関東の大手鉄道各社では車掌が乗務せずに運転士のみで運行する「ワンマン運転」が広がりを見せています。NHKが関東の大手私鉄9社を取材したところ、ことし4月の時点で、65路線中、31路線に。また、JR東日本では66の線区のうち47線区まで拡大しています。特別の許可を得て取材したワンマン運転の現場、増加する背景について鉄道など公共交通の担当記者の報告です。
(首都圏局/記者 後藤茂文)
立川駅と奥多摩駅を結ぶJR青梅線では、ことしのダイヤ改正で、青梅駅と奥多摩駅の間で、ワンマン運転を導入しました。今回、ワンマン運転の区間に同乗しました。
駅に停車すると運転士は、4両編成の列車、それぞれの車両に備え付けられたカメラの映像をモニターで確認します。
これまで乗客の乗り降りの確認や、ドアの開閉は車掌が行ってきましたが、ワンマンでは運転士がこうした業務も行い、安全を確認して列車を出発させます。
JR東日本は、ワンマン化は、限られた人材で事業を継続していくために欠かせず、効率的な運用で、社員が幅広い業務を担い、多様な働き方も実現できるとしています。
JR東日本次世代輸送システム推進センター 谷津和宏マネージャー
「(ワンマン化を進めていき)これまで乗務業務だけに携わってきた社員も、これからは駅業務、地域との連携,企画業務に携わることができる。様々な業務に取り組むことで、限られた人材でより満足いただけるサービスを提供し続けることができる」
NHKが関東の大手私鉄9社に一部区間、一部時間帯での導入も含めてワンマン運転を実施しているか取材したところ、小田急、京急、相模鉄道を除いた6社で実施していて、ことし4月の時点で、大手9社の65路線中、半数近くの31路線にワンマン運転が増えています。
このうち東急電鉄では、8路線中、5路線でワンマン化しています。ことし開業した新横浜線でも導入済みで、東横線でも今年度から順次ワンマン運転の列車を増やしています。
ときには1000人以上もの乗客を乗せる列車でのワンマン運転導入では、安全面での対策が欠かせません。
安全対策の一環として、転落防止のホームドア設置も進めました。東急では2019年度末までに、自社の鉄道線全駅にホームドア、またはセンサー付きのホーム柵の設置を終えました。全国の大手私鉄では、最も早く全駅の設置を終えたということです。
※世田谷線 こどもの国線を除く
列車が駅に停車すると、各駅のホームに設けられたカメラの映像が運転台に送られ、乗客の動きを確認、それに合わせて車両のドアを開閉。連動して、ホームドアも開閉します。
所有するおよそ1200両の車両には、いずれも防犯カメラを設置済みです。トラブルが発生すれば、運輸司令所で映像を確認出来ます。
ドアの開閉の際、スイッチ1つでお客様にけがをさせてしまう恐れがあるので、絶対にお客様にけがをさせない、という思いで乗務しております。
東急電鉄は安全対策に今年度339億円を計上していて、ワンマン運転導入を安全面から支えています。そして、将来の人手不足を見越して、ワンマン運転の拡大やそのための思い切った設備投資が重要だとしています。
東急電鉄運輸計画課 小代雄大課長補佐
「少子高齢化、人口減少が予測されている中で、今後、従業員の確保が難しくなると見込んでいます。安全投資をしっかり継続しまして、長期的な事業継続に対応するために、オペレーションを変革して、テクノロジーをしっかり活用したことを推進することが大事だと」
沿線人口の減少や少子高齢化など鉄道会社を取り巻く環境が厳しさを増すなかで、地方のローカル線だけではなく首都圏でもワンマン運転が広がっています。NHK首都圏局で公共交通の取材を担当している後藤記者に聞きました。
担い手不足を背景にして、社員にとって働きやすい環境の実現や、効率的な運用は、どの企業でも欠かせません。JRの「多様な働き方」は、それぞれのキャリアの志向や、適性、事情などに応じて、柔軟な対応ができやすくなります。
東急電鉄は、安全対策の進化と、先々を見据えた設備投資で、効率的に都市部でもワンマン化を実現しています。
JR東日本は、2025年度から30年度をめどに、山手線や京浜東北線、常磐線など、首都圏の主要路線で、ワンマン化を導入する方針です。さらに、2028年ごろに山手線の運転自動化を目指しています。
いずれにせよ、ありとあらゆる業界で「担い手不足」が今後、ますます深刻化する見通しの中で、鉄道会社も多様な働き方を実現させながら、かつ、安全性を第一に考えて、どう事業を継続させていくのか、各社の取り組みを取材していきたいと思います。