いま注目されている「非認知能力」。遊びで育まれるって知っていますか? いつからどんなことをすればいいんでしょうか?
「非認知能力」について、教えてもらいます。

専門家:
遠藤利彦(東京大学大学院教授 発達心理学)
河邉貴子(聖心女子大学教授 幼児教育学)

「非認知能力」って、どんな力?

「非認知能力」とは、どういう力なのでしょうか。教えてください。

IQなどでは測れない心の力

回答:遠藤利彦さん

「非認知能力」には、大きく2つの力があります。まず、自尊心、自己肯定感、自立心、自制心、自信などの「自分に関する力」。そして、一般的には社会性と呼ばれる、協調性、共感する力、思いやり、社交性、良いか悪いかを知る道徳性などの「人と関わる力」です。これらの力は「社会情緒的スキル」ともいわれ、乳幼児期に身につけておくと、将来に渡って幸せな生活を送ることができるといわれています。日本の幼児教育では、もともと心の教育を大切にしてきました。近年、測ることができる能力(読み書きや計算といった知育教育など)が重視されがちでしたが、最近になり、「非認知能力」が注目されるようになったのです。

心の土台となるもの

回答:遠藤利彦さん

非認知能力は、“心の土台”のようなものです。土台がぐらついていると、小学校や中学校で重たい教育を乗せられたとき、支えきれずに自分のものにできません。乳幼児期にしっかりと土台を作っていれば、きちんと積み上げていくことができる。そのような意味だと考えてください。

遊ぶことで自然に身につく

回答:河邉貴子さん

子どもたちが遊んでいるとき、すごくうれしそうですよね。子どもたちはおもしろい遊びを発見すると集中します。遊ぶことによって、自然に主体性や意欲や頑張る力などが身につけていくのです。それが非認知能力です。


非認知能力を育てるには、いつから、どんなことをすればいい?

私は元保育士で、子育ての知識は多いほうだと思いますが、「非認知能力」ということばに少し戸惑っています。何を学ばせて何を身につけさせれば正解なのか、いつごろからはじめるものなのか、日常的に取り入れるものなのか…。
非認知能力を育てるためには、いつから、どんなことをすればよいのでしょうか?
(9か月の女の子をもつママより)

夢中で遊べるように、子どもが安心できる環境を

回答:遠藤利彦さん

非認知能力を育てるには“遊び”が大切です。そして、子どもが夢中になって遊ぶためには、安心感に包まれていることがいちばんの前提条件だと思います。家の中に、安心基地や困ったときの避難所があると、不安から解放されて、好奇心の塊のようになって遊ぶことができると思います。

学ばせるではなく、自分で身につけていく

回答:河邉貴子さん

非認知能力は、学ばせるというよりも、子ども自身が遊びの中から学んで身につけていくものだと思います。“遊び”とは、おもしろいと興味を持ったものに自分から近寄って、夢中になって、いろいろ試しながら世界を知っていく行為です。親は、一緒に楽しんで、共感してあげることが基本になるのではないでしょうか。特別なことをするのではなく、ふだんの関わりや生活の中に遊びがありますので、毎日接することが大事だと思います。

関わっていることが大事ということでしたが、ただ遊ばせればいいのですか?

子どもが自分から関わることを大事に

回答:河邉貴子さん

誤解を恐れずに言えば、ただ遊ばせればいいのですが、子どもが本当に興味を持ったものに、自分から関わることを大事にしてください。そういった“遊びの質”がとても大事になると思います。


非認知能力を育むために、どんな遊びをすればいい?

「非認知能力」ということばを知り、子どものためによい遊びは何か試行錯誤しています。パズル(タングラム)を与えて、声かけをしながら遊んだりしていますが、ちょっと難しいようでイライラして、私が教えてあげることもあります。自分で考えて遊ぶのがいいのか、本人が楽しそうならいいのか、それが非認知能力に活かせるかわからない場合もあります。非認知能力を育むためには、どんな遊びをすればいいんでしょうか?
(2歳9か月と11か月の女の子をもつママより)

やりたいという気持ちが“遊びの質”を高める

回答:河邉貴子さん

子どもは、自分ができたことを土台にして、自分から次の課題を見つけます。ちょっと難しいことに挑戦したいわけです。そんな“やってみたい”という気持ちが“遊びの質”を高めます。遊んでいたパズルは、お子さんにとって少し難しかったのかもしれませんが、できないときに焦って答えを教えてあげるより、「難しいね」と子どもの気持ちに共感してあげるとよいのではないかと思います。

パズルができなくてイライラしたとき、がんばらせてあげることが非認知能力を伸ばすことにつながりますか?

