ページの本文へ

沖縄の特集記事

  1. NHK沖縄
  2. 沖縄の特集記事
  3. FC琉球 大金星の裏にあった選手の思い

FC琉球 大金星の裏にあった選手の思い

Jリーグカップ 沖縄で初のJ1チームとの公式戦 vs.ガンバ大阪
  • 2024年04月26日

沖縄県内では初めてとなるJ1チームとの公式試合。Jリーグカップ1stラウンド2回戦で、J3のFC琉球は、ホームにJ1のガンバ大阪を迎えて戦いました。そして2対1FC琉球が勝利し、大金星を挙げる結果に。この勝利の裏にはこの試合に特別な思いを持って挑んだ選手たちがいました。

(取材・執筆:NHK沖縄アナウンサー 寺内皓大)

沖縄県内で初のJ1チームとの公式戦

2024年4月24日水曜日。沖縄のサッカーに新たな歴史が刻まれる日となりました。負けたら終わりの一発勝負、トーナメント方式のJリーグカップ。J3に所属するFC琉球はこの大会の初戦で、J2の藤枝MYFCを撃破し、2回戦に進出。J1のガンバ大阪と対戦することとなり、沖縄県内で初めてとなるJ1チームとの公式戦が実現したのです。沖縄には、シーズン開幕前の毎年1月頃に、数多くのJ1チームがキャンプのためにやって来ます。ただFC琉球含め、沖縄県内のサッカーチームは、J1チームと練習試合はしているものの、公式戦は今回が初めて。FC琉球を中心に事前に県民へ来場を呼び掛け、県内の盛り上げを図っていました。

個性豊かなポスターで来場を呼びかけた

ガンバ戦に特別な思いをもった2人

そんなガンバ大阪との試合に向けて、特別な思いを持った選手が2人いました。

まず1人目は、藤春廣輝(ふじはる・ひろき)選手。藤春選手は大阪府出身の35歳。今シーズンからFC琉球に加入しました。藤春選手はFC琉球に加入するまでの13年間(2011~2023)、自身のふるさとでもある大阪のチーム、ガンバ大阪一筋でプレーしてきました。古巣との初対戦に向けて、思いを語ってくれました。

(藤春選手)
楽しみでしかないですし、まだガンバを離れて少ししかたっていないですけど、ガンバとできるって思ってもいなかったので、すごくワクワクした気持ちです。今の自分の軸も、自分があるのもガンバのおかげなので、ガンバを出ていってもしっかり自分の居場所を見つけて、まだまだやれるぞというところを、ガンバのサポーターに見せられればいいかなと思っています。ずっと一緒にやっていた倉田秋(くらた・しゅう)選手がやっぱり、対戦したいかな。ガンバにいた頃からずっと一緒にいて、だからこうやって対戦するとも思ってなかった。戦えてうれしいと思います。

ガンバ大阪に13年在籍したベテラン

そして2人目は白井陽斗(しらい・はると)選手。昨シーズンにFC琉球に加入した24歳です。今シーズンは新エースとして期待されており、4月終了時点で8得点とJ3の得点王になっています。そんな白井選手、実は藤春選手と同じ大阪府出身でかつてはガンバ大阪に所属。ガンバ大阪ユースからプレーしていた生え抜きで、合わせて5年間(2017~2021)プレーしました。まさに、「ガンバ育ち」の若手プレイヤーです。

(白井選手)
3年間、待ちに待った対戦。そういう気持ちなので、純粋に楽しみです。すぐ対戦したかったというか。それがようやく、長かったですね。ガンバと対戦するまでが。FWが決めないと、勝てないと思うので、ディフェンス陣も、一緒に体を張って守ってくれていますし、0得点じゃサッカーは勝てないので、常に得点をとる気持ちで戦っています。ガンバとやるって決まってから、自然とガンバに関する会話は増えました。このガンバ戦を機に、リーグ戦への弾みにしたいなと思います。

今季は新エースとして存在感を見せる

そして迎えた決戦当日

特別な思いを胸に、ついに迎えた2024年4月24日。平日夜のゲームにもかかわらず、FC琉球のホーム、沖縄市のタピック県総ひやごんスタジアムは大勢のサポーターでにぎわっていました。会場にはFC琉球とガンバ大阪のオリジナルコラボグッズが販売されていたり、「ガンバ大阪を食う!」ということで、たこ焼き屋さんが出店していたりと、いつも以上の盛り上がり。FC琉球のサポーターからは「J1チームのプレーを生で見られてうれしい」とか、「格上だけどもちろん勝つしかない!」など試合を楽しみにする声が聞かれました。一方で、ガンバ大阪のサポーターも多く訪れており話を聞くと、「藤春選手は沖縄でも元気だと聞いているので、まだまだ活躍してほしい」「白井選手はガンバでなかなかチャンスがなかったので、今活躍していて嬉しい」など、かつて所属していた藤春選手や白井選手に対する思いを持っていました。

