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男性の育休取得率 過去最高 “期間や給料などで課題 とるだけ育休も懸念”

  • 2023年8月7日

約17%。これは昨年度、企業などで働く男性の育児休業の取得率です。

これまでで過去最高になったことが厚生労働省の調査でわかりましたが、政府が2025年までの目標とする50%までは開きがある状態です。

あと2年しかない中、目標を達成できるのか?
男性の育休取得をどうすれば、さらに進めることができるのか?
現状と課題についてまとめました。

過去最高の17%も…目標との大きな開きが

この調査は厚生労働省が毎年行っているもので、去年10月に全国の3300余りの事業所から回答を得ました。

それによりますと男性の育休の取得率は17.13%で、前の年に比べて3.16ポイント増え、過去最高となりました。

一方、女性の取得率は80.2%と4.9ポイント低下しました。

男性の取得率を産業別に見ていくと以下のようになっています。

産業別の男性の取得率
<高かったのは>
「金融業・保険業」37.28%
「医療・福祉」25.99%
「生活関連サービス・娯楽業」 25.53%

<低かったのは>
「卸売業・小売業」8.42%
「宿泊業・飲食サービス業」9.06%

企業などの男性の育休取得率は、今の方法で記録を取り始めた1996年度には0.12%でしたが、その後、上昇傾向が続き、2017年度には5%を超えました。

2019年度から2020年度にかけては、7.48%から12.65%へと5ポイント余り増えて、過去最大の伸び幅となりました。

昨年度は17.13%と前の年の13.97%に比べて3.16ポイント増え、過去最高となっています。

ただ、政府は男性の育休取得率の目標を2025年までに50%、2030年までには85%に引き上げるとしていて、まだ、目標までは大きな開きがある結果となりました。

収入面や休みやすい環境整備が不可欠

厚生労働省は育休の取得率を高めるためには、収入面の手当てや休みやすい職場環境の整備が欠かせないとしています。

ことし3月に公表した調査では、男性の正社員が育休を取得しない理由を複数回答で聞いたところ、最も多かったのは、「収入を減らしたくなかったから」で39.9%でした。

また、「職場が育休を取得しづらい雰囲気だった」または「会社や上司、職場の育児休業取得への理解がなかったから」が22.5%、「自分にしかできない仕事や担当している仕事がある」が22%、「残業が多いなど業務が繁忙であった」が21.9%などとなっています。

また、男性が育休を取得しても短期間にとどまり、家事や育児に十分な時間をさけない、いわゆる「とるだけ育休」も懸念されるとしています。

育休取得率…企業の規模が大きいほど高い傾向

厚生労働省の2021年度の調査では、育児休業は女性のうち95%が6か月以上取得していたのに対し、男性は「5日未満」が25%、「5日以上2週間未満」が26.5%で2週間未満の取得が半数あまりを占めました。

また、今年度から年1回の公表が義務づけられた従業員1000人を超える企業などのうち、調査に答えた1400社あまりの取得率は46.2%となり、企業の規模が大きいほど取得率が高い傾向があることがわかりました。
対象の企業の男性の育休取得日数の平均は46.5日でした。

厚生労働省
「男性の育休取得の機運は一定程度、醸成されてきたが、女性に比べると低い水準だ。あらゆる政策を動員して、男性が希望どおり育休を取得できるよう進め、男女ともに仕事と育児を両立できる環境づくりを進めていきたい」

育休をとりやすい雰囲気を

会社全体で男性が育児休業をとりやすい雰囲気をつくることで、男性従業員の育休取得率を向上させている企業があります。

東京・品川区のITサービス会社、日立システムズです。

2018年度に実施したアンケート調査では、男性従業員の80%以上が「育休を取得したい」と回答したものの、このうちのおよそ70%が「実際に取得する自信はない」と回答していたということです。

このため、取得率100%を目指すと社長が宣言したうえで、対象となる従業員や上司に対して、個別に育休の取得をすすめるほか、不安を解消するためのセミナーを開催するなどして、サポートを強化したということです。

この結果、昨年度(2022年度)に子どもが生まれた男性従業員の147人のうち83%にあたる122人が育児休業を取得したということです。

また、男性の育休の平均取得日数も2020年度は17日でしたが、昨年度は37日だったということです。

ことし、1か月の育休を取得した松本直さんは、「社長が宣言をしたことで、みんなが育休を取るものなのだと感じられて後押しされました。会社のことが好きになったきっかけにもなりました」と話していました。

日立システムズの人事総務本部ダイバーシティ&エンゲージメント推進室の藤澤国彦部長代理は、「育休を取る社員の仕事をみんなでシェアして替えが効くようにしていくことが大切で、育休をとることに後ろめたさを感じないよう引き続き従業員のサポートをしていきたい」と話していました。

中小企業の実情 “大企業ほど人繰りに余裕ない”

企業に育休取得率の向上が求められるなか、中小企業からは大企業ほど人繰りに余裕がないため、長期間の育休は取得しづらいのが実情だとする意見が聞かれました。

日本商工会議所などが去年、全国の中小企業およそ6000社を対象に行なった調査では、「育休を取る人の代わりがいない」と回答した企業が52.4%と半数を超えました。

また、「採用難や資金難で育休時の代わりの要員を外部から確保できない」が35.7%、「男性社員自身が取得を望まない」は28.8%にのぼりました。

東京・墨田区にある金属加工会社では、金属プレスやレーザー加工、3Dプリンターなどさまざまな機器があり、およそ50人いる従業員にはプログラミングや溶接など専門性の高い業務が割り当てられています。

ことし1月に子どもが生まれたという37歳の男性社員は、当初は2か月ほどの育休を取りたいと考えていたものの、実際に取得できたのは有給休暇で13日、育休としては1日にとどまったということです。

男性社員
「出産を終えた妻のサポートや子育てのためにももう少し休暇がほしかったが、仕事のポジション上、ずっと不在にはできないのでしかたがありません」

浜野製作所の浜野慶一社長
「会社でも仕事が属人化しないようにジョブローテーションや配置換えなどを行っているが、もともとの人数も少なく人繰りに余裕がないため、長期間、休暇を与えることは難しい。こうした中小企業は少なくないのではないか」

専門家は “男性育休を当たり前にするムーブメントを

男性の育児休業などに詳しいパーソル総合研究所の砂川和泉研究員は、中小企業などでは業務を1人で抱え込まないように複数の人で担当するなどカバーしあえる環境づくりが必要だといいます。

砂川和泉研究員
「属人化の解消でいえば、仕事の見える化をする。いつどんな時でもカバーできるように情報の共有を図るとか、カバーしたことを評価、処遇に組み込むですとか、カバーするメンバー側がポジティブな気持ちでカバーできるようなマネジメントも求められていくと思います」

「男性の育休を当たり前にしていくということ、そうしたムーブメントを国として後押しして促進していくことが一つ重要な観点かと思う」

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