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  • 2023年4月21日

博物館・美術館が変わる 新たなイベント続々 現場からは危機感の声も…

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名画の魅力を、料理やアニメーションを使って伝える美術館。博物館などの所蔵されていた動物の骨や土器などを3Dデータ化してネットで公開し、自由に動かしながら見られるようにするイベント。

博物館や美術館がいま大きく変わろうとしています。法律が約70年ぶりに大改正され、博物館が行う事業に、これまで行ってきた展示などだけでなく、「資料のデジタル化」も追加。さらに地域の活力向上のため、文化についての理解を深める「文化観光」に取り組むところもでてくることになります。

一方で、予算と人手が不足する中、新たな事業に取り組むことで、これまで行ってきた事業ができなくなるのではという懸念の声も。大型連休前に、博物館の最新事情を取材しました。  
(首都圏局/ディレクター 梅本肇・竹前麻里子)

動物園とのコラボで博物館の魅力を発信

博物館をもっとおもしろく、身近に感じてもらおうという取り組みが、和歌山県白浜町のテーマパーク「アドベンチャーワールド」で今月行われました。

子どもたちに渡されたのは、博物館に所蔵されている骨の標本のレプリカ。実際に動物を見ながら骨のレプリカを触ることで、理解を深めようという試みです。

国立の博物館で研究員をしていた森健人さん。動物公園と共同でイベントを開催しました。

森健人さん(右)

森さん

カバは生の草をどうやって食べるかというと、臼のようにこうやってすりつぶして食べるわけですね。

カバ、見たことあったけど、こんな歯してるんだ。

ふだんは千葉で、全国各地の博物館などに所蔵される標本のレプリカを作っている森さん。この日は、博物館から借りてきたキョン(シカの一種)の骨をさまざまな角度から撮影し、3Dデータ化していました。

レプリカ作りに加え、データはネットで公開し、見た人が自由に動かしながら鑑賞できるようにしています(こちらからご覧いただけます ※NHKのサイトを離れます)。

これまでデータ化した標本は200点以上にのぼり、博物館からの依頼は増えています。

路上博物館 森健人さん  
「大学院生のときに解剖学をやるようになると、骨を触る体験ができるようになったんですね。これこそ博物館の本当のおもしろさなんじゃないかと思い、このおもしろさをもっと知ってほしいと活動を始めました」

骨のレプリカを触りながら動物を見るイベントは、今月(4月)初めて開催しました。

象の鼻はどこから生えている?鼻を上げてくれているとよくわかるけど、下唇は下にあって、上唇はというと、実はあの長いのが、全部上唇なんだよ。

 

ええー。鼻じゃないの?

 

鼻の筋肉プラス上唇でできあがったものが、ゾウの鼻なんだというのが、どうですか、骨を見るとわかってきませんか。

路上博物館 森健人さん  
「実際に骨を触ってもらって、動かしながら動物と一緒に見比べてもらうと、みんな一樣におもしろがってくれていたので、やっぱりまだまだ博物館が持っているポテンシャルは高いんじゃないかなと思いました」

名画の魅力をあらゆる形で 美術館にも変化が

美術館では、巨匠の名画を「見る」だけでなくより深く「味わって」もらおうという挑戦も始まっています。  
「落ち穂拾い」などフランスの画家ミレーの作品を70点所蔵する山梨県立美術館です。年間29万人以上が訪れています。

人気を博しているのが、館内のレストランで提供している、ミレーの絵画「種をまく人」をモチーフにしたドリア。鑑賞の余韻や作品の世界観を楽しんでもらおうと提供をはじめ、年間3000食を売り上げるようになりました。

美術館では文化をより深く理解することを目的とする「文化観光」の取り組みに力を入れています。3年前から県内の他の美術館などとともに、国から文化観光の推進地域に選ばれ、さまざまな事業を行っているのです。

その1つとして、ミレーの生涯を描いたアニメーションも制作し、絵画が描かれた背景を伝える取り組みも行っています。

山梨県立美術館 学芸員 森川もなみさん  
「お客さまからの反応がとてもいいです。このアニメを見てから鑑賞されると『ミレーは妻を大事にしていて、病気になってすごくつらい時代にこの絵を描いたんだ』といった形で、画家に共感していただけるのではないかと思います」

