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2023ノーベル賞発表前 有力候補に片岡一則氏 柳沢正史氏 日本の2人含む23人発表 英の学術会社

  • 2023年9月21日

筑波大学の柳沢正史さんと川崎市産業振興財団の片岡一則さん。2人とも東京都生まれです。
ことし(2023)のノーベル賞の発表が10月2日から始まるのを前に、イギリスの学術情報サービス会社が今後、受賞が有力視される研究者として柳沢さんと片岡さんの日本の2人を含む23人を発表しました。

ノーベル賞 有力視される

世界中の研究論文を分析するイギリスの学術情報サービス会社「クラリベイト」は世界の研究者が発表したおよそ5800万本の研究論文などの分析をもとにノーベル賞の受賞者を予測していて、ことしは受賞が有力視される研究者として5か国から23人を発表しました。

このうち、日本からはノーベル生理学・医学賞の有力候補として筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構機構長の柳沢正史さん、ノーベル化学賞の有力候補として、川崎市産業振興財団の副理事長で、ナノ医療イノベーションセンター長の片岡一則さんの2人があげられました。

柳沢さんは、脳で分泌される「オレキシン」という神経からの信号を伝える物質が睡眠の制御に関わっていることを発見し、突然強い眠気に襲われる睡眠障害の一種「ナルコレプシー」の原因の解明や、不眠症の治療薬の開発に貢献したことなどが評価されました。

片岡さんは、ナノマシンと呼ばれる1ミリメートルの1万分の1以下という極めて小さい物質に薬を乗せて狙った場所に送り届ける技術を開発し、がん治療の進歩に貢献したことなどが評価されました。

「クラリベイト」が有力候補として挙げた研究者の中からは、これまでに71人がノーベル賞を受賞しています。

筑波大学 柳沢正史さんとは

柳沢正史さんは、東京都生まれの63歳。

筑波大学大学院で博士課程を修了後、アメリカ・テキサス大学の教授などを経て現在は、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の機構長を務めていて、睡眠の仕組みを解き明かす神経科学の基礎研究に携わっています。柳沢さんの功績の一つが睡眠の制御に関わる「オレキシン」という物質の発見です。

オレキシンは脳の「視床下部」という場所で作られる神経からの刺激を伝える物質で、睡眠や覚醒、食欲などに関わっていることがわかってきました。

中でも、突然、強い眠気に襲われて眠り込んでしまう「ナルコレプシー」という睡眠障害にオレキシンが関わっていることが分かり、治療薬の開発が進められています。

また、オレキシンの働きを抑えることで不眠症を改善する薬も開発されていて、2014年から日本とアメリカで実用化されています。こうした業績が認められ、柳沢さんは2003年にアメリカ科学アカデミーの会員として迎えられたほか、2016年には紫綬褒章を受章しています。

今回の受賞について柳沢さんは、次のように話しています。

柳沢さん
「オレキシンの発見は、それまで原因不明だった『ナルコレプシー』の原因の究明につながり、睡眠学が新しい時代に入るきっかけになったと思う。睡眠の基礎研究という分野に社会的な関心が高まり、こうした賞として認識されたことは非常にうれしい」

一方、柳沢さんはアメリカ国籍を取得し、現在もテキサス大学の客員教授も務めるなど、長年アメリカで研究を続けてきました。

その上で、日本の研究者の現状について、より研究に時間を割ける環境が必要だと訴えました。

「アメリカの研究者は研究をやらないとあっという間に立場がなくなってしまうが、研究以外基本的にやることがなく『暇』がある。一方で、日本の若い研究者を見ていると研究とは関係のない事務的な業務の数があまりにも多くて、結果的に研究の時間が取られているように感じる。いい研究をするためには研究を楽しむ心の余裕を持てるような環境整備が必要だ」

その上で、研究を支える国の対応については「ノーベル賞が出た分野は産業界からもお金が出るので放っておいてもよくて、国が『日本の強み』だといって支援しても周回遅れになる。アメリカの場合はNIH=国立衛生研究所をはじめとした研究資金を提供する組織の幹部が元研究者だったり、イギリスでは省庁の副大臣級のレベルの人が元々各分野の専門家だったりして、こうした人がこれから発展する分野を選んで支援をしている」として将来有望な分野を見定める「目利き力」が政策決定者に求められると指摘しました。

一方で柳沢さんは「研究者人口は減っているが、少なくとも生命科学の分野では光る研究が出続けているので、そういうことを評価して伸ばしていくような科学技術政策の設計が求められる」として、研究の質を高めていくべきだと話しています。

川崎市産業振興財団 片岡一則さんとは

片岡一則さんは、東京都生まれの72歳。

東京大学大学院を修了後、東京女子医科大学の助教授や東京理科大学の教授を経て、1998年から東京大学の大学院で教授を務めました。2015年からは川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンターでセンター長を務めています。

片岡さんは、2万分の1から10万分の1ミリメートルほどの「ナノマシン」と呼ばれる小さな粒に薬を包み込み、体内の狙った組織に取り込ませる技術を開発しました。

片岡さんが開発したナノマシンはそれまでのものと比べて小型で体が異物として認識しにくくなるためより効率的に体内で薬を運べるようになったということです。

副作用が少ないがんの治療薬や、効率よく脳に届くアルツハイマー病の治療薬など様々な新薬の研究開発に応用されています。

今回の受賞を受けて、片岡さんは次のように話しました。

片岡さん
「大変名誉なことであり、私の研究に興味を持っていただいた世界の研究者に感謝したい。『将来的に患者さんのためになることをする』というみずからのミッションを果たすための『種』を研究を通して今後も供給していきたい」

片岡さんは、インパクトのある研究成果を挙げることができた理由について、「化学」と「医療」という異なる2つの分野にまたがる研究に取り組んできた点を挙げました。

「自分の専門知識や考え方がほかの分野の課題の解決に結びつくということがある。分野を超えていまある領域を超えた研究を続けることで領域がさらに広がり、気がついたらインパクトのある研究になっているということだと思う」

最近の日本の研究力について片岡さんは、「『種』となる研究をやって、それを展開して世界の注目が集まるところまで仕上げていくという息の長い研究が、日本は弱いと感じる。30代後半から40代前半ぐらいの研究者に思い切り研究をやらせることが大事で、研究費や雇用など、長期的な視点で研究をサポートする制度が必要だ」と述べました。

その上で「インターネットやSNSの普及で、科学技術への関心が高まり、ある意味では科学者にとって幸せな時代だ。一方で、自分たちにどう役立つかというプレッシャーも高まっている。科学者はそれをきちんと受け止めて丁寧な説明をしていくことも大切だと思う」と話していました。

ことしのノーベル賞の発表は…

ことしのノーベル賞の発表は、10月2日の生理学・医学賞から始まり、3日に物理学賞、4日に化学賞、5日に文学賞、6日に平和賞、9日に経済学賞の発表がそれぞれ行われます。

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