吉田町からポーランドへ書道を伝える
- 2023年06月29日
日本からおよそ8500キロ離れた国・ポーランド。
6月17日、首都ワルシャワで日本の文化を楽しむジャパンフェスティバルが盛大に開かれました。
約3万人の観客が訪れる中、ステージ上で書道パフォーマンスを披露したのは、吉田町在住の書家・小塩瀏蒼(りゅうそう)さんです。
コロナ禍を経て、今年で4回目の参加となった小塩さん。ジャパンフェスティバルでの書道パフォーマンスのほか、展覧会や子どもたちに向けたワークショップを開くなど、ポーランドの人たちに日本の伝統文化を伝えてきました。
日本の書道はポーランドで人気が高まっていて、イベントに来るお客さんも年々増えています。書道パフォーマンスでは、筆の動きに合わせてお客さんにも手を動かしてもらいました。すごい盛り上がりでしたよ!
小塩さんが制作しているのは、王羲之(おうぎし)や欧陽詢(おうようじゅん)など古い中国の書家にならった古典的な作品のほか、書とデザインを組み合わせた前衛的な作品です。前衛作品はポーランド人のアーティストと共同で制作していて、日本とポーランドで互いに作品を送り合いながら完成させています。
デザイン性の高い前衛作品は、文字が理解できなくても目で見て直感的に楽しむことができます。まずはそこから書道に興味を持ってもらい、その上で、長い歴史がある古典にも目を向けてもらえれば嬉しいですね。
“絵に代われる書” 前衛作品の可能性
7歳で書道を始めた小塩さん。地元の書道会などで学んだ後、およそ10年前に教室を開き、現在は吉田町と牧之原市でおよそ100人の生徒を指導しています。
長らく古典を学んできた小塩さんですが、一方で前衛作品の可能性を感じ、欧米で活動してみたいと思うようになりました。
前衛作品は“絵に代われる書”だと思います。伝統的な書道が身近にある日本や中国では、そうした作品に対して変に先入観を持たれてしまうことがありますが、欧米ではそれがなく、書もアートのひとつとして見られるので、純粋に評価してもらえると考えています。
そんな小塩さんに転機が訪れます。2016年に吉田町を訪れていたポーランド人と親しくなったことをきっかけに、翌年のジャパンフェスティバルで書道パフォーマンスを行うことになりました。
初めて訪れるポーランドに不安も少しありましたが、いざイベントが始まると、想像を超える熱気に驚いたといいます。
パフォーマンスを終えると、会場いっぱいのお客さんからスタンディングオベーションが起きました。会う人会う人に「すばらしい!」と声をかけられ、国を超えて書道が受け入れられたと思いました。生まれた場所や文化、言語が違っても、共有しあえるものがあると絆ができますし、仲良くなれると実感しました。
書道を通じて互いの文化を伝えたい
ポーランド人の書道に対する熱意に触れた小塩さんは、現地に書道会の支部を立ち上げました。
日本語学校に通っている人や、小塩さんの作品を見て書道に興味を持った人など、現在20人ほどの生徒が参加しています。
日本の小学校で習う漢字を教えることが多いですが、中には本格的な古典に取り組む生徒もいます。書道を通して“わびさび”など、日本の精神や伝統文化に触れて欲しいですね。興味を持っている人や上達したいという熱意を持った人には、日本もポーランドも関係なく、しっかり指導していきたいです。
また小塩さんは、将来は静岡県内でポーランドの文化を紹介するイベントを開きたいと考えています。
海外で芸術的な活動をしたい人はたくさんいると思います。その中で、僕は幸運にも海外に行くチャンスに恵まれましたが、だからこそ使命感もあります。ただ字を書くだけの書家ではなくて、日本とポーランドそれぞれの良い文化を伝えながら、書を通じて勇気を与えられるように頑張っていきたいです。
書道を通じて日本とポーランドをつなげたい。互いの文化を伝えようと、小塩さんはこれからも筆を執り続けます。