一生懸命取り組めたという体験が重要

回答:遠藤利彦さん

乳幼児期の段階では「○○ができるようになった」という達成度より、子どもがおもしろがって一生懸命取り組めたという体験が重要だと思います。失敗も悪いことではありません。失敗を通していろいろなことを学びますので、手助けをして、イライラを解消してあげることを急がなくてもよいのではないでしょうか。失敗しても、子どもが夢中で何かをしようとしているなら、先回りせず、じっくりと構えて子どもに関わっていくことが大切だと思います。


親は子どもの遊びにどう関わればいい?

子どもは遊びを通して世界を広げていくといいます。では、親はどのように遊びに関わるのがよいのでしょうか。1歳6か月の女の子が遊ぶ様子を見ながら、そのヒントを教えてもらいました。


木琴のおもちゃで遊んでいますが、叩いて音を出すのではなく、小さな穴にバチの棒を入れるのが楽しいようですね。その後、バチの端と端を合わせることに興味を持ったようです。このように、いろいろと発見しながら遊んでいきます。
(河邉貴子さん)

ママが「トントン」と言って、木琴を鳴らすことを教えてあげましたが、子どもはまだバチの端と端を合わせることに興味があったようです。もう少し、その遊びを続けさせてあげてもよかったかもしれません。
(河邉貴子さん)


ここで、ママが手作りおもちゃを出してあげました。ペットボトルのふたを2つ貼り合わせ、中にお米を入れたものです。

この手作りのおもちゃは、とてもいい工夫ですね。すくってみたり、積み重ねたり、いろいろと試すことができるおもちゃは子どもの想像力を膨らませ、遊びを広げていきます。
(河邉貴子さん)

木琴に、ペットボトルの手作りおもちゃを落として音を鳴らしていますね。木琴でいい音が出ることを知っていて、その経験と手作りおもちゃを組み合わせているんです。
(河邉貴子さん)

今度は、木琴を引っ張って遊びだしましたね。大人には「木琴は叩くもの」という固定概念がありますが、子どもにとっては、バチを穴に入れてみたり、ゴムを引っ張ってみたり、いろんなことができるおもちゃに見えるのです。遊び方を決めつけないで、子どもがおもちゃに関わって、どんなことを発見していくのか見守ってあげるのがよいと思います。
(河邉貴子さん)

うれしい気持ちに共感する

回答:河邉貴子さん

何かができたときや、おもしろいことを発見したとき、ママのところにきて、とびきりうれしそうな顔をするときがあります。その瞬間がとても大事ですので、「よかったね」「できたね」と声をかけて、子どもの気持ちに共感してあげましょう。

どのタイミングで、気にかけてあげたり、手を出してあげたりすればよいですか?

危ないときや、何かを求めているときに手助けする

回答:河邉貴子さん

ひとつは、危なそうだと思ったときです。
また、子どもが遊んでいるとき、満足すると興味が次へ移りますが、飽きてくるとおもちゃを投げるなど、ものの扱いが乱雑になることがあります。そのようなときは、何かを求めてサインを出しているので、手助けしてあげるタイミングではないかと思います。他のおもちゃを出したり、同じおもちゃでも違う遊びかたを見せてあげたりしましょう。
子どもは、少し難しいことに挑戦したがります。例えば、穴にものを入れる遊びをしていて少し飽きてきたなと思ったら、穴の大きさや入れるものを変えるなど、チャレンジ精神がわくように環境を少し変えてあげましょう。

「見守る」場面と「手を出す」場面は、どうバランスをとればよいですか?

子どもの応援団になって、遊びを支える

回答:遠藤利彦さん

子どもの応援団になって、後ろからエールを送る存在になりましょう。例えば、子どもがこちらを見たときは、にっこりほほ笑んであげる。これもエールを送ることになります。「見守る」ことも、ただ見るだけではありません。子どもの遊びを黒子として支えてあげることも大切です。遊び相手にならなくても、おもちゃを手作りしてあげるなど、楽しく夢中になれるような環境をセッティングしてあげる。このような気構えで、お子さんの遊びを見守るスタンスがすごく大事だと思います。
そして、お子さんが「これ教えて」などのシグナルを発信してきたときは、きちんと答えてあげましょう。でも、容易に答えを与えるのではなく、「難しいね」と子どもの気持ちに共感して、一緒に考えて、深めていく。そのような答え方を心がけるとよいのではないかと思います。


子どもに接する時間が少ないと、心の育ちに影響はある?

