孤立防ぐには 災害公営住宅の現状

東日本大震災で家を失った人たちのために整備された災害公営住宅。
宮城県内では21の市と町に集合住宅や戸建てとして最大1万5823戸が整備され、被災者が生活を再建する場所となっています。
2023年12月末時点で2万5000人以上が生活していますが、65歳以上の高齢者が半数近くを占め、高齢化が進んでいます。
また、同じ建物や団地の中でも震災前に住んでいた場所はさまざまだったため、イベントなどで交流を深めてきましたが、いまでは高齢化などに伴ってそうした機会もだんだん減少しています。震災から13年の災害公営住宅の“いま”を取材しました。

(NHK仙台 藤家亜里紗・境彩花・宮崎竜之輔)


 交流の機会減少 1人暮らしで不安も
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気仙沼市にある災害公営住宅・市営南郷住宅。およそ150世帯が暮らしています。
9年前、市内で初めての災害公営住宅として完成し、当初はボランティアによるイベントなども
多く受け入れてきましたが、いまでは住民どうしの交流が少なくなっているといいます。

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佐藤淑枝さん(81)は津波で市内にあった自宅が被災し、今はこの住宅に1人で暮らしています。

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(2015年1月 災害公営住宅の入居開始時 左が夫の常平さん 右が佐藤さん)

佐藤さんは夫の常平さんと最初の入居者となりました。
入居者は市内各地から集まったため、はじめはほとんど知り合いがいなかったといいます。
イベントに参加したり、お茶会を開いたりして積極的に交流を深めてきました。

しかし。夫が肺がんになり、3年前に他界。
看病に専念していた6年ほど前からお茶会は別の人に引き継ぎ、体調も優れなかったことから、交流の機会が減ってしまいました。

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夫の常平さんの遺影と佐藤さん 毎日話しかけているという

夫の死後、住宅にいた親友も亡くなってしまい、1人になった部屋でふと不安になることもあるといいます。

変な話、次は私かしらって思うときありますよ
だめだって思いつつ自分に結びつけてしまう
やっぱり沈むね 1人になると

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入居から時間がたち、災害公営住宅では住民の『孤立』がいっそう浮き彫りになっています。

つながりが薄れ孤立死も 見守りも限界に
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2023年から自治会長を務める植垣みどりさん(75)です。
週に4回、夫といっしょに住宅の共用スペースを掃除しながら、出入りする住民の様子を確認しています。最近は、体調が優れず部屋にこもりがちで顔を見ることが少ない住民も多いといいます。

自治会長 植垣みどりさん:
何日も出てこない人も、玄関まで出られない人もいるんです
そういう時はインターホン越しに『変わりないですか』って話して帰ります

こうしたなか、この住宅で1人暮らしの複数の住民が誰にも気づかれずに亡くなっていたこともわかりました。数日間、気づかれないケースもあったということです。
お風呂の中で亡くなっていた方が、時間が経ってから見つかったという部屋の前まで案内してくれました。

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洗濯ものを干したままで
1週間くらい誰も姿を見ていなくて
ショックですね こんな一緒にいて
あれだけ元気だった人が亡くなるのは

はじめの入居者が亡くなるなどして部屋が空くと、新しい住民が入ってくる災害公営住宅。
しかし、住民が入れかわっても新たなつながりは生まれにくいといいます。

植垣さんは、孤立を防ごうと1人暮らしの高齢者に声掛けを続けていますが、自分たちだけでは限界があるといいます。

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声かけのため住宅をまわる植垣さん 右は1人暮らしの80代の女性

自治会長 植垣さん:
『あの人が調子悪そうですよ』と聞いたら
その人の部屋に行って『どうですか』とは聞くけど
常に行くことはなかなかできない
そういう人に対しては、
住宅の皆さんにもなるべく会ったときに声をかけてもらったり
外へ連れ出したりしていきたい

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誰にもみとられず亡くなるいわゆる「孤立死」は県内の災害公営住宅で、これまでに少なくとも
132人にのぼることがNHKの取材でわかりました。「高齢化」と「孤立」が13年がたついまも
大きな問題となっています。

つながり意識した地域づくりも
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「孤立」を防ぐためにはどうしたらいいのか。
つながりを意識した地域づくりを進めている場所もあります。山元町です。

