このところ値上げのニュースばかり…。特に、ウクライナ情勢の影響を受けて今後も高騰が予想されるのが小麦粉です。
いま、パン屋や飲食店などで小麦粉の代わりに「米粉」を使う動きが広がっています。一方、家庭で使うのは難しそう…という声も。そんな中、家庭にある米をそのまま使って作る「生米(なまごめ)パン」が登場して注目を集めています。
米の活用が進めば輸入に頼る私たちの食生活を変える可能性も!?最前線を取材しました。
(首都圏局/ディレクター 関根幸千代)
埼玉県伊奈町にあるパン屋さん。
ここでは1日に100kgほどの小麦粉を使い、100種類のパンを販売しています。原料の高騰をうけて昨年末にすでに全商品10円~20円の値上げをしました。それ以降1日あたり20~30人の客足が遠のいています。
これ以上の値上げは避けたいと、3月から定番商品のフランスパンに使う小麦粉の一部を米粉に置き換え、4月から販売しました。もともと品質の良い小麦粉を使っていたこともあり、米粉に換えても原価はほとんど変わらず、客からは“食感が良くなった”と好評だといいます。
今後、他の商品も米粉へ置き換えられないか検討していく予定です。
米粉を入れたことでもちっとしました。風味を損なわず食感もいいと、お客様にも喜んでいただいています。米粉の可能性を感じますし、地産地消にもなる。コッペパンにも使えないか、すでに試作を始めています。
新潟県には、ことしに入って「米粉めん」の専門店を次々とオープンさせている企業があります。
創業明治32年の製菓会社。主力商品はあられなどの米を使ったお菓子でしたが、昨年末、アミロース含有率が高く粘りをおさえた品種の新潟県産米を使った米粉めんを開発しました。
もちもちとした食感で食べごたえもあると好評だそうで、今後は首都圏での出店も計画しています。小麦粉のめんを使ったさまざまなメニューを米粉めんに置き換えて、普及させていきたいということです。
米どころ新潟の企業として、米粉を広めたいという思いがありました。今回の小麦粉高騰はむしろチャンス。ここで『おいしい』と思ってもらえるかどうかがカギだと考えています。
小麦の8割以上を輸入に依存している日本。
輸入小麦は、毎年春と秋の年2回、政府売渡価格の見直しが行われます。農林水産省は今年3月、17.3%の引き上げを発表。過去2番目の高値となりました。それを受けて、4月、大手製粉会社は6月には業務用商品を、7月から8月にかけて家庭用商品をそれぞれ値上げすると発表しました。
実は、価格の見直しは直近6か月間(令和3年9月第2週~令和4年3月第1週)の平均買付価格が影響します。今回の値上げの主な原因はアメリカやカナダでの小麦の不作で、2月24日からのウクライナへの軍事侵攻による影響はわずかしか反映されていません。
この秋の改定ではウクライナ情勢がどれほど影響するのか、注視する必要があります。
小麦粉の高騰が続く中、注目を集めているのが米粉です。
米粉用米の生産量全国2位(令和2年)の埼玉県。県内の大手製粉会社には問い合わせが増えているといいます。食品加工会社などから、パンやお菓子はもちろん、餃子やインスタント麺に使えないかという相談もあるそうです。
製粉会社 企画統括室 鈴木里沙子さん
「最初から全て米粉にするのが心配な方は、小麦粉と混ぜて使うこともできます。食感もよくなりますし、腹持ちもよくなる。油の吸収率が低いためヘルシーなのでおすすめです」
米粉は15年ほど前にも小麦の高騰で注目を集めました。
しかし、製粉にコストがかかるため小麦粉なみの安価にはならなかったり、パン作りでは小麦粉のように膨らまなかったりして、一般家庭に思うように普及しませんでした。
米粉は製粉方法によって粒の大きさや、でんぷんにつく傷の数に違いが出ることで「吸水量」が変わるそうです。吸水量が多いと、パンはふんわりと仕上がりません。製粉業者ごとに品質の違いがあり、利用が広がりにくいという課題がありました。最近では消費者によりわかりやすいパッケージに改良するなど、普及に向けた取り組みが活発に行われています。
米粉はまだ手に取りづらい…という人も多い中、いま話題のパンがあるといいます。その名も“生米(なまごめ)パン”。名前の通り、生の米粒から作るパンです。
考案したのは、ヴィーガン料理家のリト史織さん。米粉でパンを作ってきましたが、もっと簡単にできないかと試作を繰り返しながらレシピを完成させました。
最大の特徴は「家にあるお米から作れる」ところ。
ミキサーに生の米と材料を投入し、ガーッと混ぜてしまうというのです。手順もいたってシンプルで、発酵も1回ですみます。(記事の最後にレシピがあります!)
