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埼玉県知事選挙2023 県政の課題②医師不足解消は?

  • 2023年07月27日

8月6日に投票日を迎える埼玉県知事選挙。埼玉県が現在抱えている課題について、2回にわたってお伝えします。
2回目は、医師不足への対応についてです。埼玉県では、最新の調査で、人口10万人あたりの医師の数が全都道府県で最も少なく、医師の確保をどう進めるかが、大きな課題となっています。県内の現状を取材しました。

さいたま局記者・二宮舞子

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医師の増加率全国1位も 医師の割合は全国最下位

厚生労働省による最新の医師数の調査結果によりますと、埼玉県内の病院やクリニックなどの医療施設に勤務している医師は、全国8位の1万3057人となっています。これは、10年前の平成22年の調査と比べると2798人、率にして27.3%増えていて、全国平均の15.4%と比べても大幅に高く、増加率は全国1位となっています。

医師の数が増えている一方で、人口10万人あたりの医師の数は177.8人と、全国平均の256.6人を大きく下回り、全国で最下位となっています。厚生労働省によりますと、埼玉県は、統計がまとめられている平成6年から令和2年の最新の調査までのすべての調査で最下位となっていて、長期的に医師不足が課題となっています。

医師不足の理由について、埼玉県は、次のように分析しています。

埼玉県医療人材課
「過疎化などですでに人口減少が始まっている他の県と異なり、人口が急増してきたことから、人口の増加率と比べると、医師数の確保が追いついていないため」

こうしたなか、埼玉県では、あの手この手で対策を行って、医師の確保に繋げようとしています。

医師不足対策① 奨学金

医師を対象にした埼玉県のHP

埼玉県が最も力を入れているのは、奨学金の貸与です。埼玉県は、平成22年から条件を満たす人を対象に、奨学金を貸与しています。
このうち、「埼玉県医師育成奨学金」は、本人もしくは親が県内に居住している、もしくは県内の高校を卒業した人などが対象で、ひとつき、最大20万円を貸与します。その後、医師として、奨学金を貸与された期間の1.5倍の期間を県が特に医師が不足していると定めている地域などで勤務した場合には、奨学金の返還が免除されることになっています。

奨学金の返還免除の対象となるのは以下の2つの場合です。

▼県が医師不足の地域として定めている秩父医療圏、北部医療圏、利根医療圏、川越比企医療圏(北部)で勤務する場合

▼県が特定診療科としている小児科、産婦人科、救命救急センターに勤務する場合。この場合、県内の勤務地は問われていません。

このほか、大学を指定して、埼玉県地域枠に選抜された学生を対象にした奨学金もあり、こちらも奨学金の貸与期間の1.5倍の期間を医師不足の地域などで勤務した場合には、返金が免除されることになっています。

県によりますと、これまでに430人が奨学金の制度を活用していて、昨年度(令和4年度)の時点で、現役の医学生などを除き、99人が、県内の医療機関で勤務してるということです。

医師不足対策② 後期研修医の獲得

「後期研修」を受ける医師向けのガイドブック

埼玉県は「後期研修医」の獲得にも力を入れています。

後期研修は、医師免許を取得し、病院での2年間の研修を終えた後に受けるもので、3年から5年にわたって行われます。後期研修医として勤務した病院で、そのまま働き続ける割合が高いことから、後期研修を受ける医師を、県内の医療機関に誘導して定着を図ろうとしています。

このうち、周産期母子医療センターや救命救急センターの後期研修医には、最長3年間にわたる奨学金の貸与も行っていて、貸与期間の1.5倍の期間、県内の産科や救命救急センターなどで勤務したときには返還が免除されます。

さらに県は、ことし12月に専用のウェブサイトを公開し▼各医療機関で経験できる症例や処置、▼医師の1日のスケジュールや当直時の勤務形態、▼先輩研修医の進路などを掲載する予定で、埼玉県内での研修が充実していることをPRしていくことにしています。

