子どもが成長してくると、言葉を使っていろんなやり取りができるようになります。でも、「ママが悪い!」「パパ嫌い」などと言われ、イラッとして子どもの言葉に冷静に対応できないこともありますよね。
そんな、親子のコミュニケーションについて専門家と一緒に考えます。

専門家:
福丸由佳(白梅学園大学 教授/発達臨床心理学)
井桁容子(保育士)

親子のコミュニケーションで気をつけることは?

コミュニケーションには「親の目線」と「子どもの目線」がある

回答:福丸由佳さん

親子のコミュニケーションはとても大切で、よいコミュニケーションをとることは大事です。ですが、親がよいと思っていても、必ずしも子どもにとってもよいとは限りません。コミュニケーションには「親の目線」と「子どもの目線」があると考えてください。

幼児期は自分を表現することが大切

回答:井桁容子さん

コミュニケーション力とは、自分を抑えて相手に合わせる力だと考えがちですが、実は、幼児期では自分の思いを表現することが大切です。そして、自分の思いを聞いてもらえた経験が、人の話を聞くことにつながります。


「パパ嫌い」と言う娘と、どうコミュニケーションすればいい?

最近、私(パパ)と5歳になる娘で過ごすことが多くなりました。妹が生まれて、ママが妹のお世話で忙しいためです。ですが、娘とのコミュニケーションで悩んでいます。例えば、お風呂に入ろうと娘を誘っても「パパと一緒だと、ダメばっかり言うからイヤ」と言います。私がいろいろと「○○しなさい」と言うことが嫌なようです。ある日の朝は「もうパパとはあいさつ以外話さない」と言い出したこともありました。ふだんは仲がよいのですが、ことあるごとにぶつかってしまいます。特に忙しくて時間がないときは、どうしてもいろいろと言ってしまい、「パパ嫌い」となってしまいます。
ママは、「パパが過保護だから、娘は甘えている。私には甘えない。」と言います。それでも、娘から否定的な言葉を言われると戸惑ってしまいます。楽しく生活できるようにうまくコミュニケーションをとりたいのですが、どうすればよいのでしょうか?
(5歳の女の子をもつパパより)

「パパ嫌い」の背景にはいろいろな気持ちがある

回答:福丸由佳さん

映像でみると、お子さんはパパのことが大好きなんだと思います。そして、「嫌い」や「イヤ」という言葉の背景には、いろいろな気持ちがあるはずです。パパのことが大好きだからこそ「もっと遊びたい」「こうしてほしい」「今はひとりでいたい」といったいろいろな気持ちをぶつけることができるのではないでしょうか。「嫌い」という言葉に、そういった気持ちが集約されていると思います。

嫌な言葉には変化球で返す

回答:井桁容子さん

子どもからの否定的な言葉や、思いがけない言葉をかけられたときの対応の練習になると思ってみてはいかがでしょう。例えば、否定的な言葉を直球で受けて、直球で返すのではなく、変化球で返すようにしてみる。「パパ嫌い」と言われたら「パパは大好きなのに残念だな。好きになったら教えてね。それまで待つよ」などと返してみてください。このような切り返しは、日常生活や仕事のコミュニケーションにも役立つと思います。

時間がないときは、子どもにわかりやすい肯定文で

回答:福丸由佳さん

時間がない状況で、子どもに言うことを聞いてほしいときは、子どもにしてほしいことを肯定文で伝えるようにしましょう。「時間がないから、そんなことしていたらダメ」といった否定文で言ってしまうと、子どもは素直に聞こうとしなくなります。例えば、「お風呂の時間だから、おもちゃを片付けよう」と、子ども自身が何をすればよいのかを伝えます。子どもにとって、具体的で、わかりやすいことからはじめていきましょう。

徹底的に待ってあげる日をつくる

回答:井桁容子さん

パパに余裕があるときに、徹底的に子どもを優先して待ってあげる日をつくってみてください。「パパは待ってくれた」という経験が、パパへの信頼となって積み重なっていきます。すると、子どもは「パパはとことん付き合ってくれる。でも、忙しいときは私に急いでほしいんだ」と考えるようになります。子どもは、積み重ねた信頼に、必ずこたえてくれるのです。


子どもの言葉にイラッとしたとき、感情的になってしまう…

息子は、何かがうまくできなかったときに「ママのせいだ!」と怒ります。そう言われると、私もイラッとして感情的な言い方をしてしまうことがあります。感情的にならずに対応する方法があれば知りたいです。
(5歳の男の子をもつママより)

ママのせいにするのは、ママを頼りにしているから

回答:福丸由佳さん

「ママのせい」だと言われると、「ママには関係ないでしょ」と言いたくなってしまいます。ですが、「ママのせい」という言葉がいちばんに出てくるのは、ママが子どもにとって近くて大事な存在であるからだと思います。困ったことがあったらママが頼りなのです。

