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乳幼児のいる家庭の防災 “日常+α”の持ち物で備えよう!

  • 2022年6月29日

日本各地で発生する地震や水害などの災害。
特に不安を感じているのが、小さな子ども・乳幼児のいるご家庭だと思います。そういう私も、5歳と2歳の子の母親。災害時の備えについて、専門家に取材してきました。キーワードは、“日常+α”です。今すぐにでも始められる、いろいろなアイデアを教えてくれました。
(首都圏局/記者 氏家寛子)

※記事の最後に、「乳幼児のいる家庭で持ち歩きたいもの一覧」をつけています。

子どもがいるとより気になる…

今回取材したのは、6月上旬、豊島区で開かれた防災講座です。豊島区助産師会が企画しました。助産師や管理栄養士などが講師となって、小さな子どものいる親に災害の備えを教えます。小さな子どもを連れた参加者に話を聞いてみると、さまざまな心配の声が聞かれました。

3歳と0歳の子の母親

やっぱり子どもが生まれてから、災害がすごくこわくなってしまいました。なにかあったら守れるかなと。

0歳6か月の子の母親

地震はいつ起きるかわからない。子どもは自分で逃げられないので、家の中の家具も危ないのではないかと対策を考えていますね。

0歳6か月の子の父親

子どもの食事の備えが難しいです。備蓄はあまり準備できていないので必要だと感じています。

私にとっても、共感する内容ばかりです。

“防災”は特別なものではない

講座の講師を務めたのは、熊谷典子さん。東京都助産師会の防災対策委員で、子育て支援センターなどで親子向けに防災講座を開いています。

熊谷さんが勧める、乳幼児がいる家庭の防災のコツ。それは、“日常+α”です。
例えば、講座のはじめに投げかけたのが「きょう、ここに来るまでに危ないところはありましたか」という質問です。ブロック塀や瓦、看板、古い建物があったかどうか…。

災害はいつ起きるのか分からないもの。いざとなると冷静さを失い、迅速に的確な対応が取れないことがあります。特に、幼い子どもを抱えながらの避難は大変です。日常の中で、”+α“として防災を意識しておくこと。そのことが大事なのだといいます。

熊谷典子さん
「防災とは特別な備えをすることだけではありません。ふだん歩いている道で少しだけ周りを見渡してみる、そういうちょっとした意識をしているかどうかで、災害のときに大きな違いを生むと思います」

楽しく踊って“防災”を

“日常+α”の防災は、親だけのものではありません。子どもと一緒に、楽しく確認することもできます。そこで熊谷さんが作ったのが、「安全確保の歌」です。下が、その歌詞。この歌は、YouTubeでも公開されています。

安全確保の歌(作詞作曲・振り付け:熊谷典子)
上見て 落ちてこない オッケー・オッケー
右見て 倒れてこない オッケー・オッケー
左見て 動かない オッケー・オッケー
グルッと回って オッケー・オッケー

熊谷典子さんYouTubeより

この歌を作るにあたって意識したのは、小さな子どもでも理解できる簡単なフレーズを繰り返す歌詞にしたこと。地震で揺れたときには、まずは物が「落ちてこない・倒れてこない・動かない」かを確認することが大切で、そのことを歌で知ってほしいと言います。

「ダンゴムシのポーズ」と呼ばれる、頭を守るために後頭部に手を当てて体を丸める姿勢のポーズもよく知られています。このようなものも含め、親子で一緒に、歌を歌ったり実際の動きをしたりすることで防災を考えてみてほしいといいます。

乳幼児防災のコツ(1)「へこ帯」を用意しよう

幼い子どものいる家庭で、できるだけ日常の中に防災を取り入れることが大切なことはわかりました。そこで気になるのは、具体的にどのようなものを備えておけばいいのかです。

講座の中で勧められたもののひとつ、それが「へこ帯」です。抱っこもおんぶもできる一枚の布状の帯のことで、軽くてかさばらず、持ち運びに便利だそうです。
なぜ、ふつうの「抱っこひも」ではなく、「へこ帯」なのか。災害が起きると、道路の状況によってはベビーカーが使えません。そうした中、熊谷さんは、抱っこだと足元が見えにくくなってしまうため、災害時は「おんぶ」の方がいい場面があると言います。このため、抱っこもおんぶもできる「へこ帯」がいいというのです。

私も、「へこ帯」を試してみました。初めて使ったのですが、おんぶすると赤ちゃんが体の高い位置に密着している感覚です。使い方を覚える必要はありますが、慣れればさっと使えるということ。災害の時にも役立ちそうだと感じました。

乳幼児防災のコツ(2)食事も“+α”で

災害が起きたときに気になることの一つが、子どもの食事です。ここでも“日常+α”のアイデアが使えると教えてくれました。

管理栄養士の講師が勧めるのが、災害時でも、子どもがおいしく食べられるよう、特別な物を買い足すのではなく、備蓄品を掛け合わせる工夫です。こうすることで、違う味が楽しめるそうです。