私とパパは共働きで、子どもを保育園に預けています。そのため、子どもに接する時間が少なくなってしまいます。そのことが心の育みに影響するのか心配です。
(1歳1か月の女の子をもつママより)

週末にたっぷり子どもと関わる

回答:河邉貴子さん

非認知能力を育むためには“遊び”が大事になりますが、保育園ではたくさん遊んでいると思います。たくさん遊んでいるから、かえって家ではほっとしたいのかもしれません。パパもママも仕事で疲れていると思いますので「それぞれの場所で、今日は楽しかったね」とみんなで落ち着く時間を持ってみてはどうでしょうか。子どもとたっぷり関わるのは週末だけでも十分だと思います。無理をして特別な場所におでかけしなくても、身近な公園でいいと思います。道端で何かを拾うだけでも、子どもにとってはすごく楽しいことです。

保育園、幼稚園、こども園でも「非認知能力」を意識した教育をしているんですか?

家庭と園、2つの世界の橋渡しを

回答:遠藤利彦さん

2018年4月に「幼稚園教育要領」や「保育所保育指針」が新しくなり、その中に明記された「幼児期の終わりまでに育って欲しい10の姿」の約7割が「非認知能力」に相当するものになっています。もちろん、子どもは家庭と園の2つの世界で生活していくので、子どもの様子など、保育士の先生たちとの連絡を密にしながら2つの世界をうまく橋渡しできると、さらに子どもの発達がより健康な形で進んでいくと思います。


非認知能力と性格に関連性はある?

子どもには、気にしすぎる性格の私よりも、マイペースでおおらかなパパに似て欲しいと思っています。非認知能力と性格には、関連性があるのでしょうか?
(2歳の女の子をもつママより)

生まれながらの性格は大事にする

回答:河邉貴子さん

非認知能力に、社会性も人間力も高い完璧な人をイメージしているのかもしれませんね。子どもは、生まれながらの気質・性格を持っています。それは、規定されるべきものではなく、その子なりのいい側面なので、まず大事にしてあげないといけないと思います。

それぞれの性格に合った非認知能力がある

回答:遠藤利彦さん

例えば、引っ込み思案なお子さんであれば、どんな非認知的な心の力があればよいだろうかと考えてみてください。それは、人前で話をしたり、少し自己主張したりするようなことかもしれません。それぞれの気質・性格に合った非認知能力が身についていくと、よりお友だちと遊べたり、いろんなものに興味を持って粘り強く頑張れたりといったことにつながるのではないかと思います。親はそのために何かをするというより、頭の片隅に置いておく程度でよいと思います。


すくすくポイント
「ごっこ遊び」は子どもの世界を広げる

IQなどでは測れない心の力「非認知能力」は、子どもが大好きな「ごっこ遊び」を、楽しみながら遊んでいるうちにも高まるといわれています。誰かになりきることで、人の気持ちを想像するなど、いろいろな力が身についていくのです。

おもしろがって遊び、広げていくことで、創造性・社会性・操作性なども身につくといいます。

ごっこ遊びの見立て

ごっこ遊びを構成するのは、さまざまな“見立て”です。

自分のなりたい役になり、そのふりをする、役割見立て。

目の前にあるものを別のものに見立てる、モノ見立て。

おうちやお店、基地などの、場見立て。

これらの見立てが連動して、ごっこ遊びが深まっていくのです。

親はごっこ遊びにどう関わる?

大人は、ごっこ遊びにどう関わればいいのでしょうか?

まずは、環境作りです。どこに何があるかがわかりやすいと、子どもが自分の意志でものに関わりやすくなり、遊びに集中できます。

また、子どもは身近な人や出来事をまねしたがります。いろいろなイメージが膨らむように、お出かけしたり、絵本を読んであげたりしましょう。

そして、子どもが求めてきたら相手をしてあげることです。簡単なやりとりでも、子どもはとっても楽しくてうれしいんです。

ごっこ遊びの相手をやめるときは?

でも、ずっと遊びの相手をするのは大変ですよね。
そんなときは、子どもの世界観を邪魔しないように、その場から離れましょう。

「次の配達に行きま~す」「クマさんのお店に買い物に行くね」など、うまく役になりきって声かけできるといいですね。


夢中になることで、いろいろな力がつく「ごっこ遊び」。
ときどき、子どもと一緒に楽しんで、遊びの質を上げるお手伝いをしてみましょう。


専門家からのメッセージ

親のまなざし・共感が子どもの生きる糧に

子どもの力を伸ばしてあげようと焦る必要はありません。子どもと同じ目線になって一緒に楽しんでください。一緒に楽しんでくれたときの、親のまなざしや、共感してもらえた・受け入れてもらえたという気持ちが、その子の生きる糧になっていきます。子どもとの生活を楽しむことがいちばんなのです。
(河邉貴子さん)

当たり前のことを、ふつうにすればよい

子どもには、当たり前のことをふつうにやってあげましょう。特別な働きかけをしてあげることが親や大人の役割だと思いがちですが、当たり前の部分を改めて確認してみるといいと思います。
(遠藤利彦さん)

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです