2022年のYahoo!ニュース|本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞した「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」(著者・川内有緒さん)。全盲の白鳥建二さんと美術館をめぐるエッセイで、映画も制作されるなど大きな話題を呼んでいます。白鳥さんはどのようにアートを鑑賞しているのでしょうか。ノンフィクション作家の川内さんが、白鳥さんと美術館に通い続ける中で得た新たな気づきとは?白鳥さんのアート鑑賞に参加し、取材しました。
(宇都宮局/ディレクター 笹沼麻奈美)
今月、栃木県那須塩原市の美術館「N’sYARD」であるイベントが行われました。自ら「全盲の美術鑑賞者」を名乗る白鳥建二さんと、健常な人が一緒に美術作品を鑑賞するワークショップです。
白鳥さん(右)
白鳥さんの鑑賞スタイルは、「見える人」と会話をしながらアートを味わうこと。8人の参加者に、作品を見て感じたことや連想したことを問いかけました。
感想や印象など、思いついたことや作品に関することなら、何を話してもらってもOKです。
黄緑がかった草みたいな色。あの子の目がすごい気になります。宝石が目に入ってるみたい。
白鳥さんは、あいづちを打ったり、質問をしたりして、見ている人が感じていることを引き出していきます。
この子はきっと高い丘の上に立っていて。いま暮れなずんでいくきれいな夕焼けと、まだ青空が残ってて、街の明かりがきらきらし始めている風景を見ているような感じ。
白鳥建二さん
「僕自身、美術好きじゃなくて、美術館好きなんですよね。美術館に行って誰かと会話しながら、その場を共有できるのか、できないのか。そういうのを含めて、体験が楽しいと思っているんです」
生まれつき、ほとんど目が見えなかったものの、映画やテレビなどを聞いて楽しんでいた白鳥さん。20代のころデートで初めて美術館を訪れ、彼女に展示物を説明してもらい、楽しい時間を過ごしました。そのことがきっかけで「視覚障害者らしくないことに挑戦したい」と、美術館に通うようになったといいます。
白鳥さんは、気になる展覧会があると美術館に電話をかけ、館内をアテンドしてもらいながら作品の印象を言葉で教えてほしいとお願いしました。そのころ白鳥さんが出会ったのが、水戸芸術館の森山純子さんです。初めて白鳥さんの案内をしたときは困惑したといいます。
白鳥さんと森山さん
水戸芸術館 現代美術センター 教育プログラムコーディネーター 森山純子さん
「目の見えない方に、見たものを伝えるというのは初めての経験だったので、結構戸惑いました。何を言えばよかったのかなとか、いろんなことを考えるきっかけになりました」
美術館側も白鳥さんも、当初は手探りの状態。しかし、美術館を楽しみたいという白鳥さんの熱意から、会話を通した、白鳥さん流の鑑賞スタイルを生み出すことになったのです。
ボランティアの人たちと現代アートを鑑賞することもある白鳥さん。こうした活動を通して、自分の障害に対する考え方が大きく変わったそうです。
白鳥建二さん
「見える人と見えない人との溝が、それまではすごくあるように思っていたんです。でも見方を変えると、もしかすると、見える見えないの差というのは、ほとんどないんじゃないか。そこまでたどりついたのは一番、自分の中で変わったところですね」
白鳥さんとアート鑑賞を4年近く続けてきた、ノンフィクション作家の川内有緒さんです。その体験をまとめたエッセイは、今月、本屋大賞のノンフィクション本大賞に選ばれました。
川内さんは、白鳥さんとアートを観賞することは、目の見える人にも新たな気づきをもたらすと感じています。
ノンフィクション作家 川内有緒さん
「見える人はいろんなことが見えてると、思い込んでいるところがあります。実際のところ、本当に見えていることは、すごく少ないのかもしれません。複数の人がいたら、そこには必ず違いがあります。白鳥さんがいることで、それを言葉にして伝えよう、伝えようとすることで、可視化されやすくなると思いました」
見える、見えないの違いを乗り越え、美術鑑賞の楽しさを、多くの人と分かち合いたい。白鳥さんの美術館めぐりは続きます。
白鳥さんと美術展を楽しむワークショップは各地で企画されていて、一般の方も申し込むことができます。白鳥さんのドキュメンタリー映画も制作されていて、来年3月に劇場公開される予定です。