観客数は今季最多で、平日試合としても過去最多

そして午後7時。太陽が沈み、夕暮れとともに試合が始まります。序盤は両チームなかなかシュートが打てず、こう着状態が続きました。このまま前半は両チーム無得点で終了するかと思われた前半43分、試合が動きます。ゴール前の短いパス交換から、最後は琉球在籍13年目のベテラン、富所悠(とみどころ・ゆう)選手の右足一閃。ペナルティエリアの外から豪快なミドルシュートを決め、FC琉球が先制に成功。J1チームのガンバ大阪相手に、FC琉球は1対0とリードして前半を折り返します。

(富所選手)
あそこのポジション(ペナルティエリアの外)で、前を向いたりチャンスを作ったりするのは、自分の仕事だったので、結果につながってよかったです。シュートがなかなか打ててなかったので、自分のところで打てればというのは思っていましたし、スペースもうまく見つけられたので、思い切ってシュート打てたのでよかったです。

前半43分 #10 富所悠 選手の先制ゴール

後半に入ると、ガンバ大阪が反撃に出ます。立ち上がりの後半4分には、こぼれ球をガンバ大阪の鈴木徳真(すずき・とくま)選手が決めて、再び1対1の同点になります。その後も流れはガンバ大阪。FC琉球は押し込まれる時間が増えます。しかし、このピンチをなんとかしのいでいると、後半31分、絶好のチャンスがFC琉球に訪れます。FC琉球のDF、最終ラインの鈴木順也(すずき・じゅんや)選手から、中盤の岩渕良太(いわぶち・りょうた)選手に低いパス。すると、岩渕選手がワンタッチで前線に絶妙なスルーパス、前がかりになっていたガンバ大阪の陣形を切り裂きます。そのパスに反応したのが、試合前からガンバ大阪に対する闘志を燃やしていた白井陽斗選手。キーパーと1対1の場面となりますが、落ち着いて左足で蹴り、ゴールネットを揺らしました。これで2対1とFC琉球がまた前に出ます。ゴールを決めた後の白井選手の目はうるんでいました。

(白井選手)
前半から、ゼロで押さえればチャンスはあるとチームで話していました。相手ディフェンダーの背後は常に狙ってましたし、相手も今まで、僕たちのリーグ戦の試合を見て、分析してきてるだろうと思ってたんですけど、信じて、あそこまで走って良かったと思います。ゴール決めた後からちょっと、うるっときてたんですけど、試合中も。ただ、本当にガンバにお世話になったので、過去のいい思い出とか、つらかった事とかを、すごい鮮明に思い出しました

後半31分 #7 白井陽斗 選手のゴール

その後は、J1のプライドにかけてガンバ大阪がさらなる猛攻を仕掛けます。セットプレーや波状攻撃でFC琉球のゴールに向かって襲い掛かります。それでも、この試合に強い思いを持っていた、藤春廣輝選手を中心とした守りで、ガンバ大阪にゴールを許しません。

(藤春選手)
ガンバは攻撃力があるので、途中からたくさんリーグにスタメンで出ている選手も出てきて、琉球が勝ってる時は絶対出てくるなというのはあったので、本当に耐えるのが精いっぱいでした。全員で、声出しながら「ラスト5分」とか「集中しよう」というのは言っていたので、耐えることができてよかったと思います。いつものリーグ戦以上にやっぱりみんな気合い入ってましたし、最後のところの声かけ、「守りきったら勝てるぞ」というのは、みんなが言ってたので。なんかチームがまとまった瞬間やったかなと思います。

DFでは #4 藤春廣輝 選手が奮闘

刻一刻と迫る試合終了へのカウントダウン。得点を決めた後、交代してベンチに下がっていた白井選手は、祈るようにピッチをみつめていました。

試合終了間際 勝利を祈る白井選手

そして、試合終了!FC琉球が2対1でガンバ大阪に勝利。沖縄県内初のJ1チームとの公式戦を白星で飾りました。

試合後、藤春と白井は涙

沖縄の大勢のファンの前でジャイアントキリングを起こしたFC琉球。試合終了の笛がスタジアムに響いた瞬間、観客席からは喜びの声が上がり、選手に向けて惜しみない拍手が送られました。ピッチでは、藤春選手の目には涙。白井選手も涙を流していました。