現在、リトさんの生米パン教室は常に満席で予約が取れないそうです。また、最近は全国各地の企業や自治体からも問い合わせが増えているといいます。
料理家 リト史織さん
「コロナ禍のはじまりの頃、小麦粉不足になった時に多くの方に注目していただけるようになったのではと感じています。生米パンはとろけるほど柔らかく、ふわふわもちもちのこれまでにないおいしさです。『今日はお米を炊こうかな、それとも焼こうかな』、そんな会話が広まってほしいです」
小麦高騰を受けて米に注目が集まることは、米の生産者にとってはチャンスです。
しかし、取り巻く状況は厳しさを増しています。米の1人あたりの年間消費量は、この30年で約20kgも減っています。それとともに取引価格も大幅に下落しているのです。
30年前は60kgあたり2万円台で取り引きされていたものが、最近では1万5000円前後に。さらに、コロナ禍で飲食店などが打撃を受けた影響で、令和3年産はさらに1万2000円台までに下落しています。
埼玉県東部の地域では、さらに買い取り価格が低下し、60キロ当たり8300円と1万円を割り込みました(令和3年産の概算)。生産者によると資材費や燃料費を差し引くと赤字になるといいます。
このあたりで米を作っているのは高齢者ばかり。お金にならないのに作ろうと思わないでしょ。価格の下落が引き金になって、やめる人がさらに増えると思うよ。
離農者が増え、遊休農地が拡大するのではないかと危機感を抱いているのが、春日部市と春日部市農業委員会です。
そこで、今年からJAや商工・観光団体、製粉会社、製麺所と連携して、米粉活用の実証実験を行うと発表しました。
「亜細亜のかおり」という米粉麺に向いた品種を栽培し、製粉、製麺、商品開発を行うというものです。将来的にはブランド化し、米の生産を安定的に続けていくことを目指すとしています。
春日部市農業委員会 金子昌行さん
「春日部市は低地なので、水田は水田として活用するのが一番だと考えます。これまでの稲作技術等を活用しながら、収益の安定化が図れる可能性のある米粉用米の栽培に取り組みます。将来的には春日部産の米粉用米を活用した新たな地域ブランドを創り出し、消費を確保することで、生産者が安心して耕作にあたれるような仕組みを生み出したい」
生産者がいるからこそ、当たり前のように食べられてきた米。家計を圧迫する小麦高騰のニュースは耳が痛いものですが、米の存在や私たちの食生活を見つめ直す意味においては、大切な機会になるのかもしれないと感じました。
<材料>(1/3斤食パン型 16.5×6.2×6cm 1台分)
(A)
・米 115g(浸水済150g)
・油 13g(大さじ1)
・メープルシロップ 8g(小さじ1)→ もしくは砂糖5g+水5g
・塩 2g(小さじ1/2弱)
・湯(約50℃) 70~75g(沸騰した湯と水を1:1で混ぜるとよい)
・酵母 3g → もしくはドライイースト2g
<作り方>
1)軽く洗った米をボウルに入れ、水1カップ程(分量外)を加えて2時間以上浸す。
2)米の水けをしっかりと切り、Aをすべてミキサーに入れる。湯の温度が少し下がったところで最後に酵母を加える。
3)ミキサーで30秒程度回しては止める動作を3~4回繰り返す。途中、ミキサーの側面に飛び散った生地をゴムベラでこそぎ落して全体を均等にかくはんする。
4)ざらつきがない程になめらかになったら生地を型に流し込む。このときの生地の温度が約40℃(人肌程度)になっていると発酵しやすい。
5)発酵は、オーブンの機能を使う場合は40℃で15~20分。使わない場合は、大きめの保存容器に、生地を入れた型と熱めの湯を入れたコップを入れ、ふたをして室温に置く。
6)生地が2倍ほどにふくらんだら表面に霧を吹き、180℃に予熱したオーブンで30分焼く。
7)粗熱がとれたら型から出して完成。