否定的な言葉を言われたら、ひと呼吸おく

回答:福丸由佳さん

否定的な言葉を言われたときは、ひと呼吸おいてください。「ママのせい」と言われてもすぐに言い返さず、ひと呼吸おいて「そうかぁ、ママのせいだと思っているんだね」と受け止めてあげる。すると「そうだよ、だってね…」と、その理由を子どもなりに話してくれるかもしれません。
また、ふだんから子どもが上手にできたときには「すごいね」と声をかけていると、自分に関心を持ってくれていると伝わり、子どもは安心すると思います。

誰かのせいにするのではなく、一緒に考えようと促す

回答:井桁容子さん

子どもがうまくできなかったときに誰かのせいにしてしまうのであれば、気持ちを切り替えて見方を変えることができるように「ママと一緒に解決方法を考えよう」と提案してみましょう。このとき、解決できるモデルを見せてあげてもよいし、解決できなくても一緒に考えるだけでもよいのです。同じような場面がきたとき、誰かのせいにする前に、他の方法があるかもしれないと考えるくせをつける練習になります。今後、お友だちとの関係や学校など、このような問題が起こる機会はたくさんあります。そんなとき、子どもはママが一緒に考えてくれたことを思い出して、考えてみよう、やり直してみようと思えるようになるのです。


子どもが大人の会話を遮って自分の話をしてしまう。どう対応すればいい?

5歳になる娘は、大人同士が話しているとすぐに割って入ってきます。例えば、夫婦でふつうに相談していただけなのに「ケンカしてる!ケンカしないで!」と言ってきたり、娘にわからない言葉が出てくると「○○って何?」と質問攻めがはじまったりします。夫婦の会話がいつも途中で終わってしまうほどです。このように、子どもが大人の会話を遮ってしまうときは、どう対応するのがよいでしょうか?
(5歳の女の子をもつママとパパより)

人間には「関心を引きたい」という気持ちがある

回答:福丸由佳さん

人間は社会的動物です。誰かに見てほしい、気づいてほしい、関心を引きたいという気持ちがあります。それは大人も子どもも同じです。お子さんが会話に入りたいと思うことは自然なことだと思います。

緊急を要する相談など、子どもの相手ができないときは、どう対応するのがよいでしょうか?

「待っててね」と伝えて、子どもが見通しをつけられるように

回答:福丸由佳さん

子どもの相手ができないときは、「今はママとパパで大事な話をしているから、ちょっと待っててね」と伝えます。このとき、子どもにも待つ時間がわかりやすいように、「時計の針がここにくるまでね」と付け加えるなどの工夫をしましょう。子どもが見通しを持てるようにしてあげるのです。
そして、大事な話が終わった後、子どもに「何が言いたかったの?」と急かさないでください。「お待たせ。よく待てたね。今度は話を聞くよ」と、待てたことをきちんとフォローしてあげると、子どもは頑張ったかいを感じで、「待つことも大事」だと学ぶ機会にもなります。

保育の現場だと、いろいろな子どもたちから話かけられると思います。どうしていたのですか?

自分の思いを受け止めてもらえる確信が持てれば待つことができる

回答:井桁容子さん

子どもは、自分の思いが受け止めてもらえる、聞いてもらえるという確信が持てると、静かに待つことができるようになります。ですので、最初は子どもが話したいことを聞いて、“聞いてもらえる”という確信を持たせてあげます。それが1~2分の時間でも、聞いてもらえると感じれば、子どもは聞いてもらった時間を他の誰かにあげられるものなのです。


まだ言葉で話せない子どもと、どうコミュニケーションすればいい?

11か月の娘を育てています。まだ言葉を話すことができないため、どう対応すればよいか悩むことがあります。例えば、楽しそうに遊んでいるときに、急に泣いたり叫んだりしても、理由を聞くことができずに困ってしまいます。そんなときはどうすればよいのでしょうか?
(11か月の女の子をもつママより)

赤ちゃんの気持ちを想像しながら言葉をかける

回答:福丸由佳さん

まだ言葉が出ていない子どもにとって、泣くことは大事なコミュニケーションです。泣くことで、何かに気づいてもらったり、何かをアピールしたりしています。親は、子どもがどうして泣いているのか、その気持ちを想像してみてください。そして、想像した気持ちをなぞるように「これが欲しかったんだね」と、子どもの気持ちを言葉にしてあげましょう。
とはいえ、何を思っているのか検討もつかないこともあるでしょう。そんなときは、「ママも困ったよ、泣きたいんだねぇ」とあやすだけになるかもしれません。ですが、そうやってコミュニケーションが少しずつできていくと思います。
あるいは、眠いけどまだうまく自分でコントロールできないなど生理的な原因で泣いていることもあると思います。

共感する言葉をもらうとその言葉を身につけていく

回答:井桁容子さん

子どもは、何かを伝えたいと泣いているとき、共感する言葉をもらうと、その言葉を身につけていきます。例えば、何かを欲しそうなときに「“とって”だったの?」と声をかけたりすると、次第に子どもから「とってー」と言うようになります。ですので、気持ちをわかってくれる大人がいると、子どものコミュニケーション力が高くなるのです。子どもが泣いているときは、泣きやませようとするより、「そうかそうか、嫌なことがあったんだね」など、気持ちをわかってあげようとすることが、子どもの心の育ちにつながっていきます。


子どもに幼稚園のことを話してもらうには?

息子に「幼稚園どうだった?」と質問しても、「楽しかったよ」など、答えがひと言ぐらいしか返ってきません。もっといろいろと知りたいのですが、どうすれば話をしてくれるようになるのでしょうか。
(5歳の男の子をもつママより)

子どもがリラックスしているときに

回答:福丸由佳さん

子どもは幼稚園から帰ってすぐは、疲れているのでホッとしたいと思います。そんなときに「今日はどうだった?」と聞かれると、少し待ってほしいと思うかもしれません。でも、親としては話を聞きたいし知りたい。そうであるなら、聞いてみるタイミングに気をつけてはいかがでしょう。お風呂の中で子どもがリラックスしているときなど、話しやすい時間帯に聞くとよいかもしれません。

質問をしないで待ってみる

回答:福丸由佳さん

大人が聞きたいことと、子どもが話したいことが違うこともあります。子どもが話したいことを聞いてみてはいかがでしょうか。例えば、子どもから話してくれたことに「そうだったんだね」と興味を示すのです。「楽しかった」のひと言も、「楽しかったんだね。よかったね」とこたえれば、子どもから「それでね」と話が続くこともあります。質問するのではなく、子どもに共感して待ってあげるとよいかもしれません。

子どもの思いを尊重すると話してくれることも

回答:井桁容子さん

幼稚園でのことを知るには、子どもから話を聞くより、帰ってきたときの表情をみることが大事です。楽しそうにしていたり、なんだかいつもより元気がなかったり。特に子どもは全身に感情が出てくるので、まずは表情や動きをみてください。
いつもと少し違うなと感じたら、子どもが話したくなる雰囲気を待ってみましょう。すぐに聞くより、待ってあげるほうが本当の思いを聞けます。うれしいことなら、がまんできずにあふれ出るはずです。話したくないことでも、しばらく待ってあげると、2日後ぐらいに「この前ね」と話してくれることもあります。話すと叱られるかもしれないと思っていたのかもしれません。
親のほうから「子どもをわかりたい」と強引に入っていくより、子どもの思いに気付けるようにしましょう。子どもにも自分の思いがあります。それを尊重して、子ども全体の様子でみてあげたほうが、結果的に話もしてくれるようになると思います。


すくすくポイント
ママたちに聞いた「子どもに言われてうれしかった言葉」

わが子と話ができるようになると、イラッとすることもあるけど、ほっこりすることや、うれしい気持ちになることもありますよね。
そこで、ママたちに「子どもに言われてうれしい気持ちになった言葉」を聞いてみました。

レストランでデートしてあげる
テレビで高級レストランのおいしそうな料理を見ていたとき、「お金がないからママは食べられないなぁ」と話していたら、子どもが「大きくなったらママをレストランに連れて行くよ。デートしてあげるよ」と言われてうれしかったです。
(6歳の男の子のママ)

いつも送り迎えありがとう
息子は剣道に通っていますが、「今日はいかない!」と騒いで連れていくのが大変だったり、「お母さんバカ」と言われてカチーンときたり。でも、練習の後に「今日の僕、かっこよかったでしょ。がんばったよ」「いつも送り迎えありがとう」って言われると、連れていってよかったなと思います。
(5歳の男の子のママ)

ママはおれが守る
子どもが寝るときに、頭をなでるという儀式をしています。それで頭をなでていると、「ママ大好き」「ママはおれが守る」と言ってくれました。きっとどこかのセリフをまねたのだろうと思いますが、単純にうれしいですね。
(5歳の男の子のママ)

ママ今日かわいいね
私が髪型を変えたときや、ちょっとマニキュアを塗ったときに、娘がまっさきに気づいてくれます。「ママ今日かわいいね」「かわいいから私も同じにしたい」と言ってくれたときはうれしかったです。
(5歳の女の子のママ)

お母さんは筋肉があってすごいんだよ
スーパーの品出しの仕事をしているのですが、なかなかの力仕事で、腕の筋肉もすごくついて、それを子どもに「すごいでしょ」と言っていたんです。すると、たまたま子どもがお友だちと帰っているときに「うちのお母さんはこんなに筋肉があってすごいんだよ」と自慢していたので、ちょっとうれしかったですね。こういうところもよろこんでくれるんだなって思いました。
(5歳の男の子のママ)

言葉が増えていろんなやり取りができるようになると、赤ちゃんのころとは違ったうれしいコミュニケーションも増えるんですね。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです