首相“海に放出がより確実”
報告踏まえ 政府方針決定へ

東京電力福島第一原子力発電所で増え続けるトリチウムなどの放射性物質を含む水の処分方法をめぐり、菅総理大臣は、全国漁業協同組合連合会の岸会長と会談しました。

菅総理大臣は、基準以下の濃度に薄めて海に放出することが、より確実に実施可能な方法だとする専門家の報告書を踏まえ、政府の方針を決定する考えを伝えました。

トリチウムなどを含む水の処分方法をめぐっては、去年2月、国の小委員会が、基準以下の濃度に薄めて海か大気中に放出する方法が現実的だとする報告書をまとめ、政府が処分方法を検討していますが、地元などからは懸念の声が出ています。

菅総理大臣は、7日午後、総理大臣官邸で、全漁連・全国漁業協同組合連合会の岸会長と、およそ30分間会談しました。この中で、菅総理大臣は、原発の廃炉を着実に進展させることは震災からの復興の前提であり、トリチウムなどを含む水の処分は避けて通れない問題だという認識を示しました。

そのうえで、基準以下の濃度に薄めて海に放出することが、より確実に実施可能な方法だとする専門家の報告書を踏まえ、政府の方針を決定する考えを伝え、理解を求めました。

これに対し、岸会長は「漁業者や国民の理解が得られない専門家の提言は絶対に反対だ」と述べました。

そのうえで「国としてどういう方針を最終的に決定するかわからないが、決定した場合には、責任を持って、漁業者や国民への説明や風評被害対策などをしてもらいたい」と求めました。

このあと、岸会長は記者団に対し「今まで、政府に対し海洋放出は絶対に反対だと要請してきた経緯もあり、その考え方はいささかも変わるものではない。国に責任を持って取り組んでもらうことが極めて大切だ」と述べました。

全漁連 岸会長「処理水の海洋放出は絶対に反対」

全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は、菅総理大臣との会談のあと報道陣の取材に応じ、処理水の海洋への放出は絶対に反対という考え方は変わらないと述べました。

そのうえで、専門家でつくる経済産業省の小委員会が示した、「海洋への放出がより確実に実施できる」とする提言を前提にした場合、国民の不安を払拭(ふっしょく)するために、国が責任を持って対応するべき5つの点を挙げました。

具体的には、
▽反対意見があることを踏まえ、漁業者や国民に責任を持って説明すること、
▽どんな処分でも必ず起きる風評被害にどう対応するか明確に示すこと、
▽処理水の安全性をどんな方法で担保するかを具体的に明確に示すこと、
▽福島県だけでなく、近隣県や全国の漁業者が安心して子々孫々まで漁業を継続できる方策を明確に示すこと、
そして、
▽放射線物質の量が半分になる半減期がトリチウムの場合12年余りということを念頭において、原発敷地内での保管の継続や、新たな処理方法などの検討を引き続き行うことの5つです。

また、最近の東京電力の一連の不祥事についても触れ、「廃炉の経過の中で、安全性を担保することにかんがみた場合、極めて強い懸念がある」と話し国が責任を持って取り組むことを求めました。

汚染水処理しても残る「トリチウム」

福島第一原子力発電所では、1号機から3号機の溶け落ちた核燃料を冷やすための注水が続いていることに加え、建屋への雨水や地下水の流入が続き、1日140トンのペースで汚染水が発生しています。

この汚染水は専用の浄化設備に送られ吸着剤を使って多くの放射性物質が取り除かれますが、「トリチウム」という放射性物質は取り除くことが難しく処理された水の中に残ってしまいます。

福島第一原発の敷地内には、この処理したあとの水をためるための大型のタンクが1000基余り設置されていて、およそ137万トンの容量のうちすでに9割は水が入っています。

東京電力は、今の計画では来年秋以降にはタンクが満杯になる見通しを示しています。

この水の処分をめぐっては、去年、専門家でつくる国の小委員会がトリチウムは基準以下に薄めれば健康への影響は考えられないとして、「海か大気中への放出が現実的」で、「海のほうがより確実に実施できる」などとする報告書をまとめています。

一方で、地元や農林水産業者などの風評被害への懸念は根強く、去年、政府が開いた関係者からの意見を聞く会では、風評被害を懸念して海への放出に反対や慎重な意見が出されたほか、具体的な風評被害対策を示すよう求める声などが出されていました。

政府は、こうした関係者からの意見を踏まえ、処分方法や風評対策などの論点について検討を進めたうえで、適切な時期に処分方針を決定する考えを示していました。

海洋放出 風評被害再燃を懸念

福島県沖の海では、原発事故のよくとしから、魚の放射性物質の検査を行って安全性を確認しながら小規模な漁を行う、「試験操業」が続けられてきました。

原発事故から10年がたち、▽魚介類からは国の基準を超える放射性物質がほとんど検出されなくなり、▽漁港や市場などの復旧も進んだことなどから、漁業関係者らで話し合った結果、「試験操業」は3
月末で終了しました。

今後は、段階的に水揚げを増やし、数年かけて「本格操業」に移行する計画です。

こうした中でトリチウムを含む処理水が海に放出された場合、福島県の漁業者たちは、風評被害が再燃し、これまでの取り組みが水の泡になることを懸念しています。

加藤官房長官 「早期に責任を持って結論」

加藤官房長官は、午後の記者会見で「私自身、同席していないので、具体的なやり取りは承知していないが、処理水の取り扱いについては、本日の意見交換も含め、これまで多くの方々と積み上げた議論も踏まえながら、政府として、できるだけ早期に、責任を持って結論を出していきたい」と述べました。

自民 下村 政調会長 「政府が責任持って決める必要」

自民党の下村政務調査会長は、記者会見で「非常に大切な議論であり、菅総理大臣としても放っておく訳にはいかないということだろう。タンクが増加し、福島第一原子力発電所の敷地がひっ迫していて、政府がしっかり責任を持って決める必要がある。地元の理解を得るような丁寧な説明と風評被害への対応の中で、決めてもらいたい」と述べました。