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絵本作家・五味太郎「きんぎょが にげた」など “絵本を変えた”独創性の源は

  • 2023年9月15日

約330万部を売り上げた「きんぎょが にげた」のほか、「さる・るるる」「みんなうんち」などの作品で知られる絵本作家の五味太郎さん(78歳)が、デビュー50年を迎えました。

「子どものもの」とされていた絵本を大きく変えたと言われる五味さんの作品。常識を覆す発想の源とは?五味さんにたっぷりとインタビューしました。(全2回の前編)

多彩な題材 発想の源泉は

五味さんは、毎年、夏休みを過ごすという長野県の山荘で取材に応じてくれました。

実は、インタビューを行った合原明子キャスターと2歳の長女は、五味さんの代表作「きんぎょが にげた」の愛読者です。

「きんぎょが にげた」(福音館書店)

合原明子キャスター
「この本は家から持ってきたのですが、2歳の娘がとても大好きで勢いよくめくるので、ところどころやぶれてしまいました…」

五味太郎さん
「それがいいんです。金魚を全部切り抜いて、定期入れに入れて持ち歩いている子もいるよ。いろんな人気の方法があるってことだから、問題ないんです」

あるときはきんぎょを、あるときは、うんちを、そしてあるときは言葉を。多彩な題材で450冊を超える絵本を描いてきた五味さん。こうした作品はどのように生み出されるのでしょうか。

「もっと面白い空気ないかな、風景ないかな、もう少し違うシチュエーションないかなっていうのを、いつも考えている。それは例えば、わかりやすく言えば、部屋の中でレイアウトを変えようって思うようなことない?

例えば、この椅子ちょっと飽きてきたから変えようとか、それと同じだよね。
このシチュエーションがちょっと飽きたから変えよう、新しい、今まで見たことのないレイアウトとか、見たことのない配色とか、リズムとか、そういうものを次の絵本でやろうかなって」

こちらは言葉遊びを絵本にした「さる・るるる」。小学校の教科書にも掲載されました。 

「さる・るるる」(絵本館)

「これはシャワー浴びながら思いついたんだよ。なんか知らないけど、『ある、いる、うる、える、おる』、ひらがなに『る』をつけると全部動詞になるなと思って。

『かる、きる、くる、ける、こる』、ないのは『まる』っていうのがないよね。これ思いついて、出来上がるまで8時間っていう記録があるんだよ。最短記録だよ。
ちょっと盛って言ってるけど、本当は仕上げまで入れると1日半ぐらいなんだけど」

こちらは、五味さんが作品を生み出してきたアトリエ。

このノートは、絵本のアイデアを練り上げる必需品だそうです。

「メモするのって絶対必要だから。こうやって書きながら考えてんだよね。
3割ぐらいの何かイメージがあって、描き始めちゃうの俺。そうすると、その思いつきがうまかったら自然に展開していくみたいなこと味わっているわけ。全部、下描きしてやっていくタイプじゃないの。で、うまくいかないなってなったら、やめればいいわけ。簡単でしょ」

合原キャスター
「アイデアはつくり出すというよりも…?」

五味さん
「そこですよ。それは素人に伝えられない。いや分かんないんだよ、自分で。何でそうなったのかなって。結果的に見て、いい感じっていうのを、『ちょっといい感じにできたから見なよ』っていうのが出版するってことなんだよ」

絵本を描くことは遊ぶこと

五味さんが絵本作家になったのは、27歳のとき。10代のころに表現の面白さに目覚め、ミュージシャンや劇団員、デザイナーなどの道も模索してきました。

デビュー作のタイトルは「みち」。自分の生きる道を探していた当時の五味さんにもどこか重なる作品です。

いろいろなみちがある
みちは いろいろなものをみせてくれる
さあ、みちをあるいてごらん

「みち」(福音館書店)より

その後、50年にわたる絵本作家の道は、工業デザイナーとして働く中で自然と開かれたといいます。

五味さん
「工業デザイン的なものの勉強はしたのね。でも図面描くのは不得意というか、なんか違っていて。夜、絵本っぽいものを描いて、4つ、5つくらい出版社あたったら『やりましょう』と言われて。
なんか知らないけど、こういう形のものを作り始めて、あ、これ俺に向いているなと思ったんだよね。

言葉だけで迫る、絵だけで迫るって、なんかちょっとやりにくいっていうか。絵と言葉が並行して動く絵本の世界って、あ、俺、向いているかもしれないなって単純に思ったんだよね。

しんどくないですか?ってよく言われることある。しんどいの覚悟の上っていうのあるんだけど、これしんどくないんだなあ、あまり。遊んでいるんだよ、絵本を描いていても。結局、絵本を描くって仕事は面白いっていう話なんだよ」

五味さんが変えた絵本の世界

五味さんの多彩な作品は、それまで「子どものもの」とされていた絵本を大きく変えたといわれています。

五味さんの70冊以上の作品に関わってきた編集者の有川裕俊さんです。

編集者 有川裕俊さん
「新しい絵本の世界を開いてきたのは間違いないと思います。
それまでの絵本はお話があって、そのお話に挿し絵がカラーでついているという感じだったのに、五味さんは絵と文を一体化させている。そこに五味さんの絵本の、今までと違うものがあるんじゃないかと考えています」

絵と言葉によって織りなされる五味さんの発明がよく分かるというのが、「いっぽんばし わたる」という作品です。

「いっぽんばし わたる」(絵本館)

「『からんで わたる むりして わたる しらずに わたる』

文だけ聞いていると、何を言いたいのかわからない。因果関係がどこにもないんだけど、一緒に絵を見ると、なんの違和感もないというところが、大変な発明だと思っています。言葉の広がりを、絵によってつけているんだと思います」

