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ADHD,ASD,LD…最近よく聞く発達障害 対処法は?治療法は?

  • 2023年11月29日

みなさんは発達障害についてどの程度ご存じでしょうか。

発達障害には集中力が続かないとされるADHDや、コミュニケーションが苦手とされるASDなどの症状があるほか、感覚過敏などさまざまな症状と併発しやすいとされていて、それぞれの社会活動に大きな影響を与えます。

症状そのものを抱える人が増えたのか、診断の基準が広がったことによって顕在化してきているかは定かではありませんが、ここ10年で発達障害といわれる人が増えてきています。

こうした発達障害は、精神を安定させる薬を飲むのが主な対処法とされていますが、薬の副作用に悩む人も多くいます。

そんな中、自らも発達障害を抱えながら、対処法の研究やその成果の普及に取り組む沖縄出身の大学生を取材しました。
(NHK沖縄放送局アナウンサー寺内皓大)

発達障害はADHDやASD、LDが主なものであるとされるが
音や光に敏感など別の症状とも併発しやすい

とあるパンフレットを配る沖縄出身の大学生

ことし9月、恩納村役場にあるパンフレットが届けられました。

あるパンフレットが恩納村役場に…

筑波大学の研究チームが出版した「薬はじめてガイド」。
発達障害の当事者に向けて、薬の効果や薬と上手に付き合えるコツなどアドバイスが書かれています

筑波大学の研究チームが出版した「薬はじめてガイド」
薬で治療するケースが多い発達障害
薬の効果や扱い方が書いてある貴重な資料となっている

配っているのは、うるま市出身の筑波大学4年生、長濱奈甘乃(ながはま・なあの)さん。
このパンフレットを作成したプロジェクトの中心メンバーです。

長濱さん

パンフレットを沖縄に広げたいっていうのが思いとしてあったので、必要とされている場所に届けられたのかなと感じています。

自らも発達障害を抱えながら研究に打ち込む長濱さん

長濱さんは筑波大学に在籍しながらも、この半年間はインターン生として、
OIST=沖縄科学技術大学院大学でも発達障害の特徴や対処法の研究を行ってきました。

OISTで世界トップレベルの研究者と発達障害について学ぶ
発達障害の1つ、ADHDを抱える人は増加傾向だという
長濱さん

一般的にADHDの人が増えていると言われているんですけれど、日本では2010年から2019年までの間に増えているということになっています。1クラスに1~2人はいると考えられています。

長濱さんが研究に打ち込むわけ。
それは自身もADHDという発達障害、そしてパニック障害に苦しんできたからです。
長濱さんの場合、音や光に周りの人よりも敏感で今でも生活に支障がでることがあるといいます。

長濱さん

エイサー(沖縄伝統の太鼓を使う踊り)が大好きなんですけど、たまに「そろそろこれ以上音がくるとやばいぞ」って時あります。怖くなってしまうので、耳栓を持つとかノイズキャンセリングイヤホンを持つとかで、周りに心配させないために、「ごめんね、音に敏感だからつけてるだけだから話して大丈夫」とか説明していますね。

長濱さんは子どもの頃から周りの人との感覚の違いを感じていました。

長濱さん

私は教科書とか参考書とかにすごいこだわりがあって、あんまりテカテカしてると集中できなくて。あと触り心地とか文字の書き心地とかめちゃくちゃ気にする子で、「自分って違うんだ」みたいなのがなんとなくあって、ちょっと気にしていたとは思うんですよね。

発達障害の治療の難しさ 

体調に異変が生じたのは大学生の頃。環境の変化によるストレスから、強い疲労感や息苦しさを感じるようになり、これまで当たり前のようにできていたことができなくなりました。

長濱さん

息が苦しい、目も疲れてる。いっぱい授業を入れて苦しいとかを繰り返してて。何も理由がないのにすごい胸が苦しくて外出るの怖い、無理だみたいになって。

その時にADHDとパニック障害の診断を受け、精神を安定させる薬を処方してもらった長濱さん。
しかし、薬が体に合わなかったため副作用が強く現れ、苦しい日々を過ごしました。

発達障害の治療で使われる薬は副作用が発生することも…
長濱さん

すごい心臓がドキドキしてきて熱も出て、不安とかもいっぱいになってて、怖いどうしようという状態になって。(医者に)副作用みたいにして出ているのなら治るはずなのでと言われて。でも、治らなかったときどうすればいいんですかとか、その時うまく聞けなかったんですよね。何が分かってて何が分からないのかも分からないし、何を目安に病院に行けばいいのか分からないし、何を目安に私は行動をすればいいんだというのが全部分からなくなっちゃって。

大学の助教との出会い 自らの症状と向き合えるように

そんなときに出会ったのが、自ら通う大学の助教でした。
助教は長濱さんと同じ症状を抱えながら、発達障害の研究を行っていました。
長濱さんは助教のもとで研究に打ち込み、発達障害についての理解を深めていきます。
徐々に自らの症状と落ち着いて向き合えるようになり、薬を飲まなくても済むようになりました。

“当事者目線”を意識して作成したパンフレット

自分と同じ思いをする人の助けになればと、普及を進めているパンフレット。
これまではなかった、発達障害に悩む当事者ならではの視点が盛り込まれています。

特徴①:箇条書きで読みやすくわかりやすいように
発達障害の特性の1つでもある「集中力が続きづらい」ということを配慮して短い文章で簡潔に

特徴②:医者へ自らの症状を順序だてて伝える助けに
→物事を簡潔にまとめて伝えるのが苦手な方やパニック状態になって症状がうまく言えない時に役立つ

長濱さんも医者にうまく伝えられなかった経験があるため
「もっと早く知りたかった」と話す

これ以外にも「当事者目線」を意識したたくさんの工夫がパンフレットに詰まっています。
反響も大きく、増版を計画したときに募集したクラウドファンディングでは目標金額180万円を上回る260万円の寄付が集まりました。
このパンフレットは医療機関や市町村役場などに無料で配布されているということです。
また、このパンフレットは、長濱さんが在籍する筑波大学のホームページから閲覧できるほか、長濱さんたちが作った専用のホームページでも確認することができるということです。

当事者だからこそできること

長濱さんはいま、得意の語学力を生かして、このパンフレットの英語版の作成にも取り組んでいます。

この活動を通して、たくさんの人に発達障害について知ってもらい、
誰にとっても過ごしやすい社会を目指したいといいます。

長濱さん

過去の自分の経験がただつらい苦しいで終わらなくて、だからこそ寄り添えるというか。本当に寄り添えているかわからないけど、少なくともだからこそ同じ視点に立って考えられるなっていうのを感じています。たくさんの人たちに伝えられるような、研究者なのか分かりませんが、そういう人でありたいなと思っています。

取材後記

およそ1年かけて長濱さん、そして発達障害と向き合ってきた取材でした。近年発達障害を抱えている人が増えている中で、こういったパンフレットは症状をいい方向に導く助けになる貴重なものだと実感しました。そして長濱さんのひたむきにまっすぐに「自分と同じ思いをする人を減らしたい」と研究を重ねる姿に胸を打たれました。みんなが暮らしやすい社会にするためにも、まずは自らの症状と向き合って、周りに伝えて、それを周りが理解していく、そういう流れができるといいなと思います。

  • 寺内 皓大

    NHK沖縄放送局 アナウンサー

    寺内 皓大

    2020年入局 沖縄が初任地でスポーツを中心に取材 野球やバスケットボール、サッカーなどの実況を担当 好きな沖縄料理はふーちゃんぷるー

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