ウクライナ侵攻半年 ~いま避難者に必要な支援とは~

ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから半年。
県によりますと、県内には9月2日時点で少なくとも16人が避難を続けています。
戦闘が終わる見通しは立たず、長期にわたって日本で生活することが予想される中、避難者をどう支えていくことが求められているのでしょうか。
3人が避難する石巻市の取り組みを取材しました。

(石巻支局 藤家亜里紗)


 【日本語教室 笑顔あふれる】

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「わたしは、しょうがっこうの、せんせいを、していました」
石巻市で毎週月曜日に開かれている日本語教室。
市内に住む外国人などを対象に、ボランティアの講師がマンツーマンで教えてくれる教室にひときわ熱心な生徒の姿がありました。
イリーナ・ホンチャロヴァさん(63)です。
ことし4月、80代の母親と一緒にウクライナ北部のチェルニヒウ州から石巻市に住む家族を頼って避難してきました。

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来日した当初、日本語が全く話せなかったイリーナさん。
日本での生活には最低限の日本語が欠かせないため、
市の紹介で、5月から無料でこの教室に通っています。

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その成果もあり、今では簡単なあいさつや短い会話もできるようになりました。
講師のボランティアとも今やすっかり打ち解けています。

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(イリーナさん)
「レッスンは全てとても面白く、いつも笑っています。
 日本の生活が非常に興味深いので、日本語のコミュニケーションがとても重要。
 私の辞書には日本語の単語がたくさん増えていて、とても満足しています」

 

【震災経験 避難者支援に生かす】

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イリーナさんを含め、ウクライナから3人の避難者を受け入れている石巻市。
その支援に生かされているのが、東日本大震災の経験です。

イリーナさんの自宅は災害公営住宅の空いていた部屋を市が提供しました。
生活費は生活保護の水準にあわせて市が独自に支給しています。

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月に2回以上、避難者の自宅を保健師が訪問し、困りごとを聞き取っています。
震災後に仮設住宅をまわった訪問活動を参考にしています。

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(保健師 大須美律子さん)
「震災の時、被災者は色んな人から『困りごとはありませんか』と何度も同じことを聞かれて疲れているように見えたんです。毎回同じことを聞かれるから、そのうち相手を気遣って『大丈夫です』って言うようになっていた。だから被災者から話を聞くのは最小限にする一方、聞いた話は関係者の間で共有するように工夫したんです。

イリーナさんたちも来たときはずっと『大丈夫、大丈夫』って言っていました。だけど、お互い関係が構築できて、心を許してくれると、目とか、血圧とか体の不調を話してくれるようになってきた。見守りも支援のうちで、ゆるやかに見守りつつ、本人が自分たちで生活できるように、サポートしてあげられたらいいのかなと思います」

 

【侵攻から半年 自立支援を】

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ロシアによる侵攻が始まってから半年。戦闘が止む見通しはたっていません。
避難の長期化が予想される中、石巻市はイリーナさんに市内にある震災遺構「門脇小学校」で働かないかと提案しました。
月に2回程度、訪れた客を簡単に案内するほか、ウクライナ語で短い講話をすることになりました。
戦争で子どもが犠牲になることに心を痛めていたイリーナさんは東日本大震災で多くの人が亡くなったこの地域で、戦争の記憶や命の大切さなどを語ろうとしています。

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避難生活の長期化が予想される中、石巻市は避難者が支援を受けるだけでなく、社会に参加することが大切だと考えています。
イリーナさんの場合、得意とする「教えること」や「コミュニケーション」を生かすことで社会とつながりを持ってもらおうと考えています。

(保健師 大須美律子さん)
「やむをえない理由で違う環境に来て、自分自身がどうすればいいか考える中で、役割を見つけることは、前向きに生活ができる一歩になる。長期的な避難を見据えて役割を持って生活していくことが大事になる」

侵攻が始まってから半年。イリーナさんに祖国や石巻に対する今の思いを聞きました。

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(イリーナさん)
「私たちはウクライナが自由になることを信じて待っています。みんなと一緒に、私たちの祖国、私たちの町を再建させたいと願っています。それまではこの場所(震災遺構)に来る人達とたくさん交流して、石巻の人たちの役に立ちたいと思います」

 

【専門家“長期避難=ことば・仕事の支援を”】

避難者の支援に詳しい専門家は、避難の長期化が見込まれる中、「ことば」と「仕事」の支援が今以上に重要になってくると指摘しています。

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(国際NGO「難民を助ける会」堀江良彰 理事長)
「中長期的な視点で滞在を考えると日本語が必要になってくるし、いつまでも支援に頼るわけにはいかないので、どこかで仕事を見つけて、お金を稼いで生活をしていくことが必要になってくる。その点をしっかりサポートしていくことが必要になる」

その上で避難者が孤立しないよう、官民が協力しなければいけないと指摘しています。

「悩みを相談できる場所があまりないという課題もある。深刻な悩みでなくても、どこに行けば何が買えるとか、日常生活をする上で、すぐに解決するような悩みを気軽に聞ける人がいない。そういう人が周りにいると、感情的にも落ち着いてくる。その意味でも、地域として避難民を受け入れていくということが大切。声かけをするだけでも孤立を防げるし、地域で交流会を開くなど、中長期的に生活していく仲間として避難者を受け入れてほしい」

 

【取材を終えて】

イリーナさんはとても真面目でフレンドリーな人で、私に対しても覚えたばかりの日本語を少しずつ使って、笑顔で積極的に話しかけてくれます。
一方、ことばや文化が同じ環境で育った人ならすぐに理解できる、微妙な言い回しや心の変化をとらえることは、私たち日本人にとってまだ難しいのが現状です。
避難生活の長期化が予想される中、安定的な“居場所”をどうつくっていくのか。
そのためには、支援する側、される側という立場を乗り越えて、お互い必要な「仲間」として認め合い、行動することが今以上に大切になると感じました。

 


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石巻支局
藤家亜里紗
取材をきっかけにウクライナ語の本を購入
記事を読んでくれてДякую!(ありがとう)