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災害時の避難所 女性の下着問題「洗えない」「干せない」を解決

  • 2020年12月29日

災害時の備えといえば、水や食料などがまず浮かびますが、「下着」はどうでしょうか。避難所の集団生活では、人目につく場所で下着を洗ったり干したりすることに抵抗があり、女性たちが下着を着替えたくても我慢しています。せめて下着は洗って替えたい、その悩みを解決しようと取り組む女性がいます。
首都圏局/記者 桑原阿希

バッグ1つで洗濯して干せる「レスキューランジェリー」

「レスキューランジェリー」と名付けられた製品です。
災害時に備えて、下着や洗剤、布ナプキン、それにバッグなどがセットになっています。
大きな特徴は、このバッグ1つで 洗い → すすぎ → 絞る → 干す までができることです。

■ポイント(1)バッグが洗濯機になる

バッグは、洗濯機の役割を果たします。
洗いたい下着と洗剤、水を入れてもみ洗いします。

付属のネットの中で絞ります。

付属の黒いネットで絞れば中身も見えない

このバッグさえあれば、他に洗うための容器などを用意する必要はありません。

■ポイント(2)少ない水で洗濯できる

洗濯に使う水は洗濯で1リットル、すすぎに1リットル、あわせて2リットルです。ふだんの洗濯のように水を使えない避難生活でも、少ない水で洗濯ができるのです。

付属の洗剤は、泡立ちが少なく少量の水で洗濯できるもので、どこでも排水可能です。25回分入っているので、1か月近くは毎日洗濯をすることができます。

■ポイント(3)外から下着が見えずに干せる

バッグを逆さにすると、外から下着が見えずに干すことができます。これなら、人の目も気になりません。

■ポイント(4)給水容器代わりにも使える

バッグには水を3リットル以上入れられ、防水加工もしているので、給水所で水をもらうための容器として使うこともできます。

“洗濯して干す”の当たり前ができない避難所

開発したのは下着ブランドを経営する本間麻衣さんです。

もともとはファッション下着を手がけていましたが、現在は災害時の下着に特化した開発を行っています。

転機となったのは、2011年の東日本大震災でした。当時の報道などを通じて、女性たちが避難所で、人目につく場所で下着を洗ったり、干したりすることに抵抗感を持っていたことを知りました。避難生活が長期化する中、女性たちがそうした思いから下着を取り替えられずにいる現実を、本間さんは重く受け止めました。

2011年3月 宮城県気仙沼市の避難所

本間麻衣さん
「洗濯ができても干す場所がない。女性がふつうに生活して、着替えて、洗濯して干すということが当たり前にできない避難所はすごく大変な場所なのだと実感しました。下着だけでも着替えられれば、精神的にも身体的にもストレスは軽減できるのではないかなと思いました」

素材には抗菌作用や防臭効果が期待できる繊維を

本間さんは、被災地に足を運び、被災者の声を取り入れてさまざまな工夫を重ねました。
そのひとつは、下着の素材です。「においが気になった」という被災者の声に応え、抗菌作用や防臭効果が期待できる繊維を使いました。

竹の繊維を胸元の内側に使っている

一番こだわったのは、下着を中に干せるようにしたことです。
被災した女性から「車の中で下着を隠して干していた」という話を聞いたのがきっかけでした。バッグにマチを作って立体的な形にし、下着を干す時には覆い隠す形状にしました。

下着を盗まれるといった防犯面での不安も軽減できると考えています。

災害起きるたびに被災地へ 女性たちから「助かった」の声

本間さんは完成した下着セットを、被災地で実際に使ってもらう活動もしています。これまで、九州北部豪雨や西日本豪雨など災害が起きるたびに、ひとり被災地を訪ねて、無償で届けてきました。

九州北部豪雨(H29)の被災地で

現場では、さまざまな年代の女性から、感謝の声を聞いたそうです。

高齢の女性
「尿漏れするので自分で洗濯できてすごく助かりました」

子どもがいる母親
「子どものものを少しずつでも洗えるので助かります」

若い女性
「干すときに下着を見られるのが嫌だったので、自分のスペースに干せるのが助かりました」


実際に、5年前の関東・東北豪雨の被災生活で下着セットを使った茨城県常総市の中山奈央さんに話を聞きました。

中山さんは、自宅は高台にあって被害はありませんでしたが、断水が10日間ほど続き、水が使えない状態でした。市内のコインランドリーも断水で使えず、この下着セットが役に立ったといいます。

中山奈央さん
「洗えなくなるというのがどんなに不便なことか、しみじみ感じました。洋服は何日間か着ていても我慢できますが、下着はできれば毎日取り替えて洗いたい。給水でいただける水の量で洗濯できるのはとてもありがたかったですし、干すときに周りから下着が見えないで干せるのはいいなと思います」

普及のカギは“日常使い”

一方で本間さんは、下着はプライベートな部分でなかなか話題に上らないため、避難所で女性が悩んでいても、課題が表面化しないことに、もどかしさも感じています。

そこで避難所の課題を知ってもらおうと、自治体や団体への普及活動にも力を入れています。いま、本間さんが普及のカギとしているのが「フェーズフリー」という考え方です。
製品を日常的に使いながら、災害時にも活用するというもので、アウトドアや出張、それに外出時のバッグとしても使ってもらうよう呼びかけています。

この日の商談では『アウトドア用に向いているのでは』との声が

本間さんは、多くの人に関心を持ってもらいたいと、男性用と子ども用の下着セットも開発しました。

本間麻衣さん
「防災のものを備えるってハードルが高いと思うので、ふだんから使っていただくということがとても重要かなと思っています。避難生活の現状を知ってもらい、少しでもストレスなく避難所で過ごせるように広げていきたい」

取材後記

取材するまでこうした課題があることは知りませんでしたが、いざ避難生活を余儀なくされた時、すぐに直面する切実な問題だと感じ取材を進めました。
女性の避難生活を支える動きは少しずつ目が向けられ始め、自治体の中には、避難所で男女別の物干し場を設けることをマニュアルに盛り込んだところもあります。
女性の目線を取り入れて避難生活を支える動きがより広がっていってほしいと思います。

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