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中江有里ブックレビュー “好き”になることに思いを馳せる4冊

  • 2024年1月10日

“好き”には、自然発生的な好きと、環境が作る好き、大きく分けると2つあると思います。
でも、それがどんな過程を経たとしても“好き”であることにかわりはありません。
好きなことができると、自分に変化が生まれます。楽しい時間が増えるかも?それをきっかけに目標ができるかも?
今回は、“好き”のその先に思いを馳せられるような本をご紹介します。

【番組で紹介した本】

『笑顔と、生きることと、明日を 大林宣彦との六十年』
著者:大林恭子
出版社:春陽堂書店

Yuri’s Point
2020年お亡くなりになった映画監督大林宜彦氏。その妻、大林恭子さんによる大林監督との出会い、映画と共に歩んだ人生を振り返る一冊です。映画会社に属さない映画監督であり続けた大林監督をそばで見続けていた恭子さん。自らもスタッフとして参加し、ある時期からはプロデューサーとして大林監督、そして撮影現場を影日向から支え続けてきました。時にハードで、苦しいことも多い撮影をかけがえのない経験に変えていったのは、大林夫婦の信念とお人柄によるものでした。日本映画における大林監督作品の内側から見た評伝でもあります。

『くらべて、けみして 校閲部の九重さん』
著者:こいしゆうか
出版社:新潮社

Yuri’s Point
本を作るうえでかかせない仕事でありながら、ほぼ表には出ない校閲。「その役割は言葉や表現そのものの正確さ、的確さを見分けること」出版社の校閲部を舞台に、悪筆な原稿の解読法、誤植の怖さなど、言葉を扱う校閲部員のリアルなエピソードをマンガ化。言葉を徹底的に愛し、疑う校閲部のみなさんの苦労と努力に、頭が下がります。
これまで読んできた本は、「本の裏方」である校閲のみなさんによって支えられてきたことを知り、あらためて感謝しました。

『エヴァーグリーン・ゲーム』
著者:石井仁蔵
出版社:ポプラ社

世界有数の頭脳スポーツ「チェス」と出会い、その魅力にとりつかれた4人の若者たちの物語。病気や家庭環境などそれぞれ重荷を背負いながら、チェスを通して己の人生と戦っていきます。青春・覚悟・情熱・夢…すべてをかけたその先に見えるものは一体何なのか。チェスと人生がドラマチックに交錯するエンターテイメント作です。

Yuri’s Point
難病を抱える小学生の透は、なかなか退院できずくさっていた中、同室の子にチェスを教えてもらいます。チェスにのめり込む中で人生に希望を見出し、自分から体を治そうと、変化が生まれます。冴理は、お母さんからピアノを弾くことを強制されていましたが、そこから飛び出してチェスと出合ったことで、自分を確立していきます。きっとそれぞれは孤独な存在ですが、好きになったチェスを通して世界とつながることができるのです。“好き”のパワーはすごい。勝ちたい、認められたい、お金が欲しい、人によって違いはあれど、好きになったものから目的が生まれ、そのためなら、きっと無理難題も超えていけるのだと思います。

『読書国民の誕生 近代日本の活字メディアと読書文化』
著者:永嶺重敏
出版社:講談社

日本人はなぜ、いつ、「読者」になったのか?そして、何をどのように読んできたのか?明治期に活字メディアを日常的に読む習慣を身につけた国民すなわち「読書国民」が誕生する過程を描いた一冊です。

Yuri’s Point
当時、本を読むことがなぜこれだけ奨励されたか?国家の側から見ると国民の識字率や知的水準、国力を上げていこうという思惑があり、それに読書は最適だったのだと思います。本を読んだ方がいいと思う人は今も多くいます。もしかしたらそれはある種の刷り込みかもしれない。ただ、好きになる過程はどうであれ、好きなものが増えると人生は豊かになります。さらに、本は、読む時間を楽しむだけでなく、そこで知った情報から新たな“好き”が生まれる可能性を秘めています。好きなものが増えるということは、今まで自分の人生にはなかった新たな好循環を生み出してくれるものかもしれません。

 

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1月10日に「ひるまえほっと」で放送。
NHKプラスはこちらから(放送から1週間ご視聴いただけます)


【案内人】
☆俳優・作家・歌手 中江有里さん

1973年大阪生まれ。1989年芸能界デビュー。
数多くのTVドラマ、映画に出演。02年「納豆ウドン」で第23回「NHK大阪ラジオドラマ脚本懸賞」で最高賞受賞。NHK-BS『週刊ブックレビュー』で長年司会を務めた。NHK朝の連続テレビ小説『走らんか!』ヒロイン、映画『学校』、『風の歌が聴きたい』などに出演。
近著に『万葉と沙羅』(文藝春秋)、『残りものには、過去がある』(新潮文庫)、『水の月』(潮出版社)など。
文化庁文化審議会委員。2019年より歌手活動再開。

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