「デジタル時代のNHK懇談会」中間報告
 
1.懇談会設立の経緯
2.「デジタル時代のNHK懇談会」の基本的立場
3.公共放送NHKへの提言
4.最終報告に向けて

 

3 ■公共放送NHKへの提言

(1)視聴者第一主義の実践
 視聴者が支払う受信料を主財源とするNHKが、視聴者の多様な関心を反映し、その期待に応える番組を分け隔てなく放送するのは当然のことである。政治的に中立であり、少数者や少数意見に対しても公平であること、スポンサー企業を持たないこと等は、そのための基本原則となる。
 「視聴者第一主義」には、広範な視聴者との不断の合意形成が欠かせない。NHKは「自主自律」と「放送倫理」の遵守を基本に、各地域、各分野、各世代、各見解等に分け入って視聴者の多彩な意向を汲み上げる努力を重ねなければならない。そのためには、放送などを通じて経営の実情や番組姿勢について情報を開示し、説明するとともに、視聴者参加のための開かれた道筋を構築することが欠かせない。

(2)より公平感のある受信料体系へ
 公共放送NHKと民放が切磋琢磨する二元体制を維持し、NHKの自主と自律を支えるためには、視聴者から負託された受信料を主たる財源とすることが適切である。
 NHKは最近、私たち懇談会の指摘を受けて、世帯単位の受信料体系に単身赴任、学生を対象とした家族割引制度を導入し、クレジットカードによる支払いも可能にしたが、さらに今後の社会動勢(階層分化、家族単位から個人単位への生活・行動形態の変化等)に対応する受信料体系と、デジタル時代の進展(視聴端末の多様化・高機能化、番組アーカイブスのインターネットによるダウンロードの実現等)に応じた経費負担のあり方を検討する必要がある。
 なお、NHKの一部チャンネルへのCMやスクランブル化の導入は、民放事業を経営的に圧迫し、視聴者間に所得による情報格差を引き起こすばかりか、公共放送が視聴者の暮らしに資するさまざまな情報や番組を、社会全体に分け隔てなく提供するという使命を阻害することにもなり、NHKにはふさわしくない。

(3)制作現場の創造性と組織統治の明確化
 放送は基幹的メディアであるとともに、それ自体が文化である。放送の公共性は個々の制作者の活力あふれる仕事によって、日々支えられ、育まれるものであり、NHKのガバナンス(組織統治)制度は視聴者にわかりやすいものであると同時に、番組制作現場の創造性を刺激し、その自由を保障するものでなければならない。
 また、視聴者の信頼と期待に応えるためには、公共放送の理念に即した、法令遵守の体制をも確立し実施しうる専門的な経営・管理能力が求められていることも言うまでもない。
 将来的には、いっそうの政治的中立性と公平性を確保し、公共放送の存立基盤をより確かなものにするために、政府・政党からの自立を明確化する組織統治制度に組み替えることも検討されるべきである。

(4)地域放送の充実
 NHKの各地方放送局が、地域社会の現実から生じるさまざまな問題を深く掘り下げ、その地域の発展と人々のつながりに役立つ放送を充実させ、地域の視聴者からさらに信頼される公共放送となることを期待する。そのためには地方放送局への権限の委譲を進め、地域の実情に合わせた放送ができる体制を築く必要がある。各放送局は、視聴者であると同時に取材などでの身近な協力者でもある人々とていねいに接するルールと、種々の意見を汲み上げるあらたな方策を早急に検討し、実現すべきである。
 従来の放送の枠やスタイルでは伝えきれない取材内容や資料・情報等については、インターネットを活用するなど、情報通信技術の進展の成果を採り入れ、視聴者に効果的に伝達する方策を開発してほしい。

(5)国際放送の発想転換
 従来、テレビによる国際放送といえば、在外邦人に向けた番組サービスと、世界に向けての種々の情報発信と考えられてきた。しかし、日本で暮らす外国人がふえ、日本人の国際体験も深まった今日、国際放送はより高次の理解と交流をうながす場にならなければならない。
 NHKは保有するチャンネルのひとつを外国語放送にするなど、内外の現実を各言語の文化的文脈に配慮しながら放送する可能性を検討すべき時期にきている。それはそれぞれの社会の偏狭さを乗り越え、相互の国際理解を深めることに寄与するであろう。こうした国際放送のメリットは、受信料を支払っている視聴者こそが享受できなければならない。
 国際放送の充実・強化については、放送主体や経費・財源のあり方をめぐって幅広い議論が行われているが、海外での日本理解の促進は公共放送の重要な使命であることから、今後ともNHKが編集権を持って主体的に行うべきである。

(6)アーカイブスの公開
 放送と通信が連携した新しいサービスのひとつに、インターネットを通じて過去の番組や映像資産(アーカイブス)を教育現場や個々の視聴者に公開し、活用してもらうことが考えられる。これは、あらゆる文化の成熟に必要な確かな「批評」を成立させることにもつながって、放送文化の質的向上にも寄与するであろう。
 こうした新しいサービスの経費負担については、受信料で充当するのではなく、応分の受益者負担が望ましい。

(7)技術開発の基盤整備
 公共放送の持つ、長期的視野に立った放送技術の研究と開発は、短期的利益を追求する民間企業の研究とも、基礎的・萌芽的研究を行う大学や公的研究機関のそれとも異なり、他の組織で代替することは難しい。放送にかかわる一貫性のある研究を行うには、研究機関と放送現場が密接に連携している必要がある。
 「デジタルデバイド(情報格差)」の解消や、「情報バリアフリー(障壁除去)」の実現に役立つ放送技術の研究など、視聴者のためになる長期的な研究基盤の整備が重要である。

(8)チャンネル数の検討
 NHKの保有波については、たんなるチャンネル数の多寡によってではなく、それぞれのチャンネルの特性と、総体としてのサービスが、視聴者の多様・多彩な期待や社会の要請に十分に応えているかどうかを基準に、冷静に検討されるべきである。ここでは、技術の進展がかつてなく多くの放送を可能にした事情をもとに、より多彩なチャンネルの構成が考えられなければならない。
 NHKもまた、先に挙げた地域放送や国際放送の拡充などへの期待も含めて、視聴者と社会の要請に対応するチャンネルの数と特性を明確にし、民放との切磋琢磨が幅広く行われ、日本の放送界と放送文化が豊かに成熟していくよう努力しなければならない。