絶滅危惧植物を育てる高校生 南アルプスの自然を未来へ
- 2023年01月17日
可憐なピンク色の花を咲かせる高山植物・オオサクラソウ。
北海道から本州中部の亜高山帯に自生していますが、静岡県や新潟県、石川県などでは絶滅危惧種に指定されています。
国内の自生地のうち、最も南に分布するのが、静岡県の北部にそびえる南アルプスです。
消失する南アルプスの高山植物 未来へ残す取り組み
南アルプスに自生する高山植物は200から300種類。その中にはオオサクラソウをはじめ、いまだ詳しい生態が分かっていない種もあります。
一方で、1900年代の末ごろからニホンジカによる食害が急速に拡大してきました。いまでは南アルプスのほぼ全域で高山植物の衰退や消失が相次いで確認されています。オオサクラソウも数を減らし、県の絶滅危惧種に指定されています。
万が一現地で絶滅しても南アルプスの種を未来へ残すため、県は3年前から、希少植物を種子から育てて人工的に増やそうとする取り組みをおこなっています。
育成を担うのは、県内の農業高校に通う生徒たちです。
静岡農業高校2年 望月小遥(こはる)さん
「(部活動が)山岳部ということもあって山に登れるので、興味があったので参加しました」
静岡農業高校2年 岩崎にこさん
「高山植物について学びたいと思ったのがきっかけです」
去年この取り組みに参加した2人は、8月にオオサクラソウが自生する南アルプスの千枚岳を調査。気温や湿度など自生する環境を学んできました。
その後、県が特別に採取したオオサクラソウの種子を譲り受け、育成実験が始まりました。
オオサクラソウの発芽に挑む
望月さんと岩崎さんは、先生のサポートを受けながら種子を植える作業に取り組みます。
一部の種子には成長を促進させる液体をしみこませます。この、しみこませる時間が長すぎても短すぎても発芽しにくくなるといいます。
また、種子は栄養を含んだ寒天や土に分けて植え、どういった環境下で発芽するのか複数の条件を試します。
種子を植え終わった容器は、温度と日照を保つ機械の中に入れて発芽を待ちます。
この機械で設定する日照時間によっては、オオサクラソウよりも他の雑草や藻がよく育ってしまうため、ここでも注意が必要だそうです。
約1か月が経った12月下旬。
成長促進剤を与えた種子を中心に、オオサクラソウとみられる芽が5つ出ました。
藻やカビの発生が懸念されましたが、無事に発芽させることができ、2人は安心した笑顔を浮かべます。
静岡農業高校2年 岩崎にこさん
「温度管理や光の調節が発芽につながったと思います。うれしいです」
静岡農業高校2年 望月小遥さん
「何も発芽しない可能性もあるので、育ってくれてうれしいです。ほっとしました」
発芽した苗は春ごろに別の鉢へ移し替え、設置場所を屋内外に分けて経過を観察していきます。
目標は花を咲かせて再び種子をとること。絶滅危惧植物と向き合う高校生たちの挑戦はこれからも続きます。
(取材:NHK静岡・カメラマン 前田詠里)