試合後、藤春と白井は涙を流して抱き合った

会場の外は、まるでお祭りのよう。サポーター同士でハイタッチをする姿や、飲み物片手に笑顔で乾杯を交わす姿など、喜んでいる様子が伝わってきました。一方で、藤春選手や白井選手同様、涙を流しているサポーターもいたのが印象的でした。そのくらい、FC琉球のサポーターにとって大きな勝利だったことがうかがえました。

サポーターからも興奮の声が聞かれた

試合後の会見で選手たちからは、今後へのステップアップにつながるといった声が聞かれました。琉球在籍13年目のベテラン、富所選手からは「あの時」に似ているという雰囲気を感じたといいます。

(富所選手)
 状況的にも向こう(ガンバ大阪)の方が、やりづらさはあると思ってたので、十分チャンスあると思っていました。今日もたくさんの、お客さん来てくれてましたし、「ガンバだから」じゃなくて、自分たちの試合を見に来てくれるようになったらいいですね。スタジアムの雰囲気がJ3優勝、J2昇格した時の感じにすごく似てましたし、やっぱりお客さんにこれだけ来てもらえると、本当に後押しされるので、楽しかったです。

先制ゴール #10 富所悠 選手

いわゆる「恩返し弾」を決めた白井選手。古巣ガンバ大阪への思いがあふれ出し、目に涙を浮かべる場面もありました。

(白井選手)
 サッカー人生で忘れられない1日になりました。年間通して、格上の相手とやるっていうことはなかなかないので、それが自分の古巣ガンバ大阪。自分が得点したこともよかったですし、これをリーグ戦にもっともっと生かせるのかな。ガンバ大阪で育ってきて、負けてはいけないチームというのもありますし、きょうも試合終わって、ガンバサポーターに挨拶行った時に「次の対戦相手のセレッソに勝て」という言葉を頂いたんで、次はきょう以上の試合を見せられたらなと思います。

決勝点を挙げた #7 白井陽斗 選手

最後に、藤春選手。自身の思いだけでなく、ガンバ大阪の選手やサポーターに向けて、1つ1つの言葉をかみしめるように話してくれました。

(藤春選手)
 まさか、自分自身ガンバと試合するとは思ってもなかったですし、まさか勝てると思ってなかった。勝った瞬間はすごくうれしかったです。泣きそうなぐらいうれしかったです。13年間ガンバにお世話になった気持ちもありましたし、悔しい思いも正直あったので。これがまざり合って、何かいろんな感情があふれてきました。あと、ガンバのユニフォームを見て、やっぱり羨ましいなって思いました。でも、きょうの試合に勝ちたいという思いは強かったので、100%力を出せるようにプレーしました。チームが頑張って2点取ってくれて、みんなでしっかり守って勝てたのがよかったと思います。ガンバサポーターからすごいブーイングがあったけれど、うれしかったかな。13年間、応援してくれたサポーターだったので、たくさんきょう試合に来てくれたので、自分がプレーできるところを見せられてよかったと思います。あと、対戦したかった倉田秋選手は左サイドだったので、マッチアップはなかったですけど、同級生としていままでガンバで頑張ってきたので、対戦がすごく楽しみでした。自分も倉田選手に走る姿を見せられたし、こっちも倉田選手がまだまだ頑張ってる姿を見られたのでよかったと思います。試合後にはいろんな選手と話しました。監督やコーチ、スタッフとかも、全員一緒にやってる人ばっかりだったので、みんなおめでとうっていうのは言ってくれた。何より一番うれしかったです。

堅守を支えた #4 藤春廣輝 選手

次はJ1のセレッソ大阪と沖縄で対戦

ガンバ大阪に勝ったFC琉球は、Jリーグカップ1stラウンド3回戦に進出。次の相手はJ1チームのセレッソ大阪です。セレッソ大阪は現時点でJ1リーグで上位につけている強豪チーム。サッカー日本代表経験豊富で、海外でも活躍した香川真司(かがわ・しんじ)選手などタレントも豊富です。さらに、うるま市出身で、かつてFC琉球でも活躍していた上門知樹(うえじょう・さとき)選手もいます。このセレッソ大阪が、沖縄で見られるんです!5月22日(水)タピック県総ひやごんスタジアムで午後7時キックオフ予定。FC琉球が勢いそのままにJ1チームを連続撃破するのか、注目です!

  • 寺内 皓大

    NHK沖縄放送局 アナウンサー

    寺内 皓大

    2020年入局 沖縄が初任地でスポーツを中心に取材 野球やバスケットボール、サッカーなどの実況も担当 好きな沖縄料理はふーちゃんぷるー

ページトップに戻る