちと比べると、私はできていないなと悩んでしまいます。
(1歳の女の子をもつママより)

パパに話しかけるような自然な声かけでいい

回答:岩佐寛子さん

ママのように「子どもにどう話していいのかわからない」と悩んでいる方から相談を受けることはよくあります。そんなときは「パパに話しかけるような、自然な声かけでいいですよ」と答えています。パパに「おはよう」「今日はいい天気だよ」と声をかけるような気持ちで、子どもにも話してあげればよいのです。ママから自然と出てくる言葉で、優しく見守ってあげてください。

親子の気持ちが通じ合うことが大事

回答:汐見稔幸さん

ママ・パパと赤ちゃんの気持ちが通じ合うことが大事だと思います。子どもがよい気持ちでいるとママも気持ちがいい。その感情は、どこかで通じ合っているものです。言葉がなかったとしても、子どもの目をしっかり見てあげたり、子どもに合わせて手足を動かしたりすることで、十分通じ合えるのです。親子の気持ちが通じ合うことで、子どもの心の大事な部分がきちんと育っていきます。
その上で、声をかけることは、気持ちを伝えやすくしたり、言葉を学ぶためのひとつの練習だと考えてみましょう。例えば、食事のときに「はい、ご飯だよ。おいしいね」と言っていると、「これは『ご飯』なんだ『おいしい』なんだ」と、学んでいくこともあります。無理に声をかける必要はなく、自然に出てくる言葉でよいのです。単語のように短い声かけでも十分です。


子どもの1人遊び。親子2人で遊んだ方がいいの?

子どもが10か月になり、1人遊びが増えてきたのですが、一緒に遊んであげた方がよいのか迷っています。1人で遊ぶより、親子2人で遊んだ方が、子どもがより多くのことに気づけるのではないかと思っています。でも、1人遊びで得られるものもあるのではないかと気になっています。
(10か月の男の子をもつママより)

1人遊びは探求心の芽生え

回答:岩佐寛子さん

1人遊びは子どもの探求心の芽生えです。いろいろなことに関心を持って「これは何だろう」「どうなっているんだろう」と「探求」しているのです。とても大事なことなので、見守ってあげましょう。
子どもが遊んでいるうちに何かがあれば、声を出したり泣いたりして、必ず助けを求めてきます。そのときに、「どうしたの?」と反応してあげると、子どもは「困ったときは、ちゃんと応えてくれる」と感じて、安心の土台となっていきます。安心の土台があれば、子どもはさらなる「探求」へと進んでいくことができると思います。

親子の2人遊びは、子どもの1人遊びのお手伝い

回答:汐見稔幸さん

子どもの「遊ぶ力」は、基本的には「1人で遊ぶ」方向に発展していきます。1人で遊べるようになったことは、大きな進歩なのです。
子どもが小さいころは、おもちゃの使い方を教えてあげるなど、大人が手伝ってあげることもあります。このとき、大人は2人で遊んでいると思っていても、実は子どもは1人で遊んでいる感覚なのです。大人が子どもの1人遊びを手伝っていることになります。その後、子どもが自分でできるようになると、いろいろなことを試しながら一生懸命に遊びます。そうなると、子どもの世界に他者は入ってこないのです。

ごっこ遊びなど、相手がいると楽しい遊びは付き合う

回答:汐見稔幸さん

子どもが2歳ぐらいになると「ごっこ遊び」をするようになります。この遊びは、1人で遊ぶより相手がいる方が楽しいので、相手をしてあげるとよいでしょう。子どもが1人遊びとは違う遊びができるようになったことを喜んでよいと思います。
今は、お子さんがようやく1人で遊べるようになってきた段階ですので、あたたかく見守ってあげましょう。


他の子どもたちとの関わりが少なくても、子どもの社会性は育つの?

娘がもうすぐ1歳になりますが、私は専業主婦なので、保育園に通わせる予定はありません。また、いつも児童館に行くわけではないので、娘は他の子どもたちとじっくり関わる時間が多くありません。そのため、社会性が育ちにくいのではないかと不安です。
(11か月の女の子をもつママより)

誰かが助けてくれるという経験が、他者との関わり方をよくする

回答:汐見稔幸さん

0~2歳のころは、人と関わる基礎力を身につける時期だということがわかってきています。この時期、親子の関わり方も大事なのです。例えば、子どもに何かあったときは「大丈夫?」と声をかけたり、つらいことがあったら必ず抱きしめてあげる。こういったことを無条件に繰り返していると、子どもは「何があっても助けてもらえる」と感じて、やがて親ではない他者に対しても「自分の味方なんだ」という感覚を持つようになります。この経験が他者に対する信頼感の下地となり、3~4歳になったとき、人と上手に関わっていけます。これが社会性となるのです。この意味では「自分は愛されている」という感覚を育てることが、いちばん大切になってきます。
小さいころにたくさんの子どもたちと関わるだけで、社会性が育つわけではないのです。


子どもと一緒に過ごせる時間が少ない、どう関わればいい?

