インクルーシブ防災~みんなで助かる防災の実現へ~
「インクルーシブ防災」は、障害がある人もない人も、高齢者も、幼い子どもも「誰ひとり取り残さない」を目指した防災の理念です。
東日本大震災では、障害者の死亡率が全体の死亡率の約2倍に上ったことが分かっています。
あれから11年半。災害弱者の命を守るための防災対策が十分に進んでいないなか、現状を変えようと動き出した車いすの女性がいます。
(仙台放送局・杉本織江)
【防災士になった車いすの女性】
「『地震が来たら、車いすの人はあきらめるしかない』という声が多いです。 でもそうじゃないですよね。」 |
そう話すのは、大河原町に暮らす車いすユーザーの岩城一美さん。
ことし7月、「防災士」の資格を取得し、地域の防災活動に参加しようとしています。
災害時の避難ルートや避難所の課題に、障害者の視点から向き合いたいと考えたからです。
【避難ルートに多くの課題】
岩城さん自身、2019年の台風19号の豪雨災害の際、当時住んでいた家が床下浸水の被害にあいました。水は床のすぐ下まで迫り、車いすの自分はどうなるのか、命の危険を感じたといいます。
現在の家も白石川に近く、大雨の際は自宅が浸水するおそれがあります。
早めに避難する必要性を感じていますが、町が指定する避難所までは1.5キロ離れ、車を持っていないため自力で移動しなければなりません。避難ルートの途中には踏切もあり、レールの隙間に車輪が入らないよう、わたる際には特に気を遣います。
岩城一美さん 「雨が降っていたら踏切も、持つところもぬれてすべりやすくなります。 できれば避けて通りたい道の1つです。」 |
【防災士として変えたいこと】
東日本大震災では避難ルートへの不安から避難をためらい、逃げ遅れた人もいたことをふまえ、岩城さんは防災士の立場から行政に防災上の課題を働きかけることにしました。
この日は、指定避難所になっている体育施設を町の職員と一緒に点検し、多目的トイレがないうえに、車いすでは入ることすらできないトイレの幅の狭さを指摘しました。そして、大規模な改修をしなくても、ドアのタイプやレイアウトを変えるだけで車いすの人も利用できるようになるのではないかと提言しました。
大河原町の職員 「障害のある方や、スペースの広いトイレを必要とする方が使えないのでは、 避難所としてだけでなく体育施設としても成立しない。 当事者の意見を聞きながら改修を検討したい」 |
【さまざまな立場から声を】
岩城さんは、インクルーシブ防災の実現には障害者や高齢者、幼い子どものいる人など、さまざまな立場の人が声をあげ、課題を知ってもらうことが大切だと考えています。
岩城一美さん 「健常者が全部やって、障害者は助けられる側。 そうではなくて、私たちも何か役に立つことができる。 その一員となれることを分かってほしい。 ここが足りないと思うことを、きちんと自分の目線から発言できる人になりたい」 |
【個別避難計画で対策進む??】
災害弱者にとっての防災の課題は地域によってさまざまですが、去年、国が市町村の努力義務とした「個別避難計画」作成の取り組みにいま期待が寄せられています。避難の遅れによる犠牲者を1人でも減らそうと、支援が必要な高齢者や障害者など1人1人の避難の方法や避難を支援する人を決めておくものです。
ただ、支援者を確保するのが難しいという課題もあり、ことし1月時点で計画を作り終えたのは、宮城県内の対象者のおよそ3%にとどまっています。専門家は、支援する役割をみんなで分担し、負担を減らすとともに、計画作りをきっかけに、どうすれば地域全体で支え合えるか、話し合いを始めてほしいと話しています。
跡見学園女子大学 鍵屋一教授 「1から10まで役割を担える支援者を探すのは難しい。 『避難した方がいいよ』『私は逃げるよ』と 声かけをするだけなら負担感は減ると思う。 個別避難計画は計画を作って終わりではない。 支援者も要支援者も安心して生きていけるよう、話し合いの場を持って欲しい」 |
【インクルーシブ防災の実現へ】
地震や水害などが各地で起きているいま、「インクルーシブ防災」を推し進めることは、社会にとって待ったなしの課題です。みんなで助かる防災のあり方、改めて考えてみませんか?
仙台局記者 杉本織江
2007年入局
震災当時は仙台局勤務。
アジア総局などを経て2019年から再び仙台局。
震災・災害を中心に担当。