医師不足対策③ 女性医師の復職支援

埼玉県女性医師支援センターHPより

埼玉県は、女性医師が出産や子育て中であっても就労を継続できるよう、「埼玉県女性医師支援センター」を運営しています。
たとえば、子育て中で女性医師が短時間勤務などを行う場合に代替医師の雇用などを行う病院をサポートしています。このほか、育児や介護支援の情報提供や、女性医師の情報交換の場を設けるなどしています。このセンターへの相談がきっかけで復職につながった女性医師は、昨年度までの5年間で43人いて、増加傾向にあるということです。

一定の効果あるも 地域や診療科の差が…

県はこうした対策で、一定の効果はあったとしています。しかし、県内に10ある二次医療圏のうち、秩父医療圏では唯一医師の数が減っているなど、地域によっては十分に医師を確保できていない所もあります。
また、救急科のように10年前と比べて医師の数が2.3倍近くに増えている診療科がある一方で、産婦人科・産科の増加率は7.7%、脳神経外科は8.4%にとどまるなど、診療科によってもばらつきがあります。こうした地域や診療科による格差をどのように解決していくかが今後の課題となっています。

埼玉県医療人材課
「医師は全国的にも高い水準で増えていますが、人口も増えているため、医師不足の解消には至っていないのが現状です。奨学金の貸与と、後期研修医の支援を柱に据えながら、埼玉県で医師として働くことの魅力を伝えるとともに、高校生から医学生、それに医師になってからの専門医など、さまざまなキャリアステージごとに効果的な支援を行っていきたい」

順天堂大学病院の誘致 医師不足解消の切り札となるか

大学病院 整備予定地(さいたま市緑区) 令和5年7月撮影

埼玉県は、医師不足の解消を目指して、大学病院を公募し、平成27年に東京の順天堂大学が選ばれました。順天堂大学は、さいたま市緑区に新しい病院の開設を予定していて、当初のスケジュールでは平成30年3月に着工し、令和2年度に完成予定となっていました。
しかし、大学側は明確な理由を示さないまま、工事は着工されませんでした。その後、県が大学側に整備計画の再提出を求め、これまでに3回にわたって、開院時期の変更がなされました。
最新の計画では、再来年、令和7年に着工し、令和9年11月の開院を目指して準備を進めているとしています。
病院の病床数は、当初の計画から変わらず800床で、約30の診療科に300人ほどの医師が勤務する方針です。

上空から撮影した整備予定地(令和3年12月撮影)

一方、県は、大学病院を公募した際に、県内の医師確保が困難な地域への医師派遣への協力を条件としていました。県内の5つの医療機関から消化器系や循環器系などを中心に84人の派遣希望が寄せられています。
これに対し、順天堂大学からこれまでに派遣されたのは加須市の病院に派遣された整形外科医1人のみで、医師不足の解消に大きな効果を上げているとは言えません。
このため県は、順天堂大学に対し、医師の派遣に関する具体的な計画の提出を求めるとともに、医療機関と派遣できる医師とのマッチングを進めています。

埼玉県保健医療政策課
「順天堂大学には令和9年中の開院という約束はしっかりと守っていただきたい。また、医師不足の地域などへの医師派遣についても、医療機関からの要望も来ているので誠実に向き合って対応していただきたい。県としては、県の医療提供体制の充実に向けて引き続き取り組んでいく」

県は、順天堂大学が病院の開院に向けた計画をきちんと遂行しているか、進行状況をチェックし、県民が安心して医療を受けられる体制づくりを行っていくことが求められています。

取材後記

私たちに身近な医療。医師不足解消の特効薬はありませんが、5年後10年後の埼玉県の医療を支えるために、今、種をまいておくことが大切なのだと感じました。
みなさんが住んでいる地域の医療について、関心を持って調べてみませんか。

  • 二宮舞子 記者

    二宮舞子 記者

    2017年入局。愛媛県出身。盛岡局で東日本大震災からの復興や障害者支援などを取材。2022年8月からさいたま局で県政や選挙を担当。

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