半年ほど前から、子どもを保育園に通わせて、私は職場復帰をしました。仕事を再開したことで、子どもと一緒に過ごせる時間が少なくなり、短い時間でどう子どもと関わればよいか悩んでいます。例えば、夕方に子どもを迎えにいき、帰宅が6時ごろ。食事を作り、ご飯を食べさせ、お風呂に入れ、その後は子どもが眠くなるまで一緒に遊ぶなどして過ごします。夜一緒に過ごせる時間は、帰宅して寝るまでの1時間半ぐらいになります。朝も1時間ほどしかありません。子どもがもっと遊びたそうにしているときもありますが、時間がなく、子どもがやりたいことに応えてあげられていないと感じています。
パパは朝が早く、子どもが起きる前には仕事に出かけます。帰ってくる時間も子どもが寝た後になることがほとんどです。
(1歳5か月の女の子をもつママより)

疲れているときは「疲れた」と言っていい

回答:岩佐寛子さん

限られた時間で尽力されていると感じます。疲れて満足に子どもの相手ができない日も当然あると思います。そんな日は、「今日は疲れているから、ゴロンしながら一緒に遊ぶね」といった関わり方でもよいと思います。すると、子ども自身が疲れたときに、「疲れた」と言葉にするなど、気持ちを表現できるようになるのではないでしょうか。

接する時間の長さではなく、子どもがどう感じているか

回答:汐見稔幸さん

子どもと接する時間が短いからといって、問題があるわけではありません。子どもの中に確実に欲求不満がみられたら対応すればよいのです。子どもが楽しそうであれば大丈夫です。ママも、誇っていいほどの頑張りようだと思います。

子育ては母親1人ではなく、いろいろな人が関わるもの

回答:汐見稔幸さん

子育ては、母親1人でするものではなく、いろいろな人が関わるものです。パパは、仕事がある日は難しいかもしれませんが、休日はパパとしかできない遊びなどをしてあげてください。また、帰宅してママと楽しく遊べるのは、保育園での生活に満足しているからだと思えます。
関わる時間が少なくて、子どもに「ごめんね」と思う必要はありません。むしろ、「ママは頑張っているよ」と言ってあげる方がよいと思います。親が一生懸命に生きていることは、子どもに伝わるものです。


すくすくポイント
保育士さんの赤ちゃんとの関わり方

番組「すくすく子育て」には、赤ちゃんとどう関わればよいのか悩んでいるというお便りが多く寄せられました。では、保育の現場ではたらく保育士さんは、子どもたちとどう関わっているのでしょうか?
青戸福祉保育園(東京都)にうかがって、実際の様子を見せていただきました。

1人の人間として関わる

保育士は、赤ちゃんであっても大人と同じ「1人の人間」として関わっていました。何か伝えるときは、目を合わせて、否定的な声かけをしないように心がけているそうです。

動作や気持ちを言葉にする

子どもたちの動作や気持ちを、できるだけ言葉にしてあげるそうです。例えば、子どもがカップにものを入れて遊んでいたら、「あ、入ったね。カタカタ鳴っているね」と言葉をかけます。
まだ言葉の意味がわからなくても、言葉にしていくことで、次にどうなるのか見通しができたり、気持ちが通じやすくなるのです。

見守ることも大事

保育士は、いつも子どもに声をかけて、構っているわけではありません。多くの時間は子どもを見守っていました。

例えば、この男の子はブロックを繋げられずに不機嫌になっていましたが、保育士はただ見守っています。子どもが何かをしてほしいときは、子どもから言ってくるので、そのときに受け止めてあげるそうです。
その後、男の子は何度も移動しながらブロックに挑戦していましたが、保育士は子どもの様子がわかる位置に移動しながら「くやしいね」と子どもの気持ちを言葉にしてあげていました。

そして、男の子がブロックを繋げることができたとき、「できたね。よかったね。がんばったね。」と褒めていました。保育士は、必要なとき以外は手を出さず、子どもがやりとげる姿を応援していたのです。

適度な距離感で見守ることが、子どもと関わるときのヒントになるかもしれません。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです