「デジタル時代のNHK懇談会」中間報告
 
1.懇談会設立の経緯
2.「デジタル時代のNHK懇談会」の基本的立場
3.公共放送NHKへの提言
4.最終報告に向けて

 

NHKで働くすべての人たちへ 
  〜私たちの憤りを伝えておきたい〜


                 平成18年4月21日
      デジタル時代のNHK懇談会
「中間報告」付属文書

 NHKでまたあらたな不祥事が発覚した。今度は、スポーツ報道部門の職員が、およそ6年間にわたってカラ出張を繰り返し、1762万円余を着服していたという。これは、NHKがまさに再生に向けて努力しているさなかに起きた事件である。
 私たち、「デジタル時代のNHK懇談会」はこの事態に対し、強い怒りを禁じ得ない。不正を働いてきた当該職員に対してばかりではなく、公共放送NHKの再生を誓ったはずの関係者の、その改革の不徹底ぶりについても、私たちは憤っている。
 そもそも公共放送NHKの再生・改革とは何なのか。
 いまさまざまなレベルで、NHKについて、受信料制度について、放送行政について、放送と通信の競合・連携について、活発な議論が行なわれている。そのなかで、「デジタル時代のNHK懇談会」がとりわけ時間をかけて論議してきたことは、公共放送とは何か、それは何のためにあり、どのようにして成り立つのかという問題――つまり、「公共放送の理念」をめぐってであった。
 私たちがそのことに意を注いだのには、理由がある。私たちは、一連の不祥事がたんなる気のゆるみや、一部の不心得者のコンプライアンス(法令遵守)意識の稀薄化によってもたらされたのではなく、NHKが全体として、公共放送としての使命を忘れかけているのではないか、と懸念した。それゆえに私たちは、理念を語ろうと努力してきた。いま失われかけているのは、まさに「公共放送の理念」であり、その理念を具体化する職員の自律意識と、専門的な経営管理能力だからである。
 今回の不正、そして、過去に発覚した不祥事も、指摘された疑念の数々も、どれもあわただしく動いている仕事の場で起きている。どんな理念も、その壁の一角に掲げただけでは何の意味もない。コンプライアンスの徹底を叫んでも、むなしいだけだろう。そういう形ばかりの弥縫策で乗り切れるほど、現在のNHKの危機は浅くない。
 私たちは現在の、また将来の民主主義社会に、政治的に中立であり、特定のスポンサーに依存しない公共放送が必要だと考えている。NHKがそういうものとして再生し、十全に機能することを期待もしている。多くの視聴者もそう考え、受信料を支払っているのである。
 今回の事件を機に、NHKのすべての職員と関係者にいま一度考えていただきたい。日々動いている職場や現実にはさまざまな隙間があり、誘惑があるかもしれない。すべての穴をふさいだら、仕事は止まってしまうだろう。個々人の裁量と決断にゆだねられる余地の大きいマスメディアの仕事がそういうものであることを、私たちも知っている。
 だからこそ、あなたたちは、受信料を支払っている視聴者一人ひとりの顔を、その期待するものを、ありありと思い浮かべ、受け止めなければいけない。そのようにして成り立つ公共放送の理念をたえず自覚し、その役割をていねいに果たしつづけなければならない。そのことによってしか、この種の不祥事の再発は防げない。理念もまた、日々のそうした仕事のなかで生命を吹き込まれ、具体化していくものである。そのことを、どうか忘れないでいただきたい、と私たちは心から願っている。