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バス120年も…首都圏でも深刻 運転手不足のいま

  • 2023年9月20日

こちらの写真、明治時代のものとされるバスです。
9月20日は「バスの日」で、ことしは日本でバスが明治36年の9月20日に走り始めてからちょうど120年とされる節目です。バス業界はコロナ禍での乗客減少や燃料高に加え、「2024年問題」というものにも直面し、運転手不足にも悩まされています。
さらに、運転手不足は、地方に限らず、首都圏でも実は深刻になってきているということで、バス会社を取材しました。

※バスや鉄道など、公共交通の現状や課題を取材しています。皆さんの体験や意見をこちらまでお寄せください。
(首都圏局/記者 後藤茂文)

バス会社の「2024年問題」とは?

最近、経済ニュースで「2024年問題」という言葉を聞く機会が増えています。
ドライバーの働き方改革、労働環境の改善のため、2024年度から改善基準告示の改正、つまり労働規制の強化が行われることになりました。

バス運転手の年間の労働時間の上限が現在の3380時間から3300時間に引き下げられます。
さらに、退勤から出社までの休息時間が現在の「8時間」から「11時間が基本、最低9時間」となります。
これは、運転手の労働環境の改善にはつながりますが、一方で、いままでの路線を維持するにはより多くの運転手を確保する必要があります。
日本バス協会によると、2030年にはバスの運転手が36000人不足すると試算しています。

都内のバス路線は…

運転手不足だけでなく、人口減やコロナ禍での乗客減少を受け、全国のバス会社で減便や路線の廃止といった、厳しい事態が相次いで発生しています。
人口が集中している首都圏でも、実は少しずつ減便などの変化が起きつつあります。

 

本数が減って、待ち時間が延びてます。

 

路線が統合されたりとか、しかたないと諦めています。

都内では、乗客の減少などで運休し、使われなくなったバス停も出てきました。
都営バスはこの春、全体の4分の1余りにあたる36路線で減便を実施しました。
バスの減便は地方だけでなく、東京23区でも進んでいるのです。

どうする人手不足 東急バスは…子会社と合併

大手のバス会社も、厳しい状況に直面しています。
東京と神奈川でバス路線を展開する、東急バス。

担当者の
中嶋さん

こちらが私が作っている勤務表の資料になります。

この営業所では、2か月前から勤務表の作成を始めます。有給の取得希望などで、どれだけ運転手が足りなくなるか確認します。人繰りが厳しい日は、勤務変更や休日出勤ができる人を探し、なんとか必要な人員を確保します。

 

赤字が9ということで、この日は9人足りない。なので、人を集めていて11人協力いただいて、というふうに1か月分やりくりします。

 

東急バス目黒営業所 中嶋明夫 助役補佐
「運転手は高齢化し、年々少なくなっている状況です。有給の希望は極力実現させて休みやすい状況を作って、ただ仕事をしてもらうときは仕事をする、そうした環境を作らないと、勤務表は作れません。営業所運営は厳しく、日々の勤務の穴埋めは大変です」

東急バスは、人手不足を少しでも改善しようと子会社との合併を決めました。
事業拡大を目指し、25年前に分社化された東急トランセ親会社からの路線バス運営の委託も含め、主に都内で事業を営んできました。
来年度に予定している合併で、採用活動を一本化し、運転手を確保しやすくする狙いがあります。

東急バス 秋山勝久 企画部長
「乗務員不足の対応は以前から考えていて、実は合併については3年前に実施の予定でしたが、コロナ禍で今のタイミングになりました。応募人数については、2015年くらいと比べると約半分程度になっています。高校生の新卒を採用し、大型2種免許を取ってもらう取り組みをしても、まだ人手が足りない。公共交通の使命を帯びてますので、人員不足で路線を減便するとか、欠行させるのはあってはならないと思ってます」

どうする人手不足 京浜急行バスは…目立つ採用キャンペーン

人手不足の状況をさらけ出して危機感を訴えることで運転手を集めようとするバス会社もあります。神奈川の大手、京浜急行バスは最大で数十人の運転手不足を懸念しています。
この夏から、運転手の採用に社を挙げて乗り出しました。

訴えたのは「人財不足で、このままではヤバい」
率直に厳しい現状を伝え、SNSなどで話題にもなりました。
全600両余りの路線バス車内に運転士募集のポスターを掲示。

さらに、親会社・京浜急行の列車で、車内広告すべてをバスの運転手職員募集で埋めるというキャンペーンも打ちました。こうした取り組みもあって、これまでは参加者がほとんどいなかった日もあった採用説明会に、多いときで十数人が来るようになりました。
それでも、まだまだ運転手の確保は必要だといいます。

京浜急行バス 人事労務課 玉井純 課長補佐
「『ヤバい』のキャッチフレーズは多少強かったかなと思うところもあるんですが、人手不足が首都圏でも厳しい状況だと知っていただきたいというねらいがございました。引き続き当社の新しい仲間を募集していきたいので、また新しい施策というのを考えていきます」

バス業界トップが語る

あの手この手の対応がとられているものの、業界団体は2030年度には3万6000人の運転手が不足するという試算をまとめていて、事態は深刻だとしています。
今回、バス業界のトップ、日本バス協会の清水一郎会長に、単独インタビューを行いました。

日本バス協会 清水一郎会長
「コロナ禍でもバスは走り続けましたが、協力金はありませんでした。令和2・3年度の2年間で、全国の路線バスは4000億円の赤字が積み上がりました。乗客数はコロナ禍前には戻っていませんし、この大赤字は10年や20年では取り戻せません。海外だと、公共交通を担うのは国や自治体、公的機関が中心ですが、日本は民間企業が中心です。もし国内の公共交通を公営化したら、もっとばく大な金額の税金を使って運営することになります。民間が踏ん張っているので、もう少し国や自治体の支援をいただきたい」

人手不足がますます厳しさを増す見通しの中、バス業界は、企業レベルでは対応に限界があると言います。バスやタクシーなどの業界団体は、外国人がバス運転士として働けるよう制度改正の検討が必要だと訴え、国も検討を始めました。

「運転手の待遇改善、賃上げにはどうしても運賃の値上げが必要です。燃料など、コスト全体が上がっている中、待遇改善による人手不足解消はまったなしの状態です。2024年は物流の問題と言うより、バスの方が深刻で、路線の維持が厳しい。運転手確保が間に合わないという中で、外国人運転手を模索しています。バスだけで無く自動車運送業全体で、門戸を開く、対応していくしかないと考えています」

8月は鉄道の話題を取り上げましたが、今回のバス業界も人手不足に悩む現状を、取材を通して再認識しました。短期的には解決できない課題ですが、バス会社や自治体、そして乗客も協力して公共交通を支えることがますます重要になりそうです。

鉄道やバス、そしてタクシーや飛行機といった公共交通について幅広く取材しています。公共交通を利用したり交通の現場で働く皆さんから気づいたこと、ご意見を募集します。ぜひこちらの投稿フォームよりお寄せください。

  • 後藤茂文

    首都圏局 記者

    後藤茂文

    2012年入局。津局、大分局、松山局を経て、2023年8月から首都圏局で勤務。公共交通を主に取材。全国のJR線の99.7%に乗車済み。JR東日本管内では「越後湯沢~ガーラ湯沢」間にまだ乗れていない。最近はきっぷ収集も励んでいる

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