東京からの観光客  
「ミレーが赤ん坊を背負っているアニメが、生活感があって、そのなかで一生懸命描いていて、すごく人間らしいなというのが、よくわかりました」

さらに、これまで美術館に関心がなかった層に足を運んでもらう取り組みも行っています。

去年、山梨の森をテーマにした企画展に合わせて、子どもが楽しめるツリークライミングや、森にまつわる食材や雑貨などを集めたマルシェを、美術館の敷地内で開催しました。

山梨県立美術館 学芸員 下東佳那さん  
「美術館は敷居が高いというイメージが強いようなので、その打開策の1つになると思い開催しました。ツリークライミングやマルシェをきっかけに展示に足を運んでくださった方もいらっしゃったので、門戸を広げることができたかなと思います」

美術館では、今後も文化についての理解を深める「文化観光」に力を入れ、より多くの人に絵の魅力を感じてもらいたいと考えています。

山梨県立美術館 学芸課長 平林彰さん  
「10~20年前とは、美術館で作品の見せ方にはじまり、美術館でお客さまをお招きするやり方も、がらっと変わっています。また変わっていかないと、時代についていけないのではないかという気がしています」

市民が資料を修復 地域と共に作る博物館

博物館の活動としてこれから重視される「地域との連携」。長年、積極的に取り組んできた博物館の一つが、神奈川県の平塚市博物館です。地域の住民が、博物館に収蔵された資料の保存や修復に参加しています。

資料を長く保存するための「裏打ち」と呼ばれる作業。虫食いなどで損傷した古い文書に裏から和紙を貼り修復します。

住民が裏打ちする文書は、学芸員が選別しています

この日は、平塚市の旧家に残されていた江戸時代の文書を修復していました。中には30年ほど前から参加しているという人も。地元の歴史を身近に感じることが魅力だといいます。

参加者

うれしいですね。なかなかこういうのは触れませんよね、こうした文書が平塚市にあったのかと。

参加者

おもしろいです。おもしろいのが一番。

 平塚市博物館 学芸員 早田旅人さん  
「一緒につくっていくという思いが強いですし、皆さんと協力して一緒にやって学んでいき、調べていくことによって、博物館の活動もより充実したものになっていくと思います」

厳しい予算・人手不足 現場からは悲鳴も

博物館が求められる役割が変化している背景には、博物館法がおよそ70年ぶりに大きく改正されたことがあります。博物館法は博物館だけでなく、基準を満たした美術館や動物園、植物園などについても規定した法律です。

新しい法律では、さらに活用してもらおうと、博物館が行う事業にこれまで行ってきた展示などだけでなく、資料のデジタル化も追加されました。さらに地域の活力向上のため、文化についての理解を深める「文化観光」に取り組むところも出てくることになります。

一方、博物館が新しい事業を始めることで、従来おこなってきた展示や資料の収集・保存、調査・研究などができなくなるのではないかという懸念の声も挙がっています。  
取材からみえてきたのは、予算と人手の不足という厳しい現状でした。

東京上野にある東京国立博物館では、国内最多89の国宝や多くの重要文化財を所蔵しています。

展示ケース内は、温度や湿度を一定に管理。さらに、資料にダメージを与えず、鑑賞しやすい光の角度や強さを調整するなど、文化財の保存に細心の注意を払っています。

いま、直面しているのが文化財の修理の問題です。年間、数百件を修理していますが、それでも追いつかないのが実情だといいます。

東京国立博物館 保存修復課長 和田浩さん  
「本格的に修理しなければ、博物館の資料として活用できないものは、おそらく数千件レベルはあると思います。早くこの状態から脱したい気持ちはあるのですが、そこに至るまでですら、予算的、人員的に厳しいです」

例えば室町時代に描かれたこちらの絵画。色がはがれ落ちるなどの損傷があり修理が必要です。

予算が限られる中、こうした文化財に対し、寄付を募って費用をまかなう取り組みを進めています。

東京国立博物館 保存修復課長 和田浩さん  
「待ったなしの状況というのがあります。ですので正直に、現状を社会に訴えかけて、こちらから寄付をお願いするというフェーズに入っています」

非正規が4割 深刻な学芸員の現状

学芸員の労働環境も深刻なものになっています。関東の公立博物館で学芸員をしている女性です。

非常勤の学芸員としておよそ15年働きましたが、給料は上がらず、月の手取りは16万円ほどでした。

学芸員の女性  
「アルバイトを何件も掛け持つのは当たり前という業界です。多い年は1か月に5個くらいアルバイトしていました。生活の不安は本当に拭えないですね」

数年前、正規の職員として採用されましたが、人手が足りず、先月の休みはわずか3日でした。

学芸員の女性  
「文化財を知ってもらったり、活用してもらったりするのは大事なことだと思いますが、これだけ変化が求められている業界なのに、それを担う人材が不足していることに関しては、非常に危機感があります」

地方の公立博物館などの予算はこの25年で半減。厳しい財政事情が学芸員の雇用に影響していると専門家は指摘します。

法政大学 金山喜昭教授  
「学芸員の非正規職の割合が43%もあるんですよ。その多くは若年者です。専門職の非正規率がそれだけ高いということは、博物館の人的資源が枯渇していくということが懸念されます」

“収蔵庫はいっぱい” 地方博物館は使命を果たせるか

さらに、資料をどう保管するか課題を抱えている博物館も少なくありません。  
前述の、地域との連携を進めている平塚市博物館では、地域住民の代替わりや終活などに伴い、年間、数百点の資料が寄贈されています。

その中にはここに来て初めて価値が判明するものもあります。例えばこちらの金属の塊。地域を流れる川の底からたまたま見つかったものですが、調べてみると鎌倉時代の馬具だと判明。市の重要文化財に指定されたのです。

平塚市博物館 学芸員 新宮崇弘さん  
「鎌倉時代は、金属製品は非常に貴重ですから、だいたいは一度溶かしたりして、再利用していたんですね。ですので、今こういったかたちで現存しているというのは、非常に珍しいです」

こうした資料を保管する収蔵庫を見せてもらうと、棚には資料がところ狭しと並んでいました。すでに“いっぱいを超えた状態”だといいます。

同じ道具でも、複数を集め、形状の違いなどを比べたり、道具を使っていたときのエピソードを聞き取ることで、歴史や文化を残していけるといいます。

平塚市博物館 館長 浜野達也さん  
「これは、この地域で冠婚葬祭に用いられたダイカイと呼ばれる漆器です。葬儀の際には赤飯を入れることで死者を弔いました。亡くなった家では、玄関先に、この箱がたくさん積み上げられていると、生前、いろんな人をお世話した証になるので、自慢にもなったという話をうかがうこともあります。できる限り、現物を保管しておくのが博物館としての務めではないかと思います」

ただ、収蔵庫が限られる中では、受け入れに慎重にならざるを得ないといいます。

平塚市博物館 館長 浜野達也さん  
「どうしても大型の資料はスペースをとるので、諦めざるを得ないことが多く、すでに何点か収蔵している場合は、断念しています」

全国の博物館への調査でも、およそ6割が「収蔵庫が満杯状態」と答えました。こうした状況が続くと博物館の使命を果たすのが難しくなるのではと危惧されています。

博物館の危機 私たちにできることは

海外と比べ、日本は博物館などに対する支出が少ないとのデータもあります。政府予算における「文化支出」の割合は、0.11%。諸外国と比べた場合、対象6か国のうち5番目となっています。

博物館の危機的な状況に対して私たちに何ができるのか、博物館学の専門家に聞きました。

桜美林大学 浜田弘明教授(博物館法改正について議論したワーキンググループ座長)  
「文化教育予算が大きく減ってきたのは実感しています。その一方で近年、光熱費が倍増しているという話をいろんな博物館から聞いています。博物館では収蔵庫の温湿を保たなければならず、光熱費の増加は博物館の根幹にも影響を与えていると思います。

また、これまで日本では、『博物館は国から享受できる施設』という認識が強かったと思います。欧米の博物館は、多くは国民の寄付によって財政支援がなされたり、運営されたりするところが多いので、国民として文化を支援するという考え方をもっていく必要もあると思います。

博物館に行けば自分の生まれ育った郷里の古いものに出会える。それは心のアイデンティティーにつながると思いますし、戦災や震災に際しては、来場者の心を癒やすという役割も担ってきました。

そういう意味では、博物館は国民になくてはならない施設だと思いますので、そういう場所なんだということを1人でも多くの人に知ってもらい、利用していただくことが重要ではないかと考えています」

博物館に足を運ぶことが、支援の一歩につながります。もうすぐ大型連休。ぜひ家族や友人を誘って、博物館に行ってみませんか。

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