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エリグロアジサシ~地域での保護を目指して~

  • 2023年07月31日

春から夏にかけて繁殖のため東南アジアなどから沖縄に渡ってくるエリグロアジサシ。
県内でも数少ない繁殖地となっている大宜味村で行われている保護活動を取材しました。

  (沖縄放送局コンテンツセンター 田吹 耕平) 

大宜味村の海岸を飛ぶエリグロアジサシ

エリグロアジサシってどんな鳥?

大宜味村の海岸を飛ぶ白い鳥。 エリグロアジサシという海鳥です。毎年春から夏にかけて、東南アジアなどから およそ4千キロを旅して繁殖のため沖縄に渡ってきます。

くちばし付近から目を通って後頭部に続く黒い”襟”がトレードマーク

海岸から少し沖に離れた岩礁などに巣を作り、ペアで繁殖を行います。7月中旬には、大宜味村内の数か所で親鳥に抱かれたひなの姿を見ることができるようになりました。

親鳥とヒナ

減少を続ける鳥、回復策は

順調に繁殖がすすんでいるように見えるエリグロアジサシですが、環境省の委託を受け、やんばる地域で長年にわたって野鳥の調査や保護を行っている渡久地豊(とぐち ゆたか)さんは、沖縄に渡ってくるアジサシ類の現状に危機感を抱いています。
渡久地さんによると、長期間にわたって観察を続ける中で、本島北部に渡ってくる鳥の数が明らかに減少しているということです。 
数の回復には繁殖地の保全が欠かせません。渡久地さんは、繁殖地における人的なプレッシャーをいかに和らげるかが大切だと言います。 

渡久地さん

釣りとかレジャーの方たちが繁殖してる島に上陸したり、岩場に登ると、親鳥が警戒して巣を離れてしまいます。 その間、卵やヒナが太陽にさらされたりして(暑くて)死んでしまうという例が分かっています。

このほか、岩場に釣り人が残した糸が絡まり、親鳥やヒナが死んでしまうケースもあるということです。

やんばる地域にある県立辺土名高校

県立辺土名高校

 大宜味村にある県立辺土名高校のサイエンス部は、今年、渡久地さんの指導のもとエリグロアジサシの保護活動に取り組んでいます。エリグロアジサシが渡ってくる前の4月には、繁殖地となる可能性がある高校前の岩場に土のうを設置して、鳥たちの繁殖の手助けになるよう環境整備をおこないました。

高校前の岩場に土のうを運ぶ
岩場に設置

 水が溜まりやすい岩場の上に土のうを置いて水はけを良くすれば、卵が水に浸かってふ化に失敗するのを防げるのではないかと考えたからです。

その後、調査のために設置した定点カメラにはエリグロアジサシの姿が映っていました。

定点カメラにエリグロアジサシの姿が

 その後、いくつかのペアがこの岩場にやってきたそうですが、7月26日の時点でここでの子育ては確認されていないということです。とはいえ繁殖期はしばらく続き、ほかの場所から移ってくることもあるため、観察を続けています。 

辺土名高校サイエンス部

2001年創部。生き物や自然環境への理解を深めたい生徒およそ40人が所属して、飼育や研究に励んでいる。
活動の拠点となっている教室には、やんばるの森にすむフクロウや爬虫類が飼育されているほか、昆虫の標本などが展示されている。また前庭には琉球犬や在来の島ヤギもいてちょっとした博物館の雰囲気。ここで生徒たちは動物や植物など自分の興味があるテーマに沿って様々な活動を行っている。

 サイエンス部2年生の 仲宗根諒大(なかそね りお)さんは、エリグロアジサシの魅力をこう語っています。

仲宗根さん

翼が先にかけてシュッとなっていて、飛んでいるときがかっこいいんです!

地域への広がりをめざして

観察会の様子

今月、渡久地さんとサイエンス部の生徒たちは大宜味村内の繁殖地で観察会を開きました。
エリグロアジサシのことを地域の人に知ってもらい、1人でも多くの人に興味を持ってもらえば、地域全体で守っていけるのではないかと考えたからです。

今年生まれたヒナを抱える親鳥

参加者たちは、鳥を驚かせないように離れた場所から、今年うまれたばかりのヒナやかいがいしく世話をする親鳥の様子を観察しました。

仲宗根さん

今回の経験を生かして、繁殖地の保全活動を辺土名高校だけでなく、まち全体でできていったらいいなと思います。

渡久地さん

一か所でも多く繁殖地を保全するというのがこの鳥たちに対する保全のしかたです。今のところ大宜味村は鳥獣保護区には指定されていないので、私たちの活動で支えていくということしかないのです。

豊かな自然に恵まれた本島北部のやんばる地域。貴重な野生生物を守っていくうえで必要なことは何か、渡久地さんはこう答えてくれました。

渡久地さん

やっぱり次の世代、さらにその次の世代につながるようなアクションを起こしていくこと。繁殖地の保全など環境への思いを人から人に伝えていくというのがすごく重要です。

取材後記

辺土名高校の生徒たちが自然保護活動の担い手として活躍する姿を見て、本当に生き物が好きなんだなというのが伝わってきました。
ことし生まれたヒナたちは2年後に親鳥となって沖縄に戻ってきます。大宜味村での取り組みが実を結んでエリグロアジサシの繁殖が続いていくことに期待したいと思います。

  • 田吹 耕平

    NHK沖縄放送局 コンテンツセンター カメラマン

    田吹 耕平

    2021年入局。大学院で野生動物を研究していた経験を活かし、初任地の沖縄で自然環境について取材している。好きな沖縄の生き物はニシキヤッコ。

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