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熱海土石流を越えて 伊豆山で5年ぶりにみこしが復活!

土石流で被災した地区を元気に・・・。被災者がみこしに込めた思いとは
  • 2024年04月19日

 

2021年7月、大規模な土石流の被害を受けた熱海市伊豆山地区。地区にある伊豆山神社では、4月14日から伝統の例大祭が行われました。ことしは5年ぶりに、コロナ禍と土石流の影響で行われていなかった各町内ごとのみこしの練り歩きが復活しました。参加者がこの行事に込めた思いを取材しました。(伊東支局 記者・武友優歩)

復活したみこし 被災した担ぎ手は

 

4月15日、伊豆山神社の参道に「わっしょい!」と男たちの大きな声が響き渡りました。参道には大勢の人が詰めかけました。住民たちが待ちに待った光景です。

「5年ぶりのみこしで、みんなうれしがっているよ」(地元の人)
「気持ちがすっきりするね。やっぱりいいもんだ」(地元の人)

みこしをかつぐ小川浩和さん

参加した、小川浩和さん(46)です。小川さんの自宅は3年前の土石流によって押し流され、今はさら地になっています。

土砂が堆積している辺りが小川さんの自宅があった場所

当時、自宅では小学6年生の娘が1人で留守番をしていましたが自力で脱出。
家族は全員無事でしたが、祭りに一緒に取り組んできた同級生や近所の女性などが犠牲になりました。

「身近にいた人が、数秒で連絡を取ることができなくなるってこんなことかなと思った。一生忘れることはないと思う。すべて奪われているし、結局お金で買えないものもあるわけだから」
(小川さん)

伊豆山にとってみこしは“絆”の象徴

コロナ禍と、2021年の土石流の影響で、5年間行われていなかったみこしの練り歩き。
春になると、地区ではこの話題で持ちきりになるほど欠かせないものでした。
小川さんも幼いころから関わり、同世代を仕切る役割も担ってきました。

2018年の祭りの様子(写っているのはほかの団体)
みこしは土石流で被害を受ける前のエリアも通っていた

「絆だよね。祭りをやることによってお互いのことが分かり合えるかもしれないし、知らない人でも『祭りの時に来てくれた人だな』となるし。祭りをやらなくなると、そういうのがなくなってきてしまう」(小川さん)

今の被災地。川沿いに流れた土砂が家を押し流し、さら地が広がる。

しかし、土石流で住民は離ればなれに。最大で158世帯が避難生活を余儀なくされました。
去年9月に「警戒区域」が解除され、徐々に人が戻ってきていますが、地区を離れる人も多く出てきています。

地区が落ち着かない中で、練り歩きの再開を反対する意見もありました。しかし、伝統を途切れさせたくないという多くの声を受けて、再開が決まりました。

4月7日みこしの準備をする様子

「ぽつんともぬけの殻みたいになってしまっているから、伊豆山に住みたくないって言う人もいるんだよね。こういうことが起きると。みこしがきっかけになると思う。みこしをやることによって(地区が)よくなっていけば、今後もこれから伊豆山に住みたい人も出てくると思う。
住んでいたところをよくしていこうという気持ちだよね、今は。亡くなった方もいるのでその方への思いも込めて、みんなで仲よく楽しく担ぎたいと思います」(小川さん)

さまざまな思い込めて 5年ぶりのみこし

 

写真撮影の様子

そして、迎えた当日。小川さんが所属する町内会からはおよそ30人が参加しました。

声を出さずに神社の参道を下る

土石流で多くの人が犠牲になったこの町内会。担ぎ手たちは亡くなった人たちを悼んで、声を出さずに神社から下りました。

土石流の直接的な被害を受けた場所は復旧工事などが行われているため、通りませんでしたが、みこしの音が聞こえないかと、家の外に出てきている人の姿もありました。太鼓の音が響きます。

土石流の被害を受けた場所に出てきていた地元の人

「昔はここを上ったから」(地元の人)
「懐かしい。上ってくるとみんなここに立っていたんだもんね」(地元の人)

大きな見どころである神社への上り。担ぎ手たちは力強い声を出していきます。さまざまな思いを乗せて、みこしが境内まで戻ってきました。

「楽しいというか、感動しました。祭りができて、どんどん雰囲気が良くなってくると、『伊豆山に住みたい』という人も出てくると思うし、そうすれば伊豆山も盛り上がってくると思います。とにかく明るく気兼ねなく、伊豆山が一体となるような、祭りでもわいわいできるような場所にしていきたいです」(小川さん)

小川さんは今後、元あった場所に自宅を再建したいとしていますが、地区では川や道路の大規模な整備が予定されていることから、数年間は避難生活が続く見込みです。小川さんのように帰還を待つ人は3月末時点で40世帯います。祭りの活気を1つのきっかけにしながら、コミュニティの存続を後押ししていくことが、今後、地区の復興のために必要なことだと感じました。

※2024年4月15日に放送した動画はこちらから。視聴できるのは2か月限定です。

  • 武友優歩

    伊東支局 記者

    武友優歩

    2019年入局。静岡局が初任地で2022年から伊東支局。熱海土石流は発生当時から現地で取材を行う。

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