どうする 被災地で増える"空き○○"
東日本大震災から11年。
被災地では大型の復興工事はほぼ終わり、今後のまちづくりをどうしていくのか、大きな岐路に立っています。
そうした中で課題になっているのが“空き店舗”や“空き室”の増加です。
こうした空きスペースを活用して、地域に多くの人を呼び込もうと模索する動きが始まっています。
(石巻支局記者 藤家亜里紗)
【災害公営住宅の“空き室”→福祉施設に】
去年11月、石巻市に障害者のグループホームが開所しました。
知的な障害がある3人が入居し、戸建て住宅で新たな一歩を踏み出しました。
実はこのグループホーム、災害公営住宅の“空き室”を活用しました。
石巻市の半島部にある災害公営住宅。
震災で住まいを失った人たちのために6年前、24戸が整備されました。
当初は満室でしたが、住民が亡くなるなどして退去が相次ぎ、3年前から3分の1が空室になっていました。
(石巻市住宅課 高橋伸明課長)
「中心部にある災害公営住宅は大型商業施設などが近くにあるので人気があります。中心市街地から離れるにつれて応募は少なくなる。今のままでは新たに入る人はいなくなると心配しています」
【災害公営住宅の700戸以上が“空き”】
震災から11年。
災害公営住宅の空きは被災地全体の課題になっています。
住民が亡くなったり、1人暮らしが難しくなった高齢者が引っ越したりして、去年10月時点で宮城県内では15802戸の災害公営住宅のうち716戸が空きの状態です。
空き戸数が220ほどと県内で最も多い石巻市。
維持費もかさむだけに、市は、医療や福祉事業者を対象に貸し出すことにしたのです。
1戸あたり月およそ1万8000円と、民間よりも格安にして利用を募りました。
【福祉施設とマッチング】
そこに手を挙げたのが、石巻市内で障害者支援事業を行う団体でした。
団体の阿部かよ子さんは住み慣れた地域で暮らしたいという障害者からの要望を聞いていました。
ただ多額の費用がかかる自前での建設は難しかったといいます。
(阿部かよ子さん)
「新しくものを建てる、用意するというとすごくお金がかかります。ニーズがある部分、住まいのところだけ確保すれば皆さんの要望には応えられるということで手をあげました」
空きを埋めたい行政と、障害者の住まいの確保という事業者のニーズがマッチした今回の取り組み。
入居した人たちも食事の提供など必要な支援を受けながら生き生きと暮らしています。
災害公営住宅の空きは住民の高齢化などで今後、増加が見込まれます。
山元町は保育施設としても活用しています。
ただ、事業者が利用するだけではすべての空きは埋まりません。
石巻市では市内への移住を検討する人の体験宿泊の場として利用するなどの取り組みも進めています。
(石巻市住宅課 高橋伸明課長)
「被災した人以外の一般の人の入居募集の開始や老朽化が進む既存の市営住宅に住んでいる人の移転計画も進めている。新たな空き戸を埋めるような政策があれば取り入れて、空き戸の解消に努めていきたい」
【商店街の“空き店舗”→文化施設に】
一方、被災地の商店街などで目立つのが“空き店舗”です。
こちらをにぎわいの場に変えようという動きも出ています。
矢口龍太さん(39)です。
東京の大学を卒業後、映像制作などの仕事をしていましたが、5年前、出身地の石巻に戻ってきました。
津波で被災するなどして劇場がなくなった街の中心部に演劇や映画が楽しめる文化施設をつくろうと考えています。
(矢口さん)
「いつかは自分の劇場を持ちたいという夢があった。ここら辺は、映画館があったという歴史を知っている方がかなり多くて年配の人も楽しみにしている人がたくさんいる」
そこで目を着けたのが空き店舗でした。
もともとふとん販売店だった店は、津波で被災したあと、一時、ボランティアの拠点として使われましたが、5年以上前から空きになっていました。
これを改修し文化施設として活用しようというのです。
【クラウドファンディングで資金確保】
矢口さんは仲間とともに、クラウドファンディングで500万円近くを集め工事費用を確保。
隣の空き店舗には飲食店も誘致し、人々が集まる場に生まれ変わらせようとしています。
「街にある建物を壊したら、歴史もなくなっちゃうし、町並みも変わっちゃうので、終わりだと思っている。空き家を活用した店や施設を作っていこうぜっていうムードを作って街に明かりをともしたい」
【“空き”問題 求められる行政と民間の連携】
災害公営住宅も店舗も、空きが増えれば地域の衰退につながりかねません。
被災地で広がるさまざまな“空き”の問題。
行政と民間が連携した取り組みが今後より一層求められることになりそうです。
藤家亜里紗
2019年入局
仙台局で2年余の事件担当を経て去年11月から石巻支局
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