五味さんは、なぜ絵本の常識を覆す独創的な作品を生み出すことができるのか。有川さんは、その発想の源に触れた時のことを今も覚えています。

「あるときね、五味さんに、『考える』というのはどういうことですかって聞いたの。
そしたら五味さんが、もう即答なんだけどさ、『よく見ることだな、それは』って。『それもいろんな角度から見ることができるようになったら、本当に考える人だと思う』と。五味さんは自分でそれを、やっているんですよ」

合原キャスター
「有川さんは、ものの見方を五味さんの絵本が提案しているという風におっしゃっていました」

五味さん
「たまたまそうやって生きてきたみたいな、クセだと思う。
昔エッセイで、子どもは見るのが仕事だって書いた。考えなくていいんだよ、なんか見ていればいいんだよ、あるいは聞いていればいいんだよって。そのうちにまとめたくなってきて、そのまとめたくなるなり方もバリエーションがある。

いわゆるそれが個性っていうやつだと思うの。俺は、だからいまだに見ているのが大好きだから。きりないよね。見ていると楽しいって感じで」

子どものように見ることが創作の土台にあるという五味さん。実は、何よりも信頼しているのが、読者である子どもの見る目だといいます。

「子どもは絵本が読めるよね。大人は文字と言葉と状況を追うので、えらく苦労しちゃうけど。どうしてかというと、子どもって、未来に対して生きてないから。子どもって本当に今を生きているんだよね。大人は、来週のために、来月のために生きている。

子ども扱いするような存在に見えないんだよね。子どもは経験が少ない、体は小さい、カネがないってこと以外は、子どもたちには全部あるんだよ。

本っていうのは、ページをめくることで空間がうごいていくわけよ。絵本はこれを十分につかった、完璧なエンターテインメント。それを十分に遊べるのが子どもだっていうこと。

子どもの情操教育に絵本がいいです、みたいなことをいうメディアもあるけど、そういうために無理に使っちゃうのは、ちょっともったいないなって思う。絵本ってもうちょっとスリリングな世界で、愉快な世界がいっぱいあるんで」

「五味さんの絵本は『五味さんはこう思うんだけど、どう?』って問いかけてくれるような、余地のようなものを、残してくださっているなと」

「問いかけているんだもん。こういうことを伝えたいってわけじゃないんだよ。こういう現象がありました、これをまとめてみたらかなり面白いです、いかが?っていう感じなんだよ。

そうすると、いろんな子どもがいろんなことを言ってくる。これが絵本描いている楽しみの1つだよね。『えっ、俺そんなこと描いてないよ』ってことを言う奴もいて、手紙が来たこともある」

“軽やかに逃げる能力”が必要

五味さんがいま夢中になっているのが、68歳のときに始めたチェロです。

そのほかにも野球やテニス、俳句やマージャンなど興味は尽きません。なぜこれほど人生を楽しめるのでしょうか。返ってきたのは、かつて描いた“にげること”が自分の原動力だという意外な答えでした。

五味さん
「なんとなく、なんかいいこと、面白いことがないっていう気分のときに、まず逃げる。逃げて、次に見つけて、それも少し違うって、微調整をする。軽やかに逃げる能力っていうのは、ちょっと必要かもしれない。

そのうちに足腰が弱って、逃げたくても、逃げる能力なくなると、ここをいいものだと思い込まなきゃいけなくなる。そんなことよりもっと好きなことに、素直に動く」

5年前、五味さんは「にげる」をテーマにしたもう一つの絵本を発表しました。

ひよこが にげます
みんなで にげます
げんきに にげます

「ひよこは にげます」(福音館書店)より

合原キャスター
「逃げ出すのとはちがって居場所を探すということですか?」

「でしょうね。いまの言葉でいうとね。たぶん軽やかにね。逃げるというのは、修正したり何したりということなんだよね。たぶん。それを、なんていうだろう。失敗のないように、なるべく効率よくというのもやめた方がいいよね。

今の社会って、どうしても右肩上がりがよいという風潮があって。そのために無理をする。下手すると、不法な行為までして、右肩上がりになろうとする。この成長神話から脱却すると、本当にラクでしょう」

「逃げるって本当にけっこうマイナスなイメージで捉えられているというか」

「逆に言うと、社会をつくっていくときに逃げられたら困るわけ。だから、逃げたり諦めたりするなって、よく言う」

「そうですよね。『逃げずに堪えてこそ成長できる』ってよく言われますよね」

「そう、それが人生だとか。あれはウソ。そんなの無理。
苦しくなったら、生物ってやっぱり逃げるのがいいよね。ここは違うと思ったら、動かないと危ない。今を生きている、今を楽しいということを、もうちょっと意識したほうがいいかもしれないなって、余計なお世話だけど思う」

「生きていると不安なことがあって、なかなか人生を楽しめない人もいるのかなと思うのですが、不安にはどうやって向き合えばいいのでしょうか」

「不安でもいいじゃん、ということじゃない。
人生動いていれば、安定、不安定、安定、不安定っていうのが交互にやってくる。不安定はよくないけど安定はいいよねっていうことはありえないわけだよ。

例えば、いい本をいっぱい読みなさいって言うけど、つまんない本を読まなかったら、面白い本に出会っても比較できないじゃない。『わー、つまんねえ、なんでこんなにつまんないんだろう?』っていうのも読書なのよ。

不安だったことが、自分が動いてことがフッと解決する、ちょっとやったね感っていうのがないと、人生つまんないよねって思わない?」

後編の記事では、五味さんが子どもたちと取り組んできた型破りなワークショップの様子や、五味さんに影響を受けて絵本を描き始めたというトップクリエイターに話を聞きました。

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