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社団法人の代表として町で活動する橋本大樹さんです。
大学を卒業後、神戸でまちのコミュニティづくりに携わり、そのノウハウをいかすため
震災の翌年に山元町に入り、いまも支援を続けています。

常に課題が更新されるというか「ここで終わり」って感じにならないんですよね。
悩まなきゃいけないことが新たに出てきて、
「じゃあまた一緒に考えよう」ってなると また1年みたいな感じで。
それの繰り返しで今もここにいます

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震災で大きな被害を受けた山元町では3か所の新しい市街地に戸建てタイプを中心に災害公営住宅が整備されました。広いエリアが津波で被害を受け、そうした地域から集まったため隣近所に住む人の顔も知らない住民も多かったといいます。

“顔を合わせて関わりあう”地域づくり
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ゼロからコミュニティを作っていく中で、橋本さんが目指したのが、住民同士が顔を合わせて関わり合う地域づくりです。

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まず取り組んだのは、情報が共有できる環境づくりです。自治会の役員を中心にワークショップなどを頻繁に開催し、徹底した話し合いを促しました。
いまでは住民の情報や困りごとなどを共有する場になり、解決につながっているケースもあるといいます。

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(左が住民の女性 橋本さんと区長とお茶を飲みながら会話)

地域の住民同士の関係づくりにも力を入れています。
橋本さんは地域のとりまとめ役の区長といっしょに、高齢女性が暮らす災害公営住宅を訪問しました。
当初、町の災害公営住宅では顔を知らない人同士で、ささいなことが気になっても声をかけづらい状況だったといいます。

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(山元町つばめの杜西区 坂根守区長)
息苦しくなってくるの、隣が近いと
しかも年取ってきてから見ず知らずの人どうしだから
ここですぐに仲良くするなんてまず難しいよ

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橋本さんは区長たちがまず近くの住民に声をかけるようアドバイスしました。
いまでは以前よりも住民同士の関わりが強くなったといいます。
今では定期的に高齢者の住宅を訪問する見守り活動を行い、社会福祉協議会などとも情報共有しています。
橋本さんはこうして継続的に関わり合うことが孤立の防止にもつながると考えています。

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(山元町つばめの杜西区 坂根守区長)
橋本さんのような人たちがいて
一緒になってやってきたことが実ってきている実感があります

地域のつながりで「孤立」を防ぎたい。取り組みは続きます。

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“自分たちでできるようになったから もういいよ”って
言ってくれたら1番嬉しい
地域の人たちが集まって
ちゃんと話をして解決できるような仕組みが根付いていけば
必ずいい町になりそうな気がするんですよね

【取材後記】
誰にもみとられず亡くなる“孤立死”。今の社会では災害公営住宅だけの問題ではなく、はじめは災害公営住宅の中でそれが起きていることをどう捉えるべきかと難しさを感じていました。それでも気仙沼の佐藤さんの話を聞いているうちに、震災で住み慣れた地域が失われたからこそ、新たに築こうとしてきた住宅内のつながりが薄れていることの重大さを感じるようになりました。孤立死の数は結果として見えるものですが、みとられずに亡くなった1人1人が、自宅を失ったあと住み始めた住宅で、亡くなるまでどう生きていたのかに思いをめぐらせると、できる支援はまだまだ続けていかなければならないと考えさせられました。(藤家)

新しい市街地は「コンパクトシティ」として注目されつつあります。災害が起きた時、まずは生活再建を優先させることが急務ですが、生活再建とコミュニティの再生をどう並行して進めていくかは課題の一つだと感じました。今回、山元町での取材を進めるうちに、新市街地のなかでも、住民同士の付き合いが薄い地域や、被災者とはじめから暮らしている住民とが同じ地域に混在している場合、いまでもコミュニケーションがとりにくいという声も聞こえてきました。また、沿岸部には被災した場所で自宅を再建した人もいます。災害に関わらず、人口減少社会の中で人と人のつながりがどう構築されていくのかは大きな課題で、これからも取材を続けたいと思います。(境)

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仙台放送局記者 藤家亜里紗
2019年入局
石巻支局を経て去年7月から仙台局に
現在は事件などを中心に取材

 

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仙台放送局記者 境彩花
2023年入局
宮城県塩釜市出身
宮城県政を中心に取材