例えば、乾燥させた白米で、お湯や水を注いでしばらく待つと食べられる「アルファ米」。米だけでは食べるのが難しい子どももいると思いますが、実は、水の代わりにジュースを使ってもごはんを作ることができるそうです。

非常時の食事はどうしても野菜不足になりがちですが、アルファ米を戻す際に「野菜ジュース」を利用してごはんを作ると、“野菜リゾット”に。不足しがちなビタミンの摂取もできてお勧めだそうです。
風味が変わることで、子どもも楽しんで食べられるかもしれません。ミルクで戻せば、ミルク粥にもなります。断水で水を節約したいときにも、この工夫が生きます。

液体ミルク

そして、赤ちゃんがいる親にとってさらに気になるのが、授乳。母乳については、災害時もいつもと同じように授乳を続けることが大切だといいます。
保存が利く、乳児用液体ミルクの飲ませ方についても教えてもらいました。調乳する必要がなく滅菌済みなのですぐに使用できることや、常温(おおむね25℃以下)で保存できるのが特徴です。

液体ミルクは、よく振ったミルクを紙コップに移します。赤ちゃんはこぼしてしまうので、多めに入れます。そしてタオルを巻いて、赤ちゃんのスピードで、30分くらいかけて飲ませます。

このとき赤ちゃんの口の中にミルクを与えるのではなく、縦抱きにして自分で飲むようにするのがポイントだということです。

乳幼児防災のコツ(3)いつものバッグを防災リュックに

そして、ふだんの持ち物についても聞きました。ここにも“日常+α”が生きます。
子どもと外出するときに持ち歩く大きめのバッグ。こんな防災グッズをプラスすると防災リュックになるというのです。

必要なものの例を、挙げてもらいました。

乳幼児のいる家庭で持ち歩きたいもの一覧(熊谷さん作成)
・バッグは両手が空くリュック。軽くて丈夫、水にぬれても平気な素材がポイント。    
現金(小銭):自販機で使用可能。
筆記用具(油性マジック):水にぬれても消えない。
ライト:ヘッドライトや100円ショップの軽いライト(自転車仕様を代用)
ホイッスル:玉のないもの、水にぬれても音がでる。
輪ゴム:束ねたり、止めたり、クラッシュ症候群に使える。
赤ちゃん着替え・おむつ:半年に一度サイズ確認、サイズアウトに気を付ける。
おしりふき:多めに。ウエットティッシュ代わりになる。携帯トイレ・歯ブラシシートもあるとよい。
カッパ:雨にぬれると体温が下がり命に関わる。
ベビーフード: 避難所にはミルク、使い捨て哺乳瓶、ベビーフードが常備されているが数に限りがある。各乳幼児に合わせたものではない。たまに食べて慣れておく。
お気に入りの食べ物・飲み物: 乳幼児はなじみのないものは飲んだり食べたりできない。
お気に入りグッズ:メンタル緩和のために大切。
家族写真:災害時何かの時に手助けになる。裏に住所・電話番号・保険証番号をメモする。心のよりどころになる。 

熊谷さんは、その家庭の特徴や好みにも合わせて、ものを準備してほしいといいます。

熊谷典子さん
「乳幼児の特徴って体が小さいだけじゃないんですね。言葉も話せませんし、状況も判断できないのでストレスがすごくかかったりします。乳幼児は災害時だからといって嫌いなものは飲んだり食べたりしません。そうすると体力が奪われてしまうので、そういうときに自分が好きなものがちょっとあればいいですね」

また、暑い時期、特に気をつけたほうがいいこともあります。
夏のこどもの肌トラブルといえば「あせも」。乳幼児はたくさん汗をかくことから夏場は「あせも」になりやすく、悪化すると「とびひ」になってしまうことも。予防するためには、かいた汗をしっかり拭きとって肌を清潔に保つことがポイントだということです。できるだけ、こまめに着替えやオムツ替えをしてほしいとのことでした。

取材後記

「災害に備える」というと身構えそうになりますが、今回取材で紹介していただいたのは、どれもきょうからすぐ取り組めることばかりでした。私も子どもを連れて外出するときは、荷物が多くなるのが悩みでしたが、紹介のあったアイテムは小さくて軽そうなので、早速、かばんにつめてみました。

いざという時に子どもの命、家族の命を守るため、日々の生活に追われて防災が後回しとならないよう、日常の中にうまく取り入れていくことが大切だと感じました。

  • 氏家寛子

    首都圏局 記者

    氏家寛子

    2010年入局。岡山局、新潟局などを経て首都圏局に。 医療、教育分野を中心